本当の働き方改革が意味するところ・・・限られた人材の有効活用とイノベーションの活性化

長時間労働抑止、残業禁止だけではゴールには程遠い

2018年11月28日、働き方改革をテーマとした「Fujitsu Insight 2018」を開催しました。「企業の存続と成長のための「働き方改革」の現実と展望~働き方改革による組織マネジメントとイノベーション成功のポイント~」と題した基調講演では、働きがいやモチベーションの上げ方、人工知能との関わり、富士通の実践などを取り上げた3つのセッションとパネルディスカッションで、働き方改革の本質について解説しました。

働きやすさと働きがいの2本柱で働き方改革を推進

冒頭で富士通の松本は「企業の方とお話をしていると、働き方改革を検討している企業は多いものの、改革が進んでいると答える企業は決して多くない」と現状を紹介し、「なぜ今、働き方改革に取り組む必要があるのか。その本質はなにか」と来場者に問いかけました。その後、まず青山学院大学の山本寛氏が登壇しました。

働き方改革というと、必ず枕詞に「労働生産性の向上」という言葉が付きます。では、労働生産性を上げていくためには労働時間短縮さえすればいいのでしょうか。実はそうではありません。仕事の中身を考える必要があります。働き方改革は、「働きやすさ」「働きがい」という両面から考えるべきではないでしょうか。

働きがいとは何でしょうか。働く行為の結果として自分にとって良い効果につながることです。しかし、働きがいは数値で測れるものではありません。そのため、従来は比較などの調査があまりされなかったのですが、モチベーションやエンゲージメントという観点で数値化して比較できるようになってきています。

モチベーションとは自発的な意欲。エンゲージメントとは、従業員一人ひとりが会社の成長と自身の成長を「結び付け」、会社が実現しようとしている戦略・目標に向かって、自らの力を発揮しようとする自発的な意欲のこと、つまりは、仕事への熱意度です。会社の成長と自分自身の成長を何らかの形で結びつけ、その達成のために頑張るところがモチベーションと異なります。一言でいえば、高い業績につながるような企業と個人の結びつきの強さを意味しているといえます。そしてエンゲージメントの向上は、売上高や生産性に直結するのではないかと考えられます。

エンゲージメントについて世界と日本を比較してみましょう。世界でのエンゲージメントが高い人の割合を見ると、2011年頃から徐々に上がり始め、2014年から急に上昇しています。

それに対して日本はどうなのかを見ると、ショッキングな結果が出ています。2017年5月の日経新聞に掲載されたギャラップ社の調査によると、熱意あふれる社員つまりエンゲージメントの高い社員が日本はわずか6%で、139カ国中132位という低さです。その半面、やる気のない社員は10倍以上の70%にも達しています。

ではエンゲージメントを高めるために会社や組織はどのようなことをやっているのでしょうか。これも世界と日本では大きく隔たりがあります。タワーズワトソンの調査では、アメリカ、カナダ、ヨーロッパは傾向が似ており、リーダーシップや社会的認知、イメージなどが重視されています。

一方日本では一番重視しているのが権限委譲、つまり上司の役割です。2番目が業務量とワークライフバランスでした。これはまさに働き方改革で取り組んでいることです。働き方改革で働きやすさを高めていくことは働きがいにも繋がることがいえるでしょう。

特徴的なのが、5番目に来る報酬です。欧米では、報酬をあげることを働きがいややる気をあげる対策としては考えていないようです。ところが日本では報酬がやる気を高めるのに効きそうだと見ています。逆に欧米で高いリーダーシップや企業の社会的認知、イメージは日本だけランク外となっていました。

社員の仕事での頑張りや成果を認めてあげることも重要です。例えば、社員を表彰する制度を設けている企業も少なくはありません。しかし、表彰規定を定めておらず、どういう人を表彰するかが明確でなかったり、長年表彰される人が出ていなかったりすることもあります。こういう制度を有効に活用したり、職務提案報奨金、ピアボーナスのような制度を設けるのも手です。

もう一つ忘れてはいけないのは仕事で使うスキルの見える化です。業務の見える化はさまざまなところで言われていますが、ここで述べたいのは、個人がどの程度のスキルを蓄積したかという点です。そうやって、スキル向上を評価しあっていくことも働きがいに繋がります。

労働時間の短縮は有休を取りやすくすることで効果を発揮します。例えば、長期休暇を取りやすくしたり、時間単位で柔軟なシフトで働けるようにしたりします。その理由は、働きがいを感じるタイミングを作るためです。ずっと働き通しだと働きがいを感じる暇がありません。やはり働きがいを感じるのは、少し休んだとき。自分を振り返ってみて、「頑張ってきたな」「去年より仕事ができるようになってきたな」と実感するときではないでしょうか。

