デジタル化は"脅威"ではなく"チャンス"。Fintech(フィンテック)がもたらす金融サービスの未来

金融業界に押し寄せるデジタル化の波。ICTを駆使した異業種からの参入や、サービスのデジタル化による伝統的金融機関から総合情報産業への転換など、勢力図が大きく変わろうとしています。本記事では、デジタル化をチャンスととらえ、事業拡大に積極的に取り組んでいる4つの金融機関に、これまでの自社の取り組みと将来の展望について語っていただきました。
【富士通フォーラム2018 カンファレンスレポート】

本カンファレンスでは、冒頭、モデレーターを務める富士通総研 隈本正寛から、デジタル化の影響を受ける金融業界の現況について概説と論点提起があり、その後、iBankマーケティングの永吉健一氏、イオンクレジットサービスの 西村信一郎氏、ソニー銀行の武田賢樹氏、みずほフィナンシャルグループの金田真人氏の4氏が、デジタル化がもたらす影響と自社の取り組みについて語りました。

Fintech(フィンテック)がもたらす金融市場改革

カンファレンスの冒頭、モデレーターの隈本が、デジタル化がもたらす金融業界の構造変化について概説しました。

モデレーター
株式会社富士通総研
コンサルティング本部 金融グループ長
隈本 正寛

金融業界では、「Finance(ファイナンス)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた「Fintech(フィンテック)」の大きな波が既存企業を守る防波堤を押し流し、様々な業種がスタートアップとして市場に参入しています。スイスのビジネススクールIMDと米国のネットワーク企業Ciscoが共同で設立した研究機関Global Center for Digital Business Transformationが2015年にグローバル企業エグゼクティブ対象に実施した調査によると、「デジタル化で5年後に業界トップ10のうち、何社が入れ替わっているか」という問いに対して、金融業界のエグゼクティブは4社近くが入れ替わると回答しており、また、「デジタル化で自社が事業撤退に追い込まれるリスクはあるか」という問いに対しても、4割以上が撤退リスクがあると回答するなど、デジタル化が事業に与える影響が特に強い業種とみなされていることが分かります。

近年は、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と総称される米国系IT大手や、中国のアリババ、国内でもソニーやイオンなどが金融市場に参入し、金融と非金融の境界が曖昧になってきています。また、オンライン決済事業からスタートし、そこで蓄積したデータから与信情報を生成し、融資サービスへと事業を拡げた米国のPayPalのように、単機能から差別化を図ってサービスを充実させ、アンバンドリング(注1)やリバンドリング(注2)といった手法で新たなプラットフォームを作る動きが活発になっています。

一方、「ネオバンク」と呼ばれる、顧客との接点である「フロントエンド」だけを提供する形態のサービスや、「Banking as a Service」と呼ばれる、管理業務など「バックエンド」の処理を効率的に請け負うプラットフォームが登場。さらに、オープンAPIを通じた異業種とのクロスインダストリーでのサービスモデルの提供や、逆に、プライベート・バンクや投資銀行業など高度な専門性が求められる業務など、金融業の形態も多岐にわたっています。金融関連のカンファレンスでも、業界に特化した「フィンテック」ではなく、より広範囲を指す「デジタル化」、あるいは「サービス化」、「プラットフォーム化」という言葉で議論されることが多く、業界構造がデジタル化で大きく変わってきていることがうかがえます。

  • (注1)商品やサービスを分解し、ニーズに合わせて、利用することができる商品・サービスの提供手法のこと。例えば決済・預金・融資・資産運用などの銀行サービスをまとめて提供するのではなく、決済や融資などの機能に限定して提供する。
  • (注2)異なる企業が提供している金融商品をアンバンドリングし、消費者が必要としているサービスのみを取り出して組み合わせ、新たな金融商品として提供する手法のこと。

