次世代モバイル通信"5G"とは?【第2回】
5Gでライブ観戦、スタジアムの観客全員が4K映像配信を視聴できる?

2017年12月21日、5Gの商用化時期がぐっと近づく出来事がありました。移動体通信システムの仕様作成団体である「3GPP」が、ポルトガルのリスボンで開催した3GPP TSG RAN Plenary会合の場で、「5Gの標準仕様の第1弾となる"NSA 5G NR"の仕様策定が完了した」と発表したのです。通常、仕様策定から商用化までは1年半から2年程度の期間がかかります。今回、2017年中に仕様ができたので、順調にいけば2019年中にも5G商用サービスが始まる可能性が出てきました。

4Gのシステムを活用して5Gを実現する「NSA 5G NR」

ここで5G商用サービスの時期と実現技術についてまとめておきましょう。現在、5Gの商用サービスを実現するために、端末-基地局間の無線通信仕様として三つの手法が検討・開発されています。

第一は、現行の4Gを改良した「eLTE」(enhanced LTE)と呼ばれる方式です。これは4Gシステムから5Gシステムへの橋渡し的な役割を果たすために作られました。その特徴は、4Gの技術をそのまま利用できるところにあります。ただし、新技術の導入が限定的になるため、5Gならではの大幅な高速化、大容量化、低遅延などは実現できません。

第二は、5Gならではの通信能力を実現するために新しい無線データ技術を採用した5G仕様「NSA 5G NR」です。2017年12月に仕様策定されたのはこの規格です。特徴は、通信制御に4Gシステムを流用すること。名称にあるNSA は「Non-standalone」の略で、「この方式だけではシステムを組めない=4Gのシステムが必要になる」ことを、後ろのNRはNew Radioの略。4Gとは異なる新しい無線方式であることを意味しています。NSA 5G NRは、3GPPでは「Release15」という名称で仕様策定が進められており、NRの最初の仕様であることから「Phase1 NR」と呼ばれることもあります。

eLTEとNSA 5G NRに共通するのは、既存の4Gシステムと相互運用性があることです。このため、既存の4Gシステムのインフラを活用して早期に商用化できるという特徴があるほか、一つの基地局/端末で4Gと5Gを使い分けるという運用が容易になります。

これらに対して第三の方式となる「SA 5G NR」は、5Gに求められるさまざまな高性能の通信能力を実現することに主眼をおいた仕様です。先頭のSAは「standalone」のことで、「この方式だけでシステムを組める=4Gシステムは不要である」という意味です。SA 5G NRは制御部分も含めて新しい技術に基づいた仕様となるため、4Gシステムとの相互運用性はありません。SA 5G NRは3GPPにおける仕様名称である「Release16」や、2番目のNRという意味で「Phase2 NR」と呼ばれることもあります。

5G商用サービスの開始時期ですが、現在のところ、NSA 5G NRはeLTEと組み合わせる形で提供されることが見込まれています。冒頭で紹介したように、早ければ2019年にも日本を含めた複数の地域で商用サービスが始まりそうです。一方のSA 5G NRは、仕様策定が予定通りに進めば、NSA 5G NRの商用化から2~3年後に商用化されるでしょう。

5Gならではの特徴は「超高速」「高密度大容量」「低遅延高信頼」

eLTEは「5Gに求められる通信能力を実現できない」と紹介しましたが、5Gに求められる通信能力とはどのようなものなのでしょうか。5Gの標準化を担当する国際電気通信連合 無線通信部門(ITU-R: ITU Radiocommunication Sector)は、5Gの仕様制定に当たって「5Gが提供すべき通信能力」を定義するために具体的な活用ケースをいくつも想定しました。そして、それらの活用ケースにおいて求められる通信能力を議論する中で、さまざまな活用ケースに対応できるように三つの観点を設定しました。具体的には、1)超高精細ディスプレイや3次元ビデオ、AR(Augmented reality)向けの「超高速モバイル通信」(Enhanced Mobile Broadband:eMBB)、2)スマートシティ/IoT向けの「大量・多地点通信」(Massive Machine-Type Communication:mMTC)、そして3)遠隔手術や自動運転といった安定的なリアルタイム通信を前提とするミッションクリティカルなアプリケーション向けの「超高信頼の低遅延通信」(Ultra-reliable and low latency communication :URLLC)です。

