全く新しいアーキテクチャ「デジタルアニーラ」革新的なコンピューティング技術が切り拓く新しい未来とは?

デジタルアニーラで学際的な課題解決の取り組みを行うトロント大学

トロント大学
アリ・シェイコレスラミ 氏

最後に堀江は、富士通研究所と共同研究をしているカナダ・トロント大学の教授、アリ・シェイコレスラミ氏を紹介しました。トロント大学はAIと量子コンピュータでトップクラスの研究機関で、富士通研究所は2018年3月に共同研究拠点"Fujitsu Co-Creation Research Laboratory at the University of Toronto"をトロント大学内に開設。スマート交通、金融、ネットワーク、医療等の多方面で新しいデジタルアニーラの応用領域を拡大すべく、多くの学部や研究者と一体となった共同研究を進めています。

また、アリ氏は大学院生時代(1988年)にインターンとして富士通研究所に在籍して以来、富士通と様々な分野で共同研究を行っています。同氏はデジタルアニーラを活用したトロント大学における応用研究を紹介しました。

トロント大学とのパートナーシップ

デジタルアニーラの応用分野には、放射線療法、脳と機械のインターフェース、都市交通、ワイヤレスアプリケーションとコネクティビティ、経済などがあります。これらの分野には関連性がないように思えますが、すべて「最適化したい」という共通点があります。

がんは世界的に見ても死因の第1位です。2012年には1400万の新しいがん発症事例があり、2017年にはカナダで8万人が、日本では37万8000人ががんによって亡くなりました。その一方でがん治療に関する研究も各地で進められています。

現在、世界中で使われているがん治療法の1つとしてVMAT(強度変調回転放射線治療)があります。VMATは、機械が回転して角度を変えながら放射線照射を行う治療法です。がん細胞に最大の効果を与えつつ、周囲にある正常な細胞に極力影響を与えない放射線の角度、照射領域と時間の照射最適化が重要になります。

がんの放射線治療ではがん細胞に最大に放射線を照射し、周囲にある正常組織には可能な限り影響しない照射最適化が重要

トロント大学では先端的な病院と共同で研究を行っており、デジタルアニーラを使って30分以内に最適な解を見つけようとしています。将来的に複雑な形状のがん組織にも対応するため、複数のDAUを使って最適解を得るための研究も行われています。

他の応用例について紹介します。脳の構造を解析する研究は、タウフィク・ヴァリアンテ(Taufik Valiante)博士が取り組んでいます。脳のニューロンの間の繋がり方やニューロンごとの特質、また結びつきなどについて、デジタルアニーラを使って解析に向けた研究を進めています。この解析によって、アルツハイマー病やうつ病のような、脳に関する疾病の治療に活用できるものと考えています。

次に社会的な問題である都市交通に関して、デジタルアニーラを活用している例を2つご紹介します。

アルベルト・レオンガルシア(Alberto Leon-Garcia)教授は、都市交通に関して長年研究されています。デジタルアニーラを活用することで、刻々と変わる道路状況に対してリアルタイムに最適解を見つけ出すことができるため、渋滞を限りなく減らす事が期待できます。

また、近い将来にコネクテッドカーが普及します。コネクテッドカーは車同士だけでなく、インフラやネットワークとも通信を行います。限られた無線リソースの最適な利用のためにデジタルアニーラを利用する研究をシャールフ・ヴァライー(Shahrokh Valaee)教授が行っています。

さらに非常に重要なテーマとしてFintechがあります。アンドリューさんの話にもありましたが、トロント大学でもユリ・ローリシュイン(Yuri Lawryshyn)教授がこの領域でリスク最小化投資や高速取引のアルゴリズム、信用評価などの研究を続けています。トロント大学では富士通研究所とFintechの研究を進めています。

このようにデジタルアニーラはこれまでの汎用コンピューティングをベースにしていますが、量子アニーリング方式と十分対抗できる組合せ最適化問題の解決能力を持っています。そして非常に使い勝手がよく、実用レベルの精度を実現しています。

以上のアリ氏のコメントに対し、堀江は「トロント大学と富士通研究所の20年にも及ぶ長い関係があり、トロント大学でデジタルアニーラの色々な新しい応用が進んでいると共に社会的なインパクトの大きな成果に繋がると期待を持っていただけたと思います」とまとめました。

