過大評価されるAI――あらゆる産業の期待値を満たす日は来るのか

たとえAIが、21世紀で最も過大評価されたテクノロジーではないとしても、モバイル、仮想現実、IoT、ビッグデータに対するこれまでの熱狂に匹敵する存在であることは確かでしょう。大小さまざまな企業が、「ビジネスを成長させる上でAIを重要な要素として採用している」と公言しなくてはならないようなプレッシャーの中にいます。

しかし、AIにはこれほどの過大評価を受ける価値があるのでしょうか。この論争には、正反対の意見を持つ2つのグループが存在します。一方は、スティーヴン・ホーキング氏やイーロン・マスク氏のような有力者をはじめとする悲観論者で、AIテクノロジーが将来的に人類存続の危機をもたらすと考えるグループです。もう一方の人々は、AIが世界の最も困難な問題を数多く解決し得るブレークスルーだと捉えています。ビジョナリーであるレイ・カーツウェイル氏も、ほぼ全人類の知力がAIによって高まる日も近いと考える人物の1人です。また、伝えられるところでは、マスク氏が立ち上げたスタートアップであるニューラリンクは、記憶力を向上させたり、コンピューティングデバイスのより直接的な操作を可能とするために、脳とコンピュータをつなぐインタフェースの開発を進めているといいます。

AIに関する最近のマスコミ報道を見ていると、ある意味で現実から遊離したかような予測も含まれており、何が真実で、このテクノロジーがどこに向かっているのかを判断することが難しい状況です。これは、AIに関して正反対の分析が書かれた記事が数多く存在している点からも理解できるでしょう。たとえば、画像認識の機械学習時に、写真内の1ピクセルに変更を加えた、専門用語でいうところの「敵対的画像」を混ぜただけで、認識結果においてステルス爆撃機と犬を取り違えたという九州大学の研究結果もありますが、米国国防総省が敵対的画像の問題を克服して、それらを正確に区別できるようになることを期待せずにはいられません。

先に挙げたような主張の食い違いは、AIに関する真実を大局的に示しています。つまり、AIテクノロジーがここまで発展したとはいえ、マシンの知性が人間のそれをしのぐシンギュラリティの段階に到達するのは、まだ少し先の話だということです。カーツウェイル氏は、シンギュラリティが訪れるには30年弱かかると考えています。同様に、ソフトバンクCEOの孫正義氏も、マシンが人間のインテリジェンスをしのぐようになるには最大2047年までかかると予想しているのです。

ただし、時期や善悪は別として、AIの大きな進化を見通しているのは、この2人に留まりません。今年初めに行われたパネルディスカッションでは、カーツウェイル氏やマスク氏を含む著名なAI専門家に対して、コンピュータのインテリジェンスが最も聡明な人間のそれをしのぐシンギュラリティをさらに超えた永続的状態を指す、スーパーインテリジェンスを持つマシンの開発は可能か、との質問が投げかけられましたが、その答えは全員一致で「Yes」でした。

あらゆる産業にAIを付加する

いずれにしても、多くの企業が、AIテクノロジーを自社のアプリや消費者向けアプリに、いち早く取り入れようとしています。フューチャリストのケビン・ケリー氏が、1万社の次期スタートアップに関する事業計画は「Take X and add AI(何でもよいから産業分野を1つピックアップしてAIを足すようなもの)」だと評したのは有名な話であり、現実にもそうした状況が進行しているようです。コンサルティング企業のPwCと調査会社のCBインサイツによる2017年第3四半期のレポートでは、「米国のAI企業による91件の取引における資金調達額が、3四半期連続で10億ドルを超えた」と報告されています。

これは米国に限った現象ではありません。最近行われたMITの「AI and the Future of Work(AIと仕事の未来)」イベントでは、中国の初期ベンチャーファンドであるシノベーション・ベンチャーズの会長兼最高経営責任者であるカイフー・リー氏が、「AIの時代にあって、米国と中国の2国による競争と独占は避けられないばかりか、既に始まっている」と述べています。また、中国政府はAIを緊急課題と位置づけ、2030年までにAI分野の世界的リーダーとなる計画を打ち出しました。さらに、実際にAIテクノロジーの研究を行なっているのはスタートアップばかりではありません。アナリスト企業のガートナーによる最近のレポートでは、AIに関する同社への問い合わせは、この1年で500%も増加したといいます。しかも、通常、それらの問い合わせは著名企業からのものなのです。