金融サービスの「デジタル化」は脅威か、チャンスか

カンファレンスでは、デジタル化の波を登壇した4つの金融機関がどう捉え、自社ビジネスにどのような影響をもたらしているかを語ってもらいました。

みずほFG:新規参入のハードルが下がり、これまでのノウハウを新しいビジネスに活かす

株式会社みずほフィナンシャルグループ
デジタルイノベーション部 次長
金田 真人氏

みずほフィナンシャルグループ(FG)の金田氏は、デジタル化は伝統的な金融機関としては「脅威」だと言います。銀行業務の本質は、様々なビジネス機会の中で企業情報を収集して独自に信用を裏付け、融資や仲介で利益を上げることにあります。しかし、自前のマーケットプレイスを持ち、B2C決済で集めた情報を元に独自のマッチングサービスを展開するAmazonなどの伸張で、信用創造や金融仲介といった技術はもはや銀行の専売特許ではなく、情報の非対称性を利用した銀行の優位性は失われつつあるからです。

一方で、デジタル化は「チャンス」とも語ります。例をあげると、一つには、これまで海外でリテール事業を展開しようとしても単独での支店網構築は難しく、当地の銀行を買収したり資本提携したりする必要がありましたが、デジタルならアプリケーションとネットワークとサーバーがあればよく、新規参入のハードルが下がることがあります。また、昨年、みずほFGは民泊事業を展開する米Airbnbと提携しました。同社のビジネスモデルは、遊休資産の仲介という意味で銀行業に通じるものがあり、これまでのノウハウを新たなビジネスで活かすことができると言います。

ソニー銀行:オープンバンキングの進展で新たなビジネス価値創出を加速させる

ソニー銀行株式会社
経営企画部 副部長 兼 デジタル戦略企画室長
武田 賢樹氏

ソニー銀行の武田氏は、ITからの参入組の先達としてもやはり「脅威」だと言います。2001年にインターネット専業として設立された同社はフェアであることを掲げ、これまでの伝統的な金融サービスを再定義しながら順調に事業規模を拡大してきました。独Fidorのようにバックエンドに特化したサービスを展開し、フロントは他社と提携するようなデジタル企業の圧倒的なサービス展開スピードとコスト競争力には当然警戒しています。

設立から17年を経て伝統的な金融機関と同列に語られることも増えたソニー銀行ですが、事業領域の中心はあくまでインターネットであり、日本人の現金志向の高さを考えても国内のネットバンキング市場にはまだまだ成長の余地があると考えています。その意味で、デジタル企業の新規参入による市場拡大などの金融変革は、これまで住宅ローン、外貨預金、投資信託と銀行に必要な基本サービスをデジタルの世界で揃えてきた同社にとってはさらなる成長の機会と捉えています。APIなどオープンバンキングの進展によって、アンバンドリングやホワイトラベル(注3)など外部企業と連携して新たな価値創出が加速することも合わせて、これからの金融市場には期待している面がとても大きいと言います。

  • (注3)自社が提供している金融商品を、他社の金融サービスに組み込む、あるいは他社の金融サービスのブランドで顧客に提供する仕組み。顧客は販売元のブランドを信頼してサービスを求め、製造元の顔は見えない。製造業のOEMに近い。

イオンクレジットサービス:地域に密着したデータを活用し、便利・安心・安全・活力サービスを提供する

イオンクレジットサービス株式会社
イノベーション推進本部 執行役員
西村 信一郎氏

イオンクレジットサービスの西村氏は、少し異なる視点からデジタル企業の参入をビジネスチャンスと捉えています。同社は昨年から、関東地方のある市が推進しているまちづくりコンソーシアムに参加して、「地域のデータをどうやって地域のために使うか」のモデルづくりに携わっています。今後、イオンだけでなく、地域を含めた外部企業のデータを連携し、より地元のお客様に密着したデータを集められるようデータバンク事業を実施していきたいです。

