データ処理の"リアルタイム性"が求められる今、企業と社会の変革を導く最先端テクノロジーとは

社会実装フェーズにあるAI(人工知能)を中心とした最先端テクノロジーの可能性と社会課題について考えるイベント、「朝日新聞DIALOG AI FORUM 2018」が2018年5月20日(日)~5月24日(木)の5日間、東京ミッドタウン日比谷のビジネス連携拠点「BASE Q」にて開催されました。その中の一つの講演「AI Assisted Workの未来」では、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社の長谷川晃一氏と富士通の東圭三が登壇。今のビジネスの現場で起こっている変化と、社会課題を解決するテクノロジーの最新事例について語りました。

企業と社会の変革を導く先端テクノロジーの動向

「今ビジネスの現場で起こっている変化」をテーマに、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社の長谷川氏が語ります。

なぜ今データ処理の「リアルタイム性」が求められているのか?

ビジネスにおけるデータの活用は、近年飛躍的に伸びています。1990年代では「何が起こったのか?」を説明する用法(Descriptive Analytics)がメインでした。2000年頃から、データマイニングというテクノロジーの進歩に伴い、原因に踏み込んでいく診断的なデータの活用(Diagnostic Analytics)が行われてきました。
最近ではテクノロジーの掛け算により、過去の分析をする用法から、将来の分析をするといった用法へと拡大しています。つまり、「今後何が起こるのか?」という予測的な分析(Predictive Analytics)、更にはデータを活用して「どう意思決定をしていくべきか?」という処方的な用法(Prescriptive Analytics)が主流になっているのです。

今ビジネスの現場で起こっている変化のポイントは、「予測的」・「処方的」なデータの用法が拡大する流れと同時に、変化し続ける現実に追随するために「リアルタイムな処理」が一層強く求められているということです。「何をすべきか?」に踏み込めば踏み込むほど、現実の世界と計画がより近くなければならないので、高サイクルに計画を更新して実際のアクションに繋がる分析を行うことが現在の一番大きな課題となっています。

計画のリアルタイム化には、コンピューティング能力の強化が必須です。しかしコンピューティングパワーは、いわゆるムーアの法則(注1)で性能は向上しているものの、今後も同じペースで伸びるかは不透明です。そこで新しいアーキテクチャへの期待が大いに高まっています。

  • (注1)「半導体集積回路のトランジスタ数は2年ごとに2倍になる」という法則。大規模集積回路の製造・生産における一つの指標とされている。インテル創業者の一人であるゴードン・ムーア氏が1965年に出した論文の中で初めて提唱。

各国・企業が覇権を争う、量子コンピューティング技術の動向

最近、大きなブレイクスルーがありました。量子コンピューティング技術が実際に実用化されつつあります。量子コンピューティングとは、量子現象を利用するコンピューティング技術の総称で、従来のコンピュータで3年間かかる計算を、たった数秒間で終えてしまうような破壊的技術です。たとえば2015年、Google社が「D-Wave社の量子コンピュータを2年間運用した結果、従来型コンピュータと比較して1億倍高速であることが証明された」と発表をしました。このような新しい高速なコンピューティングアーキテクチャが登場し、処方的な用法(Prescriptive Analytics)に非常に有効な技術として注目を集めているのです。

量子コンピューティング技術といっても様々な方式があり、世界各国の主要なコンピュータプレイヤーはこのテクノロジーにかなり大きな投資をしながら技術開発をし、覇権を争っています。富士通も量子コンピューティング技術に着想を得てより高速な処理をする、アニーリング方式のテクノロジーを開発。先行して新アーキテクチャーの実用化に漕ぎ着けています。

各国においても数百億から数千億円規模の長期・大型プロジェクトが開始されており、研究開発は更に加速化する見込みです。アメリカは国防省主導プロジェクトなどにおいて年間200億以上の投資をしています。イギリスやデンマークを始めとする欧州の国々や中国も大きな投資をしており、各国からも注目を集めています。日本は尖った技術を持っているものの、2018年予算では22億円と投資額があまり大きくありませんが、世界各国で量子コンピューティング技術開発に向けた動きが活発になってきていると言えます。現段階では量子コンピューティング技術はほとんどの会社では実用化されていませんが、2023年にはグローバルトップ企業の約20%がビジネスに量子コンピューティング技術導入を検討するという予測もあります。

量子コンピュータで"できること"とは?

しかし注意しなければならないのは、必ずしも量子コンピューティング技術は万能なわけではないということです。従来のコンピュータでは不可能だった領域を見極めることが重要で、新アーキテクチャで解決できることを正しく模索することが、今求められていることです。早い企業では様々なインダストリにおいて量子コンピューティング技術のPoCをスタートしています。

実際に何を解決できるかというところでは、「組合せ最適化問題」が挙がっています。組合せ最適化問題は、金融からメディアまで幅広いインダストリにおいて潜在しています。たとえば物流ルートの最適化や機械設計のシミュレーション、製薬におけるタンパク質の解析、メディアでは広告ポートフォリオ最適化など。多様な活用用途がある中で、どこが本当に使うべきポイントかを見極めることが非常に重要です。

先端テクノロジー導入のカギは、「Think Big」、「Start Small」、「Scale Fast」

ただ先端テクノロジー導入に対する課題もあります。米国企業や独企業などと比較すると、日本企業におけるAIなどの先端テクノロジー導入に向けた動きは低調となっています。主に「結果の不透明性」、「新テクノロジーへの対応能力の欠如」、「変化への抵抗」の三点が先端テクノロジー導入に対する阻害要因となっています。特に日本企業においては、先端テクノロジーを活用した生産性向上に向けた取り組みを阻害する組織的課題が存在しているケースも多く見受けられます。先端テクノロジーの導入が競争力確保に向けて必須だとすると、どのようにトライアルしていくかが重要な鍵を握ります。

