信用リスク判定など金融業務のデジタル化を加速する「説明可能なAI」

「デジタル革新」を支える重要技術の一つであるAI(人工知能)。金融領域においても、活用の可能性が大いに高まっています。その一方で、AIのビジネス活用については、たとえ正しい推測ができたとしても、AIがなぜその答えを出したのか、理由や根拠を示すことが難しいという問題が指摘されています。今回は、このような課題を解決する新しい技術「説明可能なAI」を金融領域でどのように応用できるのかをご紹介します。

進展めざましいAI。金融分野での活用にも期待が高まる

近年のAI技術の進展には目覚ましいものがあります。例えば、これまでゲームの複雑性から、「機械が人間に勝つことは難しい」とされてきた将棋や囲碁の世界においても、AIが現役のプロ棋士に勝利したというニュースも報じられています。
AIの重要な要素技術である深層学習(ディープラーニング)についても、音声・画像・自然言語を対象にした問題解決を中心に精度の向上が加速しており、幅広いビジネス領域での活用が進んでいます。
金融ビジネスにおいても、例えば投融資などの業務にかかわるリスクマネジメントや、マネーロンダリングなどの不正取引の防止、さらには顧客サービスの向上など幅広い分野でのAI活用が期待されています。

なぜAIはその答えを出したのか?「ブラックボックス化」が大きな障壁

このように、ビジネスでのAI活用が進む一方で、新しい問題も出てきました。AIによる判断のプロセスが「ブラックボックス化」されていて、AIがなぜその答えを導き出したのか、理由や根拠を人が説明できないという課題です。
特に高い信頼性が求められる金融分野では、AIの適用を阻む要因となりかねません。
こうしたことから、AIの活用を考えるユーザーの間では、単純に推定結果を提示してくれるのではなく、なぜそのような推定をしたのか、その理由、根拠を示すAI技術の開発が切実な要求となっていました。

富士通研究所の独自技術によりAIの推定結果の理由と根拠を人が説明可能に

富士通研究所では、こうしたAIが抱える課題の解消に向けた取り組みを続けてきました。その成果として発表したのが、AIの推定結果について、その理由と根拠を説明できるようにする技術です。これは、富士通の独自機械学習技術「Deep Tensor®(ディープテンソル)」と、学術文献や様々なビジネスデータなど専門的な知識を蓄積したナレッジグラフ技術を関連付けることによって実現されました。

グラフ構造のデータの高精度な学習を可能にするDeep Tensor®

まずDeep Tensor®は、AIによる高精度な推定「結果」と、その推定に大きく寄与した因子、つまり「理由」を導き出すことができる技術です。
Deep Tensor®では、人やモノの「つながり」など関連を記述する場面で用いられるグラフ構造のデータ群を、ディープラーニングで解析します。
このグラフ構造データを「テンソル分解」と呼ばれる数学テクニックで変換するのと同時にディープラーニングによる学習を行うことで、高精度な学習を実現しました。
さらにディープラーニングの出力結果を逆に探索することで、推定結果に影響した複数の因子を特定することができます。

グラフ構造の知識ベース ナレッジグラフ

一方のナレッジグラフは、多種多様な知識データを集積したものです。Deep Tensor®が特定した推定結果に大きな影響を及ぼした因子とナレッジグラフ上のデータを関連づけることで、それぞれの因子に関連性の高い情報を「根拠」として抽出することができます。

つまり、Deep Tensor®が特定した因子をナレッジグラフ上の具体的な知識と結びつけることで、ディープラーニングによる推定結果の理由や根拠を人が説明できるようになるのです。

投融資に際しての信用リスク判定に説明可能なAIを適用

このような説明可能なAIの適用は、金融分野でも始まっています。

例えば、企業に対する投融資についての信用リスク判定業務の効率化です。
信用リスクの判定は、対象企業から提出された財務諸表や業績データを担当者が精査し実施しています。

しかし、投融資の対象が中小企業などの場合、財務諸表が提出されていなかったり、その内容が信憑性に欠けるといった課題があり、財務諸表以外の情報を使って、信用リスクを判定する方法が必要でした。
これに対し、富士通では財務諸表に代えて、金融機関と当該企業の間の実際の取引履歴のデータをAIで処理して信用リスク判定を行うというアプローチを考案しました。

取引履歴データは、例えばどこからどこへお金を振り込んだなど、グラフ構造を持っており、Deep Tensor®による解析が可能です。
取引履歴データに基づいてDeep Tensor®で信用リスクを判定するとともに、推定結果に貢献した特徴的な因子を特定。それを当該金融機関にかかわる知識ベースとして構築したナレッジグラフと関連付けることで、理由・根拠の説明ができます。
ナレッジグラフは、取引各社の親会社や子会社、グループ会社などの一般的な企業情報はもちろん、株式の保有情報や役員の情報など、過去の情報も含めた広範なデータを収集し、構築していきます。

金融機関の広範な業務領域に適用可能性が広がる

現在富士通では、投融資に関する信用リスク判定業務を対象とした説明可能なAIの実証を進めています。

さらに近い将来、例えばリテール領域での融資にかかわる信用リスクの判定、さらには投融資の局面に限らず、マネーロンダリング対策やマーケティング施策の展開など、金融機関の幅広い業務領域へと、その適用可能性が大きく広がっていくものと考えています。