デザイン思考と共創が、デジタル社会に新しい豊かさをつくる AFFECTIVE DESIGN(前編)

【未来を創るチカラ Vol.8】デザインディレクター 田中培仁

デザインの力で、イノベーションを起こす

AI(人工知能)、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、ロボティクスなど、ICTが急速に進展し、私たちのビジネスや暮らしを大きく変えようとしています。一方で、モノやサービスが溢れる時代。「何のためにつくるのか」「人や社会にどんな意味を持つのか」といった根源的な課題が、企業には問われています。

この複雑な社会状況で、デザイン思考によってイノベーションの創造にチャレンジしているのがデザインイノベーターです。富士通デザインのデザインディレクター田中培仁は、『アフェクティブ(感性の)デザイン』というアプローチで、業界間や企業間の壁を超えた共創をプロデュースし、新規事業を数多く実現しています。デザインの力が社会に起こすイノベーションについて、田中に聞きました。

インタビューは、2018年3月下旬にクローズドで開催されたAFFECTIVE DESIGN展「MAKE SENSE」の会場で行われました。
デジタルでつくる"新感覚"を体験しながらアフェクティブ・デザインとは何かを実感できるユニークな展示会。デザイン思考によって様々な共創プロジェクトが生まれ始動していくプロセスが見えてきます。(詳しくは後述)

デジタルで感性の領域をデザインする、AFFECTIVE DESIGN

「デジタルテクノロジーの進化に伴って、多くの便利なサービスが生まれ続けています。一方で商品や情報、サービスが氾濫して、多くの人は無意識のうちにストレスや弊害を抱えながら暮らしています。便利なサービスだけれど気持ちが疲れる、継続的に使われないといったことがよくあります。それは主にデジタルテクノロジーの効率性(イフェクティブEffective)が重視され、人の感性(アフェクティブAffective)があまりデザインされてこなかったことが原因です。

私たちは、商品や情報、サービス、空間などにおいて、感性にまつわる領域を重視してデジタル意識させないデザイン『アフェクティブ・デザイン(AFFECTIVE DESIGN)』を提唱しています。アフェクティブ・デザインをひとことで言えば、人の心を動かす新しい感覚、体験や価値を、デジタルでつくっていくということです。」

人を中心に社会をデザインしたい
Human Centric Experience Design

人が無意識にしている仕草のシグナルを読み取り、さりげなくサポートしてくれる近未来社会のテクノロジー環境を、100年人生時代に準えた年齢ごとのパネル展示「未来の人生100と社会のシグナル」

「アフェクティブ・デザインのベースには、人を中心に社会との最適な関係性をデザインしていく『ヒューマン・セントリック・エクスペリエンス・デザイン(Human Centric Experience Design:HXD)』という思想があります。もともと富士通は、人を中心に据えてICTで豊かな未来を創っていこうというメッセージ『ヒューマン・セントリック・イノベーション』を掲げていて、この意味を今一度、私たち富士通デザイン(富士通グループ内デザイン部門)として再定義して、社会をデザインしていきたいという思いから生まれたものです。

人を中心にデザインするということは一見ありふれた考え方ですが、実際に実現することはとても難しく多くのハードルがあります。デジタルの分野では、新しいテクノロジーありきで考えが進められることも多く、一つのものづくりを「事業」にまで組み立てていく中で、誰のためのデザインかが曖昧なままプロジェクトが進行することも少なくありません。特に日本企業では未だこの傾向が根強く、新規事業やサービスが生まれにくく継続しない原因の一つになっています。

これからはデジタルでできることを追求するのではなくて、人の気持ちに寄り添って自然な形でデジタルを活かしていく。それは中長期的なサービスを生み出し社会へ浸透させるために、とても重要なファクターとなります。アフェクティブ・デザインによって、私たちは日本企業らしい真のヒューマン・セントリックな社会を実現したいと考えています。」

デジタルでつくる新感覚 "MAKE SENSE" とは

「人は元来、直感的に生きています。心が動くことによって行動も行為も変わります。ただ、感性を数値にして測ったり提示したりすることは難しく、チャレンジが必要です。AFFECTIVE DESIGN展ではデジタルでつくる"新感覚"を、展示を通して体験して感じていただけるように企画しました。

