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金融だけじゃない! ブロックチェーンを地域活性化につなげる仕組みとは

富士通総研では、地域活性化における企画/IT支援に取り組んでいます。2017年は、千葉および新宿において、スマートフォンを用いた電子スタンプラリーの仕組みを提供しました。仕組みとしては仮想通貨などで利用されているブロックチェーンを用いています。ブロックチェーンを用いると、どのように可能性が広がるのかについてご紹介します。

執筆者プロフィール
松本 泰明(まつもと やすあき)
株式会社富士通総研 デジタルマーケティンググループ チーフシニアコンサルタント
富士通株式会社にてFM-TOWNS、FM-V等のコンシューマービジネス向けのサービスを開発・運用した後、株式会社富士通総研に出向。専門分野はスポーツやアニメなどのコンテンツを軸としたデジタルマーケティング、ブロックチェーンを用いた異業種連携、地域活性化施策立案など。

※この記事は、富士通総研発行の情報誌「知創の杜 2017 Vol.7」(2017年11月27日発行)に掲載されたものです。
※執筆者の部署、役職と記載内容は、「知創の杜」発行当時のものです。

地域活性化施策には、経済的な効果を得る仕掛けが不可欠

富士通総研では、様々な形で、地域活性化支援を行っています。地域活性化においては、集客とともに、経済的な効果を得るための仕掛けが不可欠です。そのためには、地域の持つ資源を様々に組み合わせ、他地域の生活者が来訪したり、購買したりしたくなる魅力を創出する必要があります。

弊社では2015年にも千葉の地域活性化支援を行いました。その際には、千葉を舞台とするアニメ作品とコラボを行うことで、地域の商店街や交通機関、プロ野球チームと連携し、その地域ならではの魅力を創出するとともに、コラボ商品を販売することで経済活性化につなげました。

ただし、イベント自体は一過性であり、集客効果はあるものの、参加者が何度も訪れる仕掛けを作ることはできませんでした。例えば、商店街においてスタンプラリーを実施しましたが、スタンプをコンプリートすれば、参加者がそれ以上、地域を巡る理由はありません。
来訪者に何度でも繰り返し地域に来ていただき、持続的に地域に貢献できる仕組みが作れないかと考えた結果、電子通貨の仕組みを導入することとしました。

スタンプラリーでは、同じスタンプは1枚しか獲得できません。一方、電子通貨の仕組みであれば、蓄積、交換、消費が可能です。ただし、電子通貨の仕組みは、一般のシステム以上に強固なセキュリティ対策が必要になり、地域活性化イベントを行うにしてはコスト負担が大きくなります。そこで、システムの実装としては、電子通貨の仕組みを備えつつも、オープンソースで低コストに構築できるブロックチェーンという仕組みを採用しました(図1)。

図1 スタンプラリー、電子通貨、ブロックチェーンの関係

ブロックチェーンを用いるメリット ~コスト削減、セキュリティ強化、分散DB~

ブロックチェーンとは、インターネット上の分散型台帳であり、暗号化と複雑な計算手法を用い、記録する情報(取引、契約など)の安全性を保障する技術です。特徴として、情報を記録する際にブロックチェーンのノード(ネットワーク参加端末)のすべてが確認できる透明性と、一部ノードが離れても、運営が途切れない保守性が挙げられます。

この仕組みを用いるメリットは、以下のとおりです。

  • 運用方法によって従来型のシステムよりコストを削減できる可能性がある。
  • セキュリティが強固である。
  • 分散DBであり、複数企業が、同じ資格でデータを保有できる。

ブロックチェーン技術の具体的な使われ方としてはビットコインのような電子通貨が有名ですが、ほかにも様々な用途での活用が可能であり、電子チケットやサプライチェーンのように、権利の移動や証憑(しょうひょう)が必要なもの全般に活用することができます。

ブロックチェーン参加者は誰でも取引内容を確認でき、データを持ちたい組織は同じデータを保有することができるため、参加者の増減があり得る地域事業者間での連携には特に適していると考えられます。ただし、分散DBを用いているデメリットとして、一般のシステムに比較すると処理速度が遅くなるため、用途を踏まえたシステム設計が必要です。

さて、ブロックチェーンは電子通貨として用いるには優れていますが、集客イベントなどで地域の魅力を発信するには、これだけでは十分ではありません。例えば、地域の観光資源をテーマとしたスタンプラリーでは、参加者が楽しめるよう、観光名所の絵や写真がついたスタンプ(画像)が必須です。

そこで、電子通貨に画像を付けることで、参加者が面白いと感じられる仕組みを検討しました。一般の電子通貨では、価値は定量的ですが、ゲーミフィケーション(注1)としての活用や、今後のスマートフォン利用(決済など)の進展を考え、電子通貨に画像を追加できる仕組みを用意しました。この点が他社にはない、富士通総研および富士通(注2)ならではの特徴となっています。

以下、この仕組みを用いて取り組んだ千葉と新宿の事例を紹介します。

千葉の事例 ~ライトノベルとのコラボ~(2017年3月~6月)

2016年度、千葉駅周辺では、2つの大型商業施設が撤退したこともあり、地域としての危機感が高まっていました。特に、商業施設の1つは若者向けであったこともあり、千葉駅からの若者の回遊が減少するのではないかとの危惧がありました。

そこで、千葉市様の後援および千葉銀行様の協賛のもと、若者向けの集客イベントを行いました。中高生に高い人気を誇るライトノベル「やはり、俺の青春ラブコメはまちがっている。」(著:渡 航、イラスト:ぽんかん⑧、株式会社小学館発行)とのコラボです。このライトノベルは、千葉市の高校生を主人公とした地域密着型のストーリーであり、地域イベントにふさわしい作品です。地域商店街と連携を行い、参加店舗の前にキャラクターパネルを11か所設置し、電子スタンプラリーシステムを提供しました(図2)。

