医師・患者が容易に理解できる情報を提供。心臓の動きをVRで視覚的に把握する「心臓シミュレータ」

「オーダーメイド医療」の実現に向けて。医師、患者が体感的に理解できる疾患の見える化

医療、医学分野において、ICTは様々な貢献を果たしてきました。病院内での電子カルテシステム、新しい医療機器の開発、創薬、画像分析技術など、枚挙に暇がありません。

最近、臓器の動きや機能を再現し、その結果をコンピュータグラフィックス(CG)で可視化し、また一般的に用いられる検査や一部の施術の効果により、どのような結果が生じるかを予測する、新しい技術の適用が始まりつつあります。人間の体は一人ひとりが異なっており、体内の臓器も個人差があります。その個人差によって、施術の効果に違いが生じたり、施術後の回復具合が変わったりすることも珍しくありません。科学的なアプローチで、一人ひとりの患者の臓器を再現することができれば、その患者にとって最適な治療、いわゆるオーダーメイド医療が実現できるのではないかと期待されています。

様々な臓器の中で、世界的に見ても疾患数が多く、課題が大きいとされているのが心臓です。他の臓器であれば、MRIやCTなどの撮影により、疾患している場所や状態を確認することは比較的容易とされていますが、心臓の心筋は撮影が困難な状況です。心機能を解析する手段は測定機器にありますが、状態の異なる多くの患者を精度良く確認するために、より高精度化や多くの情報を得ることが課題となります。

観察が難しい臓器「心臓」をVRで再現

東京大学と富士通は、2008年に「心臓シミュレーション」に関する共同研究を開始、2013年には臨床研究をスタート。患者心臓の再現、施術の予測について、臨床研究の成果を得てきました。医療機器であるペースメーカーを装着するための最適な電極位置を示したり、施術後に心臓の働きがどのように変化するかを予測することも徐々に可能となってきています。従来のコンピュータで約10日かかっていた心拍5回分の演算を、約10時間に短縮することが可能となってきました。

また、疾患を再現したシミュレーションの出力データは、医療教育にも有効であることから、医療・看護系の教育機関に向け、心臓の挙動を3Dモデルで観察・分析するソフトウェア「Heart Explorer(ハートエクスプローラー)」(注1)の販売を開始しました。これは、心臓の機能や疾患状態をシミュレーションにより再現し、心臓そのものの動き、血流、圧力、電気信号の流れなどをVR(バーチャルリアリティ)で立体視化するものです。

VR技術を用いた立体視のイメージ

心臓は身体の中でも複雑な構造を持ち、心筋の複雑な動きや血流の動きを文献などで学ぶのは難しいとされています。今回開発した「Heart Explorer」は、スーパーコンピュータ「京」などを活用して研究開発を行ってきた心臓シミュレータの出力データを利用。患者の臓器の電気的現象、心臓の収縮、心臓の弁の動き、血液が流れる状態、圧力の分布など、力学挙動や科学的挙動、疾患状態を再現します。

  • (注1)正式名は「FUJITSU ヘルスケアソリューション Heart Explorer」

教育現場での活用へ向けて

医学を志す学生が「Heart Explorer」を用いれば、従来の教科書や立体模型、CGなどでは分からなかった心筋(心臓の筋肉)の収縮や、不整脈を発症した心臓の状態を立体的に再現できます。これにより、学生はより効率的に医療の学習ができるようになり、医療人口全体の拡大にもつながります。

また、医師同士が集まるカンファレンス向けには、患者と同様の疾患を持つ心臓の動きを視覚的に見せながら「こういう施術をすれば、このように血流や圧力が変わる」などと説明でき、医師が蓄積したノウハウを、他の医師と共有する時に役立てることができます。患者にとっても、医師が手術の説明をする際に、施術前と後の臓器の変化を具体的に見ることができれば、自分が受ける手術の内容をしっかり理解して臨むことができるはずです。

医療におけるシミュレーションの活用は、最初の一歩を踏み出したばかりです。医学生が「Heart Explorer」によって、動いている心臓の状態を理解しながら医学の知識を習得していけば、将来、医療現場でもシミュレーションを積極的に活用していくための土壌が生まれます。

シミュレーションが医療に果たす貢献は、決して小さくはありません。富士通は医師、そして患者をICTで支援することで、医療、医学の発展に貢献していきたいと考えています。