「豊かな生活」を支えるために必要な地域の産業振興とは?

各地の地域活性化施策や顧客の課題意識・ニーズはどのように変化しているのでしょうか?また、様々なステークホルダーが共創するビジョンづくりは実際どのように行われるのでしょうか?鳥取県生活環境部環境立県推進課の方と富士通総研(FRI)のコンサルタントが豊かな生活創造を支えるために必要な地域の産業振興について議論しました。(対談日:2017年7月31日)

対談者(敬称略、写真左から)
高橋 誠司:株式会社富士通総研 プリンシパルコンサルタント
森田 のぞみ:株式会社富士通総研 コンサルタント
足立 浩司:鳥取県生活環境部 環境立県推進課 課長補佐
川口 紗弥香:株式会社富士通総研 シニアコンサルタント
櫻田 和子:株式会社富士通総研 マネジングコンサルタント

※この記事は、富士通総研(FRI)発行の情報誌「知創の杜 2017 Vol.7」P11~17に掲載されたものです。
※会社名、所属、役職は掲載当時のものです。

重要なのは「なぜ地域に人を呼び込むのか」

――昨今、地域活性化施策をめぐる環境が変わってきています。以前はイベントによる集客人数などを指標とすることが普通でしたが、最近は集客による成果や価値を測るアウトカム指標が求められ、進捗管理も厳しくなっています。計画づくりも多様な部署の人が集まって意見を出し合ったり、コンサルタントが一緒になってスクラムを組んで取り組んだりすることが求められるようになってきました。皆さんは各地が取り組む地域活性化施策やお客様の課題意識・ニーズの変化について、どのように感じていますか?

櫻田 和子(さくらだ かずこ)
株式会社富士通総研
行政経営グループ マネジングコンサルタント

櫻田 地域活性化というと、案内板やマップの整備、イベントの開催など「どうやって沢山の人を呼び込むか」という方法論から語られることが多かったと思います。これに対して我々は、地域の世代交代を狙う若手層や新たに移住してきた方々を巻き込んで、なぜ地域に人を呼び込むのか、どんな効果を狙うのか、そのために何をすべきなのか、この地域で使える資源は何なのかという根本を考えることから始めるようにしています。
例えば北海道知内町では、海岸沿いにある高齢化が進む小さな限界集落において、観光を切り口に、移住促進や安心して暮らせる生活基盤づくりを展開しています。具体的な事業として、空き家を活用したお試し暮らしを展開し、移住者を呼び込んだり、高台にある廃校小学校を登山客の受付・宿泊場所として再整備しつつ、津波発生時の防災拠点としての機能も確保したりといったことが挙げられます。単純に、1000万人の観光集客を目指すということではなく、それが地域の方々にとってどのような経済的・社会的効果につながるのか、ということを改めて考える時期が来ているのではないかと思います。

――「そもそも何のために」というところはアイデアソン(注1)でも大事だと思いますが、高知や新潟などで関わっている川口さんはいかがですか?

川口 紗弥香(かわぐち さやか)
株式会社富士通総研
産業グループ シニアコンサルタント

川口 「私たちも何を目指しているのか? 今何が起こっているのか?」というところから、本当にアイデアソンでよいかも含めて考えることを大事にしています。その中で感じるのは、例えば地域資源を使った新サービスのアイデアを創出したい、といった場合でも、アイデア自体はもとより、新しいことを考えられる地域の人材や人材同士の関係づくり、さらには自治体が個々のイベントを仕掛けなくても自発的に生まれる地域になる「文化づくり」をしたいという自治体が増えています。

――森田さんは以前から薩摩川内市の地方創生プロジェクトと関わっていますが、環境の変化や課題認識についてお話しいただけますか?

