3分に1人が認知症を発症!?ヘルステックで早期診断を目指す

3分に1人発症、認知症をめぐるイギリスの窮状

近年、認知症の発症者数は増え続けており、イギリスでは、心臓病、肺がん、脳卒中を抑えて、人の死因としてトップに立ちつつあります。アルツハイマーズ・リサーチUKの調査によると、イギリスにおける発症者数は、毎年209,000人以上。これは、新たな患者がおよそ3分に1人の割合で発生しているということです。

平均寿命が延びるにつれ、認知症を発症する可能性も高まりました。そのため、認知症は国民全体にとって差し迫った健康問題となっているのです。

また、アルツハイマーズ・リサーチUKの研究部門長であるキャロル・ラウトレッジ博士によれば、現在の臨床用ツールには早期診断に必要なだけの精度が備わっておらず、初期段階の認知症を発見することは難しいとされています。また、認知症につながる疾病を診断するうえで、十分に特化した血液検査も存在していません。脳スキャンの一種でPETと呼ばれる陽電子放出断層撮影は認知症の診断によく用いられているものの、費用が極めて高額となる可能性があり、検査が必要な人にこれを広く実施するというのはあまり現実的ではないと、同博士は指摘しています。「特定の疾病を発見するために、より多くの人々が利用しやすい安価なツールを開発することが必要」なのです。

医療テクノロジの発展動向について調べるために、今年、アクサ・ヘルステック & ユー キャンペーンの一環としてイギリスの世論調査会社のユーガブが実施した全国調査でも、同様の結論が得られました。それによれば、調査対象者の半数以上にあたる54%の成人が、家族に認知症の徴候が表れてから最終的な診断が下されるまでのタイムラグが気になったと感じており、同じく半数近くの48%が、認知症発見のためのテクノロジーが利用できたなら、家族にもっと早く医師の診察を受けるよう勧めただろうと答えています。

テクノロジーで認知症の早期診断に取り組む3社の事例

こうした事情を背景に、この問題に対処する革新的なテクノロジを開発すべく、多くの企業が動き出しました。アクサ・ヘルステック & ユー キャンペーンの2018年度プログラムの一部として設けられた認知症の早期診断に関するイノベーション賞でファイナリストに選出されたコグネティビティアパリトメムリカの3社は、認知症の早期発見と早期診断という問題に取り組むため、以下のように、それぞれ違ったやり方で自社のテクノロジーを役立てています。

すぐに終わる簡単なテストとAIで認知症の早期発見へ

コグネティビティの共同設立者であるシーナ・ハビビ博士によれば、同社は「破壊的なソフトウェア・ソリューションを作り出す最先端のAIと神経科学」を認知症の早期発見に応用している企業です。2013年の創業時、ハビビと共同設立者のセイエド・マハディ・カリフ・ラザビ氏は、ケンブリッジ大学の博士課程に在籍する学生でした。コグネティビティでは、ICAと呼ばれる自社の統合的認知評価を「すぐに終わる簡単な認知テスト」であると説明します。

被験者は「短時間の視覚刺激」となるイメージを連続して見せられ、続いて、その中に動物がいたかどうかを尋ねられます。被験者がそれに答える際のスピードと正確性は「認知能力に左右」されますが、認知症に冒されたニューロンは、多くの場合、情報伝達の速度が低下しているため、このテストによってその兆候の有無を判別できるのです。

ハビビ博士が説明するICAのメリットは、次のようなものです。「記憶にばかり重点を置く他のテストとは異なり、コグネティビティのテストは視覚野、運動野、前頭側頭葉など、脳内の重要な領域を広く同時に活動させます。そのため、微妙な機能低下に対しても高い精度で判定できるのです。」

このテストの結果は、さらに、被験者のプロフィールに基づいて、人口統計情報や病歴などの補足データと組み合わせられます。このようにして、コグネティビティのAIエンジンは「ナレッジベースを使ってスコアの処理と比較」を行い、被験者の認知症発症リスクを示すことが可能となるわけです。

ウェアラブルテクノロジーで患者の生活をモニタリング

一方、病院以外の場所でヘルスケアのテクノロジーを提供している企業もあります。エリン・ハフ・デイヴィス博士が設立し、ウェアラブルテクノロジーを活用して、一般的な医療環境の外部にいる患者のモニタリングを行っているアパリトもその1つです。患者からは、歩数、動作タイプ、皮膚の温度、周囲の温度、湿度、心拍数、睡眠パターンなどのデータが収集されます。また、アプリを構成するモジュールに応じて、患者が薬を正しく服用しているか、医療専門家の診察を受けに行ったかを確認したり、さらには、患者の実感としてのクオリティ・オブ・ライフのレベルを測定し、表示することさえ可能です。

デイヴィス博士の指摘によると、これまでは患者の移動パターンについて、病院での診察と外来予約の間の動きしか把握されておらず、これは生活全体のわずか13%に過ぎませんでした。しかし、アパリトのプラットフォームを利用すれば「患者にとって重要なデータを、遠隔地から、自動的に、リアルタイムで把握できるようになる」のです。

