「古い橋の劣化状態は?」急増する橋梁の点検業務をAIで高度化する技術

高度成長期から50年、橋の老朽化で点検対象が70万件に

私たちの身の回りでよく見かける「橋梁(橋)」。橋梁とは地面や水面よりも高い場所に設けられた道のことで、生活に欠かせない社会インフラの一つです。日本の社会インフラの多くは高度成長期前後に建設されたため、国土交通省によると、日本で建築年度が判明している橋の67%以上が2033年までに築後50年を突破すると言われています(注1)。

道路インフラが日本よりも先に発達したアメリカでは、1980年代に道路インフラの老朽化が問題となり、当時は「崩壊するアメリカ」と言われていました。日本でも道路インフラの老朽化問題が顕在化し始め、2014年に定期点検が法令化されました。これに伴い、全国70万橋に対し5年に1回の定期点検が求められ、今まで以上に効率的に点検業務を行う必要が出てきました。

そこで富士通では、橋梁の点検業務をICTの力で高度化できないかと考えました。

加速度センサーとAIで橋の異常を検知

富士通が考案したのは、橋梁メンテナンスにおける保守点検の数が多く、疲労劣化の原因となる「床版(しょうばん)」の安全性をAIで検証する技術です。床版とは、橋梁の上を通る荷重を直接受ける部材のことです。一般の橋梁では、車は鉄筋コンクリートで作られた床版の上を走りますが、車が通行することで床版は次第に撓(たわ)み、その繰り返しによってコンクリートや鉄筋が劣化します。また、交通量が増加したり、過積載車両が走行したりすれば、劣化はさらに早まります。床版内部にセンサーを埋め込んで安全性の確認を行う技術もありますが、床版の中にセンサーを埋め込む必要があるため、すでに建っている橋梁には使うことができません。

そこで今回、加速度センサーのデータを富士通のAI技術「Human Centric AI Zinrai」(ジンライ)で分析することで、今までよりさらに詳しい状態把握ができると考えました。

本技術による振動データ分析

モニタリングシステム技術研究組合(RAIMS・注2)が行った実証実験(注3)では、床版の上に多数の車が走行した状態をシミュレートし、通常の橋梁の新設から完全に壊れるまでの振動データを収集。検証用の床版には内部にセンサーを埋め込み、コンクリート内部や鉄筋の劣化を検知するとともに、内部センサーとは別に床版に加速度センサーを取り付けて記録を取りました。

得られた加速度データを、「Zinrai」上に構築したTDA(トポロジカルデータ解析)によって処理したところ、橋梁にひび割れ等の内部損傷が生じた時は、振動データから収集した幾何学的特徴に大きな違いが表れることが判明。そしてその違いは床版内部に埋め込まれたセンサーで発見された異常と一致することが確認できました。

これにより、現在の橋梁でもセンサーを後付けすることで、床版の健全性を確認することが可能になります。

  • (注2)モニタリング技術の早期実用化を目的とした14の企業、法人が参画する組織。富士通も組合員として研究開発を行っている。
  • (注3)本実証実験は、RAIMSが実施した研究であり、内閣府の「SIPインフラ維持管理・更新・マネジメント技術」の一環として国土交通省が実施する「社会インフラへのモニタリング技術の活用推進に関する技術研究開発」委託事業研究の成果。
実証実験の結果

IoT、AI、ロボットで社会インフラをより安心・安全に

現在の点検作業は、主に「技術者の目や耳」によって行われています。これに加えて、最近では内閣府が主導するSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の中には「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」というものがあり、社会インフラマネジメントにイノベーションを促進し、新技術導入しようという動きがあります。

また、国土交通省の「第4次社会資本整備重点計画」(注4)では、メンテナンス技術の向上とメンテナンスにおける新技術の開発・促進を掲げています。その一環として、今回のテーマである橋梁に関して次世代社会インフラ用ロボットの開発・現場検証の実施を行うなど、インフラメンテナンスに関するイノベーションを産学官民が一体となって行おうとしています。今後の社会インフラの安心・安全を低コストで行うためには、ICTの利活用は大きく期待されるものとなっています。

ちなみに「AIの判断だけでは判断根拠に欠ける」と考える方もいらっしゃるかもしれません。富士通では、ディープラーニングで導き出した根拠を既知の知見をベースに説明できるAI技術も持っています(注5)。将来的には、AI技術をさらに高度化したデジタル点検も見据えています。これからも、AIやIoTを活用して、安心・安全な社会インフラに貢献していきたいと考えています。