スポーツの未来を切り拓く!ICT活用で創る"新しいスポーツ文化"とは

2020年に向けてスポーツ業界への関心が大いに高まる中、ICTの力でスポーツの発展に貢献するために、富士通はあらゆる分野で共創に取り組んでいます。本記事では、富士通の阪井洋之が日本と世界のスポーツ市場の現状と発展について語るとともに、富士通の先進的な取り組みを展開。続いて体操競技とバスケットボールの先進事例ついて、富士通の藤原英則とB.LEAGUEの葦原一正氏が、各々具体的な取り組みを紹介します。
【Fujitsu Forum 2018 特別講演レポート】

日本のスポーツ市場規模のポテンシャルは3倍増!

富士通株式会社
執行役員常務
東京オリンピック・パラリンピック推進本部長
スポーツ・文化イベントビジネス推進本部長
阪井洋之

日本のスポーツ産業の発展を考える上では、世界のスポーツ産業の現状を知り、国内スポーツ市場の現在地を把握する必要があります。主要国のスポーツ産業の市場規模を見ると、アメリカが約50兆円と非常に大きなマーケットです。日本はその10分の1程度。GDP比はアメリカの3%に対し、日本は1%です。イギリスと市場規模はほぼ同じくらいですが、イギリスのGDP比は2.5%。日本のスポーツマーケットは、あと3倍くらい大きくてもいいと思います。

国によってスポーツの位置づけも異なります。例えば、アメリカでは「スポーツは楽しむもの」と言われ、エンターテインメントとして発展しました。それに対しイギリスでは「スポーツは文化」。クリケットやゴルフなどのスポーツは上流階級の社交場として発展してきました。一方、日本ではいわゆる体育のように学校教育の一環として発展してきました。最近はエンターテインメント性が高くなってきましたが、教育の一環として育ってきたという背景があるため、お金の流れが少ないのです。

世界の主要なプロリーグの収入を見ると、上位はアメリカが占めています。日本のプロリーグは、プロ野球がMLBの27%、Jリーグはプレミアリーグ(イギリス)の22%とビジネスの規模感に大きな差異があります。

世界との差が生まれた理由は「エンターテイメント性」「ICT」「他産業との連携」

20数年前は海外と日本のトップリーグのビジネス規模に差はありませんでしたが、1990年代後半以降、その差は拡大の一途を辿っています。

その要因は3つあります。1つは「エンターテインメント性」。海外ではハーフタイムショーがあったり、ビジョンで臨場感を高める映像が流れたり、高額なVIPルームで飲食が楽しめたりと工夫を凝らしています。2つ目の要因は、「ICTの積極的導入」です。AI(人工知能)やアナリティクス、画像分析、デジタルマーケティングなどが選手強化やファン拡大に積極的に活用されています。3つ目の要因は、「他の産業との連携」です。アメリカではレジャー施設やホテルなどと併設された複合スタジアム、旅行や観光と組み合わせたスポーツツーリズムなど様々な取り組みにより、大きなスポーツビジネスに進化しています。

日本のスポーツ産業発展のためには、アメリカの成長モデルに学び、さらに日本流のアレンジを織り込んでいくべきではないでしょうか。2016年にスポーツ庁が発表した「スポーツ未来開拓会議の中間報告」には、日本のスポーツ市場を2025年には現状の約3倍、15兆円に伸ばすとあります。その内訳には、ICT活用として1.1兆円が見込まれています。「選手強化、ファン獲得、事業拡大」と、ICTで実現できることはたくさんあります。そこで富士通はスポーツICTの分野に積極的に取り組んでいます。注力しているソリューションは、「スポーツセンシング/AI」「スポーツデジタルマーケティング」「スタジアム/アリーナソリューション」の3つです。

スポーツセンシングによって創造する体操の新しい価値

体操プロジェクトのプロジェクトリーダーを務める富士通の藤原英則が、体操競技におけるICT活用事例を紹介します。

ジョークから生まれた「採点支援システム」

富士通株式会社
スポーツイノベーション推進統括部・統括部長
体操プロジェクトプロジェクトリーダー
藤原英則

「2020年にはロボットが体操の採点をしているんじゃないの?」――。2年半前に体操プロジェクトが立ち上がったきっかけは、当時の日本体操協会の専務理事、渡邊守成氏のこの一言でした。のちに渡邊氏は「藤原さん、あれ実はジョークだったんだよね」と笑いながら言いましたが、イノベーションというのは、得てしてそういうところから始まるものなのかも知れません。

