デザイン思考が超高齢社会を救う? スマートベッドシステム™ 開発物語

イノベーションを起こすためのメソッドとして、「デザインアプローチ」が脚光を浴びています。アイデア創出から事業化まで、どのようなプロセスを踏めばよいのでしょうか。医療・介護用ベッドのトップメーカーであるパラマウントベッド様と富士通が取り組んだ「スマートベッドシステム」の開発について、プロセスを追ってご紹介します。
【Fujitsu Insight 2017「AI/IoT活用」セミナーレポート】

(左)富士通デザイン株式会社 ストラテジックデザイングループ 中島 亮太郎
(右)パラマウントベッド株式会社 広報部 広報課 主管課長 鈴木 了平 氏
(文中敬称略)

イノベーションを起こすための体制作り

鈴木パラマウントベッドは医療・介護用のベッドを製造している会社です。これまで「起きる」「寝る」「座る」といったベッド本来の機能をいかに充実させるかを考え、ものづくりをしてきました。その中で、少子高齢化が進むこれからの時代には、ベッドは寝るだけのものではなくなり、生体情報などを「測定する」機能が必要になるだろうという考えに至りました。そこで始まったのが「スマートベッドシステム」のプロジェクトです。

臨床実験を経て、事業化していくプロセスへ進んだ時に富士通さんと出会い、社内外にスマートベッドシステムがどういうものかを伝えていくためのコンセプトムービーの制作をお願いしました。

「スマートベッドシステム」の概要
パラマウントベッド株式会社
広報部 広報課 主管課長
鈴木 了平 氏

プロジェクトは社長直轄体制で、技術開発本部副本部長がリーダーになりました。その他、医療・情報システム、技術開発、営業・マーケティングなどのスタッフも参画。タイトなスケジュールでしたが、経営層と細かくコミュニケーションが取れたこと、部署間で連携し、同じ目線でメンバーがプロジェクトに関わったことが良かったと考えています。

富士通さんには、「スマートシティ」という未来の街づくりを推進している先進的なイメージがありました。「netCommunity(注1)」に伺った際に、我々が考えている「スマートベッドシステム」は、富士通さんの考える未来の街づくりの一部とも言えるのではと考え、コンセプトムービーの作成をご相談しました。また、今回のスマートベッドシステムは医療施設向けのシステムなので、富士通さんが医療情報システムのシェアNo.1であるという点も、今回一緒にプロジェクトを進めることになった理由の1つです。

  • (注1)ICTによるイノベーションで実現する豊かな社会をデモンストレーションする富士通のショールーム

「世界観を伝える」コンセプトムービーの制作

富士通デザイン株式会社
ストラテジックデザイングループ
中島 亮太郎

中島今回のプロジェクトで、私は「スマートベッドシステムをムービーで伝える」ための取り組みをパラマウントベッドさんと協業させていただきましたが、重要なのは、単に「ムービーを制作する」ことだけではなく、「商品やサービスが持つ世界観を伝える」という点に重きを置いたことです。新規事業を企画して、どのような世界を実現し、どのようなメッセージを人々に届けたいのか。その構想の部分に最も時間をかけて取り組みました。

新規事業をデザインアプローチによって進めていくためには、大きく3つの段階があります。①「ビジョンを描く」プロセス、②「コンセプト立案する」プロセス、③「コンセプトをビジネスに展開する」プロセスです。今回はそのプロセスに沿ってご紹介します。

プロセス①:ビジョンを描く

中島構想のはじめの取組みとして、パラマウントベッドさんと富士通で、ムービーで描きたい姿を創出するためのワークショップを行いました。はじめに、スマートベッドシステムを通じて「伝えたいシーン」や「届けたいメッセージ」をパラマウントベッドさんのプロジェクトメンバーにヒアリングしながら、ホワイトボードに書き出して、それぞれの頭の中に思い描いていることを可視化していきました。

ムービー制作にあたり開催されたワークショップの様子

ここでポイントとなるのが、「テクノロジーの視点で何ができるか」ではなく、「それを利用する人々にどういう気持ちになって欲しいか」というユーザー視点です。今回は、看護師さんや介護士さんをターゲットと定め、どのような場面で現場は困っているのか、どのようなニーズがあるのかを話し合っていきました。

