国が提唱する「働き方改革」、官・民一体でいかに推進すべきか

昨今話題の「働き方改革」への取り組みには様々な考え方がありますが、国、自治体、大企業、中小企業ではどのように捉えられ、推進されているのでしょうか? そこにはどのような共通点があるのでしょうか? 国や自治体、民間などそれぞれの分野で働き方改革の支援を行っている、富士通総研(FRI)のコンサルタント3名が、働き方改革を成功に導くための決め手について語りました。(対談日:2017年10月20日)

※この記事は、FRI発行の情報誌「知創の杜」(2018年Vol.1)P.11~16に掲載された記事を一部リライトしたものです。

「ワーク」と「ライフ」をいかに融合させていくか

菊本 徹(きくもと とおる)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部
産業グループ マネジングコンサルタント

菊本 2016年度に政府が働き方改革実現推進室を設置するなど、働き方改革は民間企業だけでなく国全体に関わる課題となっていますね。

杉浦 私は国のプロジェクトに携わる機会が多く、そこで大企業の人事が集まって働き方改革の議論をしているのですが、企業経営の立場で議論するので、生産性を上げなければという話になります。そのときのキーワードは「残業を前提としない働き方」ですが、その課題は「時間当たりの労働生産性の向上」です。

湯川 大企業は個別でコンサルも抱えられるし、アドバイザリも受けられますが、中小は時間的余裕も金銭的余裕もないし情報もないので、行政が手を差し伸べるケースがあります。私がよくお話しさせていただく自治体の労働政策として「テレワーク、モバイルワークの検討」が挙げられますが、その理解の度合いは様々です。

菊本 私は5年ほど前から大企業を中心とした働き方改革を支援してきましたが、取り組みの目的は「ビジネスを強くする」ことが多いです。しかし実態をお聞きすると、とにかく現場は時間に追われているので、まずはムダを無くし、生産性を向上する所から取り組む必要があるケースが多々あります。あるお客様の調査では、会議だけで1日3時間、管理職ではそれ以上の時間を拘束され、ほかにもメール送受信で1日2時間、メールボックス整理に週2,3時間を割いていました。

湯川 中小企業が事務所の移転等の際に、移転費用を圧縮するために「ペーパーレス化」を図るとともに、「フリーアドレス」にして事務所費用を抑えるという動きもあります。また、自治体のテレワークでは電子決裁系も併せて検討していく場合もあります。どのケースでも管理職の意識変革が重要であり、電子決裁を併せてやらないと、モバイルワークやテレワークがうまくいきません。

菊本 働き方改革という言葉には様々な取り組み要素が含まれていますが、今後減少する生産年齢人口への対応という視点が必要だと思います。そのためにも、ワークとライフを対立概念として捉えずに、いかにして融合させていくのかという議論が必要だと考えます。

「残業を減らす」のではなく、「残業を前提とした働き方をやめる」

菊本 杉浦さんは国が推進する働き方改革の調査をされていますが、いかがですか?

杉浦 淳之介(すぎうら じゅんのすけ)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部
公共・地域政策グループ マネジングコンサルタント

杉浦 先ほど話した通り、改革の目的は大きく2つあります。「労働時間の短縮」と「時間当たり労働生産性の向上」の両輪です。国際的な労働条約を見ると、日本は200条約のうち50条約くらいしか批准できていません。例えば、週40時間勤務、連続休暇2週間以上、育児休暇などです。労働条約は労働慣行の観点から経営が持続可能であるかどうかを見るための、ある種の国際的なコンセンサスになっています。主権は各国にあるため、批准するかどうかは国次第ですが、例えば企業にとって銀行の借り入れや株価形成、消費者の購入にも影響するので、持続可能性という観点で労働慣行の見直しが重要になっています。

湯川 日本は労働時間の平均では米国と変わりませんが、生産性が悪いのでしょうか?