デイヴィス博士はこう述べています。「病院や診療所での時間は、患者の体験や健康生活全体のうち、ある日の限られた瞬間をたまたま切り取ったもので、限られた情報しか得られません。患者の微妙な変化を感じ取るためには、診察と診察の間のモニタリングも絶対に必要なのです。新しいテクノロジーのおかげで、ヘルスケアを病院外にも拡張できるチャンスが生まれました。」

スマホアプリで認知症の初期兆候を発見へ

メムリカも、これと同様のアプローチをとっており、同社のディレクターを務めるマリー・マシューズ氏は、スマートフォン経由の情報を利用して、認知症の初期徴候を発見するシステムを開発中であると述べています。

「このコンセプトは、メムリカが現在提供している「プロンプト」というアプリから生まれました。このアプリは、記憶障害によって自信を失った人が、社会で生き生きと過ごし続けるうえで役立ちます。メムリカは、認知能力低下を示す1つの行動指標として、社会との関わり方の変化に注目しました。そこを出発点にして、それでは、ユーザーの同意に基づいて、その行動を記録、分析できるものには何があるだろうかと考えてみたのです。

『もしも〜』という思いつきから新たな発想が生まれることがありますが、あれもまさにそういった瞬間の1つでした。多くの人が常に持ち歩くスマートフォンを利用して情報を収集することに思い当たったとき、私たちは大変な興奮を覚えたものです。認知症につながる初期の兆候を示している人たちに対して『あなたにはリスクがある』という事実を伝えられれば、実際の病気の発症を遅らせたり、予防したりするために彼らのライフスタイルを変えるために役立てられるでしょう。」

とはいえ、今のところメムリカは初期設計段階にあります。マシューズ氏によると、同社は、まずどのようなデータセットに着目して収集・分析すべきかを決定するなどの「実際的な問題への取り組み」を行っている最中であり、アプリが「健康についての適切な洞察と、リスク低減のための個別の正しいアドバイス」をユーザーに提供できるよう万全を期しているところです。

医療業界で破壊的イノベーションが起こりづらい理由 と、テクノロジーが果たす役割

医療業界はリスクを嫌う傾向が強く、アパリトのデイヴィス博士も「テクノロジーによる破壊的イノベーションを受け入れるまでに最も時間のかかる業界」と評するほどなので、メムリカの慎重さは十分に理解できるでしょう。

(エリン・ハフ・デイヴィス博士の言葉)

「医薬品、医療機器の開発や評価に関わる規制のあり方を考える科学であるレギュラトリサイエンスは、新しいテクノロジーに追いつくことができずにいるのです。」

この点について、デイヴィス博士は次のように述べています。「医療業界が保守的な理由の一つとして、医薬品、医療機器の開発や評価に関わる規制のあり方を考える科学であるレギュラトリサイエンスが、新しいテクノロジに追いつくことができずにいるということが挙げられるでしょう。さらにいえば、破壊的イノベーションを起こすためには、労働文化そのものを変える必要もあります。その方法は、新しいテクノロジーの開発や運用に際して、関係者全員が互いに協力するというアプローチを採ることです。患者、医療従事者、規制当局、そして改革者のすべてが共同で、1つのソリューションをコンセプト段階から開発できるような環境を整えなくてはなりません。すでに顕在化している障壁と考えうる障壁のすべてを回避しながらプロジェクトを進めていくためには、この方法が最良であるというのがアパリトの考え方です」

コグネティビティのハビビ博士もまた、「初期診療に利用できる精度の高いツールがない」点に言及しながら、この業界ではテクノロジーの導入が遅いという問題があることを指摘します。

「今のところ、認知症の診断を行う医師は、昔ながらの紙とペンのテストに頼り、記憶に重点を置いて調べるか、もしくは、すでに症状の現れている患者を「もの忘れ外来」に紹介するかという、2つの選択肢しか持っていません。」前者のテストで記憶に障害が出ているなら病状はかなり進行していることになりますが、早期発見には結びつかないのです。

加えて、この記事で紹介した企業の創設者は、3人とも知識の差の問題に言及しています。つまり、認知症の初期の徴候について、一般の人々に広く知ってもらうことが重要ということです。その一方で、アルツハイマーズ・リサーチUKのラウトリッジ博士は、「何が悪くなって認知症が起こるのか、そして、その変化はどういうメカニズムで起きるのか」という疑問を解消しようとする研究のおかげで、初期診断にも「大きな進展」が見られているといいます。

最後にハビビ博士は、「AIとビッグデータが認知症発見の未来に対して果たす役割は極めて大きなものになる」と強調しました。

「正確な健康モニタリングツールからのデータ、解像度の高い画像、詳細な遺伝情報、そして、さまざまな種類のバイオマーカーがAIの力と統合されることで、認知症診断エンジンとでも呼ぶべきものが生まれるでしょう。それは、体の異常をより早く、正確にモニターしたり検知できるだけでなく、一人一人の症状に合った適切な治療が提供される時代の到来を告げることになるのです。」

※保険会社のアクサは、夢に向かって挑戦する人々を応援しています。医療テクノロジのイノベーションによって、心と身体のケアが大きく様変わりしてきました。そこでアクサは、「ヘルステック & ユー」という賞を通じて、未来を作る人材の発見と支援を行うことにしたのです。2018年度のファイナリストについて、詳しくはこちらをご覧ください。

この記事はThe Guardian向けにEmily Reynoldsが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。