製造業が見据えるConnected Industriesの未来

製造業は今、人、企業、工場、技術などが有機的につながり新しい付加価値を創造する「Connected Industries(コネクテッドインダストリーズ)」実現に向けて、その一歩を踏み出しています。
2018年5月17日~18日に開催された「富士通フォーラム 2018」では、カンファレンス「"つながる製造業"の実現によって生み出される新たな価値とは」を開催。
新たな価値やサービスの創造に向けて製造業がどのような取組みをすべきか語られました。
【富士通フォーラム2018 カンファレンスレポート】

「コネクテッドインダストリーズ」実現に向けて一気に舵を切る製造業の今

カンファレンスの前半は、経済産業省が提唱する「コネクテッドインダストリーズ」のコンセプトや工場のスマート化のメリットについてITRの浅利浩一氏が概説。また、ヤマハ発動機の森田敏正氏が現在の取り組みについて紹介し、富士通の東 純一がソリューションプロバイダーとしてどのように製造業の改革を支援しているかを説明しました。

昨年のIT投資増減指数は製造業が群を抜いてトップ、変わる製造業

まず始めに、ITRの浅利氏が「コネクテッドインダストリーズ」のコンセプトと製造業のIT投資動向について説明。

「コネクテッドインダストリーズ」の実現には、IoT、ビッグデータ、AI(人工知能)、ロボットなどのデジタル技術をツールとして活用することになりますが、そのための要素として経済産業省は、「弱みの克服」と「強みの維持・強化」という2つをあげています。強みの維持・強化は、工場や設備などのフィジカルな部分を指し、従来の日本の製造業が得意としてきた分野です。一方の弱みの克服とは、ものづくりに留まらない、顧客の価値につながるサービスやソリューションを創造する、イノベーションを起こす力をつけることです。この2つにおいてデジタル化技術を活用し、また自社の拠点・パートナー・サプライヤーとつながることで問題解決をしてくことがコネクテッドインダストリーズの狙いです。

ITRで実施した「IT投資動向調査2018」では、製造業のIT投資増減指数が全体平均ですべての業種を上回っており、ここ1、2年の製造業の前向きな姿勢を大きな変化とみています。その理由の1つが、コネクテッドインダストリーズやIndustry 4.0といったキーワードの意味を探るフェーズが終わり、実行していこうという流れになってきていることです。OT部門とIT部門、マーケティング部門の垣根が大きく下がっており、イノベーションを起こせる環境に整えていこうという、良い流れができつつあります。

スマートファクトリーに取り組むヤマハ発動機の今と課題

続いて登壇したヤマハ発動機の森田敏正氏は、同社の取り組みを紹介しました。

ヤマハ発動機では、2輪エンジンの組み立てを自動化したいという生産技術部門の課題があり、そこから製品や部品の組み立て工程の自動化に取り組んでいます。また、スマートファクトリー化も進めていますが、デジタル化に必要な工数は膨大で、ソリューションへの投資も大きい。投資効果のバランスを見極めるのが大事と考えています。現在、富士通のソリューションをトライアルしながら組み立て工場のデジタル化の取組みを始めています。大きなビジョンを掲げつつ、コンセプトやビジョン先行にならないよう、現場の職長さんなどを巻き込みながら進めています。

今後について、工場から出荷した後のお客様の反応や、どんな提案をすれば満足してもらえるか、というところまで、エンジニアリングチェーンと組み合わせて、企画段階からライフサイクル全体を俯瞰しながら、どこに重点的に取り組むのが最も効果的かを考える必要があると考えています。

製造業向けソリューションで豊富な実績を持つ富士通

前半の最後には、富士通の東純一が登壇し、富士通の取り組みを説明しました。

設計や製造、保守・保全と、ものづくり全体でデジタル化が進んできています。たとえば設計では、これまでCAD図面からプロトタイプを制作、テストを繰り返して製品を完成させていましたが、モデリングの自動化でちょっとした仕様変更時もCAD図面を作り直す手間が削減されました。また、シミュレーションの導入で、衝突実験を仮想空間上で実施し、実際の風洞実験などは1回に抑えてデザイン期間を短縮することが可能になっています。

島根富士通の工場では、ラインの工程を見える化し、さらに先を予測して現場のモバイル端末にプッシュ通知して部品の用意や交換を事前に指示することで、段取り作業を最適化しています。多品種少量、小ロットで生産するような現場では、こうした取り組みで生産効率が変わってきます。保守・保全でも、デジタル化で効率化が図られています。たとえば村田製作所様では工場設備のセンサーデータをリアルタイムに収集・可視化して、AIで故障予測しています。

