ブロックチェーンで業種・業界の「壁」を超える ~Gartner Symposium/ITxpo 2018 講演レポート~

企業同士が共創し、イノベーションを加速させるには、業種・業界の垣根を越えたデータの共有と利活用が不可欠です。ところが、企業同士が重要なデータをお互いに提供しあうには、様々な課題があります。企業が「業種の壁」を超え、共創の可能性をさらに広げるために、必要な取り組みとはどのようなものでしょうか。2018年11月13日に、東京・品川で開かれた「Gartner Symposium/ITxpo 2018」における講演から、富士通の取り組みを紹介します。

イノベーションの創出や社会課題の解決へ、変わりゆくICTの役割

富士通株式会社
執行役員常務
松本 端午

ICTは長い間、多くの産業において、業務効率向上を目的に活用されてきました。ところが、ここにきてICTの役割が変化してきています。富士通が世界16カ国、1500名のCEOや意思決定者を対象に実施した調査では、ICTの高度な利活用を通じてイノベーションの創出や社会課題の解決に積極的に取り組んでいる企業が約6割に達しました。業務効率向上から、イノベーションの創出や社会課題の解決へとICTの役割が変化しているのです。

このように、あらゆる産業がデジタル化による新しい価値の創出に取り組む中、大切になるキーワードが「Trust(信用)」と「Co-Creation(共創)」です。富士通は創業以来、製品やシステムの信頼性に徹底的にこだわってきました。そして今、個々の信頼だけでなく、その結果が積み重なることによって形成される「信用」が求められています。さらに、個々の創造性が繋がることで生まれる「共創」が大きな価値をもたらす時代がやってきています。

日本における新産業創出を考えた時、業種・業界を超えて、様々な企業や技術、人材といった社会のアセットが「Trustで繋がる」ことで、大きな共創の基盤を構築できると考えています。そのためには、企業や団体・組織が繋がり、それぞれが保有するデータをお互いに利活用できるようにすることが大切です。それによって、業種・業界の壁を超えたイノベーションが加速されると考えています。

本日は「データ流通、利活用による日本の新産業創出への貢献」と題し、データの利活用において、ブロックチェーンで業種の「壁」を越える、ICTの新しい活用について紹介します。

大切なデータに関する「アクション」をブロックチェーン技術で共有する

そもそも新産業の創出を阻む要因、つまり「壁」とは何でしょうか。企業同士が共創によって、新しい価値を創出する際、それぞれが保有しているデータの共有が必要です。ところが実際には、「相手が競合ではないか」「勝手に二次・三次利用されないか」「大事なお客様の個人情報が守られるか」「データを預けるのにコストがかかる」などの理由から、情報共有に対して、なかなか一歩を踏み出すことができないのが実情です。これが情報流通に関して企業と企業、団体と団体の間に存在する壁であると感じています。

そこで、富士通の研究所では、こうした情報流通の壁を超えて、本当に必要なデータを本当に必要としている企業や団体との間でやり取りできる仕組みを研究してきました。

そして、ブロックチェーンを仮想通貨にではなく、データ流通の領域に応用することに取り組みました。それは、企業にとって大切なRAWデータ、つまり、元々のデータは企業がきっちりと保管したままで、そのデータの概要を示すメタデータをブロックチェーンの技術で共有できないかという発想を元にしています。そこから研究を重ね、メタデータ、データの保存場所やデータの所有者、データが誰から誰に渡ったかといったデータ流通経路の詳細情報など、データに関する処理の記録を、ブロックチェーンの分散台帳に書き込むことを可能とするスマートコントラクトの開発に成功しました。

このスマートコントラクトを「VPX」(バーチャルプライベートデジタルエクスチェンジ)と呼びます。VPXの特徴は、データに対して人々が取る行動を「透明性を持って共有できる」ことです。

データジャケット同士の繋がりを可視化し、イノベーションを創出する

富士通では、VPXを利用して、メタデータの代わりにデータの概要情報である「データジャケット」を登録、コンソーシアムで共有することを提案し、情報の共有と活用が進まないという企業間の共創における課題を解消し、新産業創出への道筋を作りました。

