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海でも自動運転。2025年「自動運行船」時代に向けた最新動向に迫る

自動運転技術の実用化を目指しているのは自動車だけではありません。自動車以外で自動運転の実現に向けて着実に進歩しているのが「船舶」です。日本政府は2025年までに自動運航船の実現に向けて取り組む姿勢を見せています。いわば、自動運転の海洋版とも言える「自動運航船」には、自動車とは異なる自動運転を支援する技術の開発が必要です。現在進められている最新の支援技術動向を紹介します。

2025年をめどに船舶における自動運転技術の実用化を目指す

自動車の世界で日々開発が進められている「自動運転技術」。特に商用車業界では、深刻化するドライバー不足や交通事故防止、過疎地での活用など、自動運転に対する期待は大きくなっています。実際、自動ブレーキなどの運転支援技術は、交通事故発生時の被害の大きさを考慮して大型トラックから義務化が進んでいます。

自動車以外の乗り物でも自動化に向けた開発が進められています。その1つが「船舶」です。遠隔で操作したり、自動で運航したりする「自動運航船」の実用化に向けて政府が動き出しています。2017年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」において、2025年までに自動運航船の実用化を目指し、海上物流の高度化を図ることを示しました。

自動運航船では、衛星通信やIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)などの技術を活用し、他の船舶や様々な障害物との衝突を回避して完全自動で行えるようにする研究が進んでいます。自動運行船の実用化に向けて様々な業種の企業が先端技術を研究開発している中、富士通でも船舶の自動運転を支援する取り組みを実施しています。ここでは、「船舶の衝突回避」、「港湾業務の生産性を高める運用技術」、「24時間目視で行っている見張り業務の自動化」の3つのソリューションをご紹介します。

人的な認知・判断ミスによる衝突事故を回避せよ 海上交通マネジメント

海上で船舶が混んでしまうと間隔が狭くなり、事故が起こりやすくなります。世界では重大海難事故が年間1642件も発生していて、中でも船舶の衝突事故は年間358件も起こっています(2014年、国土交通省海事局調べ)。国土交通省の調査によると、日本における船舶衝突の主な原因は、見間違えや思い込み、予測ミスなど人的な認知・判断ミスでした。

このような課題をICTで解決するのが、「海上交通マネジメント」ソリューションです。海上交通マネジメントでは、AIとビッグデータ解析を活用し、衝突の直前対処の課題解決を「直前対処業務のサポート」、「直前対処の予防」という2つのアプローチで進めています。

画像1:富士通の2つのアプローチ

直前対処業務をサポートする「ニアミスリスク検知」

1つ目のアプローチが、ニアミスリスク検知による直前対処業務のサポートです。ニアミスリスク検知では、人の経験やノウハウが必要だった直近の将来における衝突の危険の把握をリスク値の定量化によって支援します。

衝突の危険性がある場合、従来からアラートを通知していましたが、アラートが多すぎることであまり船員の判断の役に立っていないケースもありました。そこで今回新たにリスクエンジンを開発。正確な針路予測に基づきリスクを計算して不要なアラートを削減し、見落としリスクを補足することで人の判断を支援します。

直前対処を予防する「動的スポットの予測/低減」

もう1つが、直前対処を予防する取り組みです。複数の船によって構成される衝突リスクの高い状態である「動的スポット」を予測したり、未然に防止したりする仕組みの構築を支援しています。

動的ホットスポットは時間経過とともに常に変化し、避航操船が連鎖的に発生します。また、各船の判断や相互コミュニケーションで自律的に解消することが困難です。そのため、動的ホットスポットが発生しないように事前予測・事前回避することが重要となります。

画像2:動的スポットの定義と課題

動的ホットスポットの予測のため、過去のAIS(Automatic Identification System:船舶自動識別装置)データから個船ごと・船種ごとの航路パターンを抽出し、「知識ベース化」して短期の針路予測、長期の交通状態の予測を行っています。この知識ベースとAIによる予測を組み合わせることで高精度な予測を可能にしています。

現在、富士通は海上交通マネジメントソリューションについて、シンガポールでの実証実験を実施しています。シンガポールは、世界で最も混雑する港の1つでもあり、海事産業は同国のGDPの7%を占める重要な役割を担っています。また、ASEAN地域のハブ港として機能しています。

この実証実験では、シンガポール港における船舶の交通マネジメントのための技術を活用して先進的なソリューションを導入することで安全性を確保し、効率化を推進しています。

港湾業務全体を最適化する「スマート港湾オペレーション」

富士通では、バルクターミナル向け「スマート港湾オペレーション」ソリューションも開発しています。バルクターミナルとは、ばら積み船が着港する港のことです。こちらも現在、シンガポール港において共同実証を進め、港湾業務の効率化や生産性の向上などの検証を行っています。

シンガポール港では、港に着岸するために数日間の沖待ちが発生することがあります。港湾の入り口であるバース(船着き場)や出口であるゲートが渋滞することは、港湾業務におけるボトルネックになり、多大なコスト、機会損失につながることがあります。

そこで、天候など様々な要因から船舶の到着が遅延したり、積み下ろし作業が遅れたりなど多くの不確実な要素を持つ港に対して、バース/ゲートの渋滞を最小化するために「インテリジェントバース計画」「ゲートオペレーション最適化」という2つのソリューションを開発しています。

バース/ゲートの渋滞を最小化する

インテリジェントバース計画では、AI技術(適応学習)を活用して船舶の滞在時間を予測。それに基づいて最適なバースへの予約や入港計画を立てます。そのことにより、来航船舶がバースを沖合で待たなければいけない状態を改善します。