1兆ドル産業か、はたまた幻想のバブルか

ベンチャーキャピタル向けサイト「エンジェルリスト」には、現時点で3,500社を超えるAI関連スタートアップが登録されており、その平均評価額は500万ドル近くに上ります。そして、同サイトのAI関連スタートアップ数を2017年年初と比べると、75%も増加しているのです。CBインサイツは、グーグル、IBM、ヤフー、インテル、アップル、セールスフォースといった大企業が先を争ってAI関連の民間企業の買収を進める中で、フォード、サムスン、GE、ウーバーも参戦するようになったと報告しています。しかし、フェイスブックやグーグルなど、ほんの一握りの企業だけが専門家市場を独占しているため、最高クラスの人材はすでに希少な存在です。

とはいえ、このような現在の市場の狂乱とは裏腹に、AIはまだ初期段階にあります。たとえば、AIシステムが、見ているものを正確に認識するには、「アプリケーションのトレーニング」として知られるプロセスを通じて、膨大なデータの学習が必要になります。人間の場合、猫という生き物を識別するために何千枚もの猫の画像を見る必要はありません。現状のAIシステムの能力では、人間の頭脳が学習する仕組みに取って代わるレベルにはほど遠いということが、この例からも理解できるでしょう。

それでも、AIが洗練度と応用の面で進化を遂げつつあるのは事実です。たとえば、多くの金融サービス企業が、不正行為によるリスクを防ぐためにAIを利用しています。これは、AIのアルゴリズムが、「真」と「偽」のいずれかのラベルが付けられた大量の取引サンプルを用いて、現行のトランザクションを監視する中で異常なやり取りを検出できるようにするというものです。また、AI投資取引において主要業界といえる医療分野でも、多くのAIアプリケーションが登場しています。こちらの応用例では、ノッティンガム大学の研究者チームが定期的に医療データをスキャンして、脳卒中や心臓発作の恐れがある患者を予見するAIアプリケーションの開発経緯を紹介しています。ちなみに、このAIシステムの判断は、標準的な診断手法を用いる医師よりも的確です。

このようなアプリケーションは非常に素晴らしく、すぐに恩恵が得られますが、必ずしも「インテリジェント」というわけではありません。現在見られるAIの例は、自然言語処理や音声認識、画像認識に加えて、パターン認識や確率計算に秀でているものの、シンギュラリティに到達するには今も多くの作業が残されているためです。

今後のAIの高度化には、パフォーマンスとエネルギー効率の両面で、コンピューティングにおける大幅な進歩が必要になると思われます。AMDとエヌビディアの両社がこのようなAIの発展を後押ししているとはいえ、一体どのくらいの時間がかかるのでしょうか? ムーアの法則では「トランジスタの集積密度は18~24カ月ごとに2倍になる」と言われていますが、そのペースは鈍化傾向にあります。現行のシリコンベースのデジタルコンピューティングのパラダイムが、超えることがきわめて困難な物理的限界点にぶつかるまでには、おそらくさらに2回の進化サイクルを残していると思われるものの、その先のパフォーマンスを実現しようとすれば、現時点ではまだほぼ理論上のものでしかない量子コンピューティングのようなブレークスルーが必要になると考えられます。

幸いなことに、この方面の進歩には既に初期兆候が見られます。最近ではフォルクスワーゲンが、グーグルの量子コンピュータを利用して、AIと機械学習の向上を図ることを発表しました。現段階では、グーグルの量子コンピュータも科学プロジェクトの域を大きく上回るものではないとの意見もありますが、この協業によって、ゆくゆくは現行のAIと同等レベルの精度が、現在のAIアルゴリズムのトレーニングに必要な画像よりもはるかに少ないデータセットで実現できるものと期待されています。

さて、このような情報を総合すると、AIに対する評価は完全に正当化されたといえるのではないでしょうか。その意味では、近いうちにAIテクノロジーは、劇的で、おそらくはディスラプティブな応用やROIにつながることが予想されます。その一方で、人工知能がスーパーインテリジェンスレベルになるには、AIの理論とアルゴリズム、そしてコンピューティングのハードウェアとソフトウェアにおいて、いくつもの大きなブレークスルーが今後も必要になることも確かなのです。

ゲリー・グロスマンは、フューチャリストであり、コンサルティング企業のエデルマンのパブリックリレーションズ&コミュニケーションズマーケティング担当エグゼクティブです。

この記事は、EdelmanとVentureBeatのGary Grossmanが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。