伝統・制度・思想に対する代替の道とは? オルタナティブ創造社会への挑戦

トポス2「オルタナティブな生き方」

2番目のセクション(トポス2)では、「オルタナティブな生き方」をテーマに、マルグレート・オルフスドッティル氏(Hjallastefnan 創設者)、末延則子氏(株式会社ポーラ・オルビス・ホールディングス グループ研究・薬事センター担当 執行役員)、西田治子氏(一般社団法人 Women Help Women 代表理事)が登壇しました。

登壇した3人はオルタナティブを生み出した実践者として紹介され、従来の常識や慣習にとらわれずに新たなカテゴリ、ムーブメントを生み出したストーリーに関する講演を行い、オルタナティブを生み出すための実践知について考察しました。

より大きな視点を持つことこそ、オルタナティブである

最初にコンピュータ・サイエンティストであるアラン・ケイ氏のライブ・ビデオメッセージが流れました。同氏は「ダイナブック構想」(注1)という革新的なコンセプトを提唱し、「コンピュータの父」とも称されています。

ケイ氏は、「これからの社会を子供の視点で見てみよう」と提案しました。「例えば、今年生まれた子供たちは21世紀が終わる2100年には、82歳になっている。その時代に地球はどういう状況になっているのか。人類はそこまで生き残れるのか。この地球が今よりもいい状態に持っていくことができるのか。そういったことを考えなければならない」と問題を提起しました。

これまでの歴史を振り返ると、私たち人類は、お互いに協力、共創して社会や文化を創出するようにプログラムされています。ただ、身の回りに注意を向けがちで、特に今世紀に入ってからは、このような状況について特に注意を払わなければいけないとのことです。

「現在、地球の人口は13年ごとに10億人増え、その多くが都市部に住んでいます。こうした現状において、私たちの衣食住をどう考え、どう必要なエネルギーを確保していくかがますます問題になります。人間が発明した技術は、私たちを豊かにする一方で、新たな問題を生み出してきました。どうすれば、効果のある問題解決につながるかを考える必要があります」(ケイ氏)

また、ケイ氏によると、気候変動などのようにゆるやかに起きている問題も存在するとのこと。そうした課題を解決するには、より大局的な見方をしなければならないと言います。ケイ氏は、アルベルト・アインシュタインの「問題を解決するには、問題を生み出したのと同じ思考法では駄目だ」をという言葉を引用しました。

その上で「昔のカテゴリの考え方では、問題解決ができない。違ったカテゴリ、より良いカテゴリを持たなければ、作った問題は解決できない」と述べ、それこそがオルタナティブであると説明しました。

  • (注1)理想的なパーソナルコンピュータコンセプト。片手サイズ、対話型インターフェース(GUI環境)、低価格などが条件に挙げられる。

男女格差をなくすための新たな教育手法

Hjallastefnan 創設者
マルグレート・オルフドッティル氏

次に、マルグレート・オルフスドッティル氏が登壇しました。同氏は、真のダイバーシティ社会をデザインする教育理論である「ヒャーリ・モデル」と、アイスランドに設立した、従来とは全く異なる教育施設に関するエピソードを紹介しました。

オルフスドッティル氏は、男女間格差やダイバーシティに対する問題意識から27年前に幼稚園・小学校向けの独自のラディカルな教育方法を生み出しました。また、方法を生み出しただけでなく、実際に学校を設立してその理論を実践。その教育は、非常にユニークな教育方針であったため、設立当初は厳しい批判もあったといいます。

同氏によると、アイスランドの7~8%の幼稚園児が、自身が運営する幼稚園に入園しているとのこと。「人々が何を要求しているかを模索し、従来とは異なる代替の選択肢を提供することで、子供たちの保護者に選んでもらえる時代になりました」と語ります。

アイスランドは、日本よりも高い出生率を持っています。オルフスドッティル氏は「子ども達こそが私たちの希望。子ども達は大人にとっての一番の教育者だと思っている。反対に、大人が子どもの教育者として優れているとは思えない」との見解を示しました。

その上で、「労働市場を女性に開放すると、経済成長が生まれる。子どもに対して、最良の幼稚園を提供することが大切。民間、公的部門だけに頼るのではなく、私達みんなが参画する必要がある。子供に対してのみならず、女性にも信頼してもらい、子供たちを預かる仕事を、生涯を通じて行っていきたい」と述べました。

ヒャーリ・モデルでは、伝統的な遊具・玩具は使わず、想像力をかき立てるオープンエンド型の教材を用いています。また、園児を男女別にしたり、時には男性的なことを女児に、女性的なことを男児にさせるなどのユニークな方法で園児たちの教育にあたっています。

オルフスドッティル氏は「お互いの経験を共有することで、本当の共感が生まれる。ポジティブに交流し、お互いが思いやりを持って接することが大事」だと説き、講演を締めくくりました。

新しいカテゴリを創出するために必要な5つのこと

株式会社ポーラ・オルビス・ホールディングス
グループ研究・薬事センター担当 執行役員
末延 則子 氏

次に末延則子氏が登壇しました。同氏は、シワを改善する日本初の薬用化粧品「リンクルショット」の開発責任者です。商品化に至るまでには15年という歳月を要し、その道のりは平たんなものではありませんでした。講演では、その開発ストーリーを紹介しながら、革新的なオルタナティブが生み出されるための方法論を説明しました。

