イベントや空港が混んでいるのは何故?「人間行動シミュレーション」で混雑要因を発見

イベントや空港での混雑原因を素早く正確に分析するのは難しい

街中で開かれているイベント、休日のショッピングモール、空港などで「すごい人混みでうんざり」という経験をしたことのある人は多いでしょう。イベントの運営側もショッピングモールの担当者も、入場規制をしたり案内板で誘導したりと対策をしていますが、いずれも混雑緩和に劇的な効果があるとは言えません。そのため、「せっかく来たのにイベントを楽しめなかった」「ゆっくり買い物どころではなかった」など、来場者たちの満足度が低下してしまうこともあります。

現在、混雑緩和の原因を究明する研究では、イベントやショッピングモールを訪れる様々な人々の年齢、性別、来場目的といった属性と行動を表現するエージェントモデルを構築し、混雑状況を仮想的に作り出しています。数千以上ものエージェントを作って、それぞれのエージェントに案内板などに従って独自に経路を選び、混雑の情報を確認しながら目的地にたどり着くという行動を取らせることで、多様な混雑を生み出しています。これらの研究は「人間行動シミュレーション」と呼ばれています。

人間行動シミュレーションでは、専門家が大量のデータから混雑原因を分析し、その対策のための仮説を立て、再度シミュレーションにかけて検証するという手続きを繰り返します。そのため、施策を決定するまで数カ月かかるほか、原因の見落としにより有効な施策を見つけられないといった問題が起きていました。

そこで、富士通は早稲田大学理工学術院と共同で、人間行動シミュレーションの結果から、「混雑に関係するエージェントの特徴」を自動分析できる技術を開発しました。

数千にもなるエージェントの特徴を自動で分析

今回開発した技術の特徴は、数千にもなるエージェントを自動分析できるところにあります。エージェントの分析では、年齢、性別、来場目的などの数多くの属性に加え、「食事をする」「案内板を見る」といった行動パターンを含めたすべての特徴の組み合わせを分析する必要があります。従来は、これらの特徴を一つひとつ組み合わせて分析していたため、その組み合わせパターンが膨大になり、時間がかかってしまうだけでなく、原因の見落としの要因にもなっていました。

これに対し新技術では、属性や認知、行動など、エージェントの共通項目に着目。共通項目で特徴をグルーピングしたうえで、グループごとにクラスタリングを行い、各エージェントがそれぞれのグループについてどのクラスタに属するか、という形式でエージェントを特徴づけし直すことで、データとしての有効性を保ちながら、組み合わせパターンを減らしました。少ない組み合わせのパターンでエージェントを特徴づけることで、どのような属性の、どのような認知、行動を変化させれば、混雑を緩和できるのかといった原因を発見することができるようになりました。

【図1】属性、認知、行動の観点でグルーピングし、少ない組み合わせでエージェントを特徴づける

実際の空港を再現したシミュレーションでは保安検査の待ち人数が6分の1に

新しい技術の有効性を確かめるため、富士通では空港で調べた人の実際の行動データを元に構築した空港シミュレーション上で実験を実施。保安検査における混雑原因の分析では、専門家の分析よりも4倍も多くの混雑原因を発見できました。

また、保安検査の突発的な混雑の原因が、特定のチェックインカウンターで起こる旅客の滞留にあることも明らかになりました。さらに、発見された混雑原因に基づきチェックインカウンターおよび保安検査の運用スケジュールを再設計したところ、専門家の分析に基づいて設計したスケジュールよりも保安検査の待ち人数を6分の1、施策実施に必要な人員を3分の2に削減できることが確認できました。分析時間も、従来の方法では数ヶ月に及びましたが、当技術によりわずか数分と大幅に削減することができました。

【図2】空港シミュレーションでの実験では、様々な効果が明らかに

より住みやすい都市環境、より快適な暮らしの実現に向けて

国土が狭いうえに、東京など大都市圏への一極集中が進む日本においては、混雑緩和は重要なテーマです。これらの結果によって、今後、イベント、ショッピングモール、空港などでの混雑が緩和されることが期待されるだけでなく、防災、交通規制による経済的な影響といった問題も解消されていく可能性があります。

本技術を用いて、イベント会場や空港、ショッピングモールなどでの混雑に対し実証を進め、デジタルサイネージやテナント配置などの効果も含めて検証していきます。また、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」とスーパーコンピュータ技術を活用し、都市の状況をリアルタイムに把握するサービス「FUJITSU Technical Computing Solution GREENAGES Citywide Surveillance(グリーンエイジズ シティワイド サーベイランス)」との連携を通じて、混雑の将来予測ソリューションの早期提供を目指します。