今、米国のエリートたちがブロックチェーンスタートアップに乗り換えるワケ

インターネット革命に似たブロックチェーンをめぐる動き

1990年代後半に、インターネットに対する一般的な認識が明らかに変化したときのことを、筆者である私こと、テクノロジー戦略専門家のマイケル・チャンは、今でも鮮明に覚えています。それは、Google、Yahoo、Amazonといった野心的なスタートアップが、社会の在り方を左右する企業へと躍進を遂げつつあった時期と重なり、「コンピュータなどテクノロジーに精通した人々の一時的な流行に過ぎない」と評していた伝統主義者さえも、それが秘めたとてつもない可能性に気付いて、当初の懐疑的な見解を悔やみ始めたころでした。こうした瞬間は一生涯にそう何度も訪れるものではありません。しかし、ブロックチェーンテクノロジーの台頭によって、今、改めてその瞬間が訪れようとしています。

私は、ブロックチェーンの可能性と将来性に早くから気付いていた、数少ない幸運な人間の1人です。自分が従来の金融サービス業界における出世街道を進んでいたとき、それまでは井戸端会議レベルに過ぎなかったブロックチェーンやビットコインをめぐる会話が、経営陣レベルでも行われるようになったのです。

まだ黎明期にあったブロックチェーンと、恐るべき成長の余地を秘めたその応用範囲に気づいた私が、このテクノロジーを専門的に研究しようと決めたのは、まさにこのタイミングでした。そして、私が国際投資銀行ジェフリーズのテクノロジー・インベストメント・バンキング・グループでブロックチェーン補償担当部門を立ち上げ、指揮するようになると、「ブロックチェーンとは何か?」という顧客からの問い合わせが殺到したのです。

ブロックチェーンスタートアップへの転身のドミノ現象

大規模なビジネスにおいて分散化技術の将来性が極めて重要な意味を持ち得ること、そして、幅広いユースケースが取引のあり方を根底から変えることになるだろうとわかるまでに、さほど時間はかかりませんでした。さらに、ブロックチェーンを研究すればするほど、自分が既存のビジネス内でこのテクノロジーを推進したいと思うだけでなく、ブロックチェーンのうねりの中に飛び込んでその動きを大きくしていくことを望んでいるのだとはっきり自覚するようになっていきます。そこで、1990年代後半にインターネットによって多くの人が人生を変えたように、私もこれまでのキャリアにこだわらず、優良企業からブロックチェーンスタートアップへの乗り換えに踏み切ったのでした。

こうした動きは、ウォールストリートの密かなトレンドになっているようですが、近いうちに、今よりもずっと多くのエリートたちが将来有望なブロックチェーンスタートアップへの転身を図ることでしょう。例を挙げれば、まさに先ごろ、クレジットカード大手ビザの国際事業収益の倍増を後押ししたビザUKの前CEO、マーク・オブライエン氏が同社を退職し、暗号通貨バンキングアプリ「クリプタリウム」を指揮すると発表したばかりです。それ以前にも、ゴールドマン・サックスの副社長、クリス・マッタ氏が同行を退職して自身の暗号通貨企業クレセント・クリプト・アセット・マネジメントを立ち上げると発表しましたが、オブライエン氏もその跡を追った形です。さらにこの流れは、世界最大規模の会計事務所デロイトのプリンシパル兼グローバルブロックチェーンリーダーであるエリック・ピシーニ氏にも波及しました。同氏は最近、暗号通貨サプライチェーンのスタートアップ、シチズン・リザーブのCOOに就任するために退職することを発表し、国際社会に衝撃を与えたところです。このようにブロックチェーンへと舵を切る業界専門家は後を絶たず、注目が高まるにしたがって、さまざまな業界の伝統主義者たちもこうしたの動きの背後にある理由を探り始めるようになってきました。

業界専門家がブロックチェーンに惹かれる理由

その理由を知るためには、まず、地域や国家、あるいは国際レベルの規制当局によって行われた、ブロックチェーン関連の直近の措置や発表、動向などを確認するところから始めるとよいでしょう。具体的には、ICOこと暗号通貨による資金調達に関連する動きは要注目です。大半の政府は、ブロックチェーンベースの資産の捉え方が不明確で、証券や財産にはじまり、商品、通貨、あるいはまったく新しいタイプの何かというように判断が分かれています。しかし、ブロックチェーンの応用に積極的な地域の多くは業界リーダーと率直な意見交換を行い、政府の捉え方がどうあれ「イノベーションを妨げずに投資家を一番に守る」というアプローチを採り入れつつあるのです。

