"実店舗での価値あるショッピング体験"はどう作る?――世界中の最新リテールテックが集ったNRF2019

2019年1月13〜15日、ニューヨークのジェイコブ・K・ジャヴィッツ・コンベンションセンターで、世界最大のリテール・ショー『NRF 2019』が開催されました。NRF(National Retail Federation)は、新しいリテールのあり方や最先端のテクノロジーが一堂に会する展示会です。参加者は3万8000人を超え、世界の小売業界が注目する3日間となりました。

米国をはじめとする多くの地域でオンライン・ショッピングが当たり前になる中、実店舗を持つリテール業はさまざまな挑戦を強いられています。会場では、実店舗とオンライン・ショッピングをどう統合させるか、実店舗ならではのエクスペリエンスをどうユニークなものにするか、店舗内のフロントエンドとバックエンドをどう効果的に結びつけるのか――などの観点で、実店舗における購買体験の価値向上に力点を置く展示が目立っていました。

展示会場には、AI、画像認識、IoTなどの先端技術のソリューションがひしめいていて、小売り現場が最先端ITの活躍の場となっていることを実感します。例えば、店内を自動走行して商品棚の在庫を確認するリテール・ロボットはいくつもの展示ブースで存在感を発揮し、その代表企業ともいえるボサノバ・ロボティクス(Bossa Nova Robotics)の展示ブースは多くの来場者で賑わっていました。棚から取り出された商品を確認するテクノロジーを展示したトラックス(Trax)、カフェテリアでトレーに載った食事が自動計算されたりする仕組みをデモしたディーボルト・ニックスドルフ(Diebold Nixdorf)のように、カメラで撮影+画像処理を中核とするソリューションも、会場内のあちこちで見ることができました。

今回、富士通アメリカのブースでは、『Connected Retail』というテーマで、リテールテックを駆使した近未来の実店舗向けソリューションを多数展示しました。

RFID+生体認証で実現する「手ぶらショッピング」

デモ展示から、いくつかのハイライトをご紹介しましょう。スーパーなどで、チェックアウトを簡便にするソリューション『Grocery RFID』は、食品を入れたカートを押してそのままゲートを通過すると、カート内のアイテムがすべて瞬時に認識され、レジなしでチェックアウトできるというものです。

ここではまず、ゲート前で生体認証を行います。センサーに手のひらをかざすと、あらかじめ登録した手のひらの静脈認証によって買い物客を特定します。その後、各アイテムに付けられたRFIDタグをゲートが認識、システムが本人、アイテム、アカウントを照合し、数秒で照合が終了してゲートが開き、ショッピングが完了します。生体認証によるショッピングが実現すれば、現金もカードもQRコード決済用のスマホも必要ありません。手ぶらで買い物に出かけることができるようになるわけです。

セルフ決済の不正防止は画像処理技術で

小売りの世界では、レジに並ぶ時間を節約することなどを目的としたセルフ・チェックアウト(SCO)が広まっています。ただしSCOの導入には、「商品に付けられたバーコードのラベルを、安い商品のものに貼り替えられる窃盗行為が横行しかねない」という懸念があります。通常のSCOはバーコードをスキャンするのが一般的なので、こうした抜け道がまかり通っているのが実情です。

『AI Loss Prevention』は、この不正行為を防止できます。画像認識で商品アイテムを特定する仕組みを持ち込んでいるため、アイテムとバーコードの組み合わせをクロスチェックします。万が一不正なバーコードが貼り付けられていることがわかると決済処理を停止し、店員にアラートが送られます。

『SCO Age Verification』は、買い物客の年齢確認でも活用が期待できます。買い物客の顔認識を行うことによって、アルコール飲料を購入できる年齢に達しているかどうかを確認するものです。
現在ますます進化を遂げる顔認識テクノロジーは、対象人物の年齢をかなり正確に特定できるレベルに達しています。セルフチェックアウトをしようとするアイテムの認識と買い物客の年齢を照合し、購入者が飲酒年齢に達していない、あるいはその可能性があるとシステムが判断したときは、店員にアラートが送られます。店員は、レジへ出向いて身分証明書を確認したり、あるいは遠隔から買い物客の画像をチェックして最終的な判断を下すことができます。

汎用性の高い「店員へのアラート送信」

ところで、先ほどから「店員へアラートが送信される」というしくみに触れていますが、これを可能にしているのが『Taskforce』です。『Taskforce』は、店舗内の全システムを統合して、今行うべきアクションが店員に知らされる機能を備えるシステムです。店員がどこにいても必要なアラートがすぐに届くので、店員は通常作業の効率を落とすことなく緊急タスクに対応できます。