著/渡 航 イラスト/ぽんかん⑧ 小学館「ガガガ文庫」刊
図2 スタンプラリーマップ

店舗に設置する各キャラクターの等身大パネルには、QRコードが貼り付けられています。 スタンプラリー参加者がスマートフォンで参加登録し、QRコードリーダーで読み取ることで、キャラクターの電子スタンプが発行される仕組みです(図3)。

著/渡 航 イラスト/ぽんかん⑧ 小学館「ガガガ文庫」刊
図3 電子スタンプラリーイメージ

スマートフォン画面のイメージ(「図3:電子スタンプラリーイメージ」中央の「スタンプ集め」画面を参照)には、キャラクタースタンプの下に「12枚所持しています」と出ています。これが、従来の紙のスタンプラリーや、一般的な電子スタンプラリーと違う点であり、それぞれのスタンプを電子通貨として何枚でも保有することができます。この電子通貨を用い、人気投票に参加したり、プレゼント応募したりと、参加者が楽しみながら消費することが可能となります。

また、参加者としては、多くの電子通貨を獲得することで、人気投票やプレゼント応募に参加できる回数が増えるため、何度も訪問し、スタンプを獲得する動機が生じることとなります。実際に、スタンプラリー参加者の多くが最終的にはリピーターとなっていきました(図4)。

図4 リピーター率の推移

新宿の事例 ~新しい文化を作ろう~(2017年7月)

新宿では、小田急電鉄様の無料映画上映イベント「シネマ&バル」の一貫として、スタンプラリーを行いました。

このイベントには、街を楽しんでもらうとともに、西新宿に新しい文化(夏のゆかた着用やプレミアムフライデーの楽しみ方提案など)を創ろうという文化創出の狙いもあります。

ここで重要なのは、西新宿の様々な事業者(百貨店、鉄道、電気量販店、ホテルなど)が協力することで、街全体を盛り上げようとしている点です。そのためには、来訪者に来ていただくことはもちろん、参加者の動線や属性を把握し、街全体で共有することも重要な課題でした。

実際の顧客動線を見てみましょう(図5)。

図5 顧客動線

このマップでは、よく利用されているルートほど太く表示されています。始点として活用されるポイントは、赤丸で、終点となるポイントは青丸で表示しています。このマップを見ることで、参加者がどこを始点として動き、どのようなルートを通るのかがわかります。

  • ①-②のように、非常に太いルートが存在する一方、同程度の距離であるにもかかわらず、比較的細い②-④や、ほとんど利用されない①-④のようなルートも存在します。
  • 青い丸が⑪新宿中央公園にあるのは、最終目的である映画会場だからですが、始点では、最も太い赤丸が、公園からは最も遠い⑧新宿サザンテラスです。これは、おそらく新宿南口のオフィスワーカーが、西口に向かう際によく利用されるルートになったためと考えられます。
  • 多数のルートとつながっているハブのような役割を果たしているのは、駅に近い①であり、次いで、南口や東口との交通のルート上である⑤です。

このように、参加者の動線を分析することにより、よく使われるルート、使われないルート、ハブとなる地点などがわかるため、同じ地域の各拠点を回遊してもらうためには、どのようなプロモーションが有効であるかを検討することが可能となります。

このイベントは毎年夏に行われるため、結果データの分析による知見は、次年度にフィードバックされ、新たな企画につなげることができます。また、今回のように多数の事業者で連携する場合、それぞれがデータを分散保有することで、信頼性や安全性を高めることが可能であることも、ブロックチェーンという分散DBならではのメリットと言えるでしょう。

ブロックチェーンの今後の可能性

今回は、地域活性化事例として、電子スタンプラリーの例を紹介しましたが、ブロックチェーンの仕組みとしては、ほかにも様々な可能性があります。例えば、地域の観光資源や、その地域を舞台とした小説やアニメ、地域のスポーツチームなどを巡ることで、電子通貨(スタンプ)を獲得することができ、それらを多数持つことで、地域ならではの特典が得られたり、スタンプを友人と交換したりという、ゲーミフィケーションと結びつけた集客施策が考えられます。また、そのスタンプを、その地域限定で利用できるポイントとして使うことで、地域内の消費を高めることも可能です。

これまでは、複数事業者の連携が前提となるシステムは、気軽に構築することが困難でした。例えば、地域連携では、毎年新たな参加者も、離脱者もいます。

その際、特定の事業者1社がデータに責任を持ち、保管し続けるのが妥当なのかという問題が発生します。しかし、地域のブロックチェーンネットワークがあれば、参加メンバーが互いにデータを分散保管することで、事業者の新規参加や離脱があっても、地域イベントの情報を継続的に保管することもできます。富士通総研は、各企業や自治体の連携調整を含めたコーディネートからブロックチェーン活用方針の設計、利用後の分析、施策へのフィードバックまで、幅広くご支援します。

このように、ブロックチェーンによって地域の様々なプレーヤーがデータを共有することで、日本政府が「未来投資戦略2017」で掲げるような、異業種連携による経済活性化につなげることもできると考えています。

富士通総研では、生活者から見て楽しめ、地域に経済効果をもたらすような地域活性化策を今後も検討していきます。

  • (注1)ゲーミフィケーション:課題の解決や顧客ロイヤリティの向上に、ゲームデザインの技術やメカニズムを利用する活動全般
  • (注2)システムは富士通株式会社 ネットワークサービス事業本部映像ネットワークサービス事業部が提供。
知創の杜
ケーススタディ
ブロックチェーンを用いた地域活性化

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