キャッシュレス決済【第二回】日本でも店舗開設が進むキャッシュレス、さまざまなQRコード決済を同時対応するサービスもスタート

2018年10月、国内に"キャッシュレス"を掲げる新店舗が二つ登場しました。一つはJR東日本の赤羽駅の5・6番線ホーム上に開設された実験店舗、もう一つは浅草駅から徒歩2分の場所に誕生した「大江戸てんや浅草雷門店」です。

利用者の動きをカメラでチェックして購入商品を見つける

赤羽駅のキャッシュレス店舗は、利用者の振る舞いをカメラなどのセンサーで把握することで持ち出す商品を認識する"無人コンビニ"で、JR東日本とJR東日本スタートアップが共同で運営しています。入店時にSuicaなどの交通系ICカードをかざすとドアが開き、チェックアウト時に所定の場所に立つと、手にしたり鞄に入れたりした商品の一覧がディスプレイに表示されるので、それを確認して交通系ICカードをタッチしてセルフ決済します。決済時に店員が関与することがないため、無人コンビニとして運用できるわけです。

JR東日本の無人コンビニの実証実験は、2017年11月の大宮駅での実験に続いて2回目となります。今回は前回よりも商品認識率と決済認識率を高めており、試験期間も前回は1週間でしたが今回は2カ月間となっています。今はまだ実験段階であるため、同時に入店できる人数や一回に購入できる商品数に制限がありますが、自動販売機と同じ感覚でコンビニを利用できるという新たな購入体験は新鮮です。

JR赤羽駅の5・6番線ホーム上に設置されたセルフ決済コンビニの実験店舗
現在は同時に入店できる人数が3名までと制限されている

従業員の働きやすさをキャッシュレスで実現

一方の大江戸てんや浅草雷門店は、キャッシュレスであることを店舗前の看板で明確にしていることを除けば、一般のファーストフードの天丼屋さんと同じ使い勝手で利用できます。ディスプレイを用いて注文するのはセルフですが、クレジットカードや電子マネーを用いた支払いは店員さんと向き合って進めます。現金は利用できませんが、クレジットカードをはじめ、各種の電子マネー、交通系ICカード、そして大半の中国人が所有しているアリババ集団の「支付宝(Alipay)」と騰訊控股(テンセント)の「微信支付(WeChat Pay)」でも支払えます。

この店舗のキャッシュレス化は、効率的で働きやすい職場環境を作るということで効果を発揮しています。お釣りのやり取りなどの従業員負荷を減らせるメリットがあるほか、金銭を安全に保管・運搬するためのセキュリティコストの削減効果も期待できます。

大江戸てんや浅草雷門店と店頭に置かれたキャッシュレスの看板

大江戸てんやを展開するロイヤルホールディングスが手掛けるキャッシュレス店舗は、大江戸てんや浅草雷門店が最初ではありません。第一弾は2017年11月、馬喰町にオープンしたカフェレストラン「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」です。当初は通常のカフェレストランと同じ使い勝手でしたが、2018年7月からは一部の電子マネーで支払う場合に、タブレット端末でセルフ決済できるようになりました。これによって、オーダーと決済の両方を、利用者が店員に依頼することなく進められるようになりました。店員がお客さんのオーダーや決済に関与しなくて済むようになれば、それだけ別の作業に専念できる時間を作れるようになりますから、店員にとって働きやすいだけでなく、カフェそのものの価値を高める作業に多くの時間を使うことができるようになりそうです。

日本橋馬喰町で営業中のキャッシレス店舗「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」と入り口脇に掲げられたキャッシュレスの案内

キャッシュレス店舗に欠かせないQRコード決済

日本でも見かけるようになったキャッシュレス店舗ですが、決済の仕組みは大きく三つに分かれます。第一は、米アマゾン・ドット・コムの「Amazon Go」や京東集団(JD.com)の「JD.ID X-Mart」に代表される「レジ無し自動決済」です。どの商品を購入したかはカメラやセンサーを用いてお店側が判断し、チェックアウトした段階で自動決済します。自動決済できるように、入店時にスマホアプリをかざすなどしてチェックインする必要があります。

