AI導入が食品・飲料メーカーの未来を大きく左右する

私たちの祖先は、苦労して手に入れることができた物を何でも食べましたが、今や人間は、食べ物をえり好みするようになりました。現代の人類は、食通も満足するような料理を、屋台で売られる食べ物のような価格で、食べたい時に手に入れることを望んでいます。そして、気まぐれな消費者の好みに合わせるため、食品・飲料メーカーは、新製品の拡大や収益性の確保に役立つAIの活用に関心を寄せています

こうした賢明な企業は、AIがどのような効果をもたらし得るかをよく認識しています。取り組んでいる分野が、物流、人事、コンプライアンス、顧客体験のいずれであっても同じです。CPG(Consumer Packaged Goods)と略される消費者向けパッケージ商品や食品・飲料の業界において、AIとマシンラーニングは、FMCG(Fast Moving Consumer Goods)こと日用消費財の生産、包装、保管、流通、市場投入、消費の方法を根本的に変化させているといえます。

定評ある食品・飲料メーカーは、自社商品に対する消費者の期待を高めるという課題とは別に、顧客のトレンドの変化にも直面してきました。近年は、消費者の興味が、グローバルなコングロマリットから、職人技を持つ地元メーカーへと移りつつあります。そして、「手作り」の体験によりお金をかけたいという意思を示しているだけでなく、実際にも、家庭料理や手作りビールといったDIYによる調理のトレンドにも夢中になっているのです。

CPGは全般として、大量生産品離れという最悪の状況に直面しています。積極的な投資家が企業が利益を上げることに多大な期待を寄せる一方で、消費者は、これまで以上にコストのかかる高品質でカスタムメイドの製品や、より優れたサービスに期待しているのですから。」

企業向けAI関連メディアのトップボッツとのインタビューの中でこう説明するのは、世界最大の会計事務所であるデロイトの消費者向け製品ビジネスにおけるデジタル革新と分析の責任者、ベン・スティラー氏です。そうした状況を乗り切るために、CPGFMCG業界に属する多くの企業が、単なるオートメーションよりも難解なビッグデータやマシンラーニングなどのAI関連分野に注目しているのは、当然のことでしょう。

業界が直面する多様な問題

消費者は、自らの味覚と財布に与えるインパクトの大きさ、つまり味と価格のバランスによって食品を評価します。しかし、業界内で安定した地位と業績を確立している食品ブランドにとっても、その期待に応えるには、目玉となる製法だけでは不十分です。イノベーションを加速し、維持しようと試みるCPG企業にとって、常に悩みの種となっている課題を以下に挙げてみます。

  • 製法、すなわち製品デザインと仕様
  • 材料、すなわち製品を作る原料
  • 生産規模を調整するための装置、ツール、機械
  • 加工工場、生産現場など、企業が商品を組み立て/加工する場所
  • 安全管理と品質管理の導入
  • 政府による、健康、環境、安全性、財務、建築関連の規制基準や国際的な規制基準に対するコンプライアンス
  • 製品の包装および追跡システム
  • 保管と流通に関する在庫管理
  • 流通関連の物流と輸送
  • マーケティングおよび広報
  • 販売に向けた、パートナー企業および仲介業者との長期的な関わり
  • 経理や人事などのバックオフィス業務
  • ブランドのサプライチェーン、製造、物流プロセスをたどる、売り上げおよび注文の追跡

ご覧の通り、これらの問題点のリストは多岐に渡ります。さらに、上述した問題の可能性すべてに留意することに加え、食品・飲料メーカーにとっては、汚染や腐敗など、重大なリスクを軽減することも大切です。問題となる製品が小売業者の手に渡り、もはやメーカーの管理下にない場合でも同様に対処できるようにしておく必要があります。

AIは魔法の万能薬になり得るか

シャンプーやソーダ、マヨネーズはありふれた製品かもしれませんが、こうしたCPG製品の製造と消費を支えるインフラストラクチャは、想像するよりもずっと複雑です。

工場の業務改善サービスを行うリーディング2リーンCEOであるキース・バール氏は、次のように述べています。「材料や資材が、製品を生産する建物や組み立てラインに到着したときから、課題は始まります。かつては、機械は一定の手順を実行するように設計されていました。そのため、資材が必要な時刻までに届かなかったり、仕様通りではないというような、決められた手順の実行基準に合致しない何らかの事態があると、機械は動作しません。そして、もし必要な手順を実行できなければ、人が手動で機械を止めて、調整しなくてはならないのです。」もう1つの課題は、比較的古い工場にはセンサーや追跡装置がなく、このような異常が起こっても記録が残らない点です。このことは、食品の生産プロセスにおける悩みの種であり続けてきました。