ゲートオペレーション最適化では、トラックが通過するゲートの運用業務を最適化するための意思決定ツールとして活用できます。これらにより、取引量の増加への対応、限定された土地や労働者の高齢化など課題の解消などにも役立てることが可能です。

シンガポールでの実証を通して得られた成果は今後、新興国など取引量の増加が見込まれる他の港湾に展開する予定です。

AIを活用した「見張り業務の自動化」で衝突を回避

船舶の自動運転を支援する方法の一つに「見張り業務の自動化」が挙げられます。従来船員が24時間行っていた目視による見張り業務が船員の負担となっていました。

そうした負担の軽減に向けたソリューションが開発されています。具体的には、船首に設置した監視カメラよる航路監視を行い、必要に応じてアラームを発するシステムの開発を進めています。そのベースとなるのが、AI技術(深層学習)を活用した画像認識システムです。

他船を自動識別する画像認識システムを開発

画像認識システムは、航路上の船舶の他、標識やブイ、定置網などの漂流物を監視対象として、監視カメラ画像をAIで解析して船舶を識別し、それ以外を障害物と認識します。船舶は現在のところ「自動車運搬船」「バラ積み貨物船」「タンカー船」「コンテナ運搬船」「その他小型船舶」の5種類の船種に分類していますが、船舶が多く停泊する港湾内と外洋の航路では状況が異なるため、分類する船種、船種の数については、今後の検討課題です。

画像3:船舶識別の試行結果

航路監視の実現にはいくつかの課題がありました。たとえば、従来の画像処理では波を船舶と誤検知してしまったり、レーダーは波と小型船舶を区別できなかったりする場合がありました。また、夜間や濃霧発生時の監視には通常の光学カメラではなく、暗視カメラや赤外線カメラの活用が必要でした。

航路上カメラ画像をAIを用いて船舶の識別を行う検証では、教師データを使って画像解析に特化したCNN(Convolutional Neural Network)モデルを作成し、その結果を評価してチューニングなどを実施して、あるレベルに達するまで教師データを追加してきました。教師データとは、問題と答えを教える、教師のような役割を果たしているデータのことです。

画像4:船舶の学習の仕方

前述の課題として示した波の誤検知については学習の過程で波の特徴点が相対的に低下し、誤検知が無くなる効果がありました。この点は、画像処理にないAIの学習効果です。

画像3に示す事例では、80%以上の精度で識別できている対象物を表示するよう設定しています。学習の当初は背景の街並みを船舶と誤検知することもありましたが、学習を繰り返すことで船舶の特徴を抽出して識別するようになりました。

浦賀水道を航行する船舶での試行では、遠方の複数の船舶や、交差する船舶の船種、水平線上などでの識別にも成功しています。今回の試行では、一般的なビデオカメラで撮影した画像を用いて、その検出できる最大距離は4~5Kmでした。目視で船舶と分かるレベルはAIでも識別可能で、そのレベルあれば高性能なカメラは必要ないことを確認できました。

実運用を見据えた課題とは?

運行シーンを想定したAI評価では、いくつかの改良点があります。例えば、ある程度認識率が向上した後、船舶の正面や背後からの画像による学習などが必要となります。実際に船上にカメラを設置して他の船舶を撮影して画像データを取り込むことを行う予定です。船舶の正面や背後は船種毎の特徴点が少ないため、必要に応じて3DCGモデルを作成し、多くの教師データを作成することが求められます。

また、逆光や、早朝、夕方など日光の入射角度が異なる場合など撮影条件を悪化させた場合でも対象物を識別できる必要があります。

前述の課題のうち、夜間や霧発生時など特に視界が悪い条件への対応が挙げられます。富士通では、赤外線カメラを活用するシステムの開発を進めています。赤外線カメラ画像では、まだ教師データが少ないため識別率が低いのが現状です。今後の展開として、データを増やして精度向上を図っていきます。さらに、現在実施中のPoC(概念実証)を通して得られた学習データを活用する予定です。

画像5:赤外線カメラ画像の船舶識別

監視システムの実装にあたっては搭載カメラのコストが課題です。より遠方のより小さいものを監視するには、高解像度カメラが必要となります。しかし、性能が高くなる分高価となり、運用コストを抑えたい企業にとっては導入のハードルが高いのが現状です。一方、AIを活用した画像認識システムは、学習・モデル化さえすれば運用コストは安く済むので、カメラの問題がクリアされれば導入は進んでいくと考えられます。

今後、自動運航の支援にとどまらず、AIを活用した「港湾業務のスマート化」の実現を視野に入れています。港湾内や航路上の船舶の間隔確認による安全運航の支援、船舶の自動係留、トレーラの自動運転監視などを実現することで、港湾内の業務をより効率化して生産性を高めることを支援していく考えです。

2025年の「自動運行船時代」に向けて着実に前進

自動運航船の実用化に向けては、様々な技術要素が確立されることが前提条件となります。ICTの進展が遅れているとも言われる海運業界において、自動運航船の実現は低下した世界シェアを回復させるカギを握ることになるでしょう。

そのためには、AIやIoT、ビッグデータなどに代表される革新的な技術の活用が必要不可欠です。富士通はそうした技術をより総合的、より統合的に活用し、お客様の多様なニーズにお応えするために日々研究開発に努めています。富士通は多様なソリューションを提供することで、より安全な海域、航行の実現を目指しています。

藤本 拓
産官学連携推進統括部 マネージャー
野田 明
デジタルフロント事業本部