企業が消費者の暮らしを豊かにするAIを開発するための4大原則

2018の6月にGoogle CEOのサンダー・ピチャイ氏は、同社のAI研究のための素晴らしい指針を、一連のAI原則として発表しました。少なくともこの発表が行われた理由の一端は、米国防総省の軍事プロジェクトである「プロジェクト・メイベン」への関与をめぐって物議を醸したGoogleの行動、および、同社に対してより重い説明責任を求める声がAI業界全体から上がっていることにあるでしょう。しかし、いずれにしてもピチャイ氏がAI原則の中で挙げた7つのポイントは、それぞれが、幅広いAI技術に取り組む他の企業にとっても、優れた判断の拠り所となるはずです。

では、個人に対するAIの直接的な影響についてはどうでしょうか? つまり、個々の人に応じてカスタマイズされたAIは、その人自身と行動にどのような変化をもたらすのか、という点です。あえていうなら、それは決して良い影響ばかりではないでしょう。実際、私たちがAIに過度に依存することで、他の人との交流が希薄になり、礼節が失われ、個人のプライバシーが侵害されつつあるとの懸念は、すでに存在しています。だからといって、完全にそうなってしまうのを、手をこまねいて待つ必要はありません。引き続き多くの企業が、業界および消費者向けのAI技術に取り組むなかで、個人に対するAIのメリットを最大化するための原則を確立することは、開発者や研究者たちの義務であるとも言えるのです。そこで、個人に対するAIの原則を4つに集約して紹介することにしました。

1. AIによってより強固な人とのつながりを形成できること

まず、最も対象範囲の広い原則から見てみましょう。最終的にAI技術によって人々が独りで部屋にこもって仮想現実に浸ることや、ロボット執事とだけ過ごすようになる事態は避けなければなりません。この意味で、どのようなAIソリューションであっても、「人々を結び付ける場となるか?」、それとも「自己疎外の手段となる恐れがあるか?」という問いに直面することになりますが、前者の目的に適うものだけが推進されるべきなのです。

たとえば、特定ユーザの服の好みを学習し、その人に代わって買い物をすることのできるAIを開発する場合の重要なポイントについて考えてみましょう。そのAIは、パリでのウィンドウショッピングの楽しみや、子どもを連れて卒業パーティー用のドレスを店まで買いに行くような家族イベントをなくすようなものであってはなりません。むしろ、このような人間的な時間が増やせるように、作業着や学校の制服を買いに行く時間を省けるようにすべきです。時間は、人間にとって最も貴重な資源であるといえます。そのため、人々が友人や家族と過ごしたり、有意義な人とのつながりを形成するような楽しみを得るチャンスがより多く生み出されるようにすることが、理想的なAIの役割なのです。

2. AIはチャンスを増やす存在であること

小売業や製造業はもちろん、人材サービスから株式取引に至るまで、あらゆる業界に属する企業が、AIベースのソフトウェアを利用してさらなる業務の自動化を進めています。事実、2017年にマッキンゼーが発表したレポートによれば、すでに試用を経て実効性が確認されている技術によって、2030年までに現行業務の50%を自動化できることが明らかになっているほどです。労働市場が明白な変化にさらされている中で、私たちがこのような自動化に基づく新たな経済環境を乗り切る方法について取り組まざるをえなくなるのも時間の問題でしょう。これに対する解決法の1つは、来たるべき新世界に役立つスキルを人々が習得できるようなチャンスを、AI開発者自らが作り出すことにあります。

一方で、企業や教育機関は、誰もがテクノロジー寄りの業務に従事するための知識を得られるようなAI関連の学習コースを提供できますし、そうすべきです。また、AI開発者が、AIのアルゴリズムが利用するデータに調整を加えて、ユーザーの得る利益の割合を増やすという解決法もあるでしょう。このような経済モデルは、ジャロン・ラニアー氏が2013年に出版した著書『未来は誰のもの?』の中で提唱したことで知られています。ラニアー氏は、これを「人間主義的情報経済」と呼び、AIがユーザーによって日々生成されるデータに大きく依存することを利用して、スマートフォンやアプリのような製品を使うだけで自分のデータをお金に換えることができるようにすれば実現可能であると考えました。それは、AIによる自動化時代における新たな経済的チャンスをもたらし、ユーザを持続的に支える仕組みとなるはずです。

