世界最古級のコンピュータを動かし続けるCEの挑戦(前編)

【未来を創るチカラ Vol.11】

世界最古級のコンピュータが、今も富士通の沼津工場内で動いています。1959年製のリレー式計算機FACOM128B。カスタマ・エンジニア(CE)による60年という世界でも例のない長期的な保守・整備が、この稼働を実現しています。ICTシステムを支えているCEが、もう一方で世界最古級のコンピュータを動かし続けている、その意義は何か。CEの使命とは。CE集団をまとめる堀と、FACOM128Bの稼働を牽引する濱田に話を聞きます。

カスタマ・エンジニア(CE)の役割とは

「私が入社した'78年には、富士通がMシリーズというメインフレームの計算機(大型コンピュータ)を造り、IBMがSystem/370シリーズという計算機を出し始めていました。その頃からソフトウェアを開発するSE(システム・エンジニア)と、ハードウェアをインストールした後も定期的なメンテナンスを行い、動かなくなった時に直すCE(カスタマ・エンジニア)という二種類のエンジニアが必要とされるようになり、SEとCEがペアで活動していました。

CE畑一筋の堀。入社したのはちょうどコンピュータが社会に出始めた頃だった。

コンピュータ技術は、技術革新を繰り返してきました。私たちCEも、それらの技術革新に合わせて新たな保守技術を開発し続けています。その一方で、たとえ生産・販売を終了した装置についてもお客様から継続利用のご希望があれば、可能な限り安定稼働に向けて奔走するのも、私たちの役割だと思っています。」

"技術継承プロジェクト"によってCEの魂を次世代に

濱田「私は入社当時CEではなく、この沼津工場で防衛関係のコンピュータ修理を4年間やっていました。そのうちにお客様ともっと関わりたいとの思いが強くなり、自己啓発から資格をとってCEになりました。全国導入時のまとめ役であるセンターCEの経験が一番長く、同じ職場の先輩にリレー式計算機の保守をされている方がいらしたことから、FACOM128Bを保守するようになりました。

小学生の頃から壊れたラジカセを分解しては「仕組みはどうなっているのだろう」と考えていた。

1959年に造られたリレー式計算機FACOM128Bは、当時のCE(現OB)さんたちによりトラブル発生しては沼津まで駆けつけて修復し、保守も年に1、2回行っていました。しかしそれだけではずっと動かし続けることはできないだろうと、2006年から正式にFACOM128Bの保守技術と経験を継承していくための要員とサポート体制を構築し"技術継承プロジェクト"が始まりました。『お客様がいる限り動かし続ける』という富士通CEの魂と技術を次世代に伝えるプロジェクトです。」

未来技術遺産に登録されたFACOM128B

富士通沼津工場内の池田記念室に設置されているFACOM128B。見学者に公開されている。

濱田「"技術継承プロジェクト"の活動としては、FACOM128Bを60年前の設置の時点から保守してきた3名のOBさんから、技術を継承させていただいています。我々は4名いて、年に4回の定期保守の中でリレー式計算機について教わっています。リレーなどの保守部品や回路図は当時のものが残っているのですが、やはり計算機のロジックを知らないと保守できません。設計思考や動作原理を理解し、回路を読めるようになるまでには相当な時間がかかるだろうと思いましたが、年4回の貴重な時間の中でOBさんからの熱心なご指導と経験を積むことで、保守スキルを上げています。」

今年8月には、FACOM128B は2018年度の"未来技術遺産"に登録されました。次世代に継承していく上で重要な意義を持つ資料等の保存をはかることを目的とした国立科学博物館が定める登録制度です。

プロジェクトの現場で、CEの血が騒ぐ

濱田「プロジェクトがスタートしてから12年経ちますが、初めの頃はトラブルが多発していましたので、多くの修理を実施しました。これはマニュアル操作による動作チェックや新たな展示用プログラムでこれまで使っていなかった回路を使うようになったことと、故障したままの入出力装置を修理したためです。障害対応は、最初OBさんが主導で行なっていましたが、図面の見方、動作原理の説明資料など、保守スキル習得に必要なマニュアルをOBさんが何年もかかって作成してくださり、そのうち我々若手が主導で障害対応できるようになってきました。しかし行き詰まってモタモタしていると、直ぐ「待ってました!」と言わんばかりにOBさんによるトラブルシューティングが開始されます。『なるべくOBの方は座っていてください、黙っていてください』と(笑)言っていますが、CEの血が騒ぐのでしょう。本当に好きなんですね。好きだからこそ、60年くらい前のことも覚えていらっしゃるのだなと思います。」

