SDGs達成への課題とその解決策を探る

世界中で注目を集めている「持続可能な開発目標(SDGs)」。SDGsに対して「企業や組織がどのようにSDGsに向き合い、どう取り組んでいけばいいか」に関するヒントを紹介します。
【Fujitsu Forum 2018 フロントラインセッションリポート】

「持続可能な開発目標(SDGs)」は、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2016年から2030年までの国際目標です。17目標、169ターゲット、230指標が掲げられ、世界193カ国が合意しています。

2018年5月に開催された「富士通フォーラム2018」では、「富士通とSDGs~世界が達成すべき目標に向かって」というセッションを開催。SDGsの制定に深くかかわったヘレン・クラーク氏を迎えて、富士通執行役員副会長の佐々木伸彦と「企業や組織がどのようにSDGsに向き合い、どう取り組んでいけばいいか」について対談を行いました。

元ニュージーランド首相、元国連開発計画(UNDP)総裁
ヘレン・クラーク氏

クラーク氏は、選挙で選出された初のニュージーランド女性首相として、1999年から3期にわたり持続可能性に関する総合的な計画と気候変動への取り組みを提唱してきました。また、2009年から2017年の間、女性として初めて国連開発計画(UNDP)総裁に就任しています。現在は、SDGsの実現に向けて世界の開発現場で「持続可能な発展」「気候変動」「ジェンダー平等」など様々な課題に対して発言を続けています。

世界で起こっているパラダイムシフト

SDGsは、2001年に制定された「ミレニアム開発目標(MDGs)」の後継となる国際目標です。まず、クラーク氏はMDGsとSDGsの違いについて「8つの目標を掲げたMDGsの取り組みは目標によりばらつきがあるものの一定の成果を上げましたが、SDGsでは異なった目標を掲げています。SDGsは単に発展途上国のみを目標にしているわけではありません。世界中の全ての国に適用するもので、先進国の人も対象にしたゴールを定義しています」と説明しました。

主に途上国の開発を目的としたミレニアム開発目標(MDGs)から先進国を含めた全ての国と人を対象にした持続可能な開発目標(SDGs)へとシフト

SDGsでは「世界中の人々を誰も置き去りにしない」ことを基本理念に掲げています。クラーク氏は「SDGsの実現にはテクノロジーが重要なカギを握っています。工業化を進めてきた過程で、環境を保護してこなかったことが今、大きな問題となっています。そのため、これまでと同様に社会の発展を続けていけるかが、世界的な課題として浮かび上がってきました」と現状を指摘しました。

その上で「誰もが貧困から解放され、教育を受け、人間として尊厳を持って生きることができる、持続可能な世界の実現が新しい目標です。世界には都市開発や廃棄物削減などの多くの課題がありますが、より包括的で統一的な形で開発をすることで真の持続可能な開発が可能になると考えています」と語りました。

富士通株式会社 執行役員副会長 佐々木 信彦

クラーク氏の発言を受け、富士通の佐々木 伸彦は、ここ15年のテクノロジーの大きな進展を振り返り、「たとえば、数十億台使われているというスマートフォン。ごく限られた研究者などしか手に出来なかったコンピューティングパワーが、現在は小学生の手のひらの上にあります。こうした大きな変化が世界のパラダイムをシフトさせており、利便性をもたらすと同時に社会の格差や問題を生み出しています。こうした変化にも注目していかなければなりません」と語りました。

持続可能性への脅威に対する民間企業の役割とは?

現在、世界中の国々では「人口増加」「高齢化」「食糧」「災害」など、持続可能性への脅威が存在します。クラーク氏は「SDGsの達成には、民間企業など非常に多くのパートナーシップが必要です。その実現には多くの資金が必要となるからです」と述べました。

また、「SDGsを途上国全体で達成するためには年間3.3兆から4.5兆ドルの投資が必要になるが、現行の水準で投資額が推移した場合、年間2.5兆ドルが不足する」という国連貿易開発会議(UNCTAD)の試算を取り上げました。一方で、ODA(政府開発援助)では年間1400億ドルの拠出にとどまることに言及し、「通常のODAでは必要額をカバーできないために民間企業の協力が必要となる」と訴えました。

