次世代モバイル通信"5G"とは?【第6回】Wi-Fiと有線LANはもういらない?企業内ネットを置き換える「ローカル5G」

2019年2月25日から2月28日まで、スペイン・バルセロナでモバイル業界最大の展示会「MWC19 Barcelona」(今年からMobile World Congressという呼称ではなくなりました)が開催されました。今年のMWCは自動運転技術を備えた乗り物の存在感が大きく、「これが5Gの普及を加速させるのではないだろうか」と感じさせる"キラーユースケース"として次世代モビリティが急浮上した印象を受けました。

もっとも5Gはモバイル通信技術ですから、移動する物体が快適に通信するための技術がいくつも盛り込まれています。そう考えると、モバイル通信技術の最先端技術である5Gが「次世代の乗り物」に適していることは、ごく当たり前のことともいえそうです。
今回はMWC19 Barcelona の取材を通して感じたもう一つのキラーユースケースの候補を紹介したいと思います。

高速移動はしないけど、有線接続では満足できないロボットたち

MWCの展示を見て"5Gならではの通信能力が必要とされている"と感じたのはロボットです。多くのロボットは、高速移動はしませんし、オフィスや工場に置かれているので、今はWi-Fiでの接続が一般的です。ただ、Wi-Fiによる通信は利用環境によって不安定になったり、通信が途切れてしまうことがあります。このため、通信断が業務に支障が出る用途では有線LANでの接続が求められます。

例えば工場の製造ラインには、ロボットアームに代表されるさまざまな工作ロボットが並んでいます。これらの機器は有線LANでコントローラにつながっていて、稼働状況や故障の有無を遠隔の管理センターで一括管理できるようになっています。製造ラインは、製造する製品別に最適化されているので、製造する製品を変える際には製造ラインを作り直すこともしばしばあります。ここで面倒なのは、工作ロボットをつないでいる工場内LANの張り替え作業です。Wi-Fiを採用すればそうした不便はなくなりますが、万一の通信断で製造ラインが停まってしまうときの損失を考えて、安定した通信が期待できる有線LANを選ぶのが一般的となっているわけです。

5Gが実用化されると、この常識が覆るかもしれません。有線LANと遜色のない「途切れず、低遅延の通信」が期待できるので、取り回しが楽で、製造ライン変更時にケーブルの張り替え工事がいらなくなる5G活用が注目を集めることでしょう。MWC19 Barcelona でも5Gのユースケースとして工場内通信が紹介されていて、例えば韓国SK Telecomはブース内にいくつもの工作ロボットを設置して5Gの工場内通信をアピールしていました。

SKテレコムが5Gのユースケースとして展示した工場の製造ライン

工作ロボットは据え付け型の機器なので、有線ネットワークで通信環境を整えても日常的な運用に当たっての不便さは感じません。これが人型ロボットに代表される、移動することを前提としたロボットとなると、有線ネットワークの利用は難しくなります。移動するロボットの多くは、管理者や利用者と協調作業する業務を任されているので、有線ネットワークに接続してしまうと日々の運用時にケーブルの取り回しが面倒になるからです。このような場面ではWi-Fiが使われています。

MWC19 Barcelona では、米CloudMinds Technologyや台湾MediaTekが、ロボットを活用したデモンストレーションを実施して多くの来場者の関心を集めていました。通信を前提としたアプリケーションを組み込んだロボットを活用する場合、通信断によるトラブルはアプリケーションの不具合のように見えてしまいます。特に途切れにくさと低遅延は、業務アプリケーションの利便性と密接に関係するので、できるだけ高い性能が求められます。Wi-Fiは素早く低コストで実現できますが、一つの帯域を複数の利用者がそれぞれ勝手に奪い合いながら通信する仕組みなので、途切れない通信を保証することはできません。5Gは、Wi-Fiの置き換え用途としても十分に検討対象となる技術なのです。

米CloudMinds Technologyのデモ風景
台湾MediaTekのデモ風景 演者の動きをリアルタイムでロボットが真似ている

企業内ネットワークを自営5G網で作る「ローカル5G」

この連載の第一回で紹介したように、5Gがターゲットとするのは、「2020年代の社会を支えるモバイルネットワーク」です。5Gの仕様策定に当たっては、さまざまな利用場面(ユースケース)を想定し、それぞれの場面にふさわしい通信性能を達成できるように仕様が決められてきました。この結果、5Gは大容量・低遅延・高密度に加えて、最も得意とする高速移動対応でも大きな進化を遂げ、どんな場面にも対応できる汎用的な高性能ネットワークとして利用できるように設計されました。

