マシンラーニングが、100年続く心臓発作検知の歴史を変える

あなたは、自宅で仕事をしていて、いつもの作業に取り掛かろうとしたときに、突然痛みに襲われました。胸が苦しくなり、左腕が痛み出します。ためらわず病院へと急ぎながら、最悪の事態が現実になることへの恐怖に襲われるでしょう。心臓発作を起こしているということです。病院に着くとすぐ、医師や看護師、その他の医療スタッフが、体のほぼすべての部位について、大至急で検査を行い、綿密に調べ、刺激を与える処置に取り掛かります。医療スタッフは、患者であるあなたが把握し切れないほど多くの検査を行いながら、新しい検査や他のチームメンバーに関する指示を大声で行い始めます。救急医がベッドのそばにつながれたモニターを注視していますが、目の前の結果に困惑しているようです。そこで、救急医は心臓の専門家に患者の心臓が発している兆候についての助言を求めます。しかしその専門家とは、人ではなくコンピュータなのです。

心臓発作と心臓発作の検知

アメリカでは毎日2,000人以上が心臓発作を起こしています。さらに、その内の400人以上が、最適なタイミングでの治療を受けられていません。心臓発作は、心臓に血液を送る血管が詰まることで発生します。血液が供給されなければ、心臓は正常に機能し続けるために必要な栄養素を受け取れなくなり、壊死し始めるのです。そして、適切な処置が遅れるほど、発作によって回復不能な損傷が生じる可能性が高まります。実は、研究者らが心臓発作の検知を進歩させてきたとはいえ、基本的な方法は100年前から変わっていません。現在、医師は20世紀初頭に開発されたものと同じECGと呼ばれる心電図を使って、心臓の電気的活動を測定しているのです。心臓発作の部位と重症度によって、ECGの特定の領域が変化する場合があり、それを分析して状態を見極めます。ところが、それらの変化はごくわずかで信頼できない上、心臓の全体的な電気信号のほんの一部が含まれているにすぎません。

研究者らはさまざまな信号処理やその他の複雑な数学的操作をECGに適用してきたものの、それらの処理手順を駆使しても、一人ひとりの心臓の違いを補うことはできませんでした。

人の指紋と同様に、心臓も人によって若干形状が異なり、鼓動の強さも違うため、安静時のECGの信号も一人ひとり異なります。また、体重、性別、体形によって、心臓と体表面の記録装置との間の距離が大きく変わってくることは言うまでもありません。こうした違いがあるため、患者固有の心臓が陥っている状態を、いかなるときも自動システムで予測することは非常に困難です。そのため、患者固有の心臓の形と信号に対して適応し、患者が心臓発作を起こしているかどうかを検知できる新しいシステムが必要とされてきました。

上図: 各色は、ある時点における体表面全体のECGの電圧分布を示しています。左が正常な体表面のものであり、右は心臓発作に至る過程で心臓が作り出す電圧分布です。なお、通常、医師が確認する心臓発作の兆候は、右図の胴体表面の胸部分で同心円状に広がる赤い部分になります。

心電図の測定技術の向上に向け、筆者が所属する研究チームは、コンピュータに心臓の電気信号の読み取り方を「教える」ために、AI関連のコンピュータサイエンスの最新成果を利用することにしました。すなわち、マシンラーニングを採り入れて、心電図から、患者の心臓に関するかつてないほどの情報が得られるようにしたのです。

マシンラーニングのしくみ

マシンラーニングは、人間では判別しにくいデータセット内の固有の特徴を、コンピュータが自ら学習して識別できるように、研究者らが開発したテクノロジーです。研究者は、まず、異なる特徴を持った多くの分類済みのデータセットをコンピュータに読み込ませます。コンピュータは、データセット内の特徴と様々なカテゴリの分類の基準を仔細に分析した上で、その関係性などを「学習」します。コンピュータによって抽出されたそれらの特徴は微細かつ複雑で、人間の目では見分けられない場合も少なくありません。どの特徴がどのカテゴリに対応するかを学習したコンピュータは、その知識を新しいデータセットに応用して、人間よりも正確かつ迅速に分類できるようになるのです。

マシンラーニングの用途

ユタ大学のSCIこと、科学コンピューティング&イメージング研究所は、生物医学コンピューティングと視覚化における世界的リーダーです。SCIは、17人の常勤教員や約200名の学生、およびプログラマとスタッフから構成され、その一部は、生物工学、コンピューティング、数学、物理学の学部にも在籍しています。SCIにおける研究の重要な役割は、新しい科学コンピューティング技術、ツール、システムを生み出して、生物医学、科学、そしてエンジニアリングの重要な問題に対するソリューションを実現することです。SCIは、マイクロプロセッサメーカーのエヌビディアが優れた研究機関を認定する「GPUセンター・オブ・エクセレンス」にも選ばれており、最新のコンピューティング環境が持つ高い能力と汎用性を生かして、様々な分野での進歩を後押しするための取り組みを行っています。

SCIに在籍する筆者のチームは、心臓発作の最初の兆候を示す電気信号の変化を検知するために、マシンラーニングを利用しました。そのアプローチは、心臓からの電気信号を分離して、擬似的な心臓発作の試験前、試験中、試験後の変化を観察するというものです。コンピュータは、それらの信号データを読み込み、「心臓発作あり」と「心臓発作なし」の2種類のカテゴリーに分類します。従来の人間による判定と比べて、コンピュータは心臓発作の開始を10%早く発見できました。さらに、心臓発作の初期兆候を32%も高い精度で見つけ出すことにも成功しています。しかも、新たな検知が行われるたびにマシンラーニングによる分析アルゴリズムの精度も上がり、誤診の可能性は低下していくのです。

今後の心臓発作の検知

マシンラーニングを利用して医師が心臓発作を検知できるようにすることで、心臓病学の分野が進歩しつつあります。医師や医療従事者がより高度なツールを使い、人命にかかわる極めて深刻な状況を早期に発見して、患者の治療を行えるようになる日も近いでしょう。さらにそのツールを応用すれば、遺伝的要因や環境因子を原因とする心臓発作のリスクがある人々を守ることさえできるかもしれません。この研究は心臓発作を理解し、検知するための新たな方法の創出に貢献するだけでなく、心臓発作による死亡を過去のものにする可能性さえ秘めています。

もしも胸の痛みで病院にかかることがあれば、担当医師の相談相手となるパートナーを確認してみてください。もしかすると、それはコンピュータかもしれないのです。

ウィルソン・W・グッド氏は、心臓電気生理学PhD課程の学生研究者であり、SCIこと科学コンピューティング&イメージング研究所CVRTIこと、ノラ・エクレス心血管研究&トレーニング研究所に在籍しています。

ブライアン・ゼンガー氏は、心血管疾患の分野においてMD/PhD課程の学生研究者であり、同じく、科学コンピューティング&イメージング研究所とノラ・エクレス心血管研究&トレーニング研究所、およびユタ大学医学部に在籍しています。

この記事はVentureBeatのWilson GoodとBrian Zengerが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。