専門分野を横断した取り組みによってさらなる発展へ

株式会社富士通研究所
取締役
堀江 健志

講演を受けて、モデレーターの堀江は「トロント大学では理学・工学、応用領域が一緒になって、うまく社会課題の解決に向けて取り組んでいるが、その強さはどこから来ているのか?」と質問。これに対しアリ氏は「トロント大学では学部同士で勉強しあおうという雰囲気がある。色々な分野の教授や研究者がデジタルアニーラを使う事で、これからも様々な成果が出てくると思います」と答えました。

また、堀江は3人に「不可能を可能し、社会課題に取り組むためには、いかにお客様の課題に深く入り込み、高い専門性を持って問題を解決していくかが重要です。どのように進めていくべきなのでしょうか?」と問いかけました。

アンドリュー氏は「1QBit社は、かなり早い段階からクライアントに関わることを重要視しています。量子関連のテクノロジーは私たちの得意分野ですが、解決すべき社会問題を一番理解しているのはクライアント自身です。クライアントと協力することによって学際的な有識者、ある分野に強みを持っている専門家などを組み合わせて、一番いいテクノロジーの使い方、応用方法を見つけます。どこにニーズがあって、それに対するソリューションはどういったものかを取り合わせるのが私たちのやり方です」と答えました。

アリ氏は「スタートアップ企業はこういった問題を解決する一つの手段です。私たちはいくつかのスタートアップに対して『あなたが興味を持っている分野でデジタルアニーラを使ってみて下さい』と言っています。いろんな分野の教授や研究者がスタートアップの会社を作って、デジタルアニーラを使っていくと色々なソリューションがこれから出てくると思います」と述べました。

吉澤は「その問題はデジタルアニーラだけでなくAI全般に言えます。AIやデジタルアニーラは技術ですので、本当の意味でのソリューションに生かすかは、その業種・ドメインのナレッジがなければ非常に難しい。デジタルアニーラが解決すべき課題はお客様のコアな業務領域であり、お客様の業務の専門知識が必要です。エコシステムを考えて様々な方々といろいろな協業を探っていこうと思っています」と見解を示しました。

デジタルアニーラとAIを加速する協業

次に堀江は「デジタルアニーラとAIの関係」について意見を伺いました。

アリ氏は「AIとデジタルアニーラができることには非常に大きな類似性があると思います。機械学習では問題を解くためにニューラルネットワークを最適化します。つまり、いくつか解の候補がある中、適した解が得られるようにニューラルネットワークを問題に合わせ込んでいきます。また、機械学習のトレーニングに対してデジタルアニーラを使う事で処理を加速化して学習時間を短くすることができます」と答えました。

アンドリュー氏は「私はデジタルアニーラに熱意を感じます。何十年も、どうやったら物を考える機械を作ることができるか?というコンセプトを検討してきましたが、実現する演算能力がありませんでした。ディープラーニングはAIの問題を解決するショートカットだと思いますが、それだけでは足らない。デジタルアニーラによってAIの可能性を驚くほど引き上げる可能性があり、その発展に期待しています」と語りました。

最後に堀江は、「デジタルアニーラへの期待と提言」を3人に伺いました。

アリ氏は「私は2つの大きな研究の方向があると思っています。まず、デジタルアニーラのハードウェアがより柔軟になる必要があります。アプリケーションによってデジタルアニーラを再構成できることが必要です。
また、アプリケーションの分野ではより学際的な研究が必要だと思います。例えば今回は5人の教授の取組みを紹介しましたが、このように多くの研究者・学生が具体的に協働し、デジタルアニーラの適用領域を広げるのが重要だと思います」と説明しました。

アンドリュー氏は「私はデジタルアニーラを多くの人が使えるようにすることが重要だと思っています。ハードウェアをどのように拡張していくのかとか、1QBit社もソフトウェアの観点で取り組んでいきたいと思っています」と答えました。

吉澤は「まさにハード、ソフト、人が重要ということで、これは富士通だけではできないと思っています。まさに『Co-creation for success』で取り組んでいきます」と語り、講演を終了しました。

登壇者
  • 1QB Information Technologies Inc.
    最高経営責任者
    アンドリュー・フルスマン 氏
  • トロント大学
    電気・コンピュータ工学部 教授
    アリ・シェイコレスラミ 氏
  • 富士通株式会社
    執行役員常務デジタルサービス部門 副部門長
    吉澤 尚子
  • 富士通研究所
    取締役 兼デジタルアニーラプロジェクト長
    堀江 健志