今回紹介したように、5Gが実用化されれば、Wi-Fiはもちろん、企業内の有線LANの置き換えも視野に入ってきます。ただ、企業内ネットワークをすべて5Gサービスに置き換える際は、ランニングコストを精査する必要があります。これまで無料だった企業内ネットワークを有料の5Gサービスに置き換えると、月々の通信コストが跳ね上がってしまうかもしれないからです。

「Wi-Fiのように、自営設備で社内ネットワークを組めればいいのに」――。そう思われた読者の方に朗報です。実は、もうすぐ自営設備で5Gを構築することができるようになるからです。この自営で作る5Gネットワークは「ローカル5G」と呼ばれています。

国内におけるローカル5Gの利用イメージ
(出所:「情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会報告 概要(案)」、2019年3月)

ローカル5Gの実現でポイントになるのは、ローカル5G専用の周波数帯域が確保されるかどうかです。先ほど、「もうすぐ自営設備で5Gを構築することができるようになる」と紹介したのは、一般企業が自社工場や自社オフィスにローカル5Gを導入するための「ローカル5G専用の周波数帯域」がまもなく割り当てられるからです。

ローカル5G専用の周波数帯域として割り当てが検討されている周波数帯域は二つあります。一つは4.5GHz帯の「4.6G~4.8GHz」、もう一つは28GHz帯の「28.2G~29.1GHz」です。現状、2020年夏の制度化に向けた作業が進んでいます。

このうち注目したいのは28GHz帯の「28.2G~28.3GHz」。ここは隣接する帯域との干渉の調査が終わっていることから、他の帯域より早めに利用が解禁されることになっており、早ければ2019年夏にも制度化されることになりそうです。ですから、工場、研究施設、空港、ビジネスパーク、スタジアムといった大型施設の次世代ネットワーク構築を検討されている皆さんは、早期にローカル5Gの適用と構築に向けて情報収集を始めることをお薦めします。

国内で導入が予定されているローカル5G向けの周波数帯域
(出所:「情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会報告 概要(案)」、2019年3月)

ローカル5Gで企業ネットワークを構築する方法は大きく二つあります。一つは企業が自ら設備を導入して自営のローカル5Gネットワークを構築・運用する方法。もう一つは第三者にローカル5Gネットワークの構築・運用を依頼する方法です。制度が具体化する2019年夏以降は、通信事業者やITベンダーからさまざまな「ローカル5G構築ソリューション」が提案されることになるでしょう。

例えば富士通は、ローカル5Gの代表的な適用領域である「工場」、「病院」、「プラント」などを対象に、ローカル5G構築ソリューションの整備を進めています。例えば工場においては、高解像度の画像情報を素早くやり取りできるような大容量通信機能と安全・確実な遠隔制御を実現するための低遅延通信機能をネットワーク要件に掲げています。

ローカル5Gの活用をお考えの皆様は、1)自営ネットワークのニーズを整理し、2)どのような性能をローカル5Gに求めるかを整理した上で、自社にとってのあるべきローカル5Gの在り方を富士通の担当営業と相談しながら設計していくのがいいでしょう。

ローカル5G自営的利用の適用領域
(出所:「ローカル5G自営的利用の想定ユースケースについて」、情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会 ローカル5G検討作業班(第3回)配付資料、2019年1月)
生産現場の高度化に向けたローカル5Gの適用シナリオ例
(出所:「ローカル5G自営的利用の想定ユースケースについて」、情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会 ローカル5G検討作業班(第3回)配付資料、2019年1月)

世界のモバイル関係者は5Gを、「2020年代の社会を支えるモバイルネットワーク」にするために仕様作成や研究開発を続けています。その成果を個々の企業が必要とする場面に持ち込めるローカル5Gは、「2020年代の企業内ネットワークを支える技術」として広く利用されるポテンシャルを秘めているのです。

著者情報
林哲史
日経BP総研 主席研究員
1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。