フランスに学ぶ!デジタル革新を成功に導く産学官イノベーション・プロジェクトとは

オープンイノベーションを成功に導くことが難しいとされる日本。その成功事例としてのモデルケースとなるのがフランスだといえます。フランスでは、特に学術部門の貢献によって新規ビジネスを創出しています。産学共創でオープンイノベーションを推進するための重要な要素について、フランスのトップ研究者が語ります。
【富士通フォーラム2018 フロントラインセッションレポート】

フランスにおける学術機関のビジネス創出について

Director of the Inria Saclay
Bertrand Braunschweig(ベルナルト・ブラウンシュヴァイク)氏

Inria(フランス国立情報学自動制御研究所)のサクレ―研究センターでディレクターを務めるベルナルト・ブラウンシュヴァイク氏が、フランスにおけるAIの動向やInriaの活動について実際の事例を交えながら紹介しました。

国家戦略でAI分野に注力するフランス

フランスは歴史的に数学がとても強い国です。過去にはガロア理論のヴァリスト・ガロア氏、フェルマーの最終定理のピエール・ド・フェルマー氏などを輩出しています。AIの世界でも多くのリサーチャーが活躍していて、GoogleやFacebookなどにも多くのフランスのリサーチャーが在籍しています。

フランスは現在、国家を挙げてAI分野に注力しています。エマニュエル・マクロン大統領は2018年3月末、同国におけるAI戦略を発表しました。今回の発表は、フランスの国会議員でもある、フィールズ賞を受賞した著名な数学者セドリック・ビラニ氏がまとめたAI戦略に関わる報告書「VILLANI REPORT」を受けたものです。

発表されたAI戦略では、2022年までに総額15億ユーロをAI分野に投資することを掲げています。また、Inriaが民間企業4社とともに国家主導のAIプロジェクトを推進していくという計画も明かされています。

オープンイノベーションのカギは「技術移転」に

Inriaはフランスのトップクラスの研究機関であるとともに、多数のスタートアップを創出してきました。フランス国内に8つの研究所を構えていて、その中核となるのが、サクレ―の研究センターです。また、6つの研究所はそれぞれサテライトオフィスを保有しています。

現在、100以上の国の研究者が研究開発に従事していて、2,400人の研究員が在籍し180のプロジェクトチームが組織されています。ヨーロッパにおける有能な科学者を助成する「欧州リサーチ・カウンシル(European Research Council:略称ERC)」では、50のプロジェクトで支援を受けています。また、研究機関や学術機関との連携を進めていて、180プロジェクト全てがフランス国立科学センターと協業しています。

ブラウンシュヴァイク氏は、Inriaと他の学術機関との差別化要因として「技術移転」を挙げています。「私たちの組織には、多くの技術移転の仕組みが存在し、テクノロジーや専門性を民間企業へ移転しています。世界的な大企業からイノベーションラボなどを含めて、企業の大小を問わず協業している点が強みです」と優位性を強調しました。

実際、edfやSAFRAN、TOTALなど国内企業にとどまらず、富士通やマイクロソフト、サムソン、Facebookなど世界的な企業とも共同研究を実施しています。ブラウンシュヴァイク氏は「国際的な連携についても活動の場を広げています。富士通の取り組みもその一環です」と述べています。

また、ブラウンシュヴァイク氏は「特にスタートアップの創設することに努めています。スタートアップが経験を積めるようにフォローや資金調達のサポートをするファシリテータの役割も担っています。また、研究所・大企業・ベンチャーなどネットワークを確立し、人材交流などにも努めています」と説明。これまで140以上のスタートアップが生まれ、その内の75%が大企業に統合されてきました。3,000人以上の研究者の雇用を創出しています。

富士通とフランス政府/Inriaとの協業

次に、Fujitsu FranceのCTO(最高技術責任者)アクセル・メリーが、フランスにおける富士通のAIビジネスを紹介しました。

Fujitsu France CTO
Axel Mery(アクセル・メリー)

富士通は2017年3月、フランス政府との連携のもとフランスのデジタル革新を支援するイノベーション・プロジェクトを立ち上げ、新サービスの開発や新技術の獲得などに今後5年間で5,000万ユーロ以上の投資を行うことを発表しました。また、Inriaとの提携により、AI分野にフォーカスした専門集団である「CoE(Center of excellence)」を設立しました。

メリーは「CoEは研究よりも事業を展開しています。メンバーはソリューションを開発してプロジェクトを提案し、課題やニーズを解決することに努めています。また、フランスの高等職業教育機関の1つであるエコール・ポリテクニーク(Ecole Polytechnique)の優秀な学生やインターンを受け入れ、実ビジネスに基づいた研究や実商談に関わる機会を提供し、フランスにおけるデジタル人材の育成に積極的に貢献しています」と説明。CoEの初年度の活動状況としては、保険や小売業など10以上のユースケースを既に実現していることを報告しました。

