日本一連覇!アメフトの魅力を切り拓く、頭脳とテクノロジーの融合(後編)

【未来を創るチカラ SPORTS×ICT編 Vol.1】富士通フロンティアーズ 中村輝晃クラーク選手×藤田智ヘッドコーチ

1プレー毎の緻密なデータ解析が戦術づくりの要

アメフトの戦術づくりについて語る、藤田智ヘッドコーチ。

前編からの続き)

――藤田ヘッドコーチは、アメフトは戦術が大きなウエイトを占めるスポーツだと仰っていましたが、実際にはどのような手法で戦術を立てているのでしょうか?

藤田 アメフトでは戦術を立てるために、まず相手チームと自チームのデータを解析する「スカウティング」を行います。リーグで共有している試合の映像をパソコンに取り込んで、アメフト専用の解析ソフトを使ってデータ化するんです。1試合で約150プレーもありますが、それを1プレー毎に区切って、その時のボールの位置やフォーメーション、プレーの種類など、10項目以上に分けてデータを洗い出します。コーチ陣の中にデータ解析を専門に行う者がいて、データの洗い出しを全て手動でやるのです。これがとても大変で......。

中村 一試合を流してみれば1時間くらいで済みますが、150プレー×10項目......止めてデータを打ち込んで戻して確認しての繰り返しなので、相当時間がかかりますよね。

藤田 チーム全体のスカウティングだけでなく、選手それぞれの動きの特徴や癖を分析するスカウティングもやるので、1日〜2日はかかる。でも、ここを早くやらないと戦術を立てたり、練習をする時間が少なくなってしまうので、担当者は必死です。その次のステップとして、このデータを見ながら「次の試合はどんなプレーで行くか」「メンバー構成はどうするか」「こういう状況の時はどう動くか」といった戦術を立てます。そして、戦術をコーチ陣や選手たちとしっかりと共有して、練習でなんども繰り返しプレーすることで戦術を身体に覚え込ませていくのです。

試合中は"コールシート"から戦術を選び、状況に素早く対応

©FUJITSU SPORTS/NANO Association
ヘッドセットを身につけ、「コールシート」を握りしめて試合に臨む藤田智ヘッドコーチ。

――コーチが試合中に身につけているヘッドセットや手に持ったメモには何か意味があるのでしょうか?

藤田 あのメモはいわゆる戦術メモです。試合ごとに「この状況ではこう対処する」というプレーを一覧化してあって、我々は「コールシート」と呼んでいます。アメフトの試合の流れはとても速いので、その場で戦術を練り直している時間はありません。その時々の状況に合わせて、このシートを見ながら今最も有効だと思うプレーを選択しています。ヘッドセットをつけ、スタンド上から試合を俯瞰で見ているコーチからプレー選択のヒントになるような情報も入手し決めています。

藤田智ヘッドコーチが手にしているのは、試合におけるプレーを一覧化したコールシート。プレーには全て名前がついており、試合中にオフェンス、ディフェンスの各コーチから選手に伝えられる。日本のアメフト界では試合中のPCやタブレットの使用が禁止されているため、コールシートは紙に出力するのが一般的。

中村 試合中は、相手が想定外の動きをしてくることもあります。その場合、攻撃や守備の核となる選手は臨機応変にプレーを変更することも認められているんですが、勝手に動きすぎるとチーム全体のバランスが崩れてしまう。機転を利かせてピンチを救うこともあれば、大きなミスにつながることもあるので、その判断はとても難しいです。

藤田 戦術を立てるのに情報は不可欠ですが、試合中は経験値や勘が大事になる場面もある。情報は多すぎると判断が遅れることもありますから、なるべく情報を絞り込んで、選手にも必要なことだけを伝えるように心がけています。

ICTと人の能力を融合し、アメフトを進化させていきたい

©FUJITSU SPORTS/NANO Association

――2020年を1つのきっかけとして、スポーツの世界でもデータ分析をはじめとするICT活用が急速に進んでいくと考えられていますが、アメフトにおいては、どのような活用を望まれますか?

藤田 先ほどお話ししたようにスカウティングのデータの洗い出しはとても時間がかかるので、ICTを使って瞬時にデータ化できるようになるといいですね。この作業がスピーディーになれば、戦略を練る時間も練習時間も増えますから。選手の競技力向上に関しては、富士通が研究を進めている体操競技の画像解析『3Dセンシング技術』のように、運動の軌跡を追いかけるような技術が進歩することで、練習の効率も上がり、スキルアップにつながるんじゃないでしょうか。

「ICT活用で日本のアメフトがもっと盛り上がってくれたら」と語る、中村輝晃クラーク選手。

中村 ICTといえば、今注目されているAI(人工知能)も活用される可能性があるかもしれないですよね。

藤田 そうだね、面白いかもしれない。AIが膨大なデータの中から次の試合に有効なものだけをピックアップして戦術づくりをサポートしてくれたり、綿密な試合のシミュレーションができたりと、いろいろ活用はできそうです。ただ、戦術にも多少の"遊び"が必要。時には思い切ったことをしないと、相手に先を読まれてしまうし、ゲームも面白くなりません。失敗を恐れずにチャレンジする気持ちや勘、経験値といったものも勝負の世界には必要で、こういう部分をどこまでAIが学習できるのか......。テクノロジーと人の能力をうまく融合させて、アメフトを進化させていけたらいいですね。