「体操は採点方法がわかりにくい」と言われますが、それは審判員にとっても同じです。とくに近年は選手の競技力向上により、目視での判定が非常に難しくなってきています。この課題を解決するために、我々は3Dセンシングを活用した「採点支援システム」を開発しました。この技術の特長は、マーカーなどをつけずに人の動きを3次元でデジタル化できるところ。取得した3次元データをもとにCGを作成することもできます。これをトレーニングに活用すれば、従来できなかったリアルタイムによる3Dデータ分析が可能です。理想的なフォームや調子の良かった時との比較ができ、演技の完成度を高めるのに使えます。

視聴者向けには、CGによって技の名前や難易度を瞬時に表示することができます。体操競技は総競技時間が2時間半を超えるためテレビ放映がしづらいと言われています。判定時間を短縮できれば、テレビ放映が増えて体操を見る機会が増える効果もあります。

このような取り組みを通じて言えることは、いずれもICTはこれまでのような効率化のためのツールではなく、人に寄り添って、力付け、より良い経験をもたらす技術になっていく、いわゆるヒューマン・エンパワーメントへのチャレンジでもあるのです。

他の分野にも広がる3Dセンシング技術

蓄積された動きの3Dデータは、各産業分野から大きな注目を浴びています。たとえばゲーム制作では、リアリティの向上と製作効率化を実現します。またアニメ制作では、本物の選手の演技をもとに作品が描けるようになります。ハリウッドなどでは数百億円かけて制作してきたCG映画を、数十分の1のコストで制作することが可能です。

3Dセンシング技術は、人の動きのデジタル化という特徴を活かし、まずは体操で様々な用途への利用可能性を追求していきます。我々が体操から始めた理由は「体操は体を操る」、すなわち最も体の動きのバリエーションが多いからです。この体操で培った人の動きを3次元化する技術と蓄積されたデータを活用して、他のスポーツやヘルスケア、更には伝統文化の継承や皆様の生活の向上に貢献できるよう展開していきます。

スポーツデジタルマーケティングをフル活用するBリーグ

公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ
(B.LEAGUE)常務理事・事務局長

2年目のシーズンも順調に来場者数を増やしている国内男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE(Bリーグ)」。Bリーグの葦原一正氏がスポーツ業界に変化をもたらすデジタルマーケティング活用について語ります。

Bリーグの戦略は「スマホファースト」

バスケットボールの市場には3つの特徴があります。1つ目は「競技人口の多さ」。全世界で4.5億人いて、2位サッカーの2.6億人を圧倒しています。2つ目の特徴は「女性の観戦比率の高さ」。Bリーグのチケットを直販するBリーグチケットの調べでは、購買者の女性比率は46%でした。かつ、20代、30代という若い層が多く来場しています。3つ目は、全国に700万人いると見られる「Bリーグ観戦意向者の特質」です。分析によると、集団観戦を好み、家にいるより出かけるのが好き、テレビやPCではなくスマホや雑誌で情報を収集し、かつ情報の発信も積極的にするインフルエンサーである傾向が極めて高いことがわかっています。

「スポーツの4大収入」すなわちチケット、放送、スポンサー、グッズは、売上の9割を占めると言われます。我々はそのすべてを変えます。まずチケットはスマホで簡単に購入できるスタイルに。放送は地上波への参入は難しいので、スマホで気軽に見られる形に。「スポンサー」は、従来の「看板」形式では収集することができなかった顧客の「データ」をチケット直販によって収集できるようになりました。そしてその「データ」をパートナー様との新しい取り組みに活用することを重要視しています。「グッズ」についても、ワゴンで売るような従来型モデルから、EC中心へと変えています。つまりすべての収入について「スマホファースト」の世界観で変えていく、これがBリーグ設立以来の戦略です。

DMPを構築し市場拡大に繋げる

B.LEAGUEでは情報を統合して有効活用するためにDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を構築しています。