森田 のぞみ(もりた のぞみ)
株式会社富士通総研
クロスインダストリビジネス企画グループ コンサルタント

森田 私は薩摩川内市において、地域資源である竹を活用した産業振興プロジェクトの支援に携わっていますが、2年前の立ち上げ当初は地方創生50選にも選ばれて全国的に注目を集めたものの、最近は厳しい評価をいただいています。このプロジェクトでは、産学官金などにより「薩摩川内市竹バイオマス産業都市協議会」(注2)を立ち上げ、市内外の事業者や関係機関などのネットワークが構築されつつあります。現在ではそのネットワーク形成から具体的な事業化と雇用の創出、そして地域の人たちの所得向上にどれほど結びつくのかなどのアウトカムが求められていると思います。

鳥取県が目指すのは、ユーザーオリエンテッドな「水素の暮らし」

――都市の「ありたい姿」の1つとして、住民や新しく住みたい人にとっての「豊かな生活」が挙げられますが、その実現のためには現状の問題点とのギャップをどう埋めるかといった施策が必要となります。鳥取県は、そこで豊かに生きていくために水素社会の実現に取り組んでおられますね?

足立 鳥取県では約1年かけて自動車メーカー、ハウスメーカーと議論し、水素のビジョンを作りました。「水素社会」と言われますが、それがどのようなものか、国も描ききれていないと認識しています。ビジョン検討会では、「なぜ水素なのか」「なぜエネルギー政策を転換しないといけないのか」という究極の疑問を討論してきました。「水素社会」をエネルギーのサプライチェーンも含めて描ききるのは難しく、まずは県民から見た豊かな暮らしとは何かを考えて、水素のビジョンを作ることにしました。大切なのはユーザーオリエンテッドにすることであり、だからこそ我々は「水素社会」と言わず、「水素の暮らし」として考えているのです(図1)。

(図1)鳥取県が目指す「水素の暮らし」

寒い地域は生活もエネルギー消費量も全然違います。鳥取県の気象条件を考えると、今の技術で一番いい暮らしは「水素の暮らし」です。暮らしはエネルギーが基盤となり、その上に産業振興があります。最小単位の家を考えることが、全部につながっていくという考え方に立たないと、地域の計画も日本全体の計画も作れません。そして、将来の水素の暮らしを考えて作った実証拠点が「鳥取すいそ学びうむ」(注3)です。水素製造設備と水素で暮らせるスマートハウスを作ったのは鳥取県が初です。ここは全部本物の水素でやっていて、エネルギーの豊かさとは何か、何が問題なのかを小学4年生を想定して教える施設になっています(図2)。

(図2)「鳥取すいそ学びうむ」の整備イメージ
足立 浩司(あだち こうじ)
鳥取県 生活環境部環境立県推進課
次世代自動車普及促進総括 課長補佐

こうしたことは地方の中小企業だけでは行えないため、大企業とコラボレーションする仕掛けをしています。鳥取ガスさんが水素の知識や技術を身につけましたが、これも自動車メーカーやハウスメーカーと一緒に作り上げたからです。こうしてステーションの運営もできるし、東京の大企業を誘致しなくても済み、地元のプレーヤーが活躍できる。そうして地域の経済成長にもつながります。

川口 大企業から今後のビジネスをどうするかという相談も受けますが、地域貢献を考えているお客様も多いです。大企業の技術を教えるとか、販路を使うとかだけでなく、人材も含めた新しい産業を地域に根付かせるということが必要だと思われます。自治体から見て、他の地域から参入して来る企業とどう組めばいいと思われますか?

足立 大企業はウェルカムです。ネームバリューがあるので、地元の企業さんも喜んでいます。これまで次世代自動車の仕事で大企業さんとおつき合いがありましたが、地球温暖化対策のPRを考える中で、トレンドが水素に変わり、水素利活用の住宅の話が持ち上がってきました。水素はツールでしかないので、あくまで究極の省エネ住宅・暮らしを体現するものですが、自動車メーカーを説得し、ハウスメーカーと連携していただくのに2年かかりました。様々な困難がありましたが、全部勘案しながら「あくまで県民にとっての豊かな姿です」と説得しました。

櫻田 足立さんのような方が様々な企業の思惑を理解しながら巻き込んでいけたからこそ、こういう絵が描けたのだろうと思います。

――同じことがコンサルタントに求められている気がします。今までは仕様書にある項目に沿って作業をしてアウトプットを出せばよかったわけですが、答えがあるか分からないものを、顧客と一緒になって試行錯誤して取り組むような仕事が増えています。様々な関係者の思惑を聞いて回り、相手にとってメリットになりそうな情報を提供して、徐々に関係性を高めていく、広い意味でのコミュニケーション力が求められていると思います。