3. AI開発者は個人データの管理に留意すること

Googleは、そのAI原則の一部として、自社のAI製品にプライバシー保護の設計原則を組み込むことを約束しています。これは、ユーザの個人データを大量に扱う者にとって模範的な基準となるでしょう。データ悪用の可能性に対する人々の懸念が高まるなか、AI開発者は、データの使われ方を個々のユーザーが把握し、制限できるようにするための措置を事前に講じるとともに、データ利用に関する説明を十分に行って同意と許可を求めることに一層留意する必要があります。とはいえ、データの運営管理の徹底や利用記録の実現は一筋縄ではいきません。しかし、幸いなことに近年急速に普及しつつあるブロックチェーン技術が、こうした分野での救済策となることが考えられるでしょう。

ブロックチェーンによる記録は変更や改ざんを行えず、事実上すべてのデータの利用状況を追跡できるため、データの使われ方をユーザーが把握したり制限したりする上で、ブロックチェーン技術の利用を検討する開発者が増えています。その目的は、ユーザーが自分のデータの使われ方をコントロールできるようにし、データを使用するための特定のアクセス許可を与えた企業や組織が、そのデータを第三者に売るような懸念をなくすことです。これは、最近制定されたGDPR法が従来のガバナンス手法によって実現しようとしているものを、新たなテクノロジーの導入によって達成することを意味します。そして、ブロックチェーンにおける統治法にあたるスマートコントラクトを加えることで、AI開発者と個々のデータ提供者との間で合意された規則が確実に履行されているかどうかの確認を自動的に行えるのです。

4. AIによって資源を最大限活用できるようになること

個々の人々に合わせて完全にカスタマイズされたAIが実現され、そのようなAIが人間と同じように見たり、話したり、振る舞うようになる日も遠からず訪れるでしょう。そうであれば、なおさらAI技術の開発者は、こうした新しいタイプのAIをどこでどのように利用すべきかについて熟考し始めるべきです。たとえば、そのようなAIには、世界中の貧しい人々や地域に本当に必要な資源を提供できる可能性を秘めています。医療に目を向けると、米国医科大学協会は、2030年までにアメリカ国内で最大12万人の医師が不足するおそれがあることを最近の報告書で指摘しました。その対応策として、患者の基本的な受け入れ作業や治療の優先順位を決定するトリアージの業務をAIに担当させ、その分の負荷が軽減した人間の医師の専門知識を診断と治療に関するより難しい問題に活かせるようにするといった方法が考えられるでしょう。

ほかにも、その不足が世界中の何百万人という人々に不利益をもたらす職業として、教師が挙げられます。優れた教師の知見を基に、個々の生徒に合わせてカスタマイズされたAIが作成できれば、より多くの子どもたちに最良の教育を提供できるようになるはずです。AI開発者にとって、不足している貴重な人材を補う方法を見つけることは重要であり、それに成功すれば、AIが人間の仕事を奪うものではなく補う存在であると人々に認識してもらえることでしょう。

開発者は、企業や消費者向けのAI技術開発の進め方を決定するうえで、多くの共通指針を参考にすることができます。しかし、私たちの生活のほぼあらゆる場面にAIが浸透しようとしている状況を考えると、個人やその地元のコミュニティに対するその潜在的影響を常に観察し、評価し続けていくことも必要です。技術の進歩は留まる気配を見せません。そのなかで、私たちの暮らしを豊かにするAI、つまり、ますますデジタル化が進む世界でより多くの人々を結び付けられるAIを生み出すための原則を確立することの重要性も、一層高まってきているのです。

本記事の執筆は、VR、AR、MR環境におけるAIベースの会話や歌唱、コンピュータビジョン、自然言語処理の開発を手掛ける企業、オーベンとそのCEO兼共同創設者であるニキル・ジェインが担当しました。

 

この記事はVentureBeat向けにObENとNikhil Jainが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。