我々がよく提案するのは「Think Big」、「Start Small」、「Scale Fast」です。大きなグランドデザインを持ち、テクノロジーへの理解を深め、自分たちのやりたいことを理解しながら、小さくスタートしていきましょう。つまり、中期的なビジョンを持ちつつ、まずは足元で小規模なPoCを展開し、実証するアプローチを徹底することが重要なポイントとなるのです。

ビジネス・社会課題を解決する、富士通の新アーキテクチャ『デジタルアニーラ』とは

富士通のテクノロジーがビジネスや社会の課題にどう活用できるのかについて、長谷川氏と富士通の東がパネルディスカッション形式で語りました。

長谷川:ビジネスコンサルティングに入っていると様々なテクノロジーに触れることが多いのですが、量子コンピューティング技術は非常に先の技術であると思っていました。しかし先日富士通は、量子に着想を得た新技術「デジタルアニーラ」の商用化を発表しましたね。非常に先端的で尖った技術だと思いますが、このテクノロジーの特長はどのようなところにあるのでしょうか?

東:デジタルアニーラは量子の発想をデジタル回路で実現した技術です。量子は0と1が同時に存在するという摩訶不思議な特性を持つため、高速な計算処理が可能です。当社では20年以上量子デバイスの研究開発を続けています。その研究者がコンピュータの研究者と交わって、「量子デバイス的なことをデジタル計算機を使ってできないか?」という独特な発想から生み出しました。だから量子デバイスだけを研究している人には作れなかっただろうし、逆にコンピュータだけの研究をしていた人には生み出せなかったと思います。二つの領域を偶然一人の人間が跨いだからこそ発明できた技術なのです。

長谷川:昨年デジタルアニーラの開発を発表し、今年から本格稼動という非常に早いペースで進められていますね。お客様の反応はいがかですか?

東:定期的に情報をリリースしていますが、その都度かなりの反響をいただいております。たとえば投資ポートフォリオの事例を通じて金融業界、創薬の分子類似性の事例を通じて化学業界などのお客様から引き合いがございます。最近では社内で実践した工場内の動線最適化の事例から、物流・流通業界のお客様から同様なことができないか、あるいはそれを発展させたことができないかというお問い合わせもいただいております。

デジタルアニーラによる解決が期待される組合せ最適化問題

長谷川:最適化の問題は皆様の耳には少し聞き慣れない問題かもしれませんが、実は古くからある問題でもあります。このようなテクノロジーが出てきたことによって、新しいチャレンジや再び向き合うよい機会だと思っています。お客様からはどのようなご相談がありますか?

東:国内では、ソフトウェアで従来は長時間かけて処理していたものを高速化したいという相談を多く受けます。一方海外では今まで処理していたことではなく、さらに一歩進んだ斬新なアイディアで新しいことをやれないかというお問い合わせが多々あります。

長谷川:創薬におけるタンパク質の解析という先端的な領域だけでなく、我々にも身近な領域、たとえばプロ野球やプロサッカーの試合の組み合わせにも、裏では処理に最適化が使われています。実は私たちの生活の身近なところでも処理に壮大な時間を要している問題はございますが、今後デジタルアニーラの市場としてはどのような領域が延びるとお考えでしょうか?

東:物流における動線の最適化や交通量・交通経路の最適化、それを応用して船の港湾の最適化などの領域に注目しています。

デジタルアニーラを倉庫内の部品配置や棚のレイアウトの最適化に活用した(株)富士通ITプロダクツでの事例

長谷川:物流や生産の現場には非常に大きなチャンスがあると思います。デジタルアニーラはクラウドサービスもあるので比較的導入しやすく、従来の仕組みに組み合わせて導入できるのもひとつのポイントですね。今後富士通としてはこのテクノロジーを普及させていくため、どのようなことに取り組んでいくのでしょうか?

東:一点目はお客様との共創や社内での実践を通して多くの事例をつくりたいと考えています。二点目は出来た事例をAPI化・標準化してより使いやすいものにしていきたいです。さらに三点目としてはグローバルに活動を広げていきたいですね。北米からデジタルアニーラの提供を開始しようと考えています。

長谷川:本日我々が富士通のテクノロジーを紹介した背景としては、我々はデロイト ハイテク コンピテンシー センター(Deloitte HIGH-TECH COMPETENCY CENTER)という組織を立ち上げています。これはビジネスコンサルと富士通のようなテクノロジープレイヤー、学術研究機関などを繋げて最先端の取り組みを紹介しつつ、実際のビジネスの現場や社会の課題の解決に向けて、どのようにテクノロジーを使うのかという活動をしております。今のビジネスはひとつの会社が単独で変えていけるものを超えています。様々な領域のプレイヤーがエコシステムを作り、情報を共有しながら新たな取り組みをする。デロイト トーマツ コンサルティングとしては、このようなコミュニティを作り先進的な取り組みをされているリーダーを繋いでいくということを実施しております。このような対話を促進することに加えて、先端テクノロジーを使ったトライアルも推進していきたいと考えています。

登壇者
  • デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
    パートナー(登壇時点はシニアマネジャー)
    長谷川 晃一
  • 富士通株式会社 AIサービス事業本部 本部長
    東 圭三