伝統・制度・思想に対する代替の道とは? オルタナティブ創造社会への挑戦

2018年5月31日、「第12回トポス会議」が六本木ヒルズ森タワーのアカデミーヒルズで開催されました。今回は、社会への満足度と幸福度を高める「オルタナティブ創造社会への挑戦」をテーマに掲げ、オルタナティブが大量に創造される社会のダイナミズムについて議論が交わされました。

トポス会議とは、産業人や研究者らを集め、世界的な課題を学際的に議論する会議体で、研究組織「ワールド・ワイズ・ウェブ・イニシアティブ」(w3i)が主催するものです。トポスとは、ギリシャ語で「場」を意味します。今回は会議を3つのトポス(セッション)に分け、

  • トポス1:オルタナティブな社会
  • トポス2:オルタナティブな生き方
  • トポス3:オルタナティブな企業

をテーマに行われました。

[モデレータ]
多摩大学大学院 教授
紺野 登 氏

会議の冒頭、トポス会議の発起人でありモデレータを務める多摩大学の紺野登氏が今回の会議の趣旨を説明しました。今回のテーマとなるオルタナティブとは「伝統や確立された制度や思考に対する選択肢、代替の道」のことです。

紺野氏は、「"A or B""右か左か"という二項対立ではなく、そこに第3の選択肢を生み出すというイメージを持ち、今まで周縁部にあったものが次のマジョリティを創造する時代になり、そこにどう踏み込めばいいのかがこの会議の大きなテーマである」と語りました。

紺野氏は一般社団法人Future Center Alliance Japan(FCAJ)による調査を紹介しました。この調査では、自分の日常には過半数がそれなりに満足しつつも、「日本の社会に満足していない」と回答した人は76%に上った(満足は1.7%)とのこと。

「このような状況では、全体主義が蔓延してもおかしくない。世界中で政治、経済、企業に対する不信感がある」と現状を指摘し、「オルタナティブな思考が広がるほど、変革や進歩が加速され、同時に多様性や寛容性が高まる」という仮説を基に議論を進めると説明しました。

トポス1「オルタナティブな社会」

最初のトポス1では「オルタナティブな社会」をテーマに、栗本拓幸氏(一般社団法人生徒会活動支援協会 常任理事)、オードリー・タン氏(台湾デジタル担当大臣)、馬場靖雄氏(大東文化大学 社会学部 教授)が登壇しました。

オルタナティブな政治プラットフォームを目指して

最初に、ウッフェ・エルベック氏(デンマーク オルタナティブ党 党首)のビデオメッセージが流され、デンマークで2013年に設立されたオルタナティブ党の活動が紹介されました。
エルベック氏は、デンマークで新しい政治活動をするに至った背景について「デンマークが直面する3つの大きな課題が地球規模のものであったからだ」と語ります。

1つ目が「気候危機」です。同氏は「気候危機は、私たちが社会をどのように理解するのか、私たち自身、そして私たちが暮らす経済システムをどのように組織するのかを全面的に見直さなければならない問題だ」と説明しました。

2つ目が「共感危機」です。「現在の世界は共感の欠如、他者を理解するという能力が低下してしまっている。特に若い人たちに顕著で、知能や技能、他社を理解したり他者の見解を受け入れたりする力が弱まっている。これはデンマークに限ったことではなく、世界的に起こっている一般的な問題だ」と述べました。

3つ目は「システム危機」です。エルベック氏によると、社会は「民間部門」「公的部門」「NGO」の3つの柱の上で成り立っていると考えており、同国を含めた欧州諸国が今直面している問題は、それぞれが個別に取り組んでも解決できないとのこと。そのため、「私たちはこれらの問題に取り組む"ハイブリッド・ソリューション"を開発する必要がある」という見解を示しました。

また、エルベック氏は、「オルタナティブ党では単なる一つの政党というよりも、新しい政治的プラットフォームになることを目標として活動していく」と説明しました。今後は、このプラットフォーム上に、新しい政治メディアや新しい教育機関、新しいシンクタンクなどを創出できるように努めるとのことです。

若者の政治参加を促進する活動を実践

一般社団法人生徒会活動支援協会 常任理事
栗本 拓幸 氏

次に、栗本拓幸氏が「若者の政治参加」に関する自身の経験と実践について披露しました。現役大学生である栗本氏は、現在、「若者の政治・社会参加の推進」「国際交流の促進」「主権者教育の発展」などをテーマに活動を行っています。内閣府の「子供・若者白書」では、34歳までが若者と定義されており、そうした年代にある若者の政治参加が特に低水準に留まっている現状への問題提起を行いました。

