編集部ピックアップ

VR/ARに今、参入する意義―20年後の勝者になるために―

VR(virtual reality)/AR(Augmented Reality)は、パソコン、モバイルに続く「第3のプラットフォーム」として、社会を変えていくことが期待されます。今は市場が開花する前の深い溝(キャズム)にありますが、人の認識を変え行動を変えるなど、VR/ARが提供する新たな「体験価値」の可能性は計り知れないものがあります。富士通総研(FRI)のコンサルタントが、VR/AR市場で勝者になるポイントについて解説します。

執筆者プロフィール
平野 篤(ひらの あつし)
株式会社富士通総研
コンサルティング本部
デジタルサービス開発室 室長
2001年富士通コンサルティング事業本部入社。2007年より富士通総研。流通・サービス業向け事業戦略・業務改革コンサルティングを経て、安心安全、環境、海外ビジネスなどの新領域開拓や多くの国家プロジェクト等に従事し、現職に至る。

※この記事は、富士通総研発行の情報誌「知創の杜 2018 Vol.2」P29~34に掲載されたものです。
※執筆者の部署・役職と記載内容は、掲載当時のものです。

VR/ARは、パソコン、モバイルに続く「第3のプラットフォーム」

VR(Virtual Reality)は「仮想現実」。AR(Augmented Reality)は「拡張現実」。VR/ARと聞いて、皆さんは何を想像するでしょうか。「プレイステーションやポケモンGOなどのゲーム、ディズニーランドやジョイポリスなどのアミューズメント。それにバーチャル旅行やマンションの内見、ものづくりのデザイン、手術のシミュレーションでも使われ出したらしいね。」およそイメージがそれくらいの方も多いのではないでしょうか。

VR/ARは、エンターテインメント(エンタメ)だけのものではありません。「バーチャルなんとか」にとどまるものでもありません。パソコン、モバイルに続く「第3のプラットフォーム」として、社会を変えていくことが期待される技術・サービスです。パソコンで動いていたアプリケーションは次々にスマートフォンに移植されました。スマートフォンでしかできないこと、新たな価値(嬉しさ)も多く生まれました。同じことが、次はVR/ARに対して起こります。ザッカーバーグは盛んに「VR/ARが次のソーシャル・プラットフォームになる」と主張しています。多くの識者が言うように、生活やビジネスのあらゆる場面にVR/ARが欠かせない時代がやってきます。以下、具体的にイメージしてみましょう。

「歩きVR/AR」 は当たり前の世界に

あなたはVR/ARメガネあるいはコンタクトをつけて、普通に道を歩いています。もはやスマートフォンは手にしていません。目に映る現実の風景の中に、右のビルはこういう施設、左の店はこんなキャンペーン中、空を見上げると今後12時間の天気はこうなる、そうした説明が浮かんで見えます。この先にコンビニがある、次に来る電車は混んでいる、という情報も空間に表示されます。行きたい場所を呟くと、今ここを曲がれ、と方向矢印が空間に現れます。道行く人、隣の席の人、名前やプロフィールが見たければ、その人にぶら下がります。「あ、信号待ちのあの人は、大学の後輩」「そのファッションに『いいね!』してみようか」欲しい情報(プル型)、ないし誰かが見せたい情報(プッシュ型)が、目の前に次々と現れます。

「そうだ、ここにいないあの人たちと話そう」そう思うと、1人で座った喫茶店の前の席に、ロンドンと北京にいる2人が登場し、「対面」しての会話になります。思い立ったら、深海や宇宙を一緒に「旅する」こともできます。身体のユビキタス。そんな超現実な世界。

「歩きスマホ」は危険ですが、「歩きVR/AR」 は、当たり前。そういう日常が、それほど遠くない将来にやって来ます。ビジネスシーンも同じ。会議、プレゼンテーション、メール、スカイプなどのコミュニケーション。あるいは企画、調達、製造、販売などの業務。ご自身のビジネスシーンがVR/ARでどう変わるか、上記を例としつつ、ぜひ想像してみていただきたいと思います。

VR/ARは豊穣の「未開拓」市場、日本企業の打ち手は?

お気づきのように、上記のようなシーンを実現するVR/ARは、IoTを通じてAIとつながっています。ビッグデータが支えています。アフェクティブ・コンピューティングがベースになっています。ブロックチェーンが守っている。そのように、今注目されている新たな技術群は、「第3のプラットフォーム」であるVR/ARを出口として、私たちの眼前に顕在化・効力化します。それを見越して、Facebook、Google、Microsoft、Apple、等々、軒並みVR/AR市場に参入し、投資を続けています。皆が次の時代の主導権を狙っていることが、こんなにも分かりやすい「未開拓」市場。さて日本企業(特に投資力のある大手)の打ち手は、どうなのでしょうか。

ゴールドマンサックスは、2025年にVR/AR市場が950億ドル(約11兆円)規模になるとの推計を出しています。その内訳を見ると、エンタメ系が75%、それ以外は産業系として、医療、ものづくり、小売、教育、観光などの業務系分野となっています。3D空間に没入してのシミュレーション、ナビゲーション、疑似体験などが、エンタメを超えた様々な用途に拡大するであろうと見ています。

2025年という、あと10年以内のスパンなら、その程度の市場規模かもしれません。しかし20年先、エンタメ系75%の要素、つまりゲーム、動画、ライブ配信などは日常に浸透し、今でいうエンタメの狭いジャンルにはとどまらないでしょう。それを思えば、11兆円は、ほんの序の口でしかないはずです。

キャズム(市場の溝)を超えるために必要なのは「儲かる手応え」
VR/AR市場の勃興は中長期的には必然と見たとして、問題は「キャズムの見極め」です。キャズムとは、イノベーティブな商品・サービスが、初めにもてはやされてからその後広く普及するまでに来る、深い市場の「溝」のことです。