森田 薩摩川内市では、次世代エネルギービジョンを策定し、様々な事業を推進していますが、ビジョンの冊子には市内の子供たちに将来どんな薩摩川内市であってほしいかを描いてもらった絵が載っています。緑や青を用いた絵が多く、自然が豊かでエネルギーが活用されている街が子供たちに意識されているのだと思いました。
プロジェクトを大手企業と地元企業が組んで一緒に行うことは、人材育成につながると私も思います。薩摩川内市でも地元企業と東京の企業、そして大学や金融機関とがチームを作って、セルロースナノファイバーという竹から作る新素材を用いて低炭素化を目指す取り組みを進めているところです(写真)。このような取り組みにより、竹の需要や付加価値も高くなり、林業に携わる人たちの所得の向上や雇用にもつながっていくとよいと思っています。

セルロースナノファイバー(手前のビン)

その地域で人を作り、文化を作るために

――地域のありたい姿の実現のためには、今後ますます行政と支えるコンサルタントの担うべき役割が高度になっていくことが予想されます。そこで最後に、足立さんから私たちコンサルタントに期待することをお話しいただきたいと思います。

足立 1つは、国の制度、霞が関の動きに敏感であること。それから提案力ですね。例えば地方創生に資する提案には、関連する国の予算情報などは最低限必要です。日本の産業界は技術を活用していくに際して、水面下でシンクタンクを動かし、地方自治体に営業してもらう事例も出てきています。しかし、中には予算規模が非現実的であったり、明らかに他都市の焼き直しであったりするようなものも見られます。地方財政の現状や地方経済も踏まえて提案すべきで、地方なりのサービス、地方創生に資する提案が必要です。

――そういうリクエストに対し、我々コンサルタントはどういう形で応えていきますか?

櫻田 地域によって個性や求めるものも違う中で、その実情を理解しながら提案していくことは最低限必要だと思います。我々は、さらにその地域の10年後を見据えたうえで、地域で継続展開できる技術なのか、継続させるためにはどのようなスキームが必要なのかを視野に入れた提案をしたいと思います。

川口 提案する時は必ず現地に行き、その土地のことを知るというのは当然として、足立さんのような自治体の方から私たちコンサルタントに対して「一緒に考えたい」と思ってもらえることが提案の第一歩だと思います。その地域で人を作る、文化を作るということを考えていかないと、新しい産業や観光のアイデアは表面的に成功しても根付かないと思うので、地域の人の心を大事にしていきたいと思います。

森田 提案する際に、そこに住んでいる人や働く人にとって何が幸せか、将来のあるべき姿も踏まえ、その地域の現状や資源、強みや弱みも認識したうえで解決策を提案できる力と、協力者と話し合いや試行錯誤を重ねながら、着実に形にしていく力を身につけていきたいと思います。

[司会]高橋 誠司(たかはし せいじ)
株式会社富士通総研
クロスインダストリビジネス企画グループ
プリンシパルコンサルタント

――答えは絶対これだということではないので、迷いながらもお客様や関係者の皆さんと共創していくのがよいでしょう。まさに問題意識をもって自らネットワークを作って前に進んでいく行政職員の皆様と共創パートナーとしての関係性を作り、様々な議論や取り組みを進めていくことにより、お互いの人材育成や体制づくりの形になるようにしていきたいと思います。本日はありがとうございました。

  • (注1)アイデアソン:Ideathon。アイデア(Idea)とマラソン(Marathon)を組み合わせた造語。特定のテーマに興味を持つ人が集まり、課題解決につながるアイデアを出し合い、それをまとめていくワークショップ形式のイベント。
  • (注2)薩摩川内市竹バイオマス産業都市協議会:市内外の広域的な事業者や関係機関などが参画しており、2017年8月30日現在会員数95社。
  • (注3)すいそ学びうむ:鳥取県の水素エネルギー実証と環境教育の拠点。2016年1月25日に鳥取県と3社(鳥取ガス、積水ハウス、本田技研工業)が締結した、地球温暖化防止と持続可能な低炭素社会の構築を目指す鳥取県の「水素エネルギー実証拠点整備プロジェクト」を推進する協定に基づき整備したもの。
知創の杜
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「豊かな生活創造を支える地域の産業振興」

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