同氏は「今ある社会制度が今後いつまで続くか分からない。本来はメインで考えなければいけない世代の政治参加の度合いが低いのは問題ではないだろうか。私自身が活動する中で重視していることは、様々な政治的、社会的な議論や決定の場に若者がどうやって影響を与えうるか、そういった場をどうやって創出できるかだ」と語りました。

栗本氏が現在注力しているのは「政策決定過程への若者の参画の促進」「終わりのない主権者教育」の2つのテーマです。

「国会や地方議会では、高齢の議員は多いものの若手の議員は少ない。世代間のバランスを考えると必ずしも正常とは言えない状況。年齢の幅をより一層広げることで、より健全なものになると考えている」(栗本氏)

2016年5月には公職選挙法が改正され、18歳選挙権が始まりました。総務省と文部科学省は高等学校における主権者教育(いわゆる選挙教育)を始めています。栗本氏は「選挙の際にどう判断して投票するかという段階に留まっていて、自分自身が社会にどう影響を与え、どう社会に対して意見を表明、行動するかという部分についてはあまり触れられていない」と指摘します。

栗本氏は現在、若者の政治参画に関する活動として、様々な文献や諸外国の先進事例の研究を行っています。2018年2月にはスウェーデンやエストニアにおいて、現地の若者がいかに社会に影響を与えているかヒアリングや調査を行っています。

また、発信活動に関しては、国政や地方などの様々なレベルで議員に対する提言、率直な意見交換を行っています。同時に様々な媒体において若者の政治参加への現状やモデル構想を発信しています。

オープンコミュニティを通して価値観を共有する

台湾デジタル担当大臣
オードリー・タン氏

次に、オードリー・タン氏が、市民を巻き込んだイノベーションの在り方について台湾の現状を紹介しました。タン氏は、19歳の時にシリコンバレーで起業したシビックハッカーであり、スーパープログラマーとして知られています。

2016年、現政権(蔡英文大統領)の政務員に任命され、市民社会のためのオープンデータ活用ツールの作成に焦点を当てた、非営利部門「g0v(gov-zero)」の活動に積極的に貢献。「Fork the government(政治をフォーク)」を合言葉に活気あふれるコミュニティで活躍しています。

タン氏がデジタル担当大臣に就任してから、台湾では政府の内部ミーティングの発言内容全てが文書化されています。「公務員の業務としては大きな革新となった。公務員は上手くいけば政治家の手柄となり、上手くいかなければその人のせいとなるので誰もやりたがらなくなる。誰が発案したのかがWeb上で分かるような透明性をもたらしたことで、とても良いアイデアが生まれている」(タン氏)

また、タン氏は「インターネットがあるからこそ、多くの人と共鳴できる。価値観が同じ人たちが共感し、その共通項を持った人たちの意見を集約できる。こうした世界においては、ソーシャルメディアのようなこれまでとは異なる破壊的な技術によって国民の意思が分かるようになった」とそのメリットを語ります。

タン氏が掲げるゴールとは、単に1つや2つのゴールだけではなく、特にSDGs(持続可能な開発目標)の解決にあります。同氏は「国内セクター間や国同士の垣根を超えたパートナーシップで解決する。こういうした関係性を重視している」と述べました。

タン氏によると、これはまさに二項対立から二項同体へという動きでもあるといいます。「"Internet of Things"ではなく"Internet of Beings"として人間間のインターネットという存在になりたい。また、"ユーザーエクスペリエンス"を"ヒューマンエクスペリエンス"に変えていきたい。シンギュラリティが近づいてくるとき、そこには必ず多様性が存在することを思い出してください」と述べ、講演を締めくくりました。

タン氏の講演を受けて、紺野氏は「デジタル化の波はすごい。日本の場合はヒューマン、デジタルのバランスに偏りがある。タンさんの話は、オープンソースソフトウェアの考え方をそのまま政治にも適用した事例だと言えます」とコメントしました。

失敗は存在しない

大東文化大学
社会学部 教授
馬場 靖雄 氏

続いて、馬場靖雄氏がオルタナティブの重要性を主張したドイツの社会学者であるニクラス・ルーマンの理論について解説しました。

馬場氏は、今の世界や社会が非常に急激に変化しつつあるという認識は共通であると述べ、少子高齢化、テロとゲリラ戦の蔓延、地球環境問題の深刻化など個々の問題が深刻化するとともに、相乗効果によって「人類の状態そのものが限界点に達して大きく変化を迎える」という想いが多くの人にあるとの見解を示しました。また、その予感を表現するために用いられるのが、オルタナティブであると説明しました。

ルーマンは、生物学者であるルートヴィヒ・フォン・ベルタランフィが提唱した「一般システム理論」をさらに発展させようとした学者として知られています。

一般システム理論の主な論点は「閉鎖系から開放系へ」という発想です。「これまではシステムの内的秩序だけを考えれば良かったが、今後は環境との交流の中でのシステムの絶えざる変容を考慮しなければ、特に社会システムを正しく捉えることはできなくなりつつある」というのが同理論の論点の1つでした。