リーディング2リーンは、合理化された製造ソフトウェアとクラウドベースソリューションの開発・提供を手がけており、企業がデータアナリティクスを通じて持続可能なプロセス向上を実現できるよう、支援しています。たとえば同社は、データアナリティクスを活用して非効率性を検出し、排除することで、オハイオ州を拠点とする高級食品メーカーであるレイクビュー・ファームズにおける、ラインのダウンタイム、装置の修理コスト、従業員の残業率の大幅な削減の達成に寄与しました。削減率は、それぞれの項目で、34%15%17%に達しています。

CPG業界において、バール氏の企業のような、オートメーションおよびAIが主導するソリューションのプロバイダを見つけ出す必要性の緊急度を左右する要因は、以下のようなものです。

  1. 近い将来に、より多くのマーケティングや流通のチャネルと関わる必要がある
  2. 活気のある競争の段階を過ぎ、より熾烈な競争の段階へと移り変わった。
  3. 全部門に渡って同期された統合データにより、エラー、ダウンタイム、コストが減少している。
  4. ビジネスプロセスの全段階にわたる可視性が、主要な競争優位性として役立っている。
  5. 顧客の行動と市場のトレンドに関するリアルタイムのデータが、将来性のあるビジネスに役立っている。

ヒューレット・パッカード・エンタープライズの副社長で、サーバーおよびIoTシステム担当のゼネラルマネージャでもあるトム・ブラディシッヒ博士は、この状況を次のように表現しました。「顧客企業は、自らの事業を止めることができません。ですから、事業を続けながら業務を改善するという課題に直面せざるをないのです」

ブラディシッヒ氏は現在、ある食品・飲料業界やCPG分野の大手企業と協業し、生産過程への新しいテクノロジーの統合を推進中です。そして、オートメーション、エッジコンピューティング、AIテクノロジーの採用によって、ヒューマンエラーの削減、品質の向上、売り上げの増加は劇的なものとなると確信しています。彼のチームは現在、有益な情報を取得するまでの時間を短縮してIoTのデータを制御して、安全かつ永続的な接続を提供できる、コンバージド・エッジ・システムという新しいカテゴリーの製品を展開中であり、これはコストの削減と、エネルギーおよび空間の節約を実現する、より信頼性の高い生産環境の確立を目指すものです。

オートメーションの選択肢はよりどりみどり

企業はAIを利用し、ゲームやデートから、バンキングやヘルスケアにいたるまで、さまざまな課題に取り組んできました。SAPのコンシューマ・インダストリ担当グローバル・ゼネラルマネージャであるロリ・ミッチェル=ケラー氏によると、本来のAIの応用分野は幅広いにもかかわらず、食品・飲料メーカーは特定のユースケースに執着する傾向にあるといいます。

ミッチェル=ケラー氏は、SAPの新しいマシンラーニング基盤であるレオナルド・マシンラーニング・ファンデーションの機能を顧客がどのように利用しているかを説明し、食品・飲料メーカーのフロントエンドおよびバックエンドのプロセスにポジティブな影響を与えうる、主要なAI応用分野を挙げました。

  1. 棚の管理。食品・飲料分野の小売業者は、AIを利用して在庫管理を自動化できます。あるユースケースでは、スタッフが店舗の棚の写真を撮影して、機械学習プロセスを開始しました。そして、欠品や誤って陳列されている商品を自動的に検出して関係者に通知し、在庫を補充したり、誤りを正したりすることが可能となったのです。
  2. 画像情報を利用した調達AIおよび画像認識テクノロジーによって、調達プロセスが簡便になり、注文送信にかかる時間も短縮できます。従業員が商品の写真を撮影するだけで、特定の商品そのもの、または同等製品のデータベース検索を自動的に行えるのです。
  3. パーソナライズされたカスタマーサービス。企業は、自然言語処理とマシンラーニングを駆使したチャットボットや音声アシスタントにより、消費者の購入データと履歴を活用して、高度にパーソナライズかつ自動化されたカスタマーサービス体験を提供できます。
  4. 顧客エンゲージメントの向上CPG企業はAIを利用し、消費者とのエンゲージメントを深めることができます。たとえば、AIを使ってソーシャルメディア上での対話を詳細にモニタリングすることにより、消費者データを分析して、ポジティブな体験を生み出せるようになるだけでなく、新しい製品ラインの開発や設計をする上で重要な、顧客の感情や行動を特定することも可能となるのです。