データジャケットとは、東京大学大学院の工学系研究科システム創成学専攻の大澤幸生教授が2013年に発明した技術です。富士通は、2017年6月に大澤研究室を訪れ、大澤教授のご快諾により、東大と富士通との共創が実現しました。さらに、大澤研究室のもうひとつの技術である「キーグラフ」を活用し、企業や団体が提供するデータジャケット同士の関係性を可視化して、思わぬ繋がりを発見し、アイデアを生み出し、イノベーションに繋げていく取り組みにも着手しています。それは、3段階の図で示すことができます。

イノベーションを創出する3段階の取り組み

まずは、企業や団体が、データジャケットをブロックチェーンで、コンソーシアムとして共有する段階です。次に、それらのデータジャケットの繋がりを可視化することで、新しい発見を得たり、繋がった相手とコミュニケーションとったりする段階です。そして、第3段階が、企業や団体がコミュニケーションをした相手と実際に会って、対話をすることから、イノベーションが生まれる段階です。

富士通は、こうしたデータ流通の基盤となるVPXを、「Virtuora(バーチュオーラ) DX」と名付け、提供しています。そして、「Virtuora DX」を活用し、東京の大手町・丸の内・有楽町の「大丸有」エリアで、三菱地所様とともに実証実験を実施しています。この取り組みでは、企業や業種の垣根を超えて、データを利活用し合うことで、新たなサービスや事業の創出を目指しています。

「大丸有」の実証実験では、商業・観光・環境をテーマに100を超えるアイデアが

この取り組みは、2018年5月にプレスリリースで発表しました。当初、三菱地所様、ソフトバンク様、東京大学様、そして富士通の3社・1大学でスタートしましたが、反響が大きく、コンソーシアムの参加希望者が後を絶たない状況でした。現在では、8業種・12企業にご参加いただき、データジャケットを登録し合い、それらの関係性をキーグラフで示し、日々、コミュニケーションを取り合い、アイデアを語り合う活動を継続しています。40個ものデータジャケットが登録され、リアルなワークショップも併用し、1日で100ものアイデアが誕生するといった成果も出始めています。

このワークショップで出たアイデアの中から、テーマを「商業」と「観光」と「環境」に絞り込み、コンソーシアムメンバー各社が、関心の高いテーマに自らの意思で集まって、ビジネスとして展開するための検討も進めています。この実証実験以外にも、いくつものコンソーシアムの立ち上げを進めており、2018年~2019年にかけて活動を始める予定です。

そして、富士通では、今後、こうして立ち上がった複数のコンソーシアム同士がつながり、そこで、価値ある情報がやり取りされる、よりオープンなデータ市場(分散型市場)の形成を考えています。さらに、「ヒューマンセントリックスな情報銀行」の実現にも取り組んでいきたいと考えています。企業や団体・組織に属している個人には、その企業や団体・組織での肩書きがありますが、そこから一歩離れると、完全なプライベートな個人という側面もあります。様々な属性を備えた個人を中心に考え、その時々に自分が置かれているシーンに応じて、情報銀行にあるデータをもとに個人に対して最善のサービスを提供できるような仕組みを構築していく、そんなことを考えています。

コンソーシアムがつながると、横断的にデータがやりとりされるようになる

富士通は、データジャケットをブロックチェーン技術で共有することで、企業や団体・組織間におけるデータ流通と利活用への道筋を作りました。そして、今後の展開に視線を向けると、分散型市場の形成、ヒューマンセントリックスな情報銀行の創設など、次の取り組みやその課題も見えてきています。これらの解決を、多くの方々との共創によって、もっと前に前にと進めていきたいと富士通は考えています。

データジャケット同士の繋がりを可視化し、イノベーションを創出する

その過程でも、やはり大切となるのは「Trust」です。信用を確立するには、プライバシーや透明性の確保、データガバナンスへの取り組みが不可欠です。例えば、AI(人工知能)の活用がさらに進展した時には、AIがなぜその回答を導き出したのかが説明可能であることも信用の確立において重要になります。一方では、先端的な技術を扱う企業の倫理観の醸成も、信用の確立において大切になります。

デジタル化が進む社会にあっても、もっとも重要なものはTrustです。ビジネスに限らず、人が社会で生活していく、暮らしていけるというのはお互いの信頼がもとになっています。富士通は多くのお客様、パートナーの皆様とともに、デジタル化がもたらす共創を支え、信頼の基盤を築き、より良い未来を創ることに貢献していきます。

※データジャケットは、大澤幸生、早矢仕晃章の登録商標です。

登壇者
  • 富士通株式会社
    執行役員常務
    松本 端午