顧客起点のデジタルマーケティングで企業を変革[前編]

~デジタルマーケティングにより企業変革をスピード推進する鍵とは~

スマートデバイスやソーシャルメディアの普及により、本格的な導入が進んでいるデジタルマーケティング。今、お客様一人ひとりの思考や行動を捉え、お客様の望む商品やサービスを提供する「顧客起点」でのアプローチが注目されています。Fujitsu Insight 2018では、「業務プロセス改革まで踏み込んだ真のデジタルマーケティング」、「CX-Firstでマーケティングをリフレームする」「富士通が取り組むB2Bデジタルマーケティング最前線」と題した3つのセッションで、お客様のデジタルマーケティングを成功に導くためのポイントを紹介しました。
【Fujitsu Insight 2018「デジタルマーケティング」特別講演レポート】

デジタルマーケティングにより企業変革をスピード推進する鍵とは

最初のセッション「業務プロセス改革まで踏み込んだ真のデジタルマーケティング」には、経営コンサルタントの神田 昌典氏が登壇しました。

なかなか進まない日本のデジタル変革

今、多くの日本企業で、デジタル変革をどのように効果的、効率的に進めていくかが大きな課題になっています。 顧客を理解するためのツールやソリューションが次々と登場しているにもかかわらず、日本企業のデジタル変革がなかなか進まないのはなぜでしょうか。

経営コンサルタント・作家
アルマ・クリエイション株式会社
代表取締役
一般社団法人Read for Action
代表理事
神田 昌典氏

そもそもソリューションの販売者と購入者、両者の間には大きな溝があり、それぞれに「うまく売れない」「うまく買えない」という問題を抱えています。お客様企業のデジタル変革を支援する立場でもある販売者は、「優れたソリューションを提供しているのに十分な利益が得られない」と感じています。一方、購入者は、自社のデジタル変革を実行する立場ですが、「高価なソリューションを導入しているのに、十分な効果が得られない」と感じています。この両者の問題が解決しない限り、企業のデジタル変革は進まないのです。

B2B購買の営業戦略における深刻な4つの「機能不全」

私が監訳した『隠れたキーマンを探せ ーデータが解明した最新B2B営業法ー』という本があります。この本では、B2B購買にかかわる3000人以上の関係者に調査した結果、多くの組織で営業戦略における深刻な「機能不全」が起こっている、と指摘しています。その機能不全により、販売者にも購入者にも問題が起きているのです。

これまで、ビジネスにおいて適正利益を生む良質な契約を取るためには、いくつかの戦略上の常識があるとされてきました。例えば「企業のトップを落とす」「自社の製品・サービスが業界トップの実績・品質であることを顧客に伝える」「決裁権を持つステークホルダー全員を納得させる」「ステークホルダーそれぞれに個別な沿ったメッセージを届ける」「専門家による優れた知見を顧客に提供する」・・・などです。

しかし、今回の調査によれば、それら全てが「間違っている」ことがわかりました。従来常識とされていたこれらの営業戦略には、次の4つの機能不全が起きていることがわかったのです。

1つめは、「トップに提案しても決まらない」ということです。「企業のトップを落とす」は、もはや常識ではないのです。しかも、米国の統計によると、購買決定にかかわる関与者の平均人数は「5.4人」。商品やサービスを販売しようとしたら、この5.4人の関係者に全員に納得してもらう必要があります。複数の人が関与すると徐々に意思決定が慎重になり、結果的に成約率が大きく下がることもわかっています。この現象を「ソリューションの墓場」と呼んでいます。

2つめは、「市場で一番になっても商談の成約には十分ではない」ということです。「自社の製品・サービスが業界トップの実績・品質であることを顧客に伝える」ことも意味をなさないのです。「素晴らしいとは思うが、同じようなソリューションで他に安いものがあるから、それを導入しよう」となることがほとんどです。

