シンギュラリティの先にある未来~デジタルアニーラが不可能を可能にする~

企業の中に蓄積された膨大なデータを、AIの力を活用して分析し、ビジネスを革新するヒントを得たい──。
誰もがそう考える時代になりました。例えば、2020年には世界中で約500億個ものデバイスがインターネットでつながると言われるIoT。デバイスの稼働状況をリアルタイムに把握することで、生産効率の改善や需要予測、あるいは事故や故障の未然防止を図ることができます。しかし、ビッグデータ分析のためには、膨大な計算が必要で、全てを解くには時間がかかりすぎるという現状があります。人類の文明に計り知れない変化をもたらす「シンギュラリティ=技術的特異点」の時代に向け、富士通の「デジタルアニーラ」をコアにした2018年の新たなビジネス戦略をご紹介します。

解決困難とされた問題を瞬時に解く新アーキテクチャコンピュータ

インターネットやIoTなどビジネスのデジタル革新が進むことで、膨大なデータが収集できるようになる一方で、投資ポートフォリオ、物流最適化、地球環境問題など、実社会の問題はさらに複雑な要素を含むようになっています。膨大で複雑なデータから最適解を迅速に求めるためには、従来の技術では不十分であり、それを実現する新しいコンピューティング技術の出現が望まれています。その道を開く有力候補の1つが「量子コンピューティング技術」です。
富士通は、量子現象に着想を得てデジタル回路を設計。全く新しいコンピュータ「デジタルアニーラ」を開発しました。

新アーキテクチャコンピュータの開発

「組合せ最適化問題」を瞬時に解く

デジタルアニーラが得意なのは、「組合せ最適化問題」において解を高速に導くことです。例えば、ある都市を出発したセールスマンが全ての都市を巡回して戻って来る時、移動距離が最小になるように巡回の最適な順番を決める「巡回セールスマン問題」は、組合せ最適化問題の代表例とされています。セールスマンの訪問する都市を30とすると、その組合せ数は0が33個並ぶほどの組合せ数になります。しかし、これをデジタルアニーラでは、わずか1秒以内で解くことができます。

すでにデジタルアニーラは、製造現場の作業効率改善にも使われています。富士通グループのコンピュータ製造の基幹工場である富士通ITプロダクツにおいて、デジタルアニーラを倉庫部品のピッキング作業に適用したところ、作業者の月当たりの移動距離を20%以上短縮させることができました。

このように、デジタルアニーラは量子コンピュータの実用化を何年も待つことなく今すぐ使える、現時点で最も実用性のあるコンピュータと言えます。

1QBit社、トロント大学と戦略的パートナーシップを締結

いかに新発想のハードウェアを作っても、それに最適化されたソフトウェアやアプリケーションがなければ、コンピュータの性能を十分に引き出すことができません。富士通はデジタルアニーラを世に送り出すにあたって、カナダの1QBit社(1QB Information Technologies Inc.)との戦略的パートナーシップを締結し、グローバルビジネスも見据えた国際連携を推進。これがデジタルアニーラ実用化への大きな転機になりました。デジタルアニーラは、1QBit社によって「これまで当社が進めてきた量子コンピューティング技術の研究内容を本当に活用できる初のハードウェア」として評価されています。

グローバルな知の連携で、世界標準を目指す

富士通研究所とトロント大学は、両者が開発したデジタルアニーラ技術を発展させ、実社会の課題解決に幅広く適応できる規模と機能を拡張するため、戦略的パートナーシップを締結。2018 年3月には、富士通研究所がトロント大学内に先端的な研究成果を実証するための新たなラボ(注)を設立しました。ここで今後取り組まれる予定の研究には、がん放射線治療における放射線量の最適化があります。がん組織を攻撃する十分な放射線量をデジタルアニーラで瞬時に計算することで、高い治療効果を上げつつ、患者の負担を軽減できるようになります。

最適解のために必要な"解法"を発見

デジタルアニーラの実際のビジネス活用で重要なのは、お客様の事業課題の中から、組合せ最適化問題として解けるものがどこにあるのかを理解することです。富士通には長年、お客様と密接に協働してソリューションを開発してきた歴史があますが、これまで以上にお客様の業務内容を理解し、そこで使われる専門用語に精通しなくてはなりません。ビジネス上にあるデータの意味を的確に捉え、最適解を導くために数式に落とし込むという、高度なコンサルティング能力が必要になります。量子コンピューティングの時代における新たなコンサルティング能力の獲得は、富士通にとって大きなチャレンジです。

  • (注)Fujitsu Co-Creation Research Laboratory at the University of Toronto
組合せ最適化問題の例

デジタルアニーラの事業展開に向けて

デジタルアニーラは量子コンピュータの未来をぐっと現実に引き寄せる技術です。しかし、ビジネス活用ではまだまだ未知のことが少なくありません。そのため、デジタルアニーラの事業展開ではまず、PoC(Proof of Concept:概念実証)が重要になります。お客様と共に新しいプロジェクトを始める前に、戦略仮説やコンセプトの実効性を検証するフェーズです。

デジタルアニーラ、HPC、ディープラーニングを組み合わせ、さらなる発展へ

量子コンピューティング技術領域における新しいアーキテクチャで実現されたデジタルアニーラ。その活用にあたっては、ただ圧倒的なハードウェア性能を単体として提供するだけでは不十分です。富士通はオープン・イノベーションによって、デジタルアニーラを取り巻くグローバルなエコシステムを形成し、豊富なソフトウェアやアプリケーション群を創出することを目指します。
さらに、デジタルアニーラをディープラーニング、HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)など富士通の強みと言うべきテクノロジーと効果的に組み合わせることも重要な課題です。
デジタルアニーラは決して、家庭や職場に置かれるコンピュータではありません。しかし、ネットショッピングをしていたら、不思議と自分の好みにぴったりの商品広告が表示されたり、気候変動予測の精度が高まってより効果的な温暖化対策が示されたり、がんや認知症の特効薬が開発されたりする未来は、私たちにとって身近なものです。そうした歴史を変えるような技術革新の裏側で、黙々と最適化問題を解く──そんな未来はすぐそこかもしれません。

お客様との共創でつくるデジタルアニーラ事業

デジタルアニーラが富士通研究所で誕生した時、その価値は未知数でした。しかし米国で概要を発表すると、数多くの企業が関心を示し、その1つが1QBit社でした。富士通のハードウェア技術と、トロント大学や1QBit社の知見が一体となることで、デジタルアニーラはビジネス課題解決に最も近い量子コンピューティング技術として市場にテークオフしていきます。

これからはお客様の課題解決に役立つためのノウハウを積み上げ、デジタルアニーラでしか解けないソリューション領域を中心に、事例を広めていきます。お客様のビジネス課題をアルゴリズム開発レベルまで深く共有できるコンサルテーション能力も求められています。同時に、富士通が持つディープラーニング技術やHPC技術にデジタルアニーラを組み合わせ、ソリューションの幅をより広いものにしていく必要もあります。
富士通にとっても未知の領域へのチャレンジですが、大切なことはお客様との共創です。デジタル革新の波があらゆる業種に訪れる今、お客様と共にビジネスの未来を切り拓いていきたいと考えています。

吉澤 尚子
富士通株式会社
執行役員常務
デジタルサービス部門副部門長