次世代モバイル通信"5G"とは?【第3回】
自動運転の安全性向上の鍵は5G

エリア内の通信を効率化するマルチアクセスエッジコンピューティング

もう一つの5G技術「マルチアクセスエッジコンピューティング」(MEC:Multi-access Edge Computing)は、一定エリア内の通信処理の効率化を図る技術です。具体的には、エリア内に通信サーバーを持ち込んで、エリア内通信はトラフィックをエリアの外に出すことなく、エリア内だけで処理します。通常のモバイルネットワークは、端末-無線網-中継網-インターネット-サーバーという形で構成されます。先ほど、5Gの低遅延高信頼モードでの通信遅延は0.5ミリ秒以下と紹介しましたが、それは無線網内での遅延時間のことです。ですから、遠隔運転をインターネット上のサーバーから実行するケースでは、インターネットと中継網での通信遅延が加わるので、全体では0.5ミリ秒以下を実現できません。MECは無線網内にサーバーを置けるので、中継網とインターネットを経由することで発生する通信遅延をカットできるのです。

MECのメリットは通信遅延の最小化だけではありません。例えば、エリア内だけで大容量データを送るときには、その大容量データを中継網やインターネットに送る必要がなくなるので、ネットワーク全体のトラフィック軽減にも効果があります。また、ネットワークスライシングを実行する際も、エリア内だけのネットワークリソースを制御すればいいので、きめ細かな通信制御が可能となり、効果を高めることができます。

MECは5Gの実現技術として注目されていますが、5Gでなければ利用できない技術ではありません。実際に、ドコモのLTE基地局に富士通と富士通研究所が開発したMECシステムを接続した状態で、サービス提供を見据えた実証実験も始めています。実験では、LTE基地局に加えてWi-FiアクセスポイントをMECシステムに接続して高画質動画を配信。富士通研究所が開発した制御技術を用いることで、無線の混雑状況を把握し、より安定した通信を実現しました。その結果、LTEとWi-Fiの接続先を最短0.01秒の遅延で適切に切り替えながら動画配信できました。MECの実証実験はLTEとWi-Fiという現行世代の通信技術で実現しましたが、5G時代には5Gの高速・低遅延・大容量技術を組み込むことになります。そうなれば通信遅延0.5ミリ秒をはじめとする5Gならではの高性能通信インフラを手軽に実現できるようになります。

NTTドコモと富士通が共同で取り組んだMECの実験構成図

MECを活用するための技術開発も進められています。この技術は、様々な現場に蓄積されているデータをクラウドにあげることなく、かつデータの利用者が蓄積場所を意識せずにデータにアクセスできるようにするものです。クラウドではデータの生成時間や生成場所といったデータの属性とデータの蓄積場所のみを管理します。
本技術を活用することで、例えば、雪道を走行したクルマがドライブレコーダー等で撮影した映像を、これからその場所を走行予定の後続のクルマが取得して道路状況を確認することができます。撮影された映像の属性(撮影時間や撮影場所など)と蓄積場所となる映像へのアクセス情報(撮影したクルマの識別子など)をクラウドで管理することで、後続のクルマは蓄積場所である先行車を把握し、先行車で撮影した映像をMEC経由で直接受取ることができます。
このように本技術は、クラウドに全ての映像を集めず、必要な映像のみをMECを介してクルマ間でやりとりするため、トラフィックの削減効果が期待できます。

冬道の安全運転支援のコンセプトのデモビデオ。中央の小さな画面の映像は、他のクルマから取得した走行予定経路の映像。路面に雪が残っているため、スリップする危険性があることがわかる

特定エリアの通信能力を高めるということに着目すれば、空港や工場、アミューズメント施設やイベント会場といった企業施設の通信インフラ構築の場面にもMECは活用できます。MECは5Gを実現するための技術ですが、それと同等の高性能通信インフラを企業内ネットワークに持ち込むためのシステムとしても利用できるわけです。

ネットワークスライシングとMECは、あらゆる場面でネットワークを手軽で便利に使えるために、ネットワークリソースを効果的かつ効率的に使えるようにするための技術です。今後IoT機器は社会のさまざまな場面に組み込まれることになりますが、そのときはキャリアの設備だけでなく、一般企業の設備にもこれらの5G技術が搭載されていることでしょう。