富士通は、CAD、PLM、生産管理など、製造業向けソリューションやSIサービスに長く取組んでおり、多くのお客様との事例があります。また自らが製造業として工場の現場で改善のために開発したものを標準化し、ソリューションとして提供してきました。今後はこうしたサービスを個別に提供するだけでなく、それぞれつなげるサービスを開発したいと考えています。

"顧客提供価値"創造のために製造業が取り組むべきこととは

※カンファレンスの後半では日経BPの三好敏氏をモデレーターに迎え、コネクテッドインダストリーズが最終的に実現を目指す"顧客提供価値"に対して、製造業はどのような取り組みをすべきか、現在どのような取り組みがあるのかについて議論が行われました。

ヤマハ発動機の「MOTOROiD」が体現するプロダクトインのアプローチ

ヤマハ発動機ではすでに顧客提供価値の創造への模索が始まっており、それを表す1つの形が「人機官能」という開発思想です。人機官能とは、人と機械の関係性を再構築し、人の悦びや興奮を機械が生み、人にとって機械がなくてはならない、そんな価値を開発の中で体現していくという思想です。では、関係性を再構築して高めるにはどうすればよいか。同社は、人の官能が最大化するのは相手が生き物のときであり、それを体現する機械を作ろうと考えたそうです。こうして誕生したのが、昨年の東京モーターショーで出展された「MOTOROiD(モトロイド)」です。

バッテリーをおもりとしてセンサーで釣り合いを取ることで、転ばず自律的に動くことができるMOTOROiD。ジェスチャー認識機能によりライダーが手招きをするとゆっくり走行しながらそばまで来てくれるほか、走行時にはマシン後部のパーツがライダーの腰回りを包み込み、マシンとの一体感が得られます。発表直後から「未来が近づいた」「ペットみたい」「機械萌えする」といった声が次々に寄せられたと明かす森田氏。まさに人機官能という新たな価値を体現したプロダクトとなりました。

新しい価値提案に向けて、「従来は開発がスペックを決めて、おおよその構造を検討したのちにデザイナーがスタイリングするのが一般的ですが、今回は最初からエンジニアとデザイナーがコラボレーションし、構造段階からデザイン要素を織り込んでいきました」と森田氏は説明します。

もう1つ、MOTOROiDが新しいのはマーケットインではなくプロダクトインで企画したという点です。「お客様先でどんな商品がいいかとヒアリングするだけでは、本当の考えや思いはなかなか出てきません。むしろ、こちらから仮説に基づく価値を提供。そこでわき起こった反応があれば、それこそがイノベーションだと考えます。顧客提供価値を生むには、まずは提案が必要だと感じます」と森田氏は言います。

浅利氏も、プロダクトインというアプローチは、サプライチェーン、エンジニアリングチェーン、お客様の声を環流させるものと同調。それを実現するプラットフォーム作りをこれからのIT部門は担っていくことになると指摘しました。

顧客提供価値の前に、自己実現や夢を語ろう

最後に、今後取り組む人たちに向けてのメッセージを三好氏は質問しました。

森田氏は「顧客提供価値の前に、自己実現や夢を語ることが大切だと思います。アメリカではスタートアップが大きな夢を語り、資金を集めて実現に向けて動いていますが、日本ではこの夢を語るという部分が不足しているように思うときがあります。大きな夢を語り、賛同する人たちとつながり、実現に向けて邁進する。その手段として、コネクテッドインダストリーズや"つながる"を考えていければと思います」と述べました。

人機官能に感銘を受けたと明かす東氏は、「これまでコンピュータシステムの開発では、いかに仕様をきちんと固めるかが重要と考えられてきましたが、最近は富士通でもデザイン志向や芸術という、一見ITの対局にあるような概念を取り込み始めています。論理と感情を一体化させた先に顧客提供価値があると考え、取り組んでいきたいと思います」と述べました。

そして浅利氏は、「これからは自社内だけでの検討からオープンイノベーションを行う外部といかにつながることができるかが問われるでしょう。2020年までのマイルストーンはすでに一勝負着いており、2020年以降の継続的な成長に向けて何ができるかという、ポスト2020年の検討が始まっています。それを踏まえて、今後の活動を評価していただけることを期待しています」と会場に呼びかけ、講演を締めくくりました。

登壇者
株式会社ITR プリンシパル・アナリスト 浅利 浩一 氏
ヤマハ発動機株式会社 先進技術本部 技術企画統括部 統括部長 森田 敏正 氏
富士通株式会社 執行役員 グローバルサービスインテグレーション部門 エンタープライズビジネスグループ グループ長 東 純一
モデレーター
株式会社日経BP 日経BP総研 クリーンテック研究所 主任研究員 三好 敏 氏