AIはプライバシーの敵か、味方か

今、AIの現実世界における応用が急速に進んでいます。WIPOこと世界知的所有権機関によると、2013年から2017年の間でAI関連の特許出願件数は3倍近く増加し、5万5,000件を超えました。こうした特許出願の増加は、AI分野において目下進行中のゴールドラッシュを反映したものです。そして、AIはほぼすべての業種にとってなくてはならない存在になると考えられます。

その一方でAIの応用分野の急増が、企業によるユーザーの監視を強め、消費者のプライバシーを脅かすようになるという懸念に拍車をかけていることも事実です。しかし、筆者は、実際にAIがもたらす効果はまったく逆のものだと考えています。つまり、AIの普及は、消費者の私生活のより詳細な調査というような方向性よりも、むしろ個人のプライバシー強化につながっていくのです。

強大なパワーの行使には大きな責任が伴いますが、これは、AIにも当てはまります。その観点から、AIのパワーと責任について見ていくことにしましょう。

AIのパワー

マーケティング分野におけるAIの応用は、口先ばかりで行動が伴わないという意見を耳にしたことがありますが、事実は違います。私が話をうかがった企業の幹部はいずれも、マーケティングに関する最優先課題のトップ3の中で、ブロックチェーンのような新しい概念よりもAIの導入を上位に位置付けていました。マーケティング分野のAI応用に対する期待は高く、企業はこの分野への投資を始めています。

ところが、マーケティング業界内でAIについて話をしていると、相変わらず概念や用語について大きな混乱が見受けられることに気づきました。実際、業界のプレゼンテーションやパネルディスカッションで「AI」と称されているものの半数近くはまったくAIではなく、単なるアルゴリズムに過ぎないといえます。両者の違いは些細なものではありません。アルゴリズムの場合、そのアウトプットの質は、継続してインプットされるデータの質がそのまま反映されます。これに対してAIシステムは、時間の経過と共に学習し、進化し、推測するレベルが高まり、インプットされるデータがない状態でも、アウトプットにあたる結論を導き出すことができるのです。

この違いは重要といえます。現在はアルゴリズムによって制御されている多くの分野が、今後数年間でAIベースに変わると予想されるからです。たとえば、広告内容のパーソナル化について考えてみてください。アルゴリズムによって生成される動的広告は、かなり前から使用されていますが、将来的にAIが個人の興味や嗜好に沿った動的広告の生成を支援するようになれば、当然ながら高いレスポンス率が得られるようになるわけです。

AIの責任

こうして実現される真のワントゥワンマーケティングの概念が、プライバシーの問題を引き起こすというのは、もっともな意見です。それでは、GDPRがすでに施行され、さらにEUのeプライバシー規則や米国のカリフォルニア州消費者プライバシー法の施行が控えている状況の中で、AIを駆使したパーソナライズド広告は頓挫することになるのでしょうか? いえ、実際にはまったく逆であるといえます。

実は、AIは必ずしも個人情報と関係しているわけではありません。単純なアルゴリズムではなくAIを利用して広告のターゲティング効果をより高めていくと、むしろ、個人情報の重要性は低下することにもなります。最適な広告を届けたい広告主にとって重要なのは、オンライン行動に基づく消費者タイプの確実な識別であって、その人が誰であるかを知る必要すらないからです。それが真のAIの威力であり、次世代の学習機能のパワーだといえます。この結果、ユーザーのオンライン行動から消費傾向を判断してレコメンデーションを決定し、それに基づく最適な広告を生成して流せるようになるのです。現時点で、それと同じ効果を得ようとすれば個人情報も必要ですが、AIならば同じことを匿名ベースで行うことが可能になります。

だからといって、もちろん「データ収集」や「規制」が死語になるということはありません。企業が消費者と直接やりとりする以上、やはりデータを収集して顧客との関係を深めたいと考えるでしょう。こうした当事者間のデータ利用は双方にとって望ましく、そのことを消費者側も十分に理解しています。問題は、秘密裏のデータ収集や販売、交換であり、それこそが、消費者や規制当局を不安にさせる要因となっていますが、AIベースのマーケティングの世界では、それらの裏データの価値が大きく低下するのです。

他の先端技術と同様に、AIにも悪用される危険性は存在します。だからこそ、AIの能力を把握し、実際の応用に関する認識を高めることが非常に重要なのです。これを、マーケティング分野へのAIの応用に当てはめれば、多くの分野と同じく、透明性の確保を業界の指針とする必要があります。優れた取り組みを進めている業界企業の協調した動きや、崇高な理念の実現に向けた努力を明確に伝えることによって、AIの新たな能力が、プライバシーに関する消費者の懸念を高めるものではないことを認知させ、むしろ、そうした懸念を緩和する方向性にあると認識してもらえるようになるのです。

著者のアーンド・グロスは、モバイル広告などを手がけるスマアトの社長です。

この記事はVentureBeat向けにアーンド・グロスとスマアトが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。