このほか、CPG分野では、財務や販売計画、化学物質や汚染物質のモニタリング、バックオフィスの事務の自動化などの分野においても、すでにAIを導入している企業があります。

変化による苦しみ:AI導入の課題

選択肢が豊富であることから、すぐにでもAIに取り組みたいと思われるかもしれませんが、実際に導入の可能性を検討中の企業は、多くの課題に直面しています。中でも、コストの問題は見逃せません。食品・飲料メーカーは、すでに利益がわずかしかない状態にあり、AIへの投資に関して、グーグルやアマゾンのような企業が持つ豊かな財源とは無縁なのです。

構築するか購入するかの選択は、もう1つの重要な決定事項です。食品・飲料ブランドにとって理想的なのは、自社開発によって緊密に統合されたテクノロジーを構築し、独自のニーズを反映させることでしょう。実際にも現実の世界では、AI関連の人材争奪戦が熾烈に繰り広げられており、テクノロジーのトップ企業は年間6億5,000万ドル以上を費やして、理想的な候補者を集めようとしています。定評のあるデータアナリティクス機能と有能な自社開発者のチームを持つ企業ならば、独自のAIプラットフォームを確実に構築できるでしょう。しかし、このようなリソースを持たない企業は、代わりに、明確に定義されたニーズ、目標、予算に基づいて、サードパーティーのソリューションとプロバイダを見つけ出す必要があります。

そのようにして、もし完璧なベンダーを見つけたとしても、食品・飲料メーカーにとって、新たなAIシステムを既存の自社テクノロジーに統合する作業は頭痛の種になりかねません。特に、システムが断片化している大規模なコングロマリットの場合には、その傾向が顕著です。この点について、物流テクノロジー企業のデスコーツの製品管理担当エグゼクティブ・バイスプレジデントであるケン・ウッド氏は、次のように警告します。「システム同士を接続するのは困難だと、当社のお客様はいつもおっしゃっています。ベンダーの数が多いほど、プロジェクトはより困難なものとなり、まとめ上げるべきシステムが多くなれば、より多額のコストと長い作業時間も必要です」

最後の課題は、AIテクノロジーそのものにあり、業界では少なくとも2つの問題が認識されています。まず、適切な自社データがなければ、食品・飲料メーカーは効果的に機能するマシンラーニングのモデルを構築できない可能性があるでしょう。営業チームなど向けの管理ソリューションを提供しているGoSpotCheckCEOであるマット・タルボット氏は、この状態を「費用対効果を見込める解決策がない、巨大な障害」と表現しました。ペプシコやダノン、ビール会社のアンハイザー・ブッシュの販売担当者は、GoSpotCheckAIによる在庫管理ソフトウェアを利用して、サプライチェーンの効率を最大化し、ビジネスに関する洞察を得ています。

食品・飲料メーカーが、自社の独自製法を厳格に保護することは当然ですが、ことマシンラーニングモデルに関しては、謎のままというわけにはいきません。そうした企業が適切なデータを揃えられたとしても、残念ながら市場に出回っている多くのAIソリューションは、ブラックボックスのように機能しています。アルゴリズムによる意思決定過程が明確かつ透明でなければ、そのテクノロジーに本当の価値があるのか、そして、その価値がどれほど持続可能なのかを理解できず、食品・飲料メーカーのエグゼクティブたちは判断に苦しむはずです。

近年、CPG企業の成長は、惨憺たるものでした。2013年から2016年にかけて、この業界は毎年平均1.8%以下の成長にとどまっています。この状況を見れば、結論は明らかでしょう。すなわち、AI導入に伴う複雑さは別としても、食品・飲料メーカーは新しいイノベーションに投資することによってコスト削減と収益増加を実現し、消費者のトレンドに精通する必要があるということに尽きます。これを適切に実行できる企業ならば、将来に渡って生き残れる可能性は高まるでしょう。しかし、そうでない企業は、気が付くとアマゾンのような先端技術を持つ大企業に飲み込まれても不思議ではないのです。

マーリーン・ジアは、メタメイベンCEOです。同社は、AIを活用して、フォーチュン500企業のビジネスや収益を成長させるコンサルティング事業を行なっています。また、マーリーンは『Applied AI Book: A Handbook for Business Leaders』の共著者でもあります。

この記事の初出はトップボッツに掲載されたものです(Copyright 2018)。

この記事はVentureBeat向けにTopbotsとMarlene Jiaが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。