編集部ピックアップ

センサー、IoT、SNS、ビッグデータ解析――テクノロジーで自然災害に立ち向かう

例年より暑い日が多かった2018年の春も終わり、今年もまた、梅雨の季節がやってきました。海外からのお客様に、「日本は四季がはっきりしているのが素晴らしいです」とお褒めの言葉をいただけるのは嬉しいことです。しかし、四季がハッキリしているということは、季節感あふれる中で自然の活動が活発となり、同時に、豪雨や台風の季節の始まりを予感させます。

近年は、ゲリラ豪雨に見られる局地的で極端な大雨が数日にわたるといった自然現象が発生しており、都市交通に影響を与えるだけでなく、河川の氾濫や土砂崩れなどの大規模災害をもたらすケースが出てきています。自然災害の恐ろしいところは、道路や橋といった大型構造物さえもなぎ倒してしまう圧倒的な力を発揮する危険性があることと、私たちの予測を上回る速さで潜在的な被害が拡大する危険があることです。
私たちは自然災害の発生そのものを防ぐことはできませんが、その発生や災害規模を予測したり、その事態に備えた対策を講じることはできます。そして今、10年前には実用化されていなかった様々なICTソリューションを手にしています。今回は、自然災害が引き起こす被害を小さくしたり、被害そのものを回避するための防災・減災に向けたICTソリューションを見ていくことにしましょう。

低コストで効率的に災害発生の予兆をつかむためには?

防災・減災に向けたICTソリューションは大きく2つに分かれます。1つは災害の兆候を見いだすためのリアルタイム監視。もう1つは将来の自然災害に備えるための災害シミュレーションです。
リアルタイム監視は、災害が発生したことや、災害発生の兆候といえる異常事態をいち早く検知することを目的とした取り組みです。早いタイミングで災害の発生や兆候を知ることができれば、災害が大きくなるまでの時間を使って、災害現場から避難することができますし、被害の広がりを局所的に押さえ込むなどの対策を打つこともできます。

ICTを用いた異常検知システムとしては、例えば橋や支柱などのインフラ構造物に通信機能を持つセンサーを埋め込んで状態監視を続け、経年劣化などによって生じる強度不足の兆候をセンサーが検知するデータを解析して見つける「インフラ状態監視システム」があります。検知データを大量に収集し、そのときどきの環境や強度と関連付けてビッグデータ解析すれば、致命的な強度不足に陥る前に補強工事を実施できるというわけです。
自然災害の兆候を見つけるシステムも同様で、関連するインフラ設備にセンサーを組み込んで状態監視し、その検知したデータを分析することで災害の兆候を見つけることができます。例えば大雨で河川が氾濫する危険がある場合、河川の水位をセンサーで監視することで氾濫の兆候を見つけ出すことができます。
ここで問題になるのはセンサー設置に伴うコスト負担です。例えば、下水道管路内の水位を測定するために光ファイバーを用いる場合、測定箇所まで専用ケーブルを敷設する必要があるなど多大な導入コストがかかります。また、電池のみで稼働するセンサーを使用する場合は頻繁に電池交換を行う必要があり、メンテナンスコストがかさんでしまいます。

富士通は、「下水道氾濫検知ソリューション」を提供しています。水位センサーをマンホール鉄蓋に設置し、下水道管路内の水位情報をインターネット経由で定期的にサーバーに収積します。あらかじめ設定した水位に到達すると、防災担当者にアラートを通知します。

下水道氾濫検知ソリューション

本ソリューションは既設のマンホール鉄蓋を、専用のマンホール鉄蓋に取り替え、水位計測機器(水位センサー、センサーノード(無線通信装置)など)を設置することで水位計測を行うことができます。このため大規模な工事は必要なく、導入コストをおさえることができます。また、水位センサーへの電力供給は電池に加え、蓄熱材を活用することで、高効率にマンホール鉄蓋の温度変化から得られるエネルギーを電力に変換することができる熱電変換ユニットを用います。これにより電池交換の頻度を下げることができ、メンテナンスコストの削減も期待されます。富士通研究所が福島県郡山市様とで行った実証では、5年間電池交換が不要との試算結果が得られました。(注)