杉浦 業種にもよりますが、OECD加盟国の中でも最下位クラスというデータがあります。課題は特に時間当たりの労働生産性をいかに上げるかですね。

菊本 時間外労働時間の削減については、実は現場が苦しんでいるケースもあります。業務量は変わらずに時間だけ制限され、18時に消灯されてしまう。あるお客様では、近隣のカフェに集まり作業や打ち合わせをするので、セキュリティの問題が起こっていると言われました。

湯川 最近ではカラオケボックスもサテライトオフィスを展開していますね。仕事は残っているのに労働時間を減らさなければいけないという問題を解決するには、様々な施策を組み合わせて生産性を向上していかないといけないわけですね。

杉浦 冒頭に話した通り、大企業の人事が企業経営の立場で議論すると生産性を上げなければという話になります。その時のキーワードが「残業を前提としない働き方」です。「残業を減らす」ではなく、「残業を前提とした働き方をやめよう」ということです。それによって個人の能力もモチベーションも創造性も上がる。会議や事務プロセスの改革に近いかもしれませんが、残業に対する価値観を変えるということですかね。

菊本 「残業を前提としない働き方」というコンセプトで政府はどんなことをしようとしているのですか?

杉浦 例えば、短縮できた時間を自己投資に回すようにし、新しい技術や事業に対応できる人材を増やしていくなどです。「人づくり革命」としてリカレント教育(注1)を企業に対して補助していこうとしている話もありますし、首相官邸に「人生100年時代構想会議」(注2)が設置されました。企業のライフサイクルが30年、事業のライフサイクルはもっと短くなり、AI(人工知能)や技術革新で人に要求されるものが変わって、個人もキャリアやスキルセットを入れ替えざるを得ないので、学び直しやキャリア自立、自分で自分の将来を見据えて多様性を作っていかなければ企業も個人も生き残っていけないという認識です。

湯川 「人生二毛作、三毛作」と言いますよね。60歳、65歳で退職して、もう一度初心に返って就職活動して働ける会社に入っていく。人生100年になるのだから、人生の過ごし方も違う。50歳でもまだ半分。だから働き方も変わりますよね。企業側としては高齢者の雇用をどうするかが課題です。

杉浦 企業側は教育投資も難しくなっています。短い期間で辞めてしまうかもしれない人にお金をかけるのはムダだということにもなりかねません。今後は自己啓発でしっかりやれということにもなるし、学び方、学ばせ方も時代設定が変わってきます。AIの話題に触れましたが、今後AIと共存して職に就く世代は、個人のキャリアやスキルセットをどこに据えるかが重要です。

自治体が中小企業のテレワークを支援する理由

菊本 自治体や中小企業の働き方改革はどのあたりに注力していますか?

湯川 喬介(ゆかわ きょうすけ)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部
クロスインダストリビジネス企画グループ
シニアマネジングコンサルタント

湯川 自治体の労働政策としては、税金で運営されている行政が手を差し伸べなければならないのは労働者数・企業数が圧倒的に多い中小企業です。テレワークやモバイルワークの理解を促進し、体験するきっかけを作るとともに、どういう段取りでやればよいのかを教えてあげるのが今のトレンドですね。

菊本 自治体が中小企業のテレワークを促進するのはどのような理由からですか?

湯川 首都圏では通勤時間の問題がありますね。例えば神奈川県は、全都道府県で最も通勤時間が長い都道府県の1つです。労働政策の観点で通勤時間短縮の解決策の1つがテレワークではないかと。もう1つは高齢者の雇用確保です。大企業は定期代として交通費を支給することが一般的だと思いますが、中小企業は実費払いのケースも多いため、週2回テレワークをして実費払いの方が安くなる場合もあります。通勤時間を労働時間に充てることができるため、従業員も楽になるし、企業側も通勤費削減と労働時間確保になります。

菊本 企業も労働者も負担が軽くなり、渋滞が緩和されて自治体も助かる。そんな観点で検討されるのは自治体様ならではです。

湯川 大企業は中長期的な視野でテレワークを検討しますが、中小企業は直近のビジネスを考えます。ファシリティのフリーアドレスもそうですが、従業員20人のオフィスを借りるのと、10人分の机を用意するのとでは全然違う。従業員が住んでいる所やお客様の場所を理由にテレワークやフリーアドレスを考えます。

菊本 本当に生産性が上がるのか、コラボレーションが生まれるのかと、効果に疑問が出ることはありませんか?

