次の「ポケモンGo」は現れるのか?ARが乗り越えるべき壁

ARが一般に認知されるきっかけとなったのは、ポケモンGoの大流行でした。あの時は、何年ものあいだ外でのんびり散歩などしたことのなかった人たちが、街中を歩き回って新しいゲーム仲間を見つけたり、ときには電柱に頭をぶつけたりしながら、歩道に現れた愛らしいアニメキャラクターを収集していました。何百万もの人に向けて、この体験はサイエンスフィクションのように新たな地平を開きました。そこでは、ファンタジー世界とのインタラクションが可能だったのです。ARには、新種の創造力が秘められている、そんな期待すらありました。

それから2年が経った今、大流行となったポケモンGoと同じレベルにまで成長した拡張現実体験は1つもありません。それは何故でしょうか?

YouTubeモデル

現在のARは、20年前のオンラインビデオと似た状況にあります。Eメールでビデオを送ろうとしていた時期を知る世代なら、以下のことを思い出せるはずです。つまり、当時は、ファイルが大きすぎてEメールプロバイダから拒否されるという事態に陥らなかったとしても、添付ファイルをダウンロードするために無限とも思える時間を費やしたり、1度か2度しか使わないようなビデオプレイヤーを別途インストールして、動画を再生する必要がありました。

そこに現れたのが、YouTubeです。YouTubeの再生ボタンは、押すだけで動いてくれました。ファイルが全部ダウンロードされるのを待つことなく、プレイヤーのインストールも不要というものです。YouTubeが350万ドルの資金を調達したのは、20049月のことでした。そのわずか9か月後にあたる2005年の夏前に、グーグルがYouTubeを165千万ドルで買収します。そして、現在、世界中のどんなスクリーンにもYouTubeのビデオが流れるようになりました。YouTubeでは動画再生に必要なすべての作業がバックエンドで処理され、ボタンをクリックするだけで観ることのできる環境が実現されています。このような一元的な配信、共有、発見を可能とする場所の確保は、ARが越えるべき最初のハードルといえるでしょう。

筆者の考える理想の「AR体験」は、アプリの形で提供される必要はなく、エンタテイメントとしての価値や機能が、YouTubeと同じくらい迅速に利用可能であるようなものです。YouTubeのビデオは、長さが36分しかないものがほとんどであり、もちろん映画のように長くはありません。「AR体験」も、そうあるべきでしょう。

ユーザー生成コンテンツ

AR体験を待ち受ける第2のハードルは、すべての人に向けたコンテンツ制作方法の確立です。今のところ、拡張現実を制作・体験するための標準的な方法は存在していません。開発者が選択可能な開発としては、ユニティやアマゾン・スメリアン、そして、いくつかその他のツールがあり、また、ARを体験できるプラットフォームには、ホロレンズ、iOS、アンドロイド、マジック・リープなどがあります。しかし、ある1つのデバイスに向けてARコンテンツを開発した後で、別のプラットフォームでも利用できるようにしたいと思ったら、その都度、開発を繰り返さなくてはならないのです。これは、煩わしいプロセスといえます。

また、ハイエンドのAR体験であれば、プロが作るという状況は変わらないかもしれません。しかし、現在のARは、YouTubeがビデオの創作や内容の独創性、意外な使い方に関する大きな流れを作ったときと同じ状況にあるといえるでしょう。ARにも、「ユーザー生成コンテンツ」が、喉から手が出るほど必要なのです。YouTubeのコンテンツのほとんどはスマートフォンで作られていますが、拡張現実がそれと同じくらい簡単に作れるようになったとき、今はまだ想像もできないような次世代メディアが生まれ、新たな使用例も急増することでしょう。

そこでは、AR体験の豊かさがYouTubeと同じレベルになると想像してみてください。そして、コンテンツとリアルタイムでやり取りをしたり、コンテンツ自体を操作することもできるのです。今やスマートフォンは、事実上、誰もがARの再生装置をポケットの中に持ち歩いているといえるほど進歩しており、大量のコンテンツを受け入れる環境も整っています。ただでさえ驚くべき現実世界の上に、フィクションやアニメーション、特殊効果のレイヤーを重ね合わせられる創作ツールが投入されたとき、果たしてどんなに素晴らしいことが起こるのでしょうか?

未来のプラットフォーム

とはいえ、プラットフォームに依存しないARのエコシステムを立ち上げて、それをYouTubeに匹敵するものに育てるのは、容易ではありません。筆者にはそれが分かります。なぜなら、自分自身でもそれを目指したエコシステムを開発中だからです。その名は、シークといいます。

オンラインビデオの場合、クリエイターはビデオを作るために多様なツールを利用可能です。また、一旦YouTubeにビデオをアップロードすると、事実上、ディスプレイを持っている誰もが視聴できるようになります。しかし、現在のARでは、異なるフォーマットを多数サポートしなければなりません。iOSARキットからアンドロイドのARコアまで、それぞれのプラットフォームが、ユーザーによるインタラクティブな操作を可能とするために、別々のプロトコルを用いているからです。たとえば、開発にホロレンズを用いた場合、そのユーザーは、指でつまむなどの細かいジェスチャーを使って操作を行います。ところが、同じ操作でも、iPhoneでは別のやり方をすることが必要です。