中村 僕は、ICTによってアメフトという競技がもっとわかりやすく、身近なものになるといいなと思っています。NFLのように、テレビ中継の画面に選手個人やチームの記録がでてきたりすると、見る人にとっても面白いですし、選手にとっても自分の記録がわかるので、モチベーションにつながります。

©FUJITSU SPORTS/NANO Association
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チームの団結力を感じる「ハドル」(フィールド上で行われる作戦会議)や、チアリーダーによる華やかな応援合戦もアメフト観戦の見どころ。

藤田 観戦スタイルでいうと、観客席にもモニターを設置して、解説をリアルタイムで聞いたり、見逃したプレーを見返すことができると、初心者にもわかりやすくなるんじゃないでしょうか。以前、アメリカのメジャーリーグを観に行った時に、会場の外で子どもを遊ばせながら大きなモニターで試合観戦をしているお母さんたちの姿があったんですけど、日本でもあんな風に子連れでアメフト観戦できるようになったらいいなとも思いますね。

選手育成にICTを活用し、日本のスポーツ界全体が盛り上がってほしい

今後の目標やアメフトの未来について語り合う、中村輝晃クラーク選手(左)と藤田智ヘッドコーチ(右)。

――ICT活用でアメフトがどう進化していくか、楽しみです。最後に、今後の目標や夢を教えてください。

中村 僕自身は今年30歳になるのですが、選手としてより長く活躍していきたいという想いと、技術だけじゃなくチームの文化も含めて、後輩たちに受け継いでいきたいという想いがあります。

藤田 今年連覇を達成できたので、次のステップとしては、メンバーが入れ替わりながらも強いチームを再生できる、本当の意味での常勝チームになることだと思っています。将来的には、このチームから世界に挑戦する選手が出てくれたらいいなという夢もありますね。

中村 アメフト全体でいうと、僕はもっと日本での認知度が上がってテレビでの露出が増えるとうれしいですね。リーグも年々レベルアップしていますし、ぜひたくさんの方に試合を観にきてほしいです。

藤田 もっと気軽に、居酒屋に行くぐらいの感覚で観にきてもらえるのが理想ですね(笑)。あと、アメフトに関わらず、もっと子どもたちが自分にフィットしたスポーツを選べるような世の中になってほしいという想いがあります。少子化といえど、たくさんの才能溢れるアスリートがいますから、競技の垣根を超えて選手が行き来できるような仕組みができたらいいですね。若手発掘や選手育成という点でもICTが活用されるようになれば、日本のスポーツ界全体がレベルアップして、盛り上がっていくだろうと期待しています。

中村 僕たちもチームをもっと強く、リーグをもっと魅力的なものにして、日本のアメフトを盛り上げられるように、チャレンジしつづけていきたいです。

ICTで実現したいことは?

富士通チアリーダー部「フロンティアレッツ」

フロンティアレッツ新キャプテンの村松美笛です!
私たちチアリーダーは、どんな時も観客の皆さんと一体となり、選手を後押しできるような応援を目指しています。
フロンティアーズ日本一3連覇に向けて、共に戦いましょう!
試合会場でお待ちしています。

©Osamu Ikeda
富士通フロンティアーズ ワイドレシーバー(WR)
中村輝晃クラーク
1988年9月4日生まれ、神奈川県出身。
幼少期はフランスで育ち、中学から日本に在住。
駒場高校からアメリカンフットボールを始め、高校時代はワイドレシーバー(WR)とディフェンスバック(DB)を兼任。
日本大学へ進学し、ワイドレシーバー(WR)に専念。
大学時代には学生オールジャパンにも選抜される。
卒業後2011年富士通フロンティアーズに入部。
2014年の初優勝、2016年、2017年の2連覇に大きく貢献。
また、2017年日本社会人選手権(JXB)ではMVPを獲得。
日本を代表するワイドレシーバー(WR)として活躍中。
富士通フロンティアーズ ヘッドコーチ
藤田智
1967年9月2日生まれ、愛知県出身。
東海高校から京都大学へ進学し、アメリカンフットボールを始める。
学生時代はクォーターバック(QB)として活躍。
卒業後は京都大学コーチに就任し、1995年に日本一を経験。
その後、アサヒ飲料チャレンジャーズヘッドコーチに就任し、2000年にチームを日本一へ導く。
富士通フロンティアーズ創部20周年を迎えた2005年からヘッドコーチとなり、2014年、10年目にして念願の日本選手権を制覇。
また、2016年、2017年と2連覇を達成。2018年は3連覇に挑む。