第二は、チェックアウト時にユーザーが購入した商品を確認した上で自ら決済処理を実行する「セルフ決済」です。JR東日本の実験店舗やGATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店で取り入れている手法です。第三は、決済は店員と相対で実行するものの、現金は使わないという「キャッシュレス決済」です。

キャッシュレス決済で注目したいのは、スマホアプリを用いたQRコード決済という手法が広く浸透していることです。特にAlipayとWeChat Payが一般生活に深く浸透している中国では、QRコード決済を多くの店舗で利用できるようになっています。

QRコード決済の方法は二つあります。一つは、店舗が商品の料金情報をQRコードでも掲示し、利用者がスマホアプリでそのQRコードをスキャンすることで決済する方法です。ここで用いられるQRコードは普遍的なものなので「静的コード」と呼ばれています。お店側は静的コードを印刷した紙を用意すればいいので、手軽にQRコード決済で商品を販売することが出来ます。実際、中国では露天商などの小さな店舗でもQRコード決済を利用できることが少なくありません。ただ、静的コードは人間が見ても内容を理解できないので、悪意を持つモノが店頭に掲示してあるQRコードを差し替えることで入金先を別のところにするという詐欺犯罪が問題になっています。

QRコード決済のもう一つの方法は、利用者が自分のIDに相当するQRコードをスマホアプリで生成し、それを店舗側に読み取ってもらって決済する方法です。スマホアプリで生成するQRコードは生成する時刻によって異なるため「動的コード」と呼ばれています。動的コードは専用サーバーを経由して正しい情報に紐付けられます。この仕組みがあるので、高いセキュリティが実現されています。

複数のQRコード決済に対応するゲートウエイサービスが登場

国内の電子マネーもQRコード決済を採用するところが増えているので、今後、国内において店舗のキャッシュレス化を進めるときは、まずはQRコード決済を取り入れるところから始めることを考えるのがいいかもしれません。ただ、QRコード決済は電子マネーごとに別の仕組みを用意する必要があるので、多くの電子マネーに対応するのは簡単ではありません。最近になってこの課題を解決するソリューションが登場しました。凸版印刷と富士通エフ・アイ・ピーの新サービス「スイッチングゲートウェイ」です。

スイッチングゲートウェイは、スマートフォンを活用したQRコード・バーコード決済サービスを小売店舗のPOSレジで同時に複数利用可能にする決済情報中継サービスです。Alipay(アリペイ)、WeChat Pay(ウイチャット ペイ)、国内のQRコード・バーコード決済サービスを店舗のPOSレジシステムと結ぶので、POSレジへの複数導入を短期間、低コストで実現できます。

スイッチングゲートウェイの仕組み
利用できる決済サービスはAlipay、WeChat Pay、Origami Pay、d払い、PayPay、pring、LINE Pay、楽天ペイ

QRコード決済を店舗に導入すれば、それぞれのお客さんがどの商品を購入したのかという顧客別の購買履歴を得ることが出来ます。このデータを分析すれば、お客さんごとの好みやライフスタイルを把握し、お客さんの嗜好を踏まえたマーケティング施策の立案・実行につなげることも可能になります。キャッシュレスは、店舗での店員やお客さんの行動を効率化する側面に目が向きがちですが、お客さんごとの購買履歴を把握できることも極めて重要でしょう。

将来、スマホ決済が一般化すれば、お店ごとに配られるポイントカードもスマホアプリとして提供されるようになるでしょう。そうなれば、QRコード決済のたびに自動的にポイントが貯まるようになり、「あっ、ポイントカードは家に置いたままだ!」といった失敗から解放されるかもしれません。

次回は、購買履歴の獲得や決済時の個人認証の実行というキャッシュレスならではの決済情報を活用した新しい事業を見ていきます。

著者情報
林哲史
日経BP総研 クリーンテック ラボ 主席研究員
1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。「日経データプロ」「日経コミュニケーション」「日経NETWORK」の記者・副編集長として、通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長を歴任。「ITpro」、「日経SYSTEMS」、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆。2016年12月に「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月に「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。