利用者が約5割に近づく電子決済、4つのイノベーションが促進要因に

筆者は最近、消費者向け銀行協会のファンファレンスであるCBA LIVE 2018の場で、IDアナリティクスのケビン・キング氏と対談しました。このイベントは、いたるところから示唆を得ることのできる素晴らしいものです。今年のカンファレンスは「銀行を越えて」というテーマに沿って行われ、捏造IDによる盗難被害のリスクの高まりに関するケビンとのセッションは、打ち解けた雰囲気で進行しました。

「銀行を越えて」のテーマを掲げた今年のCBA LIVEでは、さまざまな分野にわたる対談がセッションとして組まれていましたが、その背景には、従来の銀行の範疇から少し離れた領域で消費者の需要が高まりを見せていることがあり、このイベントもそうした新領域を対象としていたのです。

今回のカンファレンス全体にわたって、セッションの中心的話題となったのが、電子決済に関するイノベーションでした。実際、電子決済という選択肢を好む消費者の割合は47%に達しているのに対して、依然として現金を選択する層は43%に留まっています。

このような動向を考慮し、進歩を続けるテクノロジーに追従していけるように尽力することが、現在の銀行と信用組合にとって最重要事項となりました。また、CBA LIVE全体を通して強調されていた課題でもありますが、このようなデジタルツールやサービスが、よくも悪くも影響力を拡大していることや、消費者体験において極めて重要な役割を果たしていることを、金融機関はよく理解しておかなくてはなりません。

それでは、現金から電子決済への転換を促している、いくつかの重要なイノベーションを見ていくことにしましょう。電子決済という選択肢が消費者に好まれる理由を明らかにすれば、金融業界の現状をより深く理解できるうえ、将来への指針を見いだせるようにもなるからです。

電子決済におけるイノベーション:要注目の4大トレンド

電子決済のイノベーションの中から、消費者が「ピンときた」ものを挙げてみます。

1. ピアツーピア決済(P2P

P2P決済とは、仲介サービスを通した個人間の電子的な送金のことです。2017年には6,350万人の消費者が、少なくとも1カ月に1度はP2P支払いアプリを利用していました。つまり、全スマートフォンユーザーの3分の1が利用したということです。

P2P仲介業者の大手としては、ペイパル、ベンモ、ゼルなどがあります。しかし、P2P決済が黎明期を脱して成熟するにつれ、新たなフィンテック企業も参入し始めました。

P2P決済が成功したのは、デジタル消費者になじみの深いやり方を通じて、日常的な問題をシームレスに解決できたためです。ベビーシッターへの報酬、家族や恋人への送金など、かつては現金ベースで支払っていたものが、今やクリック1つで完結するようになっています。

昨今の業界内の提携やデータ共有の広まりにも支えられ、かつては未来的だったP2Pという選択肢に対するユーザーの親しみや信用が深まるに連れて、この支払い方法は成長の一途をたどることでしょう。

2. mコマースことモバイルコマース

CBA LIVEでクレジットカード会社のビザが主宰した、「決済の新たな動向」セッションでは、mコマースが中心的な話題となりました。mコマースは、モバイルに最適化されたWebサイトやアプリケーションを含め、モバイル機器で行われる決済すべてをカバーする言葉です。

ビザの報告によると、モバイル機器における売り上げは、デスクトップによるeコマースよりも53%速く成長しています。とはいえ、モバイルでの決済機能は何ら新しいものではありません。単に、市場導入から長い年月を経たのち、今になって広く受け入れられつつあるということです。消費者がmコマースを安心して利用するには、それなりの時間と動機付けが必要だったといえるでしょう。

さらに、モバイル機器に取って代わろうとしているのが、決済可能なウェアラブル端末です。こうした予測に基づいて、銀行と信用組合はウェアラブル市場を注視し、この市場のトップ企業から参考になりそうな事例を得ようとしています。

3. 人工知能(AI

ビッグデータとマシンラーニングの産物であるAIは、口座利用者に関する情報を把握したり、働きかけをする方法に変化を起こしつつあります。AIによって、たとえば、スマートなチャットボットや個別対応のサービスといった顧客体験の領域で新たな扉が開くと同時に、以前には実現できなかったレベルのセキュリティも、もたらされるのです。

具体的には、AIが消費者行動をより深く把握することによって、金融機関は個人の識別情報をより正確に認証し、口座の乗っ取りや、その他の形式の詐欺行為を防ぐことができるようになります。これは、最近になって口座開設詐欺や口座乗っ取り詐欺が急増していることを考慮すると、非常に重要な点です。

ただし、AIは、今のところ絶対に確実というわけではありません。AIの成熟には時間がかかりますが、金融以外の領域で広く利用されることが、熟成の後押しになりそうです。そして、消費者が「スマートな」デジタル体験に慣れ親しみさえすれば、銀行や信用組合は、戦略性に富んだAIの新しい取り組みを活用することができるでしょう。

4. 決済ネットワークの発展

電子決済のイノベーションが可能になったのは、決済ネットワークの発展と協働によるものです。このことは、IC型クレジットカードの統一規格であるEMVの普及にも、大きな後押しとなりました。従来、支払口座は口座番号によって識別されていましたが、現在はEMV技術によって、一意のワンタイムコードに置き換わっています。