そこで挙がったキーワードの中から、ムービーの中でポイントとなる部分を抽出して方向性を見つけていくことに加え、実現のための方法やアイデアを考えて具体化していくプロセスを経て、全体像となる構成と、最終的にコアとなるメッセージを探っていきました。

鈴木正直に申し上げますと、富士通さんから「アイデア創出のためのワークショップをしたい」と言われた瞬間に、少しハードルが上がりました(笑)。社内のメンバーを集めるための調整も大変なので。結局、各部署のメンバーが集まったのですが、改めて、「誰にどんなメッセージを伝えたいのか」という問いを富士通さんから投げかけてもらうことで、メンバーの中で少しずつズレていた認識が共有され、商品化に向けた方向性を合わせることができました。また、情報や考え方の整理にも大きく役立ちました。もしこのプロセスがなかったら、目標を明確化することはできなかったですし、今回のムービーもできなかったと改めて感じています。

プロセス②:コンセプトの立案

中島次に、ワークショップで挙がった全てのアイデアの中から、特に何にフォーカスするかを考えながら、最終的に1つのストーリーにつなげていく取り組みを行いました。

その時にポイントとなるのが、やはり「ユーザー視点」です。ここでは医療や介護の現場のシーンにフォーカスし、主に患者さんや医療関係者の方、介護スタッフの方に沿ったストーリーを考えながら、6つのパートを利用シーンに設定しました。最終的に「ベッドサイドケア」(ベッドの側で患者さんが必要とする援助を行うこと)というメッセージを核として、登場人物や利用シーンなどのディテールを詰めていき、1つのストーリーとしてムービーを仕上げました。

ムービーは直感的に分かりやすく伝えられることが大きな特徴です。そのため表現方法としては、説明的な内容ではなく、ムービーの中で出てくる登場人物が主役となり、様々な場面で使われるストーリーを通じて、商品やサービスの価値を共感していただけることを意識しました。ストーリーをつく過程において、構想の段階では多くの可能性を探していきましたが、伝える段階においてはそれらの要素を統合して1つのコンセプトにまとめることが求められます。そこにデザイナーが関わることによって、答えのない状況を模索しながら可視化して切り開き、新規事業の推進に貢献していくことができるのではないかと考えます。

ユーザー視点からストーリーを立案

鈴木出来上がったムービーは、2015年の「国際モダンホスピタルショウ」という展示会で初めてお披露目したのですが、我々の期待通り、各方面から注目を集めることができました。会場でムービーを見た医療機関の方からすぐに導入したいというお話を頂くこともあり、インパクトは大きかったと思います。展示会後も、社内メンバーへの説明やお客様との商談の際に、最初にムービーを見る時間を設けるようにしています。

出来上がったコンセプトムービー

プロセス③:コンセプトのビジネス展開

中島スマートベッドシステムのコンセプトを作ってから、サービスインするまでに約1年半の期間がありました。ビジネス化するまでに様々なご苦労があったかと思うのですが、いかがでしょうか?

鈴木大きく2つあります。1つは、弊社は製造業なので、情報システムに関する実績がほとんどなかったことです。基本的な知識を含め新しいことだらけで、形にしていくのは大変な作業でした。

もう1つは、事業として成立させるために「注文をいただく」ことです。お客様にこのスマートベッドシステムについてお伝えすると、「コンセプトはすごくいいよね」と言って下さるのですが、契約となるとハードルが上がります。注文につなげるためには、細かい課題や要望を積み上げ、解決するという地道な作業が必要です。今後もその作業を継続し、さらに成長していきたいと思っています。

超高齢社会を迎えるにあたって

中島今後、スマートベッドシステムをビジネスとして展開していくうえで、どのような展望をお持ちでしょうか。

鈴木先日、医療施設へ4件目の導入が完了しました。また、高齢者施設へ導入している実績もあります。今後は在宅医療での遠隔サポートも視野に入れ、超高齢社会を迎えた日本がこの先どうなっていくのかを常に考えながら、スマートベッドシステムが世の中の役に立つよう、取り組んでいきたいと考えています。

登壇者
  • パラマウントベッド株式会社
    広報部 広報課 主管課長
    鈴木 了平 氏
  • 富士通デザイン株式会社
    ストラテジックデザイングループ
    中島 亮太郎