汎用サーバ8千台で、スーパーコンピュータの傑作をつくる!大規模PCクラスタ構築技術(後編)

【未来を創るチカラ Vol.12】

(インタビュー前編からの続き)
Oakforest-PACSでは巨額予算をかけた他国のライバル・チームよりも高い性能を記録するなど、大規模PCクラスタ構築技術に大きな手応えを感じた中島の研究開発グループ。中島にとって、イノベーションを起こすチームとは、どのようなものなのでしょうか。

途切れないように、技術は人が伝承する

中島「(富士通の)事業部はもともと安定性や不具合に対してものすごくシビアで、問題を徹底的に追求していました。Oakforest-PACSの時も、8千台規模になって初めて分かる不具合を一つ一つ見つけては直していき、それが最終的にいい結果に結びつく大きな原動力だったと思います。

技術の蓄積があるということは大きいですね。私が入社する前から今日までずっと研究開発を継続してきた、その先輩方の思いの詰まった技術をいかに活用して発展させるか。それがグループを受け継いだ私の役目だという気概で研究を進めてきました。研究チームもだんだん世代が代わり、次の若い世代へ引き継ごうとしているところです。

PCクラスタ開発に関わる大量の特許書類。プリントアウトされた紙束が、研究の積み重ねを物語る。

研究開発は、小さな技術一つ一つの積み重ねです。道具の使い方や、結果をどう見るかというのはドキュメントやプログラムにしきれないところがあって、実際にこういう時はこうだよと一緒に考えながら、人が伝承するしかないものも多いです。世の中の技術は一旦途切れてしまうと、たぶん大変なことになってしまう。しっかり次に繋いでいかなくてはならないというのは重責ですが、Oakforest-PACSの時もそういうプレッシャーがあったからこそ、最後まで逃げずにできたというところもあったと思います。」

高い目標に怯まない。積み上げることをやめない

「イノベーションという意味でチームに必要なことは、まず高い目標に怯まないということですね。まあこんなものだろうと皆が思っている上限値があって、ここまでいけばいいよねと思ってしまいがちです。そんな高い値はとてもじゃないと出せないと思ってしまうと、もうできません。ここまで行ったらインパクトがある、意味が大きいよね、という目標を設定して、それに対して『やります』という意識が、次のステップに進むためのポイントかなと思います。そして目標に向けてコツコツ積み上げていくことをやめないこと。ホームランを打っている人も、ずっと水面下で積み上げてきて表面に出たときにホームランに見えているだけで、やっぱり積み上げだと思います。」

先人たちに学び、ひたすら考える楽しさ

「"大規模なネットワークをどうやってうまく動かすか"という大きなテーマに対しては、私の上司が結構余裕を持って考える時間を与えてくれました。
ネットワークのデータ転送を水流に置き換えて考えると、例えば一本の水道管に二方向から水が流れ込むと、一本分しか流せないので根元の水流が遅くなってしまいます。ぐるっと一周回ってどこにも流れなくなってしまうデッドロックも防ぎたい。コンピュータの世界では古典的な課題なのですが、先人たちがいろいろな解き方をしてきたものを教科書で調べながら、こういう絵をひたすら描いて(写真下)さらによい解き方はないか、PCクラスタに合わせて何が最適か探求できたというのは楽しかったですね。

研究で "何か新しいもの"ということは重要ですが、私が一番大事にしているのは、ちゃんと動くこと、ちゃんと性能が出ることで、そのために何をしなければいけないか。もし、すでによく知られたもので解決できればそれでもいい。でも実際はうまくいかない、というところに研究課題があって、それを解いていくことを私自身も、私が所属しているグループも脈々とやらせてもらっています。」

クラスタ技術と、ポスト京それぞれの使命

「クラスタ型ではない『京』や、今開発されている『ポスト京』といったスーパーコンピュータは、その時に持ち得る最高の技術をつぎ込んで、プロセッサも全て一から専用に作る総力戦です。突出した高い性能を突き詰める、人類の次の技術を獲得しに行くことが役割で、そこで獲得した技術をより広く世の中の人に使ってもらうことが、リーズナブルなPCクラスタの役割だと思います。

『性能が高いことに何の意味があるの?』とよく聞かれるのですが、性能が高ければ高いほど応用範囲が広いです。お客様のもとに渡って実際にシミュレーションを動かして新たな科学的発見をする、今までできなかったことができるようになる、といった研究やイノベーションの下支えをするのが私の役目かなと思っています。」

AI処理に応用し、新しい深層学習(ディープラーニング)を呼び込む

「"ムーアの法則"が成り立っていた時代のようにCPUの性能が上がることはもう望めなくなっていますので、特化した専用処理だけを高速にしましょうという"ドメイン・スペシフィック・コンピューティング"が重要になってきています。富士通では、AI向けのスーパーコンピュータの開発もしていますが、特定用途に特化し、性能のために余計な機能を削ぎ落とします。ですから、限られた機能で性能を最大化していくことが課題です。

今私はこれまで開発してきたPCクラスタ構築技術を応用して、AI向けのプロセッサの性能を引き出し、AI処理をどうやって高速化するかという研究に取り組んでいます。各社が開発している最新のハードウェアをうまく組み合わせて、特に大規模環境の活用による高速化を目指しています。

規模が大きすぎて、ディープラーニングに落とし込むのは無理だと諦めていたこともできるようになったら、きっと今まで誰も思いつかなかったようなことをやってくれる人が出てくるはずなので、その下支えになることが、社会貢献と言えるかもしれません。」

変化の激しい時代だからこそ、泥臭く

これからイノベーションを起こしたい!何か新しいことにチャレンジしたい!と考えている方々にメッセージを送るとしたらー

「私自身まだまだ若輩者なのですが、強いて言うと(笑)、回り道だと思うようなこともやってみて、そこから積み上げていくことが重要なのかなと思います。時間が多少かかる、面倒な泥臭いこともやってみる。そうすると、理屈では思いつかなかったものが見えてきて、新しい課題を発見するんです。それが最終的には塊となって、大きな仕事になるのではないかなと。時代の変化が激しく動きが大きくて、そういうことがやりづらくなっているからこそ、忘れてはいけないと思います。」

「他人が書いたプログラムを調べることは根気が要ります。どこかに不具合がないか、見つけて特定するという作業が好きなのですが、そんなことを言うと変態扱いされてしまいます(笑)」

世界の技術者がイノベーションを生む土台に

「目標や夢としては、グローバルにこういうコンピュータ技術、特にAIや高速化技術を広げていきたいという思いがあります。市場の問題もあるのですが、富士通の技術はまだ世界中に広がっているとは言えません。
日本の技術者に使ってもらえるだけでなく世界に広げられたら、次のイノベーションを生む土台としてより効率よく使ってもらえるでしょうし、何より学会で海外出張する時に入国審査の人に"Fujitsu"と言えば説明しなくても"ああ知ってるよ"とスムーズに入国できるようになりますね(笑)」

株式会社富士通研究所
コンピュータシステム研究所
先端コンピュータシステムプロジェクト
プロジェクトディレクター
中島 耕太
2000年九州大学工学部電気情報工学科、2002年同大学大学院修士課程を修了。
同年富士通研究所に入社。
以来、PCクラスタ高速化技術、高速ネットワーク制御技術の研究開発に従事。
博士(工学)、平成30年度文部科学省科学技術賞開発部門「大規模PCクラスタ構築技術の開発」を他4名と受賞。