このため、すべてプラットフォームのユーザーにリーチしたい開発者は、それぞれのプラットフォームに向けてAR体験を再構築するはめになります。そこで、もし多様なプロトコルを一元的に管理してくれるエコシステムを開発できれば、クリエイターは様々なプラットフォームに向けた書き直し作業に力を費やすことなく、コンテンツ制作に集中できるというわけです。

現在は、ARアプリを、たとえばアップルのアプリストアに登録しようとすると、すべてのプログラムコードが承認されるまで最長1ヶ月もかかる可能性があります。申請者にミスがあれば、修正版の配信にはさらに1週間かそれ以上かかるかもしれません。一方で、クリエイターのために最適化されたARのエコシステムにおけるARコンテンツは、各プラットフォームのアプリストアへのアップロードが速やかに行えるように、それぞれのプラットフォームによって承認済みのプログラムコードで構成されている必要があるでしょう。さらに、このエコシステムでは、クリエイターがAR体験をあらゆるプラットフォーム向けに配信できるようにしておかなくてはなりません。そのためには、ユーザーの視聴用デバイスに合った適切なプロトコルを自動的に検出し、利用できることも重要です。

問題解決への取り組み

さて、Youtubeが勝者となるまでは、動画共有サービスの分野には複数の競争相手が存在していました。デイリーモーション、Vimeo、そしてグーグルですら、その1つだったのです。ここに挙げたライバルたちは、オンラインビデオの共有にまつわる問題を、別々のやり方で解決しようとしました。それと同じように現在のARは、西部開拓期のような段階にあるといえます。問題の全面的な解決に取り組んでいる者もあれば、特定の要素に取り組みつつ、自身のテクノロジーがあらゆる製品に採用されることに期待をかける者もいます。ある意味、関係者同士で競い合っているのです。しかし、皆、同じゲームに参加していることも事実で、誰もが1つの目標に向かって努力しています。その目標とは、ARの成功に他なりません。

当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、コンテンツネットワークを成長させるために一番役立つものは、コンテンツ自身です。YouTubeにおけるコンテンツの急増は、スマートフォンという強力なビデオカメラが普及するのと並行して起こりました。それと同様に、ARコンテンツの制作ツールがスマートフォンに搭載されれば、この新形式のコンテンツもやはり隆盛を極めることでしょう。口コミで広がった初期のビデオはクリエイター同士の切磋琢磨を促しましたが、それと同様の競争がそろそろAR分野でも始まりそうです

しかし、その主役は、想像し得る限り最も手の込んだARコンテンツを制作する、高度なスキルを持った開発者たちではありません。自ら視聴者を開拓していけるような、あらゆるタイプのクリエイターたちなのです。こうした視聴者のおかげで、クリエイターは広告収入の分配や、企業からの後援を得るなどして、コンテンツのマネタイズが可能となります。

筆者が開発しているシークの場合、AR体験はすべてシーク内で動作する、一種の小さなアプリのような存在です。そして、シークでは、心臓のモデルで遊ぶだけのシンプルなものから、新しい家を設計するという複雑なものまで、様々なコンテンツを求めています。ゆくゆくは、シークアプリから、こうしたAR体験にアクセスできるようになるはずです。

筆者を含め、シークに携わる人間は、自分たちの成果物がYouTubeのAR版になることを願っています。しかし、この新形式のコンテンツを誰もがもっと親しめるようにするために一役買いたいと思っているのは、我々だけではありません。たとえば、8thウォールという企業が開発したソフトウェア開発キットを用いれば、ARのクリエイターは自身のアプリにプラットフォーム間の互換性を与えることができます。そのプラットフォームとしては、最新のiOSとアンドロイドデバイスだけでなく、ARキットやARコアをサポートしていない旧型のスマートフォンまでもが対象です。また、ユビキティ6はマルチプレイヤー型のARゲーム体験に向けたプラットフォームに取り組んでいます。このゲーム体験では、遠く離れた2人がAR環境内で一緒に遊ぶことが可能です。しかも、その中で使われるアバター、つまりプレイヤーの分身のおかげで、2人が同じ場所にいるような気分が生まれます。さらに、フェイスブックとスナップチャットも、それぞれのアプリケーション内に限定されるものの、AR機能の組み込み準備中です

このように、ARの制作ツールは、もうすぐ一般的な人々の手が届くところまで降りてこようとしています。ARコンテンツと創造力の大波も、もう目の前まで押し寄せてきているといえるでしょう。AR市場における視聴者コミュニティの形成や自らの足場固めに向けた準備を、今から始めておくことをお勧めします。

ジョン・チェニーは、誰もがAR体験をアップロードしてシェアできる拡張現実アプリを開発している、シークのCEO兼共同設立者です。

この記事はVentureBeat向けにJon Cheneyが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。