富士通の産官学連携で挑む共創プロジェクト

富士通株式会社 執行役員
原 裕貴

富士通の原裕貴が、国内における富士通のAI関連の産学官連携プロジェクトの例として「ものづくり」「ヘルスケア」「社会インフラ」などの事例を紹介しました。

一つ目の事例は、理化学研究所との共同研究です。両者は2017年4月、AIの研究センター「理研AIP-富士通連携センター」を設立しました。原は「研究センターでは日本の一流のAI研究者と共同研究しています。目標は"想定外を想定するAI"の開発です。環境の不確実な変化に対しても、的確な未来予測に基づき、より良い判断を支援するAIを研究開発しています」と説明しました。

その一例として、ものづくりにおけるAIの有用性を検証するプロジェクトを紹介。AIを使うことでリチウムイオン電池の固体電解質の開発を効率化するというものです。従来は膨大な時間がかかっていたシミュレーションについて、「ベイズ推定法」を使うことで、より少数の計算データを用いて効率的な開発を可能にしています。ベイズ推定法とは、観測された事実から推定したい事柄を確率的な意味で推論することを指します。

次は、京都大学との共創によるヘルスケアの事例を紹介しました。両者は、腎生検画像から糸球体を効率的に検出するAIの活用に取り組んでいます。具体的には、医師の目をサポートする物体検出技術の開発を行っています。従来、診療画像から物体を検出するには、数万枚規模の大量の正解データが必要でした。両者が開発した技術を用いることで、正解のないデータを基に、精度よく物体位置が推定された正解データを大量に作成することが可能です。また、検出精度を2倍以上も向上させることに成功しています。原は「このプロジェクトは、医師と共同で研究を進めています。AI活用プロジェクトでは、専門分野の有識者と組まないと成果が出ません」と説明しました。

また、社会インフラへのAI活用として九州大学との共創事例を紹介しました。両者は、公平で受け入れられやすい社会受容性を考慮したAI数理技術の確立に取り組んでいます。原は、福岡空港における混雑予測、糸島市における旅移住地区推薦のためのマッチングアルゴリズム、さいたま市の保育所の入所選定のためのマッチングなどを紹介し、「これらのプロジェクトは、学術機関や民間企業、現場が一体となって共創に取り組んでいる事例です」と説明しました。

共創の目玉「トポロジカルデータ解析(TDA)」

更に富士通とフランス政府、Inriaは「トポロジカルデータ解析(TDA)」を使った共同研究を始めています。富士通はフランス政府と共同でAIを中心に共創を推進していますが、その目玉となるのがTDAの共同研究です。 InriaでTDAの研究を主導するフレデリック・シャザール氏が、Inriaにおける「トポロジカルデータ解析(TDA)」研究を紹介しました。

Inria research center of Saclay senior research scientist
and DataShape project team leader
Frederic Chazal(フレデリック・シャザール)氏

TDAとは、IoT(Internet of Things)に代表されるようなセンサーデータを効率的に解析する技術です。数学の最先端技術を活用することで、様々な現象を自動的に検知することができます。例えば、インフラの劣化をセンサーデータから検知したり、車載センサーを活用して故障する前に修理を行なったり、スマホセンサーを使ってユーザーの行動を読み取ることなどを可能にします。

フランスのトップ研究者が語る、産学共創の重要な要素とは?

最後に、「オープンイノベーションを推進するに当たり、重要なポイントは何か?」についてフランスのトップ研究者が語りました。
シャザール氏は「産学連携で重要となるのは、良好なパートナーシップ関係を築くことです。それぞれにとってメリットがなければ成立しません。また、共通の理解が必要となります。そのためには、定期的に集うことで人材交流などを積極的に実施することが重要です。」
ブラウンシュヴァイク氏は「また、コラボレーションを実現するためには、コラボレーションを始める時、実務的な観点からAI活用を考えることが重要です。スタートアップ企業では、より良いパートナーシップを構築するためのハングリー精神が求められることもあるでしょう。」と説明しました。

最後に原が「日本はまだスタートアップを支援する体制が十分には整っていないので、フランスでの取り組みには学ぶことが多くあります。富士通でもInriaとの協業成果を踏まえて、これからの共創に役立てていきたいです」と語り、セッションを締めくくりました。

登壇者
  • Director of the Inria Saclay
    Bertrand Braunschweig(ベルナルト・ブラウンシュヴァイク) 氏
  • Inria research center of Saclay senior research scientist and DataShape project team leader
    Frederic Chazal(フレデリック・シャザール) 氏
  • Fujitsu France CTO
    Axel Mery(アクセル・メリー)
ファシリテータ
  • 富士通株式会社 執行役員
    原 裕貴