湯川 実証実験で効果があった場合、中小企業は意思決定も社長次第ですから、動きが速い。効果があると思えば即断ですし、逆に「間違えたな」となれば撤退も早いので、きちんとアプローチして伝えられれば、一気に進むポテンシャルはあると思っています。

働き方改革の決め手は「トップダウンの意思決定」

菊本 大企業の働き方改革の目的は、「ビジネスの強化」と、「グローバルな競争力強化や持続的成長」だと思いますが、中小企業はもっと直近の効果を目指しているのでしょう。

杉浦 大企業もグローバルでビジネスの強さを目指すのであれば、意思決定のスピードを働き方改革の中で速める取り組みを進めていかなければなりませんね。先ほど「残業を前提としない働き方」という価値観に変える必要があると言いましたが、企業での取り組むべき課題は何でしょうか?

図 働き方改革のポイント

菊本 ICTだけでなくルール・制度、そして意識を変えなければいけませんが、大企業は現場にトップメッセージが届いていないことがあります。そんな中で全員が同じ方向を目指すのは簡単ではない。これを変えられるのは危機感がある会社です。

湯川 企業文化を変えるのも、ルールを作るのも、ICTを整備するのも、いずれもトップダウンの意思決定が必要ですね。「我が社はこう目指す」と強く打ち出さないと進んでいかない。

菊本 私のところにはIT部門からお話をいただくことが多いのですが、IT部門だけで改革を進めることはできません。様々な関連部門を巻き込み、全社の取り組みとして推進することが重要です。

大企業、中小企業それぞれの「働き方改革」の進め方

菊本 成功に導くためにツールを導入することは必要ですよね。中小企業は最新ではなくてもICT活用に自治体の支援があるし、社長の思いで一気に変えられる。大企業は海外を含めた法対応やセキュリティ等ルールの見直しに時間をかけなければいけないので、一気というのは難しいですが。

杉浦 最初につまずくのは働き方改革の目的設定ですね。企業目線で言えば、間接的時間削減、労働生産性向上、創造性向上があるので、そこが混同されたり、その議論ばかりに終始するとなかなか進まなくなってしまう。

湯川 大企業はその議論ができます。しかし、中小企業はスタートラインに立てていない。誰をターゲットにするかで成功への道筋は違います。

菊本 同じテレワークでも捉え方が違いますからね。大企業はグローバルで考えると人材は多くいます。日本の労働人口減少は、人材や文化の多様性に対応することにより防ぐことができます。AIの活用により定型業務を機械に任せることもこれからは可能となります。

杉浦 中小企業は目に見える個別的な効果をお伝えすることが重要ということですね。

湯川 サテライトオフィスの動きも違います。中小企業はコワーキングスペースでビジネスパートナーやお客様を見つけようという副次的な効果も狙って仕事するケースもあると聞きます。一方、コワーキングスペース提供者は共創を企画しています。ワークショップを売りにするなど、サテライトオフィスのあり方が変わってきています。

菊本 富士通総研は大企業への支援だけでなく、自治体や中小企業、政府に対しても支援しているので、日本の働き方改革全体を担っていきたいですね。

  • (注1)リカレント教育:OECD(経済協力開発機構)が提唱した生涯教育構想。従来の教育が学校から社会へという方向で動いていたのに対し、一度社会に出た者の学校への再入学を保障し、学校教育と社会教育を循環的にシステム化することを課題とする。
  • (注2)人生100年時代構想会議:「人づくり革命」を断行するための政策に係る審議に資するため、首相官邸に設置された。
対談者(敬称略 左から)
杉浦 淳之介:株式会社富士通総研 マネジングコンサルタント
菊本 徹:株式会社富士通総研 マネジングコンサルタント
湯川 喬介:株式会社富士通総研 シニアマネジングコンサルタント
知創の杜(フォーカスシリーズ)
「官・民を通じた働き方改革への取り組み」

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