一般的に化粧品の開発期間は約3年とされており、15年という期間は非常に長いと言えます。リンクルショットは、申請まで7年、承認を得るまで8年かかっています。末延氏は、「15年にわたる開発の中で3つの壁があった」と振り返ります。

1つ目の壁が、シワの根本原因を解明することでした。同氏の研究グループでは、今までの他社で報告している内容でなく、きちんと自分たちの目で確かめたいと考え、シワの原因となる酵素を突き止めることに成功しました。その結果を踏まえて、約5400種類の素材の中から、酵素の働きを阻害する素材「ニールワン」を発見することができました。

2つ目の壁が、製品化するための壁です。ニールワンは水には溶かすと分解されやすく、その状態では医薬部外品として消費者に提供することは非常に難しいものでした。プロジェクトを諦めかけた時、研究グループの1人が今まで考えつかなかった画期的な方法を発案し、「そこからブレークスルーが始まって申請まで順調に進むことができた」と当時を振り返ります。

3つ目の壁が、行政からの承認が得られないという壁でした。2013年に化粧品・薬用化粧品の安全性が大きく問われる状況が起こり、行政による申請業務が滞ってしまったのです。研究グループでは、通常の化粧品では行わない規模で長期間、安全性試験を何度も実施し、その結果、2016年7月に承認を得ることができました。

このプロジェクトを通して、末延氏は「新しいカテゴリを創出するために必要な5つの項目」を紹介し、講演を終えました。

  • 今見えないものを見る
  • 常に前へ進むことを考える
  • 粘り強くあきらめない
  • 仲間を増やす努力をする
  • 市場で良い競争相手を持つ

失敗のない生き方とは?

一般社団法人 Women Help Women 代表理事
西田 治子 氏

続いて西田治子氏が登壇しました。西田氏は、トポス会議発起人である野中郁次郎先生との出会いから「善き生を生きること」を強く意識することになり、現在のような実践者の道を進むようになったといいます。講演で西田氏は、「失敗のない生き方」について話をしました。

コンサルティング会社で北アジア地域のリサーチの統括を任されるなど活躍していた西田氏は、「大きな企業をより大きくすることは、社会にとって本当にいいのだろうか。私にとって善く生きるとは何かと考えるようになりました。自分にとっての"善く生きる"ということは、『今よりもより善い社会とは何か?』を探求することであり、それこそがオルタナティブだと思っています」と振り返ります。

西田氏が望む社会とは、「老若男女が皆で生きていく共生社会」です。その実現に向けて役立つことをしたいと考え、行動を開始。「Women Help Women」というプロジェクトに取り組みます。

このプロジェクトは、女性が身の回りの手仕事を通じて新しい経済的な価値を創出し、よりよい社会作りに貢献できる仕組みを構築するというものです。具体的には、東日本大震災の被災地域の女性が、代々受け継がれた大事な着物を新しく再生(アップサイクル)する仕事で起業するなど、経済的自立を目指しながら、日本の伝統的に引き継がれていた文化を世界に発信してもらうという試みです。

西田氏は、公益財団法人パブリックリソース財団との協働で「あい基金」を設立しています。あい基金は、女性が自立し、地域のコミュニティを巻き込んで、伝統のリソースを守りながら新しい価値を創造・生活していくための基金です。

また、西田氏は「身の丈の経済としてのシビック・エコノミーを確立していきたい」と述べました。シビック・エコノミーとは、小商いや手仕事を通して、地域の小さな経済やコミュニティを活性化して共生できるようにする手法です。具体的には、ブロックチェーンという新しい技術、シェアリングエコノミーという新しいモデルを用いた経済循環のしくみを確立し、分散型の地域エネルギーを活用して自分たちで自立することができればと目標を掲げました。

最後に西田氏は、エジソンの「私は失敗したことがない。ただ、上手くいかない1万通りの方法を発見したのだ」という言葉をなぞり、「課題が解決できるまで、これからもずっとうまくいかない方法を発見し続けていくと思う」と語り、自身の講演を終えました。

勇気を持って行動することが大事

セッションの最後に、登壇者各々が聴衆に対して伝えたいことをコメントしました。
「すべては共感する心、社会における愛の話。お互いにいかに手を差し伸べるかということが大事」(オルフスドッティル氏)
「新しいことをやるためには、熱望するほど想像してみる。そのゴールに至るまでのストーリーをなるべく緻密に描いてみる。そして仲間を増やすことが重要」(末延氏)
「一番大事なのは、心の中に火をつけること。実行したいと考えたことを実際に行動に移して、解決に至るまで、何回も試行錯誤して、上手くいかない方法を見つけることをためらわないこと。さらに社会をどうふうにしていきたいかと考えることが大事」(西田氏)

トポス2について紺野氏は「オルタナティブな生き方には、モデル作りが必要であり、方法論があること、共通善に基づいて行動することが大事。3人に共通しているのは、勇気を持つことではないでしょうか」と総括しました。