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1億枚のその先へ。UHF帯RFIDリネンタグが創り出す未来

超高圧への耐久性が課題となった第三世代。

写真左から第一世代、第三世代のRFID。次の第四世代はここからさらに3分の2のサイズを実現。

工業用クリーニングにおいて、洗濯したモノの水をはじく方法の一つに「遠心脱水」があります。その名の通り、遠心力で水をはじく方法で、家庭用洗濯機の仕組みと同様です。遠心脱水も相当の負荷がかかるものの、第一世代、第二世代では何とか対応しました。

一方、圧力脱水とは、洗濯した大量のモノに対して、油圧で何十トンもの圧力をかけて水を搾り取るという豪快な仕組みとなっています。かかる力は30~60bar(バール)。なかなか想像できない数字ですが、60barは直径20cmの円に約20tの重さが掛かった状態です。水深でいえば600m地点といったところ。もちろん、人間など押しつぶされてしまう圧力です。

これだけ強力な力がかかるとなると、ファスナーやボタンが壊れてしまうので、一般的な衣服は圧力脱水にはかけられません。しかし、シーツやタオル、枕カバーといったいわゆるリネン類は、量もかさむだけに圧力脱水には最適です。リネン類を攻めるには、圧力脱水の壁をどうしても乗り越えなくてはならなかったのです。

落合 「昔からいわゆるリネン類にニーズはあるのは知っていましたが、技術的に対応することができませんでした。しかし、アメリカのリネンサービス会社から『病院のシーツ類を管理したい』という声が上がったのを受けて、本格的に開発がスタートしました。当時は洗う量の重さを測る程度で管理していましたから、私どもが入り込んでいけばイノベーションが巻き起こせると考えました」

開発中に擬似圧力脱水の試験で壊れたサンプル

超高圧力への対応に関しては、第一世代と同様にまさにトライ&エラーの繰り返し。何度も圧力脱水をかけて、実験を繰り返していきました。クリーニング店に依頼するのではなく、自前で圧力脱水装置を購入しようかとの話もありましたが、さすがに長さ10mの巨大装置を実験のためだけに置くわけにもいかず断念したそうです。

諦めず、丹念に検討をしていくことで、たどり着いたのはICチップを守る保護材そのものが曲がるという技術。第一世代と第二世代は、保護材の周辺には柔軟性がなかったのですが、企業秘密の素材と技術で改良を加えた第三世代では、見事にぐにゃりと曲がるようになり、圧力脱水のハードルをクリアしました。

密集読みの正確さこそ、リネンタグの真髄。

第三世代のリネンタグは、富士通のRFID技術を成長させる原動力となりました。アメリカの大手のヘルスケアリネン品のレンタル・サービスサプライヤーに採用いただいたのが起爆剤となり、今や北米では70~80%ものシェアを獲得するに至っています。他社もUHF型RFIDを登場させていますが品質面では富士通が数歩先を走っているのは間違いありません。

北米クリーニング工場での利用シーン(写真提供:PositekRFID社)

ここでいう品質とは、一つは強度ということになるでしょう。リネンタグは圧力脱水の強烈な力にも十二分に耐えられるのみならず、他の様々な面でも過酷な条件をクリアしています。例えば、国によってはクリーニング時に使う洗剤が、リネンタグ内の接着剤を溶かしてしまうことがあることから、あらゆる角度からの検討はすでに実施済み。また、タグの取り付けに200℃のアイロンで圧着することがあるため熱への耐性も持たせていますし、病院での利用を想定しているので滅菌処理にも対応しています。

落合 「アメリカで顧客先に出荷途中であったリネンタグが、輸送会社の倉庫でハリケーンの被害にあい、倉庫全体が水没して梱包箱はぼろぼろになったのですが、リネンタグ自身には全く支障がなく、顧客はタグのみをそのまま受け入れた逸話もあるほど。強度面では絶対の自信を誇っています。ですが、私自身、リネンタグの最大の特色は"密集読み"だと考えています」

