丸ごと液に浸す"冷やしサーバ"!? 地球環境とICT社会を両立する新発想(後編)

【未来を創るチカラ Vol.13】液浸冷却システムの研究開発を牽引する、山本 岳

(インタビュー前編からの続き)

世界各地で発生する異常気象。テクノロジーが地球温暖化防止に貢献する必要性は、ますます高まっています。山本たちが開発した液浸冷却システムは、従来の空冷システムに比べてサーバシステム全体の消費電力を約40%削減。厳しい環境でも効果を発揮しやすく、海外からも熱い視線が集まっています。

トライ&エラーのプロセスから、イノベーションはどのようにここまで結実していったのでしょうか。

自分たちの内に閉じこもらず、お客様と一緒に熟成させる

山本 「液浸冷却システムに携わっているのは約20名です。その中に技術開発や設計を推進するチームだけでなく、ビジネス化を推進するチームを作りました。
ビジネス化チームは営業と一緒にお客様のところへ訪問させてもらって、液浸冷却システムをご紹介するとともに、お客様の要件を吸い上げ、場合によってはお客様に実際に使っていただいてフィードバックを得ます。
技術チームにはお客様要件を具現化するため、これまでなかったスキルやノウハウの習得にチャレンジしてもらうように努めました。

評価というのは、我々だけで行ってしまうと自分よがりになってしまうところがあります。我々の中に閉じこもらずに、外部のお客様やパートナーの方々と一緒に熟成させていく作業が必要です。何度も何度も会話をしてご指摘を受けることで、多くの気づきを得られました」

壁をポジティブに受けとめ解決策を考える〜の繰り返し

「ビジネス化チームを作ったのは、製品を仕立てるだけでなく、作ったものをちゃんと売れるものにしようという我々のもう一つのミッションへの思いもありました。通常は売ってもらうことは販売推進部門や営業部門の方々にほぼ任せていましたが、液浸冷却システムは全く新しい技術なので、製品に仕立ててから『じゃあこれ売ってきて』と預けてもなかなかうまくいかないだろうと」

液槽には、空冷の時と同じ汎用サーバをそのまま入れることができる。

"トライ&エラーを重ねる"といっても、エラーが起きた時の心境はどのようなものでしょうか。

山本 「その中でいろいろとアイディアを考えていくのが、ある意味エンジニア冥利につきる部分です。一回一回パニックになったり焦ったりしていると何も進まないですし、問題が起こったら『どうやって解決していこうか』と、すぐにモチベーションは切り替わります。

新しいことをやろうとすれば、必ず何か壁にぶつかると思うのですね。ポジティブにそれを受けとめて、どうやって解決していこうかと皆と考える〜ということを繰り返すことが重要なのではないかと思っています。30年近く開発に携わって何度も壁に突き当たっているので、経験によるものも大きいと思いますが、基本的には『どうにかなる』と思っています(笑)生来の性格なのかもしれないですね」

環境負荷の低減につながる貢献をしていけたら

「もともと富士通はテクノロジーを非常に大切にする会社なので、技術を開発するということに関しては『どんどんやっていけ』という風土がありました。そういう中でいろいろな経験をさせてもらったことは、富士通ならではだと思っています。

今後は液浸冷却システムを広くお客様に導入していただくことで、CO2の削減や環境負荷の低減につながるような貢献をしていけたらと思っています。昨年販売開始したことをオフィシャルにアナウンスして以来、世界中から引き合いをいただいていて導入に向け話が進んでいます。

それでもまだ、液浸冷却システムが全てを解決できるわけではありません。さらにいろいろなお客様に使っていただくためにも、課題をクリアにしていきながら引き続き研究開発に取り組んでいきたいと思っています」

インドの工科大学も採用。厳しい環境でも効果を出しやすい

「我々の液浸冷却システムは、2018年8月にはインドのデリーにある『インディアン・インスティテュート・テクノロジー(IIT)』という工科大学にも設置されました。インドは今スーパーコンピュータを導入することで技術研究を盛り上げていこうという機運が非常に高まっていて、我々もいろいろな引き合いをいただいています。インドの気候であったり、環境であったり、厳しい環境でこれを使った時に比較的効果を出しやすいシステムなので、気に入ってもらっています。」

自動運転のプロセッサにも、液浸冷却技術は展開できる

「サーバ自体が完全に液に浸かった状態ですから、周りの空気環境がいかに汚染されていても影響を受けることがないのです。そういった観点でいうと液浸冷却技術は、サーバに限らずいろいろな展開ができるものだと思っています。

例えば車載ですね。自動運転には今までにないような高速のプロセッサが要求されるようになってきていますが、エンジンルームは非常に高温で、振動も大きいです。そこに液浸冷却技術を転用するといろいろなメリットが生まれてくることが考えられ、実際にそういったお話もいただいています」

技術展開が進むことで、きっと未来につながっていく

「自分はまだ"未来"を生み出したという実感はないですね。今申し上げたような技術展開が進むことで結果としてきっと"未来"につながっていくと思うので、サーバ以外の分野でも技術をご紹介して、使っていただけるよう、提案していきたいです。

イノベーションを生み出せたかというのは結果論的なことがありますが、やっぱりやり出したからには必ずどこかに結実させる、というモチベーションや意識が重要だろうと思っています。それを仲間とともに共有できたことで、製品化まできちっとやり遂げられたのではないかと思います。

そして私自身これからも、"液浸"をビジネスとして成功させなければならないと思っています」

新しいことをやりたいというモチベーションを持ち続けて

「特に企業の若い人には『売れるために』もしくは『支持していただくために』何をするべきかを、考えながら開発していってほしいと思います。大きい組織の中で大型の製品を開発する場合、多くの人たちが作業を分担することになるので、全体が見えなくなってしまいがちです。ですので自分から積極的に情報を取りに行って、今の開発状況がどうなっているのか、この製品の位置付けはどういうところなのかといったことを学んでいってほしいです。

何事も主体性を持って自分でドライブしていくんだという気概があれば、いろいろな場面で物事を乗り切っていけると思います。会社にもたれかかることなく、何か新しいことをやりたいというモチベーションを持ち続けてもらいたいです。それが一番重要だと思うし、そういうモチベーションを持っている人に期待が集まると思うので」

富士通株式会社
AI基盤事業本部
実装技術開発統括部
統括部長
山本岳
1989年東京理科大学工学部機械工学科卒。同年富士通(株)に入社。(情報システム事業本部)本体事業部に配属。以来大型コンピュータ、ストレージ製品の冷却技術、機構技術の開発に従事。