AI戦略を富士通、ディープマインド、サムスンの協力で刷新するフランス政府

フランス政府が発表した新しい戦略的イニシアチブには、プライバシーやセキュリティ保護の面で妥協することなく、AI分野で世界のリーダーになることが謳われています。

その概要がまず明らかにされたこの提案は、グーグルのディープマインドやサムスンがパリに新設する研究室、そして、新たに拡張された富士通のパリ研究センターなど、関連する企業の発表と連携したものです。また、今年、グーグルとフェイスブックが、パリを拠点とするAI研究室への投資を増やすと発表したニュースからの流れもあります。

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このように活発な活動は、勢いを増すフレンチ・テックのエコシステムと、スタートアップ推進派のマクロン氏が昨年、大統領に選出されたことに後押しされた政府による、最新の試みです。昨年9月、政府は、著名なフランスの数学者で国会議員のセドリック・ビラニ氏を、フランスのAIエコノミーの進展を研究するリーダーに指名しています。この研究の結果は、「ヒューマニティーを支えるAI」と題された152ページの報告書として公開されました。

この報告書は、フランスのAIエコシステムを発展させるための経済戦略を詳細に説明しつつ、AIが引き起こす混乱に備えるという困難な作業についても概説しています。後者では、AIに取って代わられる労働者の雇用や、テクノロジーの恩恵の幅広い分配などが課題です。また、米国と中国におけるAIの研究や政策の推進がますます盛んになっていることへの懸念を挙げて、フランスと欧州各国が、それ以外の場所で開発されたテクノロジーに適応することを強いられる「サイバー植民地」として後塵を拝するリスクにさらされていると警告しています。

そして、報告書は、フランスがデジタル化の運命を自身でコントロールし続けたいと望むなら、より積極的に自国のAIエコノミーを加速するよう政府に促し、次のように鼓舞しました。「今こそ、これまで以上にAI革命を意義あるものにしなければなりません。」

具体的には、報告書は、AIの研究やAIスタートアップを支援する資金、そして、テクノロジーが社会に与えるインパクトを研究するプログラムに、政府の支出を大きく増やすことを提案しています。また、より多くの人々がAI関連の分野に参加できるようにするための職業訓練や、2020年までにAI分野の卒業者数を3倍にする大学教育プログラムの拡大を求めていることも重要なポイントです。

報告書はさらに、AIの主要な4分野であるヘルスケア、交通、環境、セキュリティに重点を置くべきであることも政府に推奨しています。また、テクノロジーのインパクトを研究して、政治家への助言を行う、政府独自のAI倫理委員会を設置するような提案も含まれました。

フランスの学術研究機関CNRSの責任者であるアントワーヌ・ペティ氏は、今回のイニシアチブにより、フランスのAIの地位が向上するだろうという楽観的な考えを表明しています。

またペティ氏は、報告書が発表されたカンファレンスにおいて次のように述べました。「報告書そのものはそれほど重要ではありません。以前にも報告書はありましたが、それに続く活動がなかったからです。過去の例と今回が異なるのは、大臣に同席いただいたり、大統領をお迎えできる点にあります。AIの取り組みに対する認識が高まり、関与も深まっていることの表れといえるでしょう」

フランスの研究者は、AIと機械学習の分野への貢献に関して、確固たる国際的な評価を築き上げました。そして近年、AIの発展が加速するにつれ、フランスは、世界中の企業に対する重要な人材の供給源としての実績も示しています。しかし、ここ数年間は、国際的な認知度をさらに高めるために、独自のAIスタートアップを育成したり、大規模なテクノロジー企業の投資を集めることを目指して、「AIハブとしてのフランス」を売り込んできました

ちなみに、フランスにおける起業家の動向については、テクノロジー支援グループのフランス・デジターレの提供による以下の図に見られるように、多数のAIスタートアップが誕生する大きな波を享受している状況です。



今回のAIイニシアチブに関係する企業に関して、この報告書は、いくつかの良いニュースと共に公表されました。サムスンは、100名の研究者を擁したパリAIセンターを開設すると発表し、富士通は、既存のパリAIセンターに今後5年間で6,100万ドルを投資するという公表済みの計画を、さらに拡充する予定であることを明らかにしています。

さらに、ロンドンに拠点を置くディープマインドも、15名の研究者が在籍するパリ研究室を開設し、今後、規模を拡大する意向であることを発表しました。パリにおける活動を指揮するのは、同プロジェクトの主任リサーチサイエンティストの1人であるレミ・ムノス氏です。彼は、母国でもあるフランスにおけるディープマインドの存在感を確立する仕事を担います。

このように大規模な計画が存在する一方で、フランスは、重要な課題にも直面することになりました。間もなく施行予定の、GDPRとして知られるヨーロッパのプライバシー基準は、個人情報の収集と使用に厳しい規制を設け、違反には厳しいペナルティを課すというものです。グーグルやアマゾンなどの大企業は、競うようにこの規制に準拠してきましたが、こうした厳格なプライバシー基準や、今後考えうる、AIの発展を推進するデータに対するさらなる規制によって、フランスのスタートアップが打撃を受けるおそれを心配する声も上がっています。

しかし、フランスのAIスタートアップであるスニップスの共同創業者、ランド・ヒンディ氏は、この報告書が、膨大なデータの収集に依存せず、代替となるAIモデルを強調していることを称賛しました。スニップスは、独自のAIシステムを開発しており、このシステムでは、データをクラウド上で集中管理することなく、ローカルのデバイス上に保持することによって、プライバシーとセキュリティを強化しているためです。

ヒンディ氏は、自身による声明の中で次のように述べています。「これまで、AI業界は集中化されたパラダイムに従ってきました。つまり、ユーザーの個人情報は、外国の大手デジタル企業によるクラウド上に保存され、分析されていたのです。このような集中化は、デジタル寡占への依存や、サイバー空間における主権の損失と同じ意味を持っています。しかし、今やAIを分散化して機能させるテクノロジーが存在し、機密情報をクラウドに送信することなく、処理のアルゴリズムをユーザー側で直接的に実行できるようになったのです。」

カンファレンスでは、AIの話題をテーマとするパネルディスカッションもいくつか実施されました。

スピーカーの1人は、オープンAIの取り組みに参加してAIのインパクトを研究し、責任ある実装を推進しているサム・アルトマン氏でした。ベンチャーキャピタルのYコンビネーターに所属するアルトマン氏は、AIが安全に取り扱われるよう強固な対策を講じるという、報告書の目標に共感したと述べています。

アルトマン氏はこのように結論づけました。「この目標を達成できれば、それは、人類の歴史において最も大きな変革の瞬間の1つになるでしょう。ですから、これを実現することが、きわめて重要になります。そして、その結果が人類全体に利益をもたらせるようにすることも、同じように重要といえるのです。」

この記事はVentureBeat向けにChris O'brienが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。