2021年までに自動運転車の本格導入を目指すイギリスの国家戦略

「イギリスは、全面的な規制改革を経て、2021年までに自動運転車の本格導入を目指す。これにより、我が国はブレグジット(EUからの離脱)後のテクノロジー革命のトップに躍り出るだろう」――これは、フィリップ・ハモンド英財務相が発表した、自動運転車に関するイギリスの国家戦略です。実現されれば、車内・車外ともに人間のオペレータを付けず、また、多くのEU諸国や米国内の大半の地域で適用される法的制約や規則を受けずに、自動運転車の試験をイギリス国内で実施できるようになります。

イギリスの自動車業界の歓迎を受けたこの政策は、ブレグジット後の英国経済の見通しや、可能性とリスクへの重点的取り組みについて、より前向きなメッセージを示したいハモンド財務相と英財務省の試みの一環です。これまで、自動車メーカー各社は、ブレグジットに伴う最低2年の移行期間内に、イギリスがEUの単一市場および関税同盟の中に留まる取り決めがなされない限り、少なくとも一部の生産を海外に移管せざるをえない可能性があることを警告してきました。

関連記事:「The Observer view on Philip Hammond’s budget」(フィリップ・ハモンド財務相の予算に対する観測的見解)

しかし、今回のニュースを受け、英自動車製造・販売者協会のマイク・ホウズCEOは、「まったく新しい世代の自動車の開発、試験、製造を目指す企業に向けて、英政府が率先して英国の魅力を高めようとすることは喜ばしいニュースだ」とコメントしています。

同氏は続けて、「当協会は、コネクテッドカーや自動運転車の開発、試験、販売において、英国を世界屈指の場所にするという政府の施策を支持します。それらの車両によって道路や社会の変革が進むことで、交通事故が劇的に減少し、毎年何千人もの命が救われることになるでしょう。同時に、市場での数十億ポンド規模の成長が見込まれます。業界が引き続き政府と連携することで、英国がこの刺激的な最新テクノロジーの恩恵をいち早く受けられるようになることを期待しています。」とも述べました。

イギリスの自動運転車向けテクノロジーリーダーであるファイブAIの公共政策担当ディレクター、ルーシー・ユー氏は次のように語っています。「今回のニュースにより、自動運転車の開発とイノベーションにおけるグローバルリーダーとしての我が国の地位が確固たるものとなるでしょう。自動運転車の導入を後押しする規制の枠組みを再構築する取り組みは、イギリスのテクノロジーを発展させ、業界全体への投資を促して、欧州におけるリーダーとしての我々の地位を一段と高めてくれるはずです。」

ハモンド財務相の発表は、自動運転車の最も高度な公道試験における最後の障壁が取り除かれることを意味します。それと同時に、英法律委員会が責任の所在の明確化に重点を置く新しい規制の枠組みを打ち出し、企業が確信を持ってこの分野に投資できるようにする予定です。

これまで同相は、企業、労働党、さらには自党の多数の国会議員からも、2019年のEU離脱に向けてイギリスが準備を進めるにあたり、経済に関するより明確なビジョンを示すようにとのプレッシャーを受けてきました。それに対する回答として、「未来に備えて国の体制を整え、英国をテクノロジー変革のリーダーにする」というメッセージを発し、ハイテクプロジェクトに対して新たに10億ポンドの予算を計上し、うち7,500万ポンドをAIの研究に、4億ポンドを電気自動車の充電スタンドの設置に、1億ポンドを低公害車の販売促進にそれぞれ割り当てることを表明したのです。

この背景には、財務相が英国の見通しについて悲観的すぎるという批判が、多くのEU離脱派の保守党議員から寄せられたことがあります。こうした批判をはねのけるために、同相は、テクノロジーの変化に向けた取り組みの重要度や論調を大きく変更したのです。自動運転車以外に、住宅建設の推進や、看護士・教師など公共部門の労働者対象の賃上げの上限を現在の1%から少なくとも部分的に引き上げる方針も、新たな政策に含まれます。

また、通商面でのイギリス側の主張が通らずにブレグジットが行われた場合に備え、多くの保守党議員が同相に対し追加予算を確保しておくことを求めています。元EU離脱担当相のデビッド・ジョーンズ氏は、最低でも10億ポンドを用意すべきだと主張し、次のように述べました。「全国の主要港において、改めて税関のインフラが必要になります。また、税関職員や国境管理職員などの人的リソースの拡充に伴って、業務の大規模なIT化も必要になるでしょう。」

ジョーンズ氏はさらに続けて、「2つの理由から、これを何としてでも行うべきだと考えています。1つ目は、EUに対するイギリスの主張が通らない場合でも、準備体制が整っているという確信を企業に与えるためです。2つ目は、EUに対しても我が国の準備が万全であることを示し、『交渉の席でイギリスをパニックに陥れるような策をろうすべきではない』という強力なメッセージを送ることにあります。ハモンド財務相は、英国が本気であることを示さなくてはなりません。」とも語っている。

一方でハモンド財務相には、NHS(英国民保健サービス)へのさらなる資金投入と、企業の前払金の軽減を求めるプレッシャーがかかっているにもかかわらず、OBR(英予算責任局)は、今後5年間の英国の成長見通しを下方修正することで、同相の政策の余地を制限するものと思われます。アナリストらは、OBRがイングランド銀行のGDP成長率予測に従うと予想しており、その成長率は、2017年が1.5%に、連続3年間が1.7%に最近下方修正されたばかりなのです。

この点に関して、英商業会議所の所長であるアダム・マーシャル氏は、「財務相は、来年の4月に予定されているビジネスレートの引き上げを断念し、法人税の引き下げ計画を先延ばしにすることでその分をまかなうべきだ」と主張しています。

さらに、中・低所得層の労働条件の改善に取り組むシンクタンク、レゾルーション・ファンデーションのディレクターであるトルステン・ベル氏からは、「ハモンド財務相は、今こそ守りに入らず、大胆になるべきだ。そうすれば、住宅建設の新たな時代の到来を告げることができるだろう。財政規則から住宅投資を免除することで、より手頃な住宅を供給するなど、新しい建物への財政支援を行えば、予算が無為無策なものになるリスクを避けることができる」との指摘もあり、異なる立場から様々な意見が寄せられているのが現状です。

その中で、自動運転車の規制緩和がブレグジット後の英国経済に及ぼす効果は注目に値し、その成否が各国の政策にも影響を与えていくものと思われます。

この記事はThe GuardianのToby Helmが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。