3つめは、「全員追跡・全員説得法の限界」です。これまでは、購買関与者を追跡して説得することが大事だと言われてきました。しかし、実際に調査したところ、それで得られた成果は全体のわずか4%に留まっていることがわかったのです。

ここで興味深いのは、ABM(アカウントベースドマーケティング)に基づき、それぞれのステークホルダーの価値観に基づいて異なるメッセージを発信した場合、成果はむしろマイナスに働いてしまうことが分かったことです。全員が納得する結論は、ありきたりなソリューションになりがちです。それでは、変革は起こせません。デジタル変革を支援しようとソリューションを提供しようと取り組みながら、全員を説得しようとすると、デジタル変革とは程遠いソリューションを提案することになってしまうという矛盾が起きてしまうのです。

4つめが、「専門家の視点も、顧客の意思決定にほとんど影響しない」ということです。分かりやすい説明や、すぐに見つかる情報、興味深い事実やエピソードもほとんど購入の意思決定には関係ないということです。ライバル企業も同じように、専門家からの視点からの情報をブログなどで発信するため、顧客にとっては、似たようなコンテンツが数多く出回ることになり、一気に他社との差別化が難しくなってしまうからです。

ここで大切なことは、顧客はビジネスに関する何らかのインサイト(=気づき)を与えるような「意外な情報」に接した時、すでに決定しつつあった購買基準をリセットするということです。つまり、インサイトを提供するようなコンテンツ以外は、どんな優れたソリューションを訴求されてもコモディティ化を促進するだけなのです。

したがって、コンテンツの大量生産は、むしろ悪影響を及ぼすと考えられます。実際、調査によると顧客の30%が販売者からの望まぬコンタクトに対し、「その会社からの購入をやめた」「そのサプライヤーの販売員と会うことをやめた」などの否定的なアクションをとる、という結果になっています。

このように、これまで常識と考えられていた営業戦略は、実はもう何のメリットも生み出さないばかりか、デメリットの方が大きくなっている可能性があるのです。しかし、多くの日本企業では抜本的な対策が取れていないのです。

組織や購買決定に影響を及ぼすモビライザー 「ゴーゲッター」「スケプティック」「ティーチャー」

解決のヒントとなるのが、組織行動の推進や購買決定に関わる「隠れたキーマン5.4人」です。どんな組織にいるどのような人たちなのでしょうか。実はこの5.4人を体現するような具体的な人や部署というのは多岐に渡っていて特定することはできません。ポジション、職種、分野に関係なくそれぞれの会社によって居場所も異なっています。

『隠れたキーマンを探せ』では、顧客関係者を「ゴーゲッター」「スケプティック」「フレンド」「ティーチャー」「ガイド」「クライマー」「ブロッカー」の7つのタイプに分類しています。この中で、最も組織に影響を及ぼすのが、「ゴーゲッター(組織の推進者)」「スケプティック(懐疑的な人)」「ティーチャー(教師)」の3つのタイプであるとし、彼らをモビライザー(提案に合意して組織を動かす人)と呼んでいます。

このモビライザーに、これまでの彼らの認識に変化をもたらすようなインサイト、つまり、「商談に直結する型破りな知見」を提案できるかどうかが重要なポイントになります。一人ひとりを説得するのではなく、三人三様の立場で気づくようなインサイトを提案し、彼らをまとめあげることができれば、組織が動きます。ありきたりではない、抜本的な変革に向かった解決策を導入することができるのです。サプライヤーにとっても良質な契約が取れることになります。

顧客関係者の7つのタイプ

「色が生徒の集中力を高める」というインサイトをメッセージに込めた米国ゼロックス様の事例

このモビライザーにインサイトを提案し、商談に結びついた米国のゼロックス様の事例を紹介します。同社では、教育機関向けにカラープリンタを提案しようと考えていました。様々な観点から自分たちの優位性をアピールしましたが、成果は得られませんでした。そこで、顧客に密着して「どんなことに悩んでいるか」「どんなことに強い関心を抱いているか」を探索することにしました。その結果、「生徒のパフォーマンスや理解力が低く、学習に集中できない」ことに関係者が心を痛めている事実が分かりました。

