編集部ピックアップ

"日本版ニューリテール・サービス"創出への挑戦
三越伊勢丹×富士通 が乗り出した服のシェアリングサービス

2018年8月、三越伊勢丹と富士通は、スマートフォンのアプリを通して洋服をレンタルできるシェアリングサービス「CARITE(カリテ)」のトライアル検証を銀座三越でスタートしました。
百貨店大手の三越伊勢丹の強みである『接客』と『店舗』に、富士通がもつデジタルテクノロジーを融合させることで、アプリを通した新しい購買体験の提供を目指す今回の共創プロジェクト。
大企業×大企業のしがらみを乗り越え、"日本発ニューリテール・サービス"の創出に挑戦する4人に、CARITEの取り組みとこれからの小売業界が向かう先について伺いました。

所有から利用へと変わる潮流の中、百貨店がお客さまのためにできること

三越伊勢丹 百貨店事業本部 MD戦略部MD政策ディビジョン プランニングスタッフ
神谷 友貴氏
「コト消費」への移行というお客さまの価値観の変化、ニーズの多様化を感じることもあった」という

神谷:三越伊勢丹は、シェアリングエコノミーに対して3年ほど前から注目していました。モノを購入・所有するのではなく、「必要なときだけ利用する」という考え方は、百貨店にどんな影響をもたらすのか。三越伊勢丹のバイヤー、あるいは店頭でお客さまと接するスタッフの肌感覚としても、お客さまの意識に「所有」ではなく「使用するときだけ対価を払う」という感覚が芽生えてきていると感じていました。

林:店頭に来られるお客さまからも、「このドレスは1回しか着ないのに」、「タンスが一杯で整理をしないと新しい服が買えない」といった声を耳にすることが徐々に増えてきたようにも感じられました。購入自体に価値があり、所有することが豊かさの象徴だった時代から、それらを使って何をしたいのかという「コト消費」への移行、そういったお客さまの価値観、ニーズの変化に対応することが、私たち百貨店に求められていると考えています。

「CARITE」は、スマートフォンアプリを使って利用する、レディスウェアのレンタルサービス。レンタル期間は2泊3日。料金はウェアによって異なるが、往復の配送料・クリーニング代を含む。レンタルできるウェアは、2018年の新作を中心としてラインアップ。インターネットを通じて申し込めるほか、銀座三越に来店して手に取りながら選べる。チャットで販売員への相談も可能。2018年8月1日から11月30日までの期間限定。

「リアル店舗の顧客体験」「経験豊富な販売員のストーリー力」が百貨店の強み

富士通 共創イノベーション事業部 山田 修平
「EC企業にとってはリアル店舗の運営はまだまだ実績不足。従来型店舗に一日の長がある。リアル店舗の購買体験と経験豊富な販売員のストーリー力という2つの強みを、いかにデジタルを活用して最大限まで引き出せるかが、EC企業との差別化要素」という

山田:富士通としても、デジタル化の波が小売業にも及んできたことに注目していました。その一つがシェアリングサービスの普及です。
もう一つは、リアル店舗でのテクノロジー活用です。すでにEC(ネット通販)は世界の小売売上の10%を占めるほどに成長していますが、最近では、そのEC企業がリアル店舗にまで手を伸ばし始めてきています。この動きは、アメリカや中国で顕著で、EC企業が「デジタル化したリアル店舗」を次々に建てています。中国のアリババでは、このようなオンラインとオフラインの融合を「ニューリテール」戦略と標榜しています。

その一方で、リアル店舗を中心に事業を展開してきた企業が、ここ数年で撤退や倒産を余儀なくされていることも事実ではないでしょうか。ある報道によると、アメリカでは2018年に約3800もの小売店が閉店するとされています。

神谷:リアル店舗には、お客さまとの接点を直に持てること、お客さまの細かいニーズを把握できることなど、オンラインの店舗にはない特長があります。オンラインで成長してきたEC企業がリアル店舗に進出してきたのは、リアル店舗の重要性に気づいたからだと思います。私たち百貨店は、リアル店舗を運営してきたという長い経験の中で培った知見を持っています。その強みを活かしつつ、リアルとデジタルとを融合させることで、総合的にお客さまのニーズに応えていけるのではないかと考えています。

デジタルでオフラインとオンライをつなぐ、新しい洋服のシェアリングサービス「CARITE」

三越伊勢丹 銀座 婦人・子供営業部 商品担当 マネージャー
林 浩子 氏
「CARITEは、百貨店にとって初めてづくしの大胆な取り組みだった」と語る

林:今回のCARITEの取り組みは、三越伊勢丹としてはすべてが初めてづくしで、会社としては大胆な取り組みです。「モノを売る百貨店が洋服のレンタルを始めたら、購入する人が減るのではないか」という反対の声も含め、社内でも賛否両論がありました。

神谷:ただ、アメリカの調査では、リアル店舗がレンタルを始めても購入に影響が出るわけではないという結果も出ているのです。私たちの見解としても、お客さまは「購入とレンタルをTPOにあわせて使い分けていくのではないか」、「購入するという選択肢は残したまま、+αでレンタルしてもらえるのではないか」と予測しています。

山田:今はスマートフォンを使っていつでもどこでも情報が調べられる時代。それは、商品を選ぶ主導権がお客さまに移ってきたということです。とりわけ、百貨店のようなビジネスでは、主導権を持ったお客さまの多様なニーズにいかに応えるかが大切です。そのために富士通がデジタルでできることは何か、そんな想いもありました。

そもそもCARITEプロジェクトの始まりは、2016年12月です。私がオープンイノベーションの集まりに参加した際に、三越伊勢丹さんのバイヤーの方にお会いでき、その場で「洋服のシェアリングサービス」を提案させていただきました。年末でお忙しい時期だったと思うのですが、ほどなくバイヤーの方から連絡をいただき、具体的な話がどんどんと動き出しました。

神谷:当時は私たちにもデジタル領域での課題がありました。しかし三越伊勢丹の中だけで考えていても、解決できないことも多い。ITは本業ではないのでノウハウが足りません。そこで、その分野のプロとして富士通さんの協力を得ることにしました。

山田:確かに、専門分野ではないデジタルテクノロジーの最新動向をキャッチアップし、導入して使いこなすための人材を育成、そして雇用し続けることは容易ではありません。一方で、amazonやアリババといった企業はデジタルテクノロジーに数兆円という規模の投資を実施しており、差は開く一方です。
小売には品質のよい日本製品が、ITには日本の技術力があるにも関わらず、それを活かしきれていないことに歯がゆさを感じ、それならば共創という形で挑戦しようと思い立ちました。
今回のCARITEのプロジェクトは、3つの企業の共創によって実現できました。三越伊勢丹さんは接客、店舗、MD、プロモーションを担当し、富士通はデジタルの部分、システムのバックエンドの開発、セキュリティ、運用、IoT、AI、ビックデータ解析などを担当しました。そして、デザインやUX(ユーザ体験)、UIなどのフロントエンドの開発はスタートアップ企業であるアルチェコに関わってもらっています。

松苗:具体的には、アプリのアカウントIDに基づき、オンラインとオフラインのユーザ行動データをシームレスに取得し、分析結果をフィードバックしていくことができます。店舗でのQRコードによるアイテム情報の読み取り、お気に入り登録、カゴ登録、決済・・・これらのアプリ上での行動データはもちろん、チャットの内容などをAIで解析することで、潜在的な趣味趣向の見える化やユーザ一人ひとりにとって最適化されたサービスが実現できると考えています。