こうした根本的な変化により、主に対面型のデジタル決済分野で、より安全な支払い方法が実現しただけでなく、金融機関が口座保有者のデータの大部分を管理下に置きながら、APIと外部の共同ネットワークをより安全に利用することが可能となり、電子決済のイノベーションを達成できたのです。

しかし、決済ネットワークでは、創造的なサービスが生まれる一方で、セキュリティについての懸念も常にリスクとして存在しています。最近、インドのある大手銀行は、電子決済用アプリケーション内のバグによって、複数の口座から少額ずつを盗み取れられる危険性があることを検知し、セキュリティ上の失策の最新の被害者となりました。

イノベーションの分析:成功へのカギ

このような電子決済のイノベーションが、イノベーションたり得たのは、なぜでしょうか。確かに、どのような分野でも新しい製品によって、一時の盛り上がりは得られるものです。しかし、CBA LIVEで話題になったイノベーションは、決して新しいものではありません。実のところ、生み出されてからしばらくの間、市場を奪うための準備を整えていたものが多いのです。

昨今の新たな市場動向を分析してみると、イノベーションを取り巻く3大要素が浮き彫りになります。すなわち、セキュリティ、親しみやすさ、動機付けです。まず、電子決済のイノベーションは、現実世界の問題を解決するものでなくてはなりません。その上で、馴染みのある操作方法で使え、高まるセキュリティ上のニーズにも応える必要があります。

業界も、単なるイノベーションのためのイノベーションを実現することはありえません。口座利用者にとっての価値がほとんどないとすれば、大量のデータを扱うデジタルツールの導入は、リスクが高すぎるからです。

ところで、ここでいうリスクとは、どのようなものでしょうか?

2017年、アメリカ国内でデータ漏洩により流出した機密記録は1億7,800万件に達しました。そして、これらの記録には名前、社会保障番号、金融口座情報など、機密性の高いPII、つまり個人特定情報が含まれていたのです。

このような攻撃の多くは、個人情報の窃取とそれによる詐欺行為に利用することを狙って実行されます。そのため、個人情報に関連する犯罪率が記録的なレベルに達しているのです。つまるところ、消費者は、自身の個人情報や金融情報の安全性をめぐって消耗し、悩み、心配するという状態が続いています。

犯罪者は、個人特定情報を容易に手に入れます。これによって電子決済のイノベーション導入に遅れが生じたことには、疑いの余地がありません。消費者はなじみのない決済方法の安全性について考え、二の足を踏むからです。電子決済のイノベーションに対する、こうした及び腰の姿勢が、金融プロセス全体に悪影響を及しているといえるでしょう。

導入の遅れは、すなわち機会の喪失

こうした導入の遅れにより、消費者と金融機関の両方に対してマイナスの影響が生じていることは残念です。

消費者は、金融に関する管理と可視化を容易にしてくれるはずだった、豊かなユーザー体験の機会を逃しています。忙しい現代において貴重な利便性を失ったことついては、言うまでもありません。今日の消費者は、サービス開始直後こそP2P決済を避けるかもしれませんが、数年もすれば、レストランで割り勘を一瞬で行うアプリを友人から紹介され、自身が出遅れたことを後悔するようになるはずです。

それと同時に、銀行と信用組合は、このようなデジタル体験がもたらすはずの、既存の顧客に対するセールスや囲い込みの機会を逃しています。逆に、こうしたシステムを用いれば、豊富なデータによる行動分析に支えられて、確実に顧客からの反応を引き出せるサービス体験を生み出すことができるのです。また、製品の効果的なターゲティング方法や、消費者のライフサイクルの特定も可能となり、長期的に見て真に価値ある施策を推進することができます。

今や、マーケティングと販売に関する機能面で、こうしたシステムが持つ可能性は突出しています。そこで、いくつかの障壁を乗り越えてデジタル化を確実に進めるうえで重要なのは、銀行と信用組合が信頼できるプロバイダと協力し、セキュリティに関する包括的な提案を受けながら、銀行の業務プロセス全体におけるセキュリティを強化することだといえるでしょう。

金融機関のデジタル移行への道筋を確保

デジタルな詐欺行為は、テクノロジーの発達と共に成長を続けてきました。そのため、スマートな電子決済に関して業界が市場にもたらすイノベーションが、セキュリティに対する脅威となってはならず、反対に、既存のセキュリティ管理を向上させるものであることが不可欠となっています。それを実現するには、業界として、個人情報を盗もうとする犯罪者の先を行くイノベーションを実現し、その促進のために信頼できるパートナー関係を構築していくことが必要です。

加えて、口座利用者のプラットフォームがコンピュータであれモバイルデバイスであれ、「自分たちは守られている」というメッセージを明確に伝えなくてはなりません。データセキュリティへの強いコミットメントを継続し、個人情報窃取や詐欺に対する包括的な保護がなされた提供製品を充実させ、イノベーションを推進していくことが重要です。

この意味で、個人情報窃取や詐欺に対して実績のある保護策と、電子決済のイノベーションに対する新しい取り組みとを合わせれば、口座利用者に日々の金融取引以外に新しいサービスなどを試してもらう際にも、安心感を持って使ってもらえるといえるでしょう。

この記事の初出は、イージシールド・フロード・プロテクションに掲載されたものです。

この記事はBusiness2Community向けにLaura Bruckが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。