『Taskforce』を可能にしているのは、ユニークなコミュニケーション・プラットフォームの構築です。SCO、POS、ERP、Work Management、BPMなどを結びつけ、スマートフォンやタブレット、ウェアラブルなどのデバイスにアラートをあげるしくみです。
アラートは窃盗行為の注意喚起や買い物客の年齢確認のほか、商品棚の欠品、価格の確認、レジでの行列、試着室への対応など様々な用途での活用が期待できます。

安全確実なセルフチェックアウトをRFID環境で実現

『Self-Checkout with RFID』は、FRIDタグがさまざまな商品に利用されるようになった際に、安全確実にセルフチェックアウトを稼働させるためのしくみです。買い物客がショッピングカゴに衣服など複数のアイテムを入れてSCOキオスクに向かったとき、従来なら1点ずつアイテムをスキャンすることが求められました。『Self-Checkout with RFID』は、瞬時にカゴごとアイテムの全てを認識することができます。

富士通は、衣服に付けられるフレキシブルで洗濯可能なFRIDリネンタグも開発しています。このリネンタグは、どんな小さな衣服やリネン類にも差し込むことができるため、ファッション・アイテムの買い物でも邪魔にならず、それでいてレジでのアイテムの認識を確実なものにできます。リテールでは、こうしたさまざまなテクノロジーが一つになって、新しいショッピングの姿が生まれているわけです。

ストレスのない試着体験を作る

『Smart Fitting Room』は、テクノロジーを利用して新しい試着・ショッピング体験を提供します。
まず、試着室に入る前に選んだアイテムをスキャンします。試着室の中に足を踏み入れると、鏡には選んだアイテムが表示されています。試着して、例えば色違いを着てみたいとかサイズが小さいといった場合があるでしょう。そんな時は、鏡の画像をタッチして店員に知らせることができます。
店員へのアラートは、先述した『Taskforce』によるものです。店員がどこにいても手元のウェアラブル腕時計にそのリクエストが届くのです。店員は、すぐに追加アイテムを持って試着室へ向かえるので、お客様の待ち時間を短くできます。
試着を終えた買い物客は、最後に買いたいものをタッチして選択することで合計額を確認できます。手のひら認証のセルフチェックアウトで支払えるようにすれば、ショッピングは手ぶらで瞬時に完了します。

AI技術でシステムダウンを未然に回避

『Intelligent Engineering』は、AIを利用してシステムダウンを未然に防ぐことを目的としたサービス・プラットフォームです。
従来型のITサポートでは、故障が起こってから対処することしかできませんでした。しかし、それではシステムダウンによって生じるビジネスの損失や評判の低下を防ぐことはできません。一方『Intelligent Engineering』では、AIを利用してハードウェア、ソフトウェアなどシステム内の多様なデータセットを分析することによって、いつどの時点で故障が起こる可能性があるかを、高い確率で予測します。この予測に基づいてプロアクティブにサポートすれば、システムダウンを回避できます。
また、実際に故障が起こってしまった場合でも、ダウンタイムを最小限に食い止めるための方法も提供しています。例えばAR(拡張現実)を利用したセルフ・フィックスのツールセットがそれです。システムがダウンしたときは、ハードウェアにARを搭載したタブレットなどをかざします。すると、どの部分を確認するか、どう修理をするかの指示が表示されます。

『NRF 2019』では、新しいテクノロジーがリテールの店頭を変えつつあることを感じさせる展示が多く見られました。小売店舗の次の姿と、リテールテックが作る新たなショッピング体験を感じることができました。

著者情報
林哲史
日経BP総研 主席研究員
1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。
瀧口範子
フリーランスの編集者・ジャーナリストとして、シリコンバレーに在住。テクノロジー、ビジネス、政治、国際関係や、デザイン、建築に関する記事を幅広く執筆する。さらに、シリコンバレーやアメリカにおけるロボット開発の動向についても詳しく、ロボット情報サイトrobonews.netを運営して情報発信を行っている。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?』(プレジデント社刊)、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』(TOTO出版)、『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(ちくま文庫)、訳書に『人工知能は敵か見方か』(日経BP社)、『ソフトウェアの達人たち』(ピアソンエデュケーション刊)などがある。上智大学外国学部ドイツ語学科卒業。1996〜98年にフルブライト奨学金を受け、スタンフォード大学コンピュータ・サイエンス学部に客員研究員として在籍(ジャーナリスト・プログラム)