クラーク氏は、発展途上国に対して「投資先として魅力的な国になるように政策や環境を整えなさい」とアドバイスをしてきたことを紹介し、「現在のスマートテクノロジーを活用することで、過去何世代分の開発を飛び越えることが可能になります。民間企業が自分たちの存在意義を考え、企業の外にあるニーズを把握してSDGsをサポートしていることは経済的目標、ソーシャル・インクルージョン、環境の持続可能性、そして最先端技術の全てを包含しており、素晴らしいことです」と語りました。

佐々木は「持続可能性の脅威に対して、民間企業は2つの側面を持っています。1つは、企業活動がそうした脅威を深刻化させていること。もう1つは、企業だからこそ脅威に対して何らかの解決策を提示できることです。富士通は、解決策を提示していきたいと考えています。企業が脅威に対して貢献できるのは、単に寄付や無償の行為であってはいけません。企業の本分とは社会に貢献し、その分だけ利益を得て事業を拡大していくことです」とコメントしました。

SDGsに関するテクノロジー全般に対する期待

次に、クラーク氏は、SDGsの実現に向けて様々なテクノロジーに対して大きな期待があるという見解を示しました。携帯電話やスマートフォン、ビッグデータ、ドローンなどの新しいテクノロジーは「いかに生活が良くなるか」「政府の透明性を高められるか」など様々な局面で使われていると紹介しました。

「たとえば、スマートフォンなどの情報通信技術では、その普及によって発展途上国の農家などがSNSを通じて有益な情報を得て、市場と直接つながることを可能にしています。また、富士通も活用を進める「ブロックチェーン技術」は、政府の透明性を高めることが出来るため、不正や腐敗の排除に繋がります」と述べました。

さらにクラーク氏は「UNDPでは多くの国連機関と協力して、テクノロジーの利用による生産性向上や開発支援に努めてきました。テクノロジーを活用することで、たとえば遠隔拠点においても知識や情報やサービスを享受することができます」と最先端技術への期待を示しました。

また、セッションでは富士通とUNDP、東北大学の共創による取り組みが紹介されました。2015年3月に仙台で開催された国連防災世界会議にて、世界の巨大自然災害の被害低減を目指す「災害統計グローバルセンター」の設置が発表されましたが、富士通は2017年3月からこの取り組みにパートナーとして参画しています。

この取り組みでは、東日本大震災に関連した統計情報のデータベースとなる「災害統計データベース」の策定を進めています。2018年7月にはプロトタイプが完成する予定で、2020年以降に世界20カ国がデータベースを活用する計画となっています。佐々木は、「過去に大きな災害を経験した日本のICT企業として、災害のデータベースづくりに取り組むことは富士通の責任であり使命であると考えます。2030年の仙台防災枠組みの達成に向けて、どうやって価値あるビジネスに繋げて本業を通じて世界に貢献するか、富士通グループ全体で取り組んでいきます。」と説明しました。

UNDP、東北大学様と富士通との共創による取り組み

その他にも、農業における生産性を向上や医療機関連携やIT創薬などのソリューションの提供にも取り組んでいます。佐々木は「富士通の全ての活動は、SDGsに関連しています。SDGsの17の指標は、当社にとって大きな道しるべになっています」と語りました。

多くの企業や組織とパートナーシップを結ぶことの重要性

災害統計グローバルセンターにおける共創について、クラーク氏は「大規模な災害に見舞われた日本は、災害リスク提言のアジェンダにおける世界的なリーダーです。多くの国では、災害リスク管理やリスク低減に手を付けられない状況にあります。その解決にはデータベースが必要となり、富士通がサポートしている災害統計データベースは極めて重要なナレッジベースとなると思います」と評価しました。

また、「リスクを十分に理解や管理せず、しかもリスク削減の措置も講じずに開発を進めれば、持続可能な開発は達成できません。災害におけるリスク管理では、事前の情報収集や知見の習得、そしてコミュニティとの協調が重要であり、このようなリスク管理を行うことでより髙いレベルの災害や気候変動に備えることが出来ます。そのためにも、多くの企業や組織とパートナーシップを結んでおくことが重要です」と語りました。