最初のコンピュータに、なぜリレー式を選んだのか

リレー(電磁石を使ったスイッチ)の接点に電流が流れるか流れないか電気回路のON/OFFに当てはめて二進法の計算を行う
展示では5元連立方程式のデータを読み込ませ計算している。かつては100元以上の連立方程式も夜通し計算した

濱田「FACOM128Bは、1954年に完成した日本初の実用リレー式計算機FACOM100の商用機FACOM128Aの後継機として造られました。リレー式というのは、半導体を使う現在のコンピュータの前身で、当時電話交換機で使われていた部品『リレー』を応用した技術です。

初期のコンピュータは真空管方式が多かったのですが、当時の真空管の動作はとても不安定なものでした。富士通が最初にリレー式を採用したのは、5つの理由があったと聞いています。1高性能であること 2信頼度が高い 3寿命が長い 4取扱が簡単 5コスト。それに加えて、機械的に動作するリレーのネックとなる接触不良の対策として、不良を起こしにくい回路設計やリトライ機能(自己検査機能)にも工夫がこらされていました。技術の先進性だけでなく、お客様が安心安全にお使いいただけることを考えて、リレー式を選んだのだと思います。」

数字の書かれたボタンが並ぶ操作キー
計算の解がハンマー方式で印字される。

めまぐるしい技術革新の時代にこそ、原点を

「CEというのは基本的に技術者で、古い機械が確かに動いているのを見ると、これをいつまでも動かし続けたいと燃えてきます(笑)そのためにはものすごく大変な技術を伝承していかないといけないのですが、デジタル革新などめまぐるしい技術革新が予想されている今だからこそ、原点のDNAを引き継ぐことは非常に価値があると私は思っています。」

濱田「先輩方から動いているものを我々は受け継いだので、当然この先も止めるわけにいきません。動かし続けるというのが、私のミッションです。ガチャガチャと動いているのとただ展示しているだけとでは違いますよね。FACOM128Bを実際に見ていただきたいです。どうやって動いているんだろう?と考えたり、感じたり、興味を持つことが、次につながるのではないかと思います。」

FACOM128Bエピソード
相撲を取っていると誤解されたコンピュータ黎明期

「実用化されはじめた当時のコンピュータは、とても高価なものでした。一社に一台買うことは難しかったため、FACOM128Bも計算センターに置かれ、各社がデータを持ち込んで順番に使っていました。
今はそれをオンラインでやっているようなものですね。」

濱田「長い計算には夜通しかかったため、オペレータ兼保守員は計算センターに泊まり込んで、止まったら修理し計算を継続させることをやっていました。FACOM128Bのプリンターはハンマー式で、ドンドンと非常に大きな音がします。階下に喫茶店「ラモンド」があった計算センターでは、『相撲をとるのは止めてくれ』と怒られたそうで(笑)何とか説明して、その後も24時間運用を継続させたそうです。

FACOM128Bは省庁、大学、企業の主に研究、設計、調査などの科学技術計算に使われ、戦後初の国産旅客機YS11の尾翼設計の計算も行いました。姉妹機のFACOM138Aはコストとスペースを3分の1程度に抑えた中型で、最も多かった用途はカメラのレンズ設計でした。その時のアメリカの計算機の価格は10倍くらいもしてコスト的に問題だと。日本企業に使ってもらうためにとこういった計算機が誕生したと聞いています。」

後編では、社会インフラを支えるCEの現場や今後のビジョンについて聞きます。

株式会社 富士通エフサス 代表取締役副社長
堀 信之
1956年 佐賀県生まれ 学生時代は剣道部。
1978年4月 富士通入社 東京のCE部門に配属、東京地区の大型Mシリーズの保守を担当。
1989年CE部門の子会社化にともない富士通エフサスに移籍、保守だけでなくのインフラサービスを担当。
2011年から製品のサポートを担当する部門の本部長となり、富士通製品およびOEMのハード、ソフトのサポート担当。
2015年から現職でコーポレート全般を担当。
入社以来CEが長かったので富士通製品保守のノウハウを生かして、OEM製品のハードやソフトのサポートを担当。ベンダーとのチャネルを生かして、インフラのサービスビジネスを拡大してきました。最近はコーポレート全般をみるようになり、新たなチャレンジをしています。
富士通特機システム株式会社
ICTサポート事業部システムサポート部
部長
濱田 忠男
1969年 長崎県生まれ。
1988年 富士通特機システム(株)に入社後間も無く、海上自衛隊哨戒機の搭載コンピュータ等を整備し保守技術を磨く。その後、電算機CEとして従事。
現在は、防衛に専属するセンターCE・コールセンターの長。国防を担うICTシステムを富士通CEグループ全体で、24時間365日安心安全をサポート。