AIによる自動作曲や演奏データ分析が、音楽教育のあり方を変える

音楽は世界共通の言語であり、地球上の人々をひとつにすることができます。最先端のテクノロジーが、人間の意思疎通の向上に役立つようになるにつれ、AI(人工知能)は、私たちの心や精神、さらには耳をも上回る能力を持ち始めてきました。

AIは、ユーザが自動化やパーソナライズを行なったり、様々なことを学びとることにできる世界を拡張しています。音楽と教育も、最先端テクノロジーによる効率化の恩恵を受けている分野です。AIを利用した自動作曲サービスであるアンパーのA.I.のようなスマートボットが独自のアルバムを制作できるようになったほか、スマート・ミュージックなどのインテリジェントなアプリケーションを利用すると、どんなユーザーでも実験的な作曲や音楽制作を行うことができます。しかし、そうした新世代の音楽家が聴衆の心を打つには、独自の才能を育てる必要があります。

それでもAIは、次の重要な学習ツールになるでしょう。現在のところ、創造的なプロセスをAIで完全に置き換えることはできませんが、確かに、以前よりも音楽の教育や制作を容易にしています。その上で、マシンラーニングは、どのように音楽教育を革新し、音楽分野の絶えまないヒューマンイノベーションを刺激するのでしょうか。

音楽を学ぶ学生や新進の音楽家に対して、AIEdと略されるAI利用の教育テクノロジー(Artificial Intelligence in Education)は、音楽教育をより親しみやすく創造的なものへと変身させつつあります。そして、新しい楽曲を制作する上で、これまで音楽家が利用してきた媒体や機会をより多くの人が使えるように間口を広げているのです。

サウンドからリズムまでをサポート

従来の音楽教室の教師は、実際の楽器を使ったコミュニケーションやデモを通じて、リズムパターンや和音の重複、コード進行などについて指導し、専門知識を共有します。しかし、AIEdも、こうした教室の教師にとって有用な助けとなるのです。

米国では、初のスマートクラスルームの1つが、ペンシルベニア州立大学の音楽の教授によって創設されました。ファーストクラスと呼ばれるこのAI / VR環境において、教育実習生は、AIの模擬学生を利用して練習することができます。教育者が、養成中の音楽教師をAIを利用して支援できるようになれば、それらの音楽教師自身も、同様にテクノロジーを利用して音楽を学ぶ学生を支援可能となることは確実でしょう。

サード・スペース・ラーニングなどの企業は、AIソフトウェアを提供するプラットフォームをすでに導入しており、指導のモニタリングや改善を図っています。この場合、生徒が質問に答える際には、オンラインのホワイトボードを通じて講師とやり取りをする仕組みです。

同社とロンドン大学の科学者は、学生の知識と演奏技術を伸ばすために、約10万時間に及ぶ指導中のオーディオデータとテキストデータを分析し、AIがどのように「拡張レッスン」に役立つかを特定しています。さらに、未加工のオーディオデータから抽出した問題の発生率や、学生にとってのセッションの有用性、セッションに対する教師の評価などを示して、学習効果の評価基準とすることも可能です。

また、ピアソンをはじめとする他の教育企業は、既存のコンピュータシステムを利用して、1対1の指導を提供したり、グループディスカッションを進行したりすることはすでに行われているといいます。加えて、彼らは、あえて学習目的のために、複雑な環境や状況をシミュレートすることさえできるのです。さらに、これらの企業は「解き放たれた知性: 教育におけるAIの拡張」というレポートの中で、学生の進捗や知識習得の状況はもちろん、その時々の気分に至るまで、AIが秒単位のスピードでフィードバックを提供できると予測しています。だとすれば、各企業は、学生の練習や演奏をモニターしたり、指示を与えたり、得られたデータを使用することが可能なデジタルの機能とプラットフォームに接続できるような楽器とそれに付随する教育プログラムを作成して、学生の音楽の授業や自宅での練習、演奏を分析することもできるようになるでしょう。

実際、AIに関するレポートの著者であるピアソンのローリー・フォーシャーは、「生涯の学習仲間」とでも呼べるようなデバイスやアプリ形式のロボットツールが、学生に質問したり、励ましたり、すべきことを勧めたり、必要と思われるオンラインリソースに接続してくれるようになると述べています。たとえば、リズムに不完全さが生じるなどの困難に学生がぶつかった場合には、演奏法をガイドしたり、新しい技術の提案を行うようなことまでやってのけるのです。

