AIが120万件の診察予約を管理、病院での恐ろしい待ち時間を短縮へ

AIは自分にとっていったい何の役に立つのだろうか? そんな疑問を感じたことがある人は、病院の待合室で無駄にした時間を思い出してみてください。

カナダのケベック州を拠点とするテクノロジー企業、ボンジュール・サンテによれば、AIを利用することで待ち時間を20分以内に短縮し、患者にとっての無駄を同州だけで年間で650万時間も節約できるといいます。同社は、顧客サービスと緊急対応アウトソーシングを手掛ける非公開会社トゥーテロ・イノベーションの傘下企業です。

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医師の即時診療率/当日や翌日の診療予約を取りにくいカナダ/ 左からケベック、カナダ、アメリカ、フランス、ニュージーランド/
調査対象の医師のうちで即時診療が可能と答えたパーセンテージ/ソース:CICHのコモンウェルス・ファンド・サーベイ2016

ケベック州で300か所以上のクリニックの予約を管理するボンジュール・サンテは、モントリオールが誇るAI研究所と共同で、診察時間の遅れを予測するアルゴリズムを開発しました。この予測モデルは、天候や医師が使用する医療記録ソフトウェアの種類など、1,900種類ものパラメータを使って過去数万件分の予約を分析します。そして患者は、予約した時間の2時間前に、実際に医師の診察を受けられる見込みの時刻をテキストメッセージで受け取れるようになりました。

現在のところ、このサービスはボンジュール・サンテのネットワークに参加している10か所のクリニックで提供されており、追加料金はかかりません。同社の創業者であるブノワ・ブリュネル氏は、今後、このサービスを有料で提供することが考えられる潜在的な顧客として、より大規模な病院を挙げており、その先には不要な待ち時間に悩まされている他の業界への展開も視野に入れています。

同氏は、電話インタビューに対して次のように答えました。「人々は常に自分の時間を見つけようとしています。時間は生活における最も貴重なものですから。私たちのサービスはまだごく初期の段階にすぎず、今後着手したいプロジェクトが少なくとも20件はあります。」

マッキンゼー・グローバル・インスティチュートの研究によると、人間の脳の構造から着想を得たマシンラーニングの一種であるディープラーニング技術を企業が採り入れることにより、全世界で年間58,000億ドル相当の価値を生み出すことができるとのことです。そのような取り組みはまだ始まったばかりで、問題はすべての企業がディープラーニングの利用条件を満たせるとは限らないという点にあります。AIのアルゴリズムに対して「トレーニング」を行い、どのモデルが最もうまく機能するかを判断するためには、大量のデータが必要になるためです。

一方で医療分野は、血圧の測定値や検査結果、医師の診断書などの情報の宝庫であり、さまざまな企業が、治療の効率を高め、人命を救うための新たなAI戦略の策定に取り組んでいます。たとえばMicrosoftは、AIを利用して病気の初期兆候を発見する方法を研究中です。また、Googleは、500億件近いデータに基づいて患者の死亡確率を判定するAIシステムについての論文を、この5月に発表しました。

ボンジュール・サンテの場合は、120万件分の予約のデータセットを以て、ミラ・ケベックAI研究所との提携を開始しました。この研究所は、ニューラルネットワークの先駆者であるヨシュア・ベンジオ氏の指揮の下、モントリオールが世界有数のAI拠点になることに貢献しています。その専門家チームは、カナダ政府の助成を受けた技術移転プログラムの一環として、特定の企業向けに「人類の役に立つ」イノベーションに関する助言を行っていると、この取り組みを率いるミリアム・コテ氏は電子メールで説明しました。

カナダは国民皆保険制度をとっているものの、すぐに受診できる病院を見つけることが難しいため、すでに患者であふれ返っている救急治療室に人々が押し寄せている状態です。カナダではフランスやニュージーランドに比べて当日または翌日の予約を取ることが難しいという事実が、カナダの保健情報局の調査でわかっています。

そこでボンジュール・サンテは、人々が、自分の居住州内の即時診療可能なクリニックを予約できるようにすることで、医療の隙間市場を開拓しました。そのためのシステムは、クリニックに無料で提供されますが、患者には、かかりつけ以外のクリニックを1件検索するごとに17.25カナダドル(13米ドル)が請求されるしくみです。ただし、政府が出資して開発されたシステムの料金体系において、このような公平性に欠ける二重構造が取り入れたことで、一部から批判の声が上がったことも事実でした。

トゥーテロの68%の株式を保有するブリュネル氏は、今後、同社のサービスに対する需要が急増すれば株式公開を検討するとしながらも、当面その予定はないとのことです。

このプロジェクトを指揮するピエール・ラフランス氏によれば、ボンジュール・サンテは以前、従来の統計的手法とわずかな評価基準を用いて診察時間の遅れを予測しようとしましたが、平均待ち時間を45分以下に短縮することはできなかったといいます。しかし、ディープラーニングなら、モデルがデータを繰り返し処理して、パターンを発見できるため、精度が飛躍的に高まります。たとえば、ある医師の診察が特定の曜日に限って遅れる傾向があるといったこともパターンとして認識されるうえで、そのようなデータも更新され続けるわけです。

モントリオール島にあるルバスール総合病院も、この新しいプログラムによる診療予約サービスを利用しています。院長のジュリー・ルサール氏は、医師の増員に伴う待合室の患者の急増による混乱を避けることができたといいます。待合室の患者が増えれば、その分、細菌も増える可能性が高くなるため、この事実には単なる混雑の回避以上の意義があるわけです。

「これは、当院にとって非常にありがたいことでした」と同氏。「患者が診察を受けるときに、すでに2時間待たされて痺れを切らしているということがなくなったのですから。」

ブリュネル氏は、50ほどの顧客がいるカナダの他の州はもちろん、医療制度が似ている他の国に対しても、自社のAIのアルゴリズムを売り込むことは可能だといいます。2016年の調査ですが、米国内も病院を受診する際に最もストレスを感じることについて、患者の63%が「ロビーで待たされること」だと答えていることは、同社にとって朗報でしょう。

ラフランス氏はすでに、アルゴリズムを強化するために新しいパラメータを追加することを検討しています。たとえば、ホッケーチームのモントリオール・カナディアンズの試合スケジュールなどといった非常に地域性の強い出来事も、その1つです。

まさかと思うかもしれませんが、ラフランス氏は次のように付け加えました。「カナディアンズの試合中は病院の忙しさが和らぎ、クリニックによっては、患者が減りすぎて空き時間が出るほど余裕が生まれます。」

このように従来は考慮されなかった要因もディープラーニングを通じてAIの判断材料となり、医療現場の待ち時間短縮に貢献する時代が来ようとしているのです。

協力:ダグ・アレキサンダー 本稿の執筆者:サンドリン・ラステロ(モントリオール、srastello@bloomberg.net)  本稿の担当編集者:クレイトン・ハリソン(tharrison5@bloomberg.net)、ディビッド・スキャンラン(dscanlan@bloomberg.net)、ジャクリーヌ・ソープ ©2018 ブルームバーグ L.P.

 

この記事はBloomberg向けにSandrine Restelloが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。