さらに同社では、イオングループをはじめ医療機関や交通機関などの情報を消費者の自由意思で預かり、その情報から得られたベネフィットを利息として消費者に還元すると共に便利・安心・安全・活力サービスも提供する「(仮称)データバンク事業」を構想しています。決済手段にデジタル通貨を用いれば、より安全かつローコストなキャッシュレス社会が実現し、政府が提唱する「データがヒトを豊かにする社会」の実現にもつながります。

iBank:金融/非金融を問わない異業種連携を推進、グループ全体のデジタル化を牽引する

iBankマーケティング株式会社 代表取締役
兼 株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
デジタル戦略部 iBank事業グループ長
永吉 健一氏

ふくおかフィナンシャルグループのグループ会社であるiBankマーケティングの永吉氏は、地域に根ざした金融機関の観点からGAFAの進出を「ピンチはチャンス」と捉えています。地方は人口減少や高齢化などで中央と比べてデジタル化が遅れていますが、この際、GAFAの脅威を逆手に取って、一気にデジタル化を進めてしまおうとチャレンジしています。GAFAなどデジタル企業が提供するサービスは本質的に仲介業であり、その点では金融仲介業である銀行と同質です。GAFAが既存サービスの延長上で金融サービスを展開してくるとしても、地域における戦いであれば自分たちも互角以上に戦えるのではないか。そのために必要なデジタル化を推進するためにも、今回の脅威を後押しとしてデジタル化を進めているのです。

ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)のベンチャー企業であるiBankマーケティングは、2016年の設立以来、FFGの「出島」として金融/非金融を問わない異業種連携を推進してきました。「フィンテック」から「デジタル化」への変化を先取りしてきた同社は、急激な市場の変化に柔軟に対応できるように、グループ全体のデジタル化を牽引しています。

金融機関各社が挑む、デジタル化への取り組み事例

次に、デジタル化への具体的な取組みと富士通との共創、将来の展望等について各社が語りました。

ソニー銀行:ソニーグループらしいUXでパーソナライズされた個人のための金融サービスを目指す

ソニー銀行の武田氏は、「銀行とデザイン」と題して、ソニーグループならではのデザイン力を活かしたマルチカレンシーデビットカード「Sony Bank WALLET」を例として世界観を紹介しました。外貨に強い銀行として特徴ある海外でも使えるデビットということで、各国の紙幣が折り重なったイメージをインスピレーションとしたデザインは、2017年に世界的に権威あるiFデザイン賞を受賞するなど、利用者のUXも非常に高くなっています。もちろんデザインだけではなく、サービスとしても、日本で初めて実現された世界11通貨に対応した多通貨型決済機能は、ためた外貨を外貨のまま使えることから海外への出張や滞在の多い利用者から高い支持を得ており、外貨預金残高は4000億円を超えメガバンクに次ぐ規模まで拡大するなど同社の強みを象徴しています。加えて、デビットカードとスマホアプリとの連動により、生体認証ログイン、口座残高の確認、利用明細の管理などを行え、最新バージョンではカードの海外利用やインターネット取引利用の有効/無効を自由にカードコントロールできる機能も搭載しUXを高めました。

人生100年時代と言われる中で従来の金融サービスにとらわれず、ソニーグループの強みを活かしたUXでパーソナライズされた個人のための金融サービスを目指していきます。

イオンクレジットサービス:パーソナルデータを活用し、新たなビジネスモデルを見出す

イオンクレジットサービスの西村氏は、2017年夏に富士通とイオンフィナンシャルサービスが実施した、「パーソナルデータを活用した情報銀行」の実証実験について紹介しました。実験では、対象者となった富士通の従業員約500名が、数10日間、スマホアプリの専用アンケートに答える形で、毎日の行動、気分、趣味、価値観などのパーソナルデータを「富士通情報銀行」に提供(預託)しました。これに対しイオンは、情報銀行から蓄積された情報を、匿名または開示許諾を得た実名で提供を受け、一人ひとりの趣味や行動に合致した情報を提供します。例えば、近辺の飲食店のクーポンを配布したり、対象者が女性で疲れているようならイオンの家事代行サービス「カジタク」のクーポンを配信したり、融資を希望しているようであれば、イオン銀行の実店舗に来店してもらって金融相談のコンサルティングを行ったりしました。