音楽教室からレコーディングスタジオまで活躍するAI

誰しも、ある程度のレベルまでは、教室では通常得られないことを、実生活の体験から学習します。しかし、AIがあれば、現実または仮想的な教室においても、あるいは、アプリやツールを通じてレコーディングスタジオの内外でも、誰もが継続して音楽教育を受けられるようになります。

今日では、音楽家も日常的にAIツールを音楽制作過程に組み込むようになり、音楽学習は、教室外や音楽スタジオ内にまで影響を及ぼし始めました。グーグルのダグラス・エックと彼の研究チームは、マシンラーニングの研究プログラムであるプロジェクト・マゼンタを開始し、どうすればコンピュータがさまざまな形式の芸術や音楽を生み出せるのかを理解する上で役立てています。このニューラルラーニングのプロジェクトは、シンセサイザとメロディ生成モデルを提供し、人間の音楽家とやり取りすることが可能です。また、グーグルを介して、ユーザは、最先端のデジタルオーディオワークステーションであるエイブルトンのプラグインも利用することができます。このような音楽家向けのツールは、オープンソースのマシンラーニング・ライブラリであるテンソルフローを活用しており、教育向けまたはプロフェッショナル向けの音楽施設の内外で音楽家が学ぶ方法に関して、新たな考え方を提示しているのです。

音楽制作の能力を育むアプリやツールを利用して、このような学習体験の促進を支援するスタートアップ企業もいくつか誕生しました。その1つであるポップガンが誇るのは、人間の音楽家から学習する、初めてのAIです。このAIは、作曲された曲や作曲者の気分を補ったり拡張できる能力を備えています。また、別のスタートアップ企業のウィーブは、聞き手の気分によって、テンポや拍子、勢い、雰囲気の変化を試しながら楽曲を制作できるシステムを開発しました。同社の共同創業者であるラース・ラスムッセンは、人間のアーティストは、こうして作られた適応型の音楽を発展させて楽曲を作れると述べています。将来的にAIは、人間のアーティストに取って代わるのではなく、それを支援するようになるというのが、ラスムッセンの予測です。

このような新しいテクノロジーを用いて、音楽家がクラウドに保存するデータは、すべて音楽を学ぶ学生の進歩を示す貴重な記録となりえます。実際にAIは、メロディ、テンポ、その他の多くの要素を私たちが分析するのに役立つことでしょう。しかし、音楽教育の大部分は明確に規定されているわけではなく、様式や特徴を解釈する方法が多数あって、偏りも生じている分野です。ベートーベンでさえ、音楽には様々な解釈が存在し、どの演奏も、完全に置き換えたり、他の演奏と比較して論じられないことから、音楽というものは不完全な存在であるという考えを決して譲りませんでした。

AIEdは、大部分がまだ初期段階です。データを保管し、簡単な作業を自動化できますが、より広範囲に渡る、論理的な、あるいは、文化的な領域の質問には答えられません。確かに、AIは音楽の教育システムに創造的な破壊をもたらすことでしょう。しかし、現実の指導や助言と並行して利用すれば、この芸術分野に親しむ人々の数を増やしたり、完成度を高めるためのツールとなりうるのです。

音楽の最もパワフルなツールは耳か、それともAIか

AIは依然として、ニュアンスや感情の深さのすべてを理解する上で、人間の耳を真似る必要があります。実際、AIは、音楽を教えたり理解するために、自らをプログラミングする方法を、依然として学習中です。しかし、広がりを見せるこの新しい技術を利用すれば、人間の創造性をさらに伸ばすことが可能になります。そして、まったくの初心者を含むすべての人が、より経験と知識に富む音楽家へと成長する上で役立つはずです。将来、AIが「生涯の学習仲間」になったとき、音楽教師は、よりパーソナライズされた教育が実現することに対して、心からの拍手を送ることでしょう。

筆者であるエンリケ・カデナ・マリンは、ラテンアメリカで最も急速に台頭しているエレクトロニック・ダンス・ ミュージックのアーティスト兼プロデューサーの一人です。

この記事は、VentureBeatのエンリケ・カデナ・マリンが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。