人工知能は日本企業の働き方をどう変えるか

続いて、日立造船株式会社伊東 千秋氏がAIと働き方改革について話しました。

今から7年前東日本大震災が起こるちょっと前になります。2011年の2月17日にウォールストリートジャーナルの一面トップに「ホワイトカラー、ブルーカラーの区別をする時代ではなくなる」という趣旨の記事が掲載されました。つまりテクノロジーが進化してくると、新しいことを作り出すクリエイティブな人たちと、これまで蓄えてきた知識やルールを基礎にして仕事をするサーバーと呼ばれる人達に2分されるという主張です。

実はその記事が掲載される前日は、IBMの人工知能であるワトソンがアメリカを代表するクイズ王を徹底的に打ち負かした日なのです。ウォールストリートジャーナルの記事がいうテクノロジーとは人工知能を示唆していると考えていいでしょう。

今アメリカでは、ブルーカラー、ホワイトカラー、ピンクカラーという三つの職業カラーがあると言われています。ブルーカラーについては、将来 人工知能やロボットが拡充してくれば熟練工も厳しくなるでしょう。ホワイトカラーも安寧とはしていられません。高学歴社会の独壇場であったホワイトカラーも、人工知能が業務に入ってくるとうかうかしていられなくなります。聞き慣れないのはピンクカラーという言葉でしょう。これは、看護、介護、保育など人間に関わる仕事です。そして、ピンクカラーの業務は、そう簡単には人工知能ではできないだろうと見られています。

将来人工知能が発展したとき、それでも生き残っている職業は3つ考えられます。筆頭に上がるのはイノベーションを生み出す仕事です。小さなイノベーションでいいのですが、日々新しいことを積み重ねてビジネスが大きく育てるのがポイントです。2番目は先ほど紹介したピンクカラーです。何万年も前から人類の仕事は植物と動物を相手にする仕事でした。採集や狩猟のことです。やがて農業や牧畜へと変わっていきましたが、植物と動物を相手にすることは変わりません。しかしこれからの人類の大きな仕事は人を相手にする仕事ではないかと言われています。最後は言い方が悪いのですが、誰もやりたがらない仕事です。多分これは、人工知能でやるのはかなり難しいでしょう。

では人工知能は社会をどう変えるのでしょうか。デジタル革命の非常に恐ろしいところは、設備投資をしていない会社が世界のナンバーワンになってしまうことです。資本主義は本来株主からお金を預かって設備投資を行い、その利益を配当にするのが原則です。その原則が、デジタル革命によって崩壊する可能性を持っています。

崩壊を起こす原動力はソフトウェアです。従来のものづくりは収穫逓減の法則が適用されますので、1社が世界を制覇することはありえないとされています。ところが、ソフトウェアは実装コストがゼロですから、世界を独占してしまう可能性を秘めています。

イノベーションが次々と起こると、企業の寿命も短くなっていきます。S&P 500社の平均寿命は、1920年代は67年でした。ところが今では15年と短くなっています。若い人が今の優良企業に入社しても、定年まで働けるとは限りません。これはアメリカでの結果ですが、必ず日本もそうなるでしょう。

ではイノベーションはどうすれば創出できるのでしょうか。自己裁量権、自分が決められる権利をどこまで持っているかということが非常に大きいと思います。わたしはイノベーションの聖地と言われるシリコンバレーの、エアビーアンドビーのオフィスを見てきました。そこには、広大なオフィスに全く仕切りがありませんでした。

そして、オープンな場所に会議スペースがたくさんあり、パソコンも資料も持たずにディスカッションしていました。会議に集まる前に、「今日はこのテーマで議論しましょう」と決まっているのでしょう。もうひとつ驚いたのは、ディスカッションでは誰がリーダーなのかが全くわからなかったことでした。

やはりイノベーションを起こすには、組織階層をフラット化しないといけません。一般社員から社長に届くまでには何度も伝言ゲームを行い、社長に届いたときには全く違うものになっているような多階層の組織では駄目だと感じました。

そしていろいろなディスカッションをして新しいことを生み出そうとするのであれば、その構成員は多様性を持っていなくてはいけません。女性や外国人を含むいろんな多様性を持った人がいないとイノベーションを生み出すことはできないでしょう。

また突拍子もないことを発言する人に対して「バカなことを言うな」と言う組織ではイノベーションは起きません。むしろ「どうしてそんなアイデアを出したのか」「そのバックグラウンドは何か」と一生懸命聞いてくるような組織が、実際にトップランナーになって売上も利益も伸ばしているのです。

本当の働き方改革とは組織の個人の関係にとどまりません。企業の形をも変える大きな効果があると考えています。