同社ではさらに大学や研究機関と協力しながら子供の集中力を高める取り組みを調査し、「色を使うことでて集中力が77%上がる」というエビデンスを取り、「ゼロックスは子供の集中力を高めるための取り組みを行っている」と訴求しました。

教育機関の中のモビライザーの方々は即、このメッセージに反応し「今教室の子供たちには集中力がない。どのように教育していけばいいのかわからなかったが、色が不足していたのか」という気づきにつながりました。その結果、教育機関の中で、これまでとは全く違ったパラダイムで、サプライヤーの決定が行われました。

国内では、住宅開発・販売を手掛けるポラスグループの中央グリーン開発様の事例があります。住宅を手がける企業なので、一般的なメッセージとしては「坪単価」「利便性」「割安感」「機能性」「希少性」を打ち出す提案となりがちです。

しかし同社は、住宅そのものではなく、そこ住む人たちのライフスタイルにも目を向け、「永続性」「幸福度」「コミュニティの価値」、それがもたらす「資産価値」「私たちの街」というコンセプトで、「地域の産学が協力して構築する」という、これまでとは全く異なるコミュニティをデザインしました。それが住宅購入を考える人たちへの新たなメッセージ、つまりインサイトとなりました。

企業のデジタル変革の鍵とは

デジタル変革の鍵は、まさに企業文化の変革とデジタルツールの導入の両輪を回していくこと、そして、お客様企業の「ゴーゲッター」「スケプティック」「ティーチャー」の3者の合意形成をしっかり取っていくことと言えます。

ただ、実際にインサイトを見つけたり、それをお客様企業に提案したりするのは容易なことではありません。特に日本は企業文化が強い風土であると言われています。そのため、新しいツールや制度の改革を嫌う傾向にあります。しかし、今、デジタル変革に乗り遅れると会社の存続にも影響してきます。企業文化と技術進化は密接な関係を持って進めなければならないのです。

顧客中心の視点での「コレクティブラーニング(共同学習)」の場を

急速な変革を起こそうとすると、自らが解決できない問題が起こってしまいます。そこで必要なことは、顧客をも含めた「コレクティブラーニング(共同学習)」の場を設定することです。もし、みなさんがマーケッターの立場だったり営業の立場だったりした場合、お客様の会社の中に入り込み共同学習の場を設定してください。その目的は、「顧客に関する視点」を持つということです。

「顧客」を中心とした知識をきっかけにして、顧客が求める本質的なことをとらえるために、現状を見直すための場を設ける、つまり共同学習をシェアすることが大切です。時には、顧客とぶつかってでも本質的なインサイトを見出すような作業をしていかなくてはブレークスルーは実現できません。

お客様企業のデジタル変革を支援する外部ファシリテーターの存在とは

強大なリーダーシップが存在する海外企業と異なり、日本の企業がこれを社内だけで実践するのは難しいのが現状です。その時必須となるのが、外部の「ファシリテーター」の活用です。デジタル変革の鍵は、日本企業の部署を縦横につなぎ、顧客を深く理解する「ファシリテーター」を見つけることにあるとも言えるかもしれません。3つの異なる立場のモビライザーが、大きな変革に向かって合意形成を取りながら進んで行けるように、お客様企業を深く理解した外部の力が必要であると私は考えています。それが企業のデジタル変革へとつながる重要なポイントであると確信しています。

後編では、CX(顧客体験)を中心としたマーケティングの再構築の重要性と、富士通社内におけるデジタルマーケティングの最新の取り組み状況をご紹介します。

登壇者
  • 経営コンサルタント・作家
    アルマ・クリエイション株式会社
    代表取締役
    一般社団法人Read for Actio
    代表理事
    神田 昌典 氏

(登壇者の部署、役職は講演当時2018年12月時点のものです)