それに対して、ルーマンは政治、経済、法、芸術などの各機能システムを自分自身の再生産(オートポイエーシス)によって閉ざされたシステムとして把握することを提唱しています。馬場氏は「システムは常に環境を考慮しなければならないものの、その環境はそれぞれのシステム自身が構成したものに過ぎず、システムの内的論理によってあらかじめ型にはめ込まれてしまい、フィルターにかけられている」と指摘します。したがって通常考慮される「環境」のさらにその「外側」に位置する出来事といかに遭遇しうるかが、我々にとっての課題となる、と。

最後に馬場氏は、筒井康隆の短編小説「最悪の接触(ワースト・コンタクト)」のエピソードを紹介。この小説には、全く理解できない行動を取る異星人ケララが登場します。ケララと一緒に暮らすことになった主人公は、ケララの言動に困惑します。

馬場氏によると、ケララを理解するためには「ケララは訳の分からないことをする奴だ」と考え、私たちの理解は常に失敗する、それが正しい理解だと認識すればとりあえずは良いように思われる。しかしこの「処置」によってケララの言動は我々の既存の常識というフィルターにかけられてしまいます。「失敗こそが成功の鍵」についても同様です。この語は、失敗を無害化し、失敗が孕む真の破壊力=創造性から我々の目を逸らせてしまうマジック・ワードに他なりません」と聴衆に疑問を投げかけ、講演を締めくくりました。

社会を構成する第3の脚「プルーラル・セクター」

次に、ヘンリー・ミンツバーグ氏(マギル大学 教授)のビデオメッセージが紹介されました。同氏は「プルーラル・セクター」と呼ばれる新しい社会の枠組みのコンセプトを提唱しています。プルーラル(plural)とは「複合的」という意味を持ちますが、ここではNPOやコミュニティなどを指しています。

ミンツバーグ氏によると、西洋では200年間にも渡って「振り子政治」という問題を抱えています。それは左右に揺れる不安定なもので、現在は真ん中で身動きが取れない「マヒ状態の政治」に見えるそうです。「私たちに必要なものは、直線状の両端にある左と右、政府と市場、パブリック・センター(公的部門)とプライベート・セクター(民間部門)という線形の区分ではない」と同氏は説きます。

また同氏は「パブリック、プライベート、プルーラルという円形の軌道が求められる。社会には3本の脚が必要で、私は第3の脚こそがプルーラル・セクターだと考えている」と説明しました。

さらに、プルーラル・セクターが変化を推進するためにはより一層目立った存在になる必要があり、3つのセクターが平和にバランスを取りながら協力し合う所まで到達する必要があるとの見解を示しました。

近年、ミンツバーグ氏は、組織の4つの基本種を調べる研究を進めていて、それらを「プログラム化した組織」「個人的組織」「専門家集団」、「アドホクラシー」と呼んでいます。アドホクラシーとは「その時々の状況に応じて柔軟に対処する姿勢や体制」を指します。

プルーラル・セクターについて話がなされるとき、大抵は「プロジェクト」「イニシアティブ」についての議論がなされます。それらは変化を推進するもので、デモ行進だろうとグリンピースのプログラムだろうと同様な役割を担い、その多くがプロジェクトです。

ミンツバーグ氏によると「プロジェクトはアドホクラシー。言い換えれば、機械的組織がやるような大量生産や大量サービスではなく、個人による生産活動です。そのため、アドホクラシーとプロジェクト組織との間には連携がある。官僚主義や機械やプログラム化された組織とは対照的なものです」と説明しました。

オルタナティブな社会を実現するためには

セッションの終盤では、登壇者によるフリートークがなされました。

「プルーラル・セクターの存在意義は、日本の社会では認知されていない。しかし、社会的にそういった存在に対するニーズはあるし、存在する必要性がある」(栗本氏)

「失敗という言葉の定義については、個人的な失敗であるという概念はシリコンバレーにはない。むしろ、チャンスだと捉えられている」(タン氏)

「"我々はいかにして失敗と遭遇しうるか"を考えねばならない。複雑化し流動化した現代社会では、どんな企てにおいても失敗は必然的に生じるし、また必要でもある。しかし同時に、失敗することを良しとしてはならない。目指された失敗は、もはや失敗ではなくなっているからである」(馬場氏)

これらのコメントを受け、紺野氏は「これがオルタナティブだと決めつけるのではなく、このトポスではオルタナティブに関して各個人がどう捉えるかについて考える機会となればいい」と語り、トポス1を締めくくりました。