ITU-Rが5Gの仕様作成に当たって想定した活用ケースと、それらを満たす三つの観点
(Recommendation ITU-R M.2083-0、IMT Vision - Framework and overall objectives of the future development of IMT for 2020 and beyond。2015年9月)

ITU-Rは、三つの観点に対する具体的な数値目標も細かく定めました。代表的な数値目標としては、超高速モバイル通信(eMBB)の「最大速度は下り20Gbps/上り10Gbps」、大量・多地点通信(mMTC)の「1平方キロメートル当たり100万デバイス」、超高信頼の低遅延通信(URLLC)の「遅延時間0.5ミリ秒」があります。このほか、高速モビリティ環境でも通信できるように、対応可能な最大移動速度として時速500kmを掲げています。

5Gの標準策定の前提となった主な数値目標
(3GPP TR 38.913 version 14.3.0 Release 14、2017年10月)

密集エリアでの通信品質を高める新技術「超高密度分散アンテナ」

紹介してきたように5Gでは、通信速度だけでなく、密集度合いや遅延など、さまざまな観点で4Gを遙かに上回る通信性能が求められます。例えば、大量・多地点通信の目標数値である「1平方キロメートル当たり100万デバイス」は、4Gの目標数値の10倍以上となっています。これを実現した上で、個々の端末に安定した高速通信機能を提供しなければなりません。

今回は、この異なる観点の通信性能を同時に達成するための技術をご紹介します。活用シーンは前回同様、数万人の観客で満員になっているスタジアムにおいて、観客の一人一人が高精細動画のライブ中継を一斉に視聴する場面です。

前回、一人一人が数100Mbpsという高速通信を実現するために、多数のアンテナを用いて電波を目的の方向に集中させる「ビームフォーミング」という高速化技術を用いることをお伝えしましたが、このビームフォーミングを大量・多地点通信環境で実現するには別の技術を組み合わせなければなりません。これが、「超高密度分散アンテナ」です。この技術は、富士通が総務省からの5G実現に向けた受託研究「超高密度マルチバンド・マルチアクセス多層セル構成による大容量化技術」を軸に、NTTドコモと共同で実験検証を進めています。

なぜ大量・多地点通信環境(=密集度合いの大きな環境)において超高密度分散アンテナが必要になるのかを説明しましょう。無線通信は送信側と受信側がアンテナで電波をやり取りすることで成り立っています。端末が密集しているエリアで個々の端末が安定的に無線通信するには、その狭いエリアにたくさんの基地局アンテナを設置する必要があります。しかし、狭いエリアにたくさんのアンテナを設置し、多数のユーザーと同時に通信を行おうとすると、それぞれのアンテナがやり取りする電波が干渉してしまうという不具合を起こし、通信品質が劣化する危険性が出てきます。この干渉問題は密集度合いが大きくなるほど影響も大きくなります。

富士通および富士通研究所は、アンテナで使われる増幅器などの高周波回路の特性を補正することで通信精度を向上させる「高精度キャリブレーション技術」を用いることで電波干渉問題をクリアし、複数のアンテナを持つ小型基地局を狭いエリア内に分散配置してエリア内の大容量化を実現する「超高密度分散アンテナ」の実験システムを開発しました。

このシステムにおいて小型基地局は、複数の分散ユニットアンテナを結合することで実現されます。分散ユニットアンテナは柔軟に結合できるので、エリア内の設置環境に応じた小型基地局を構成することが容易になります。

超高密度分散アンテナの最大の特徴は、高密度に分散配置した複数の小型基地局を協調制御して、セル(電波の届く範囲)を瞬時に動的に形成できる仕組みを開発したことです。

この分散アンテナ間の協調制御により、通信品質の良い場所(仮想セル)を動的に作り出せるので、すべてのユーザーの通信品質を高めることができるようになります。

今回は5Gの実現技術と、5Gサービスが目指している通信性能に関する数値目標、そしてその通信性能を同時に実現するための技術革新例を見てきました。次回は5Gで導入が予定されている新しいサービス提供手法である「ネットワークスライシング」と、リアルタイム性が求められるIoTアプリケーションの構築に欠かせない「エッジ・コンピューティング」について見ていこうと思います。