これだけは知っておきたい、量子コンピュータの基礎と現状

最新のコンピューティング環境とその開発における最も興味深い成果の中には、ビジネスと社会の根本的な変化を象徴するような種類の進歩が含まれています。ブロックチェーンニューラルネットワークなどもそうですが、ここでは、コンピュータが最も基本的なレベルで情報を扱う方法を一変させる可能性のある、より根本的なテクノロジーをご紹介しましょう。それは、量子コンピューティングです。

しかし、このテクノロジーの潜在的な用途を論じる前に、その理解に役立つ、物理とコンピュータ科学の基本について簡単に説明しておきたいと思います。とはいえ、技術的にはさほど深入りしませんので、ご安心ください。

01以外(あるいは01の間)

この記事を読まれるような方であれば、コンピュータプロセッサが、すべてのデータを01の連続に置き換えるバイナリコードで稼働していることは、おそらく誰もが知っているでしょう。通常の、つまり「従来の」コンピューティングでは、01のどちらかの値をとるビットによって、すべての情報をコード化します。

一方、量子コンピューティングは、原子よりも小さな、特定の亜原子粒子がどのように振る舞うかについての知識を利用します。あまりにも複雑な物理学の詳細は省きますが、量子コンピューティングでは、量子ビットまたはキュービットと呼ばれるデータの断片が、同時に複数の状態で存在できるようにします。量子力学では、この状態を「重ね合わせ」と呼び、キュービットは、ビットとは異なって、0と1だけでなく「0と1を任意に組み合わせた状態を同時にとる」ことが可能なのです

量子コンピューティングシステムが持つ、もう1つの主要な特性は、各キュービットの状態が、システム内のその他のキュービットすべての状態と関連付けられていることです。量子力学では、これを「もつれ」といいますが、先ほどもお伝えしたように、厳密な物理学を気にする必要はありません。そして、システムに対してキュービット1つ追加するごとに、全体の処理能力はおよそ2倍になります。システムが同時に作り出すことのできる状態の数が、基本的に2倍になるからです。

従来のコンピューティングに対する優位点

このことが実際に意味するのは、キュービットで構成されたプロセッサは、同じ数のバイナリビットを持つ従来のコンピュータより、指数関数的に複雑な計算にも対処できるほど高い能力があるということです。

IBMのタリア・ガーション博士は、そうした特性を生かした量子コンピューティングの優位性を、ディナーテーブルにつくゲストの例によって説明しています。最初の質問は、10人のゲストをテーブルに配置する方法は何通りですか? というものです。答えは10!通り、つまり360万通りとなり、テーブルにつく人が増えるたびに、この組み合わせの数は指数関数的に増加します。そこで、ゲストの皆さんをテーブルに配置する最適な方法を見つけたい場合はどうしますか? というのが次の質問です。

これは、従来のコンピュータであれば、すぐに途方に暮れてしまうような質問といえます。それぞれの組み合わせの可能性を個別に検討した上で、さらに考えられるすべての組み合わせを逐次比較していく必要があるためです。これに対して、量子コンピューティングは、まったく異なるアプローチをとります。重ね合わせともつれの特性を利用すると、360万の可能性すべてを同時に検討することができるのです。その上で、量子力学的な波の特性を利用して、最善の回答が見つかるまで異なる可能性の取捨選択を行います。

何だかややこしいと感じましたか? もし、そうだとしたら、複雑な問題の解決についての考え方が、従来とはまったく異なっているためでしょう。

注目すべきなのは、ディナーテーブルへのゲストの配置の問題に適用されたのと同様のプロセスが、たとえば、暗号化キーの解読にも容易に応用できるという点です。従来の、つまり「通常の」コンピュータが最新式の暗号化を破るのは事実上不可能であるのに対し、量子コンピュータでは可能となります。ただし、現時点では、まだ完全な量子コンピュータが存在していないので、仮説の上でのことですが…。

以下に、量子コンピューティングのその他の用途をいくつか挙げておきます。

  • 化学化合物のモデリングによる、製薬研究の支援
  • 複雑なサプライチェーンの最適化
  • 複雑な金融データのモデリングによる、リスクとチャンスの分析
  • ニューラルネットワークの処理能力の拡大
  • さまざまな条件下における気候変動の影響の検討

量子コンピューティングの現状

量子コンピューティングは、地球上の最も複雑な問題の多くに対するアプローチを一変させる可能性がありますが、現段階のテクノロジーそのものは依然として未熟なままです。この記事の執筆時点では、最も処理能力の高い量子コンピュータでも、従来のスーパーコンピュータと比べ物にすらなりません。

というのも、量子コンピューティングの特性は、高い優位性と共に、誤り率が高いものとなる可能性や、マシンを絶対零度近くの極端な低温に保つ必要性など、固有の欠点ももたらすからです。主要な大学やグーグル、IBMインテルなどの企業に所属する研究者たちは、より安定性の高いキュービットプロセッサの開発にひたすらしのぎを削っています。それでも、量子コンピュータが商業的に実用化されるまでには、まだ何年もかかると考えられるのです。

この記事は元々アップワークに掲載されました。

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この記事はBisness2Community向けにTyler Keenanが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。