実証実験では、事務局の想像を超える反応も多くあり、「気付き」の重要性を感じました。今後も、クレジットカードや電子マネーWAONを使った便利な決済方法や、スマホだけで完結する仕組みなど、富士通との共創で新たなビジネスモデルを検討していきます。

iBank:金融/非金融の垣根を超えた新たなサービスへの高度化を推進

iBankマーケティングの永吉氏は、2016年の富士通フォーラムで発表したマネーサービスアプリ「Wallet+」の機能を紹介しました。Wallet+は、FFGグループ発行のデビットカードでポイントを貯めることができ、支払履歴はスマホアプリ上で確認できるほか、一ヶ月間の収支が黒字だったらその分をワンタップで貯蓄口座に移すこともできます。このような金融サービスに加えて、利用者がやりたいことや欲しいものなどの非金融情報を配信する仕組みを用意しており、例えば旅行やクルマの情報を見た利用者が、ワンタップで旅行資金用、クルマ購入用の口座を開設することができます。この仕組みは利用者にも便利ですが、金融機関にとっては本来「無色」の預金を、「用途」という色付きのデータにして、別の金融サービスを提案するなど「価値の源泉」とすることができるのです。ここまでは富士通フォーラム2016の時点で実現していた機能です。

その後の2年間でWallet+は、黒字分を貯蓄ではなく運用に回せるロボアドバイザー「THEO+」との連携や、逆に赤字だったり、資金不足だけどすぐ旅行に行きたい時にローンが借りられる仕組みなどを追加しました。今後も、金融/非金融の垣根を超えた新たなサービスへの高度化を推進していきます。

みずほFG:「キャッシュレス決済のプラットフォーム形成」と「ビッグデータを通じたアプローチ」

みずほフィナンシャルグループの金田氏は、2つの方向性を示しました。一つはキャッシュレスへの取り組みです。フィンテックには、収益の拡大によるトップラインを押し上げる働きと共に、固定費の削減によるボトムライン押し上げ効果もあります。例えばキャッシュレスが進んでATMを2割減らせれば、ATM自体や収納する現金のみならず、補充コストや設置スペースも不要になるなど、メガバンクなら数百億円単位のコスト削減になります。さらに、キャッシュレス決済のプラットフォームをマネタイズできれば、トップラインにも効果があります。
もう一つはビッグデータを通じたアプローチです。伝統的金融機関として、店舗・ネット・コールセンター・顧客データ・SNSなど森羅万象から収集したデータを蓄積・検索して、分析し、モデルを作り、提案するという流れにAIを活用し、最適なマーケティングやリスク管理、新規ビジネスへの展開を図ります。調査や審査から始まった銀行員の原体験、原風景は本質的にビッグデータのビジネスに向いています。ただ、銀行単独でのデータ収集には限界もあるので、他業種との連携によりデータバンクを作り上げていく流れになるのかも知れません。

最後に隈本は、ディスカッションの結論として、「デジタル化に対するアプローチは各社異なるものの、もともと金融業が情報を生産してきた伝統的な産業であることを勘案すると、デジタル化のトレンドが新たな事業機会につながっていくという点で認識が共通している。富士通としても登壇された各社、来場いただいた金融機関やITベンダーの皆様と力を合わせて、よりよい金融サービスが日本で実現するように貢献していきたい」としてカンファレンスを締めくくりました。

登壇者
  • iBankマーケティング株式会社 代表取締役 兼 株式会社ふくおかフィナンシャルグループ デジタル戦略部 iBank事業グループ長
    永吉 健一 氏
  • イオンクレジットサービス株式会社
    イノベーション推進本部 執行役員
    西村 信一郎 氏
  • ソニー銀行株式会社
    経営企画部 副部長 兼 デジタル戦略企画室長
    武田 賢樹 氏
  • 株式会社みずほフィナンシャルグループ
    デジタルイノベーション部 次長
    金田 真人 氏
モデレーター
  • 株式会社富士通総研
    コンサルティング本部 金融グループ長
    隈本 正寛