タオルやシーツが乱雑に詰め込まれたランドリーバックの中では、タグ自体も複雑に折り重なっています。その一つひとつの電波を一瞬で、正確に捉えなくては、タグをつけて管理する意味がありません。リネンタグの場合、アメリカでの利用例を見ると、同時に最大で1000枚のタグを読み取ることが可能で作業の効率化に寄与しています。

チップは中央の黒く丸い点、そこから左右に伸びる線がアンテナ部分。

実は電波の届く距離だけでいえば、他社製の方が長距離まで到達しますし、コストもどうしても富士通製は高くなってしまっています。しかしながら、大量のリネン類を一瞬で認識できて、ちょっとやそっとの使い方では壊れないので、シェアが伸ばせたのだと思います。

有名ホテルなどでも採用。次世代型の量産化も視野に。

第三世代で技術的なブレークスルーを迎えたリネンタグは、第四世代で耐性や通信距離をさらに向上させて性能アップ。今や世界のラグジュアリーホテル、複数の有名テーマパーク、大規模リネン品サプライヤーなどに採用されるようになり、冒頭でも紹介したように累計出荷枚数1億枚を達成しました。

落合 「発表した3〜4カ月後には1億2000万枚に達しています。ちょうど病院のリネンを手掛ける企業が、RFIDに非対応だったクリーニング工場への導入を前倒ししたのが後押しとなっているのですが、リネンタグの注文に対し、生産が追い付いてない状態です。現在、自社の製造設備の増強中なので、おそらく2億枚への到達は、そう遠くない将来に実現することでしょう」

現在、クリーニング業界におけるリネンタグの適応率はわずか10%程度。日本などはほとんど導入すらされておらず、今なおバーコードと手作業で管理している企業が大多数です。1億枚の達成はあくまでも通過点。まだまだ進化する世界であるのです。

次世代リネンタグの形もすでに検討に入っています。最新版となる第五世代では、性能を維持したまま、さらなるコンパクト化を果たすことで、シーツやタオルに縫い込みやすい形態にしていこうとしています。これにより圧倒的に強い北米の基盤をよりいっそう固めるとともに、徐々に広がりを見せているヨーロッパ、中国などでもシェア拡大を目指していこうとしています。

リネンタグから目を移して、UHF帯のRFIDという切り口においても、可能性は大きく広がっています。

落合 「用途が拡大しているのは、アパレル販売店の商品タグ。使い捨ての廉価版ではあるのですが、10mほどの長い距離に電波が届くスペックとなっています。おかげで倉庫や物流拠点に山のように並ぶ商品の一つひとつの所在を厳密に管理し、どのようなルートで、どの店のどの場所に並んでいるのかを簡単に把握できるようになりました。会計などもレジのセンサーに乗せるだけで瞬時に行うことが可能。このアパレル分野だけで数億枚は出荷しています」

さらには銀行などが保管する契約書などでも活用されています。1か所で何十万点もの書類を保管しているのですが、密集読みに強い富士通のUHF型RFID技術の特性を生かせば、欲しい書類がどこにあるのかを瞬時に把握することができます。また、健康診断で採血した検体の管理などでも用いられるなど、ヘルスケア分野でも活躍の場を広げているところです。

リネン、医療、物流、金融、文教、重工業、農業など、RFIDの適応する分野は非常に幅広いのが特徴です。それこそ富士通の適応するあらゆるビジネス分野に対応するといっても過言ではありません。これからもリネンタグをはじめとするRFIDが、よりよい暮らしやビジネスを実現する力となっていくことでしょう。

落合 孝直
富士通フロンテック
フロントソリューション事業本部 RFID事業部
シニアディレクター
1984年入社。新人時代は南多摩工場でモデムの信号処理系の開発に従事。その後、POSシステムの開発を経て、2003年から現在に至るまでRFIDの開発に一貫して携わっている。リネンタグの海外営業も担当しており、海外への拡販の責務を負っている。
馬場 俊二
富士通アドバンストテクノロジ
複合実装技術統括部 デバイス実装技術部
マネージャ
1991年入社。フリップチップなどのコンシューマ系機器の実装技術開発の後、2004年より富士通テクノロジーセンターの一員としてRFIDタグの開発に携わる。現在はIoTデバイス(BlueToothビーコン、センサデバイスなど)の開発を主務とする。