従来の方式よりも少ないコスト負担で、急激な下水道管路内の水位上昇を即座に検知でき、局所的な集中豪雨に伴う氾濫被害の軽減に向けた迅速な対応が可能になるのです。

マンホール蓋への装置搭載イメージ
  • (注)電池交換頻度は気象条件や設定により異なります。

津波の直接的な被害予測に加えて、災害時の人の動きもシミュレーション

大規模な自然災害対策としては、東日本大震災以降、津波対策を念頭に置いた街づくりが活発になっています。沖合での津波観測の整備が進められるとともに、それらを活用する各種の津波予測手法の開発が進められています。

多様な地形条件を持つ日本の国土では、津波リスクの程度や津波避難における緊迫度、さらに津波予測の難易度に、地域ごとで大きな違いがあります。例えば、南海トラフ巨大地震のシミュレーションでは、地震発生後数分で津波が到達する地域がある一方で、川崎市など東京湾内側においては津波の到達まで1時間以上の猶予があると想定されています。今後起こりうる大津波に向けた被害軽減対策をより効果的に進めるためには、全国を概観した津波予測の活用に加え、地域ごとの地理的環境を考慮した津波予測が求められます。

地域に特化した津波予測による災害に強い街づくりの取り組みとして、川崎臨海部を対象とする産学官の連携プロジェクトを紹介しましょう。プロジェクトでは川崎臨海部において、東北大学災害科学国際研究所と富士通研究所が開発した津波浸水シミュレーション技術と津波避難シミュレーション技術を活用し、東京大学地震研究所が想定する地震・津波ハザードについての検討を始めています。具体的な検討項目としては、a)沿岸波形予測の高精度化、b)リアルタイム浸水解析、c)予測情報の活用方法検討、d)沿岸津波挙動の特徴把握――があります。

川崎市における津波予測の検討項目
川崎市における津波事前対策に関する検討項目

このプロジェクトで興味深いのは、津波の波形変化や浸水範囲など、津波そのもののシミュレーションだけでなく、人の動きもシミュレーションすることです。津波に襲われたとき、人々はどのように避難するのか、どのような混乱になるのかなどをシミュレーションできれば、都市設計の変更による減災効果をシミュレーションで確認できます。街づくりそのものに直接役立つ貴重なデータを得ることができるようになるわけです。

災害シミュレーションは、事前の防災対策において利用されることが多いですが、スパコンなどの最新ICTを活用することで、精度の高いシミュレーションをリアルタイムに実行できるようになります。これを災害予測に反映させれば、これまで経験したことのない大規模な自然災害であっても、その観測情報に基づいて、的確な避難と適切な減災対策を迅速に実行できるようになるでしょう。

万一の時に備えて

自然災害の兆候を見つけ出すシステムの導入と、災害シミュレーションの結果を反映した街づくりの実践によって、私たちの街の安全性がこれまで以上に高くなっていくことは間違いありません。ただし、実際の災害時に問われるのが、私たち一人ひとりの的確な判断と行動です。災害対策ソリューションが構築されていても、私たちがそれらを積極的に活用して行動しない限り、防災・減災の効果は上がりません。家庭やオフィスのある地域ではどのような災害ソリューションが実用化されているかを確認し、万一の時にはどのような行動を取るのかを考えてみるところから始めるのはいかがでしょうか。

著者情報
林哲史
日経BP総研 クリーンテック ラボ 主席研究員
1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。「日経データプロ」「日経コミュニケーション」「日経NETWORK」の記者・副編集長として、通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長を歴任。「ITpro」、「日経SYSTEMS」、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆。2016年12月に「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月に「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。