デジタルでつくる"新感覚"とは、情報を直感的に自分の感覚で感じられるということ他人の感覚を共有すること、そしてあらゆる環境が自分の身体になること。つまり人間が持っている感覚を活かしたり、拡張したりすることによって、新しい生命感や感性といったものをデジタルでデザインしていくということです。」

聴く、眠る、香る、味わう、など人の12の基本行動にまつわる新感覚をデジタルテクノロジーによって作り出すアイディアと、商品やサービスのプロトタイプが並ぶ。未来の仮説もあれば、実際に企業との共創で始動しているプロジェクトもある。

AFFECTIVE DESIGN展『MAKE"SENSE" デジタルでつくる"新感覚"』の中から

る→ 嗅覚 感覚に訴えるメッセージを送る

香りから人の潜在的な欲求を引き出す。タンブラーが場所や、その人のコンテキストを理解し、例えば炊き立てのコーヒーの香りと、状況に合わせたリコメンドを同時に行う。

く→ 錯触力覚 引っ張られる感覚を利用する

スマホで地図を見ながら歩くのは、とても危険。それに視覚から入るビジュアル情報だけでは、タイムリーなナビケーションは難しい。錯触力覚で誘導してくれるものをハンドルや杖に付けることで、誰かに引っ張られるような、自然なナビゲーションが生まれる。

く→ 聴覚 感動体験をつくる知性化した音

音と感動をテーマに、日常生活の中に立体音響を重ね合わせることで、音のARを実現する「Sound Intelligence(知性化した音)」。ヤマハとの共創プロジェクトで作られた Broadcaster(左)ネットワークにつながる集音マイク、Sound Curator(右)各種センサーを搭載した外の音を通すイヤホンのプロトタイプ

"新感覚"から新しいプロジェクトを創る:ヤマハとの共創

「現実世界をベースにしながら、煩わしいデバイスなく感動体験を創りたいと、ヤマハさんと一緒に日々挑戦しているプロジェクトがあります。これ(上写真)は耳を塞がないタイプのイヤホンをしたまま過ごす未来を創造して、プロトタイプにしたものです。VR(Virtual Reality:仮想現実)やMR(Mixed Reality:複合現実)など様々デバイスがありますが、これは音によるAR(Augmented Reality:拡張現実)です。日常生活や働く環境の中に、自然に感じる感動体験をつくる。そのイメージことを中長期的なビジョンをもとに描き、具現化しています。

また見ぬビジネスは、体験しないとなかなか価値がわかりません。体験として腑に落ちるように、目指す世界観をまず映像化したり、プロトタイプでつくってみたり、体験をつくって試すことが重要です。今回の展示はその壁を打破するための施策でもあります。理屈だけでなく体験して感じる共感が、ユーザーやプロジェクトメンバーの心も動かします。ワークショップやハッカソンの先に、エンドユーザーの声に耳を傾け、体験できるプロトタイプの精度を素早く高めることでプロジェクトは加速していきます。」

共創の初期につくられたイメージ映像。人の「音と感情」のアルゴリズムによる感動を創る「知性化した音」がテーマ

後編では、企業との共創の事例をさらにご紹介します。

AFFECTIVE DESIGN展からスタートした同会場には『AFFECTIVE DESIGN STUDIO』が生まれました。根底にある価値観は『スモールギャザリング』、セミクローズドのイノベーション。信頼できるパートナーと生態系のように自然に繋がって、価値ある共創をつくっていく。そのための多様なデザイナーやエンジニアのコミュニティの場、デザインスタジオとしてオープンしています。

富士通デザイン
デザインディレクター・一級建築士
田中培仁
都市や建築・空間デザインといった統合的なデザインの知見を活かし、ビジョン・サービス・製品・空間・プロモーションまで統合的なデザイン活動を実践。共創からはじまる多岐に渡る新規事業プロジェクトを牽引。代表的なアワード受賞歴として日経ニューオフィス賞、SDA賞、グッドデザイン賞など多数。