不平等をなくすダイバーシティへの取り組み

セッションでは、さらに、世界的な問題解決に対して様々な立場で色々な経験を重ねてこられたクラーク氏ならではの観点から、個人や多様性(ダイバーシティ)に関する考えを紹介しました。

クラーク氏は「SDGにとって中核的な部分を構成するのが、インクルージョン(inclusion)という考え方です。多様性を認め、その人一人一人の能力を最大限に発揮できることが極めて重要です」と語りました。インクルージョンとは、組織内の誰にでもビジネスに参画・貢献する機会があり、特有の経験やスキル、考え方が認められて活用されていることを指します。

また、クラーク氏は、アフリカでは男女の不平等によって年間950億ドルの損失を被っているというUNDPの報告を紹介しました。

その上で「日本もニュージーランドも女性の社会参加率が低い国。企業や組織においては、女性の取締役会やトップマネジメントにおける参加率が高い場合は国際的な実績が極めて高いといわれています。平等な社会の実現には、女性に対するサポート体制の構築が重要です。周囲がサポートすることで、女性が色々なチャンスを追求できるように努めなければなりません」と取り組みの重要性を強調しました。

日本に対する大きな期待

セッションではこれまで約25回来日しているクラーク氏に日本への期待を伺いました。「日本は国際開発における重要なパートナー。資金提供だけではなく、実際の開発支援を通じて草の根レベルからの平和な社会の実現にも尽力していると考えています。日本には、今後も力強い開発パートナーでいてほしいと思います」と、日本に期待する点についてコメントしました。

また、富士通など民間企業がますます重要な役割を担っていくとの見解を示しました。発展途上国は単にODAによる援助がほしいわけではなく、協力して一緒に何かを開発したいと考えているとクラーク氏は指摘します。そして、「たとえば、富士通のような大規模で影響力のある企業は単なるCSR(企業の社会的責任)活動だけでなく、発展途上国を投資や技術的な面で支援をしてくれる重要なパートナーです」と語りました。

この発言を受けて、佐々木は「富士通がSDGsに取り組んでいる理由は、新しいイノベーションを起こせるかもしれないと思っているからです。SDGsという新しい概念で企業や組織や団体と共創し、世界規模の課題に一緒に取り組んでいくことを目指します。富士通が取り組んできたビジネスの仕方を超えた、社会や世界に対する直接的なアプローチになると考えています。これを機会により世界と強くつながり、世界に貢献する企業になっていきたいと思います」と抱負を述べました。

2030年までに実現したい世界

最後にクラーク氏は「2030年に実現したい世界」について、「SDGのアジェンダには『持続可能な発展がなければ平和はない。平和がなければ持続的可能な発展はない』という基本的な宣言があります。2030年に向けて私が実現したいのは、世界平和を持続できるかということです。世界では多くの人が家を失ったり、国際紛争が起こっています。そうした社会の統一感を損ねるような問題を解決していきたいと考えています」と述べました。

その上で「きちんと教育を受けられ、より幸せで健康な生活が送れる社会にしたいと考えています。万が一、貧困に見舞われたり、健康が損なわれた時でも手厚く援助する政府が存在し、また政府への批判的な意見も表明できる国となることも重要です。物事が変革するべきだと思えば、それを行動に移せるような社会を目指したいです」と訴えました。

佐々木は「壮大な目標でもあるSDGsは、私たち個人にとっては遠い世界だと思われがちかもしれません。しかし、自分事として捉えていってほしいと思います。SDGsは世界共通言語です。世界中の誰とでも問題解決に向けて知恵を出せるものだと考えています。富士通もSDGsの実現に向けて一生懸命に取り組んでいきます」と語り、セッションを締めくくりました。

登壇者
  • 元ニュージーランド首相、元国連開発計画(UNDP)総裁
    ヘレン・クラーク 氏
  • 富士通株式会社
    執行役員副会長
    佐々木 伸彦
モデレータ
  • 富士通株式会社
    環境・CSR本部
    CSR・SD戦略統括部
    藤崎 壮吾