日本のVR/ARプレーヤーの現状は、まさに「キャズムに耐える日々」でしょう。2017年10月に東京で開催されたJapanVRサミットのセッション「グローバルVR/AR・12兆円市場へのロードマップ」での第1テーマは、「VR市場はなぜ加速しないのか」でした。日本を代表するVR/AR論者たちの結論を一言で言えば、まだ儲かると思えないから。騒がれる割には、なかなか儲からない。だから投資をやめる。業界では、2016年は「VR元年」と言われ、ゲームなどのエンタメ「以外」の領域への適用が大きく進むことが期待されました。しかし市場は開花せず、撤退企業も相次ぎました。

キャズムを超える処方箋は、「儲かる手応え」しかありません。VR/ARならではの新しい、ワクワクするようなサービスの創造(企画開発)と実装(サービスイン)です。特に、エンタメに閉じない生活領域やビジネス領域等での適用事例。VR/ARによって、便利になる、楽しくなる、質が上がる、効率化する、そうした新しいサービスを、小さい取り組みでも具体的に打ち出して、やってみて、成果を生むこと。それがカギであり、そのサービスアイデアと、それを実現する技術(とコスト優位)をセットで持てたものからキャズムを超え、市場を取っていくことになります。

視覚データに着目し、人の認識と行動を変える

そうはいっても、新サービスの企画開発は容易なことではありません。ここでは1つのヒントとして、サービス企画をそのシーンからイメージするのではなく、取得できるデータ起点で考えることを提示したいと思います。
ほかのすべてのコンピューティングと同様、VR/ARでもデータが取れる、溜まる。であれば、分析、評価、フィードバックのサイクルが回せる。では、VR/ARで取れるデータの特性は何でしょうか?

VR/ARは、視覚からリアリティを持って脳に直接訴える技術であり、その反応をデータでトレースすることが可能である点に着目したいと思います。何をどう見たか、つまり視線・視点はどう回遊したか、何をどれくらい凝視したか、視野に入ったものでも注目されなかったものは何かなど、人が視覚から得たものに対する反応が、現実世界と同じ3次元データで捕捉できるのです。

それを活かせば、より認識度・理解度の高い表示や見せ方の検討および改善のフィードバックを回すことができます。動きや所作、あるいは形状や様子などを、伝える、把握する、真似る、ガイドする、ヒントを出す、変えてみせる、など人への働きかけにVR/ARは極めて有効な道具です。視覚は、人の認識の8割のインプット、と言われますが、そうした働きかけを行い、その反応をデータでトレースし分析することで、人の認識を捉えるだけでなく、その認識を変え、行動を変えることにまでつなげられるはずです。センサーなどの様々なログとも組み合わせ、その効果を一層高めることも当然期待できます。

例えば、昨年ウォルマートがVRを店員教育に取り入れたことが話題となりました。接客や陳列等の業務をVRの仮想売場で学ばせるということだが、単に3次元の業務体験によって能力開発の効率・効果を高めるだけに、狙いはとどまらないでしょう。

つまり、視覚からの様々なインプットで、店員がどう認識するか、どう行動を変化させるかという知見・ノウハウを、トレースしたデータの分析から溜めることができます。それは店員だけでなく、顧客に向けても応用が利きます。店員あるいは顧客を対象として、人の認識を変え行動変化を促す。そのためにVR/ARを使い、取得した3次元の視覚データ(および、その影響を受ける認識や行動データ)を分析・活用して、さらにその効力を高める。店員の能力開発はもとより、サービス向上、店舗作り高質化、購買行動変革、告知効果向上など、多様な効果を意図するものと想定されます。

データ活用は、ウォルマートのお家芸と言えます。より売り(買い)やすく魅力の高い店舗(売場・棚・客導線など)やサービスの設計、その効果の測定、さらにフィードバックによる継続改善など、実用への期待が高まります。

さてVR/AR側から見ると、視覚だけでなく聴覚(音を伝える)、そしてハプティクスと呼ばれる触覚技術(力・動き・振動・手触りなどを伝える)との融合も進みつつあります。近い将来、さらに味覚、嗅覚も含めた人間の五感すべてがVR/ARの対象となります。これらから得られるデータの活用可能性も吟味して、新サービスが検討され始めています。

VR/ARの真骨頂は、「新たなリアル」の創造

パソコンは「手軽に」、携帯は「どこでも」、スマートフォンは「つながる」という新たな価値を作りました。VR/ARが提供するのは「体験」という価値です。いま世に出始めている新サービスは、例えば仮想の危険体験による安全教育・訓練、バーチャル店舗回遊、作業・運転シミュレーションなど、すべて体験型のものです。

ところで、上記のような「今そこにある」リアルの疑似・置き換えではなく、全く新しい体験価値(新たなリアル)の創造こそ、VR/ARの真骨頂ではないか、と筆者は考えます。視覚をはじめとする五感から直接脳に働きかけるVR/ARだからこそ得られる、今のバーチャルとリアルの垣根を超えるような、まだ見ぬ体験価値。その創造にチャレンジし、豊かで驚きのある未来を描きたいと思います。

まだ「勝者」のいないVR/AR市場。チャンスは誰にでもあります。それを信じて、本気で、継続して取り組んでいくことがカギであると言えます。

知創の杜
あしたを創るキーワード
VR/ARに今、参入する意義─ 20年後の勝者になるために─

当記事の詳細をPDFでご覧いただけます。

コンサルタントやエコノミストの知見・ノウハウをご紹介する情報誌「知創の杜」 はこちら