かつてプロ野球の球団では、ファンクラブ会員、チケット購入者、EC利用者、来場者のデータがバラバラなのが当たり前でした。それを「ステップ1」とすれば、パ・リーグがこの10年やってきた、データを整え、その活用によって来場者を増加させ、経営基盤の安定に繋げたのが「ステップ2」です。
我々Bリーグがやっているのは、1部、2部合わせて36チームに同じプラットフォームを提供し、分析結果を共有する「ステップ3」です。チケットを求めるお客様はどのチーム、どの会場のチケットでもスマホでスムーズに買えるメリットがあります。各チームに利用者登録したり、バラバラなインターフェイスを使ったりする不便がなくなりました。パートナー企業にとっても、データを活用した新たな事業展開が考えられるメリットがあります。
今後は、日本代表やアマチュアと連携をする「ステップ4」、さらに競技者データベースとも連携し、バスケを観る人だけでなく、バスケをする人とも繋がれるスーパーデータベースを構築する「ステップ5」を目指します。バスケをやっている人に、アリーナに来てもらい、「本物のバスケ」を観てほしいというのが我々の強い思いです。

Bリーグは、2016年9月に富士通とICTパートナー契約を結び、選手に対するデータマネジメントサービス、デジタルマーケティングプラットフォームの構築、自由視点映像をはじめとするアリーナソリューションといった課題について連携しています。今後も強力なパートナーシップにより、高い志を実現していきたいと考えています。

エンタメ性を高めるスタジアム/アリーナソリューション

最後に、3Dセンシング、デジタルマーケティングと並ぶ3つ目のソリューションであるスタジアム/アリーナソリューションの事例を富士通の阪井が紹介しました。

スタジアムやアリーナをもっと楽しい場所にして、皆さんに足を運んでもらう――それがスタジアム/アリーナソリューションです。

まず、映像/音響ソリューションです。2018年3月に行われた女子レスリング、ワールドカップの開会式では、ネットワーク技術で光を制御する「発光デバイス」のパフォーマンスがありました。光の演出で客席を盛り上げるソリューションです。

次は、会場のファン向けのスマホアプリです。チームの応援やビンゴゲームなど、スタジアム限定のアプリを提供します。場所や時間に応じてサービスをコントロールできるという富士通独自のテクノロジーを活用しています。

最後はライブビューイングです。2018年1月熊本に約4000人の観客を集めたBリーグのオールスター戦。東京・恵比寿のライブビューイング会場を、試合が行われている熊本と映像伝送技術で繋ぎ、臨場感を高めました。最も高価な席でひとり18,000円という有料イベントでしたが、発売からわずか3時間で完売。観客の評価も大変高いものでした。

スポーツ産業の発展のために

本日はスポーツ産業の発展に向けたお話が中心でしたが、スポーツの持つ意味はもっともっと大きいと考えています。スポーツを通して、一人ひとりの健康や生きがい、地域活性化、バリアフリーの社会につながっていく。幸せな社会や人生を考えた時、スポーツの持つ意義はとても大きいものだと思います。だからこそ富士通はスポーツを通じて広く社会や企業の発展に貢献していきます。
もう一つ重要なこと、それは「Co-creation(共創)」です。様々なスポーツ競技団体、あるいは政府・自治体、スポーツ産業にかかわる企業、大学や研究機関、皆様との「Co-creation」が不可欠です。2018年の私どものテーマは、『Co-creation for Success』。富士通は、スポーツ産業の発展に向けて、皆様と一緒に一生懸命取り組んでいきます。

登壇者
  • 公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)常務理事・事務局長
    公益財団法人日本バスケットボール協会(JBA)理事
    一般社団法人ジャパン・バスケットボールリーグ(B3)理事
    株式会社B.MARKETING 取締役
    葦原 一正 氏
  • 富士通株式会社
    執行役員常務
    東京オリンピック・パラリンピック推進本部長
    スポーツ・文化イベントビジネス推進本部長
    阪井 洋之
  • 富士通株式会社
    スポーツイノベーション推進統括部・統括部長・体操プロジェクトプロジェクトリーダー
    藤原 英則