もはや問題は、規制当局がブロックチェーンとそのトークンを利用したユースケースの推進を「認めるか否か」ではなく、その導入の推進を「どのような方法で認めるか」へと移っているといえます。この違いは、転身の可否を慎重に見極めようとしている専門家にとって重要なものです。

2018年の3月には、ブロックチェーン規制の進展にとって重要な出来事がありました。それは、ブエノスアイレスで開催されたG20のメンバー国によって、ブロックチェーン技術の方向性を国際社会でいかに調和させるべきかが話し合われたときのことです。包括的な合意には至らなかったものの、「ブロックチェーンは本来相反する傾向にあるセキュリティと透明性を両立させ、商取引を変革する可能性がある」ということに各国の代表が同意したのです。この議題に関する実質的な方針をまとめた報告書は、この先何年にもわたって国際規制の先例となるでしょう。

漸進的な変化を見せる米国

最近では、ブロックチェーンや暗号資産のメインストリームへの応用を受け入れることに表面上沈黙を守ってきた米国でさえ、業界の検証結果を支持して漸進的な変化が見られるようになっています。特に米証券取引委員会(SEC)は、関連する暗号資産が連邦法に従って証券として登録されていることを確認する姿勢をあくまで崩してはいないものの、暗号通貨企業と敵対することはやめ、それらと協調して、価値の変動の安定化やビジネス継続性の向上、法規制に準拠した商習慣の地ならしに取り組むと約束しました。その裏では、業界のトラブルメーカーに対する適切な処置も行われており、その結果、全米各地で訴訟、罰金、投資の返還といったニュースが相次いで大きく報道されていますが、こうした浄化措置はすべて業界の未来にとっての朗報なのです。

さらに、これほど多くの企業幹部がブロックチェーンへと流れる異例の事態が起こっている理由としては、規制執行の成功が見込まれ、法的ガイドラインの妥当性が高まったこと以外にも、財務と技術の両面でチャンスが得られることが挙げられます。ブロックチェーンの爆発的な普及とその低い参入障壁を考えれば、チャンスは単に得られるだけでなく、スピード感を伴ってやって来るのです。

確かに投資銀行家は、従来の経済環境でも快適に過すことができるでしょう。しかし、そのエコシステムがトップ人材を魅了してやまない新しいテクノロジーに対応する経済環境では、はるかに短期間で大きな成功が見込めます。Yahooは10億ドルの市場評価額を突破するまでに3年かかりましたが、暗号通貨のジリカはわずか30日間でその時価総額を3倍に引き上げた後、つい最近、早くも10億ドルの評価額を突破しました。

トップクラスの人材を惹きつけるブロックチェーンの可能性

その数多くの成功事例だけをとってみても、ビジネスに精通した専門家が本職を考え直すのに十分な理由となります。けれども、経営幹部や銀行家がお金のためだけにブロックチェーンを検討していると主張するのは、業界だけでなく、転身を検討している専門家に対してもいささか乱暴な意見だといえるでしょう。ブロックチェーンを利用したソリューションを導入することが何百万人もの人々の生活に良い影響を及ぼすといったように、個人的な成功と社会貢献が両立できることこそ、彼らの決断を促している最大の理由なのです。

私たちは、誰もが本質的には理想主義者だといえます。生まれたときよりも、優れた世界を後世に残そうと努力するのが、人間の性でしょう。サプライチェーンソリューションからデータ所有権の明確化、オンラインセキュリティ対策から財務やIDのプライバシーの向上にいたるまで、ブロックチェーンが世界中の人々にさまざまな問題の解決策をもたらすことは明白です。

また、ここには、個人に対する業界の評価も関係してきます。典型的な銀行家は、高い教育を受け、非常に野心的で能力に秀でており、強い自尊心を持っているものです。転身に成功すれば、「史上初のブロックチェーンを基盤とする株式市場」、「史上初のブロックチェーンとAIを採用した自動運転車」、「データセキュリティに対応する史上初のハッキング不可能なブロックチェーンIoTソリューション」など、世界で初めて実現した人物として知られるようになるわけですから、名を残せるならどんな冒険も厭わないでしょう。

企業のトップクラスの人材が、これまでの安定した仕事を危険にさらすとしたら、困難であっても刺激的な未踏の可能性がそこになければなりません。彼らを惹きつけるブロックチェーンとその応用範囲は、無限大といっても過言ではないのです。

 筆者のマイケル・チャンは、フィンテック企業ウォッシュマンの戦略担当マネージングディレクターです。前職では、ジェフリーズのテクノロジー・インベストメント・バンキング・グループでシニアバイスプレジデントを